小説『絆の決闘者と夜天の主』
作者:吉良飛鳥(自由気侭)

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 リインフォースが自身の映し身である『闇の書の意志』を退けた直後に結果内部に現れた新たな存在。

 闇の書の意志曰く『闇の欠片の中枢』。
 そして遊星、なのは、フェイトと交戦したマテリアルが言っていた『自分以外のマテリアル』。


 其の姿は他のマテリアルが遊星達を模したように、はやてを模しているのだろう。
 だが、騎士服と紙の色は違い、帽子もない。

 表情も不遜かつ傲慢な笑みを浮かべ、同じ顔のはずなのにまるで似つかない。


 そして極め付けは身に纏った雰囲気と魔力。


 はやての様な慈悲深さは感じられない。

 感じ取れるのは只只管に禍々しいまでの『闇』…



 其の闇の気配は、他の3体のマテリアルの誰よりも強いものだった…












  遊戯王×リリカルなのは  絆の決闘者と夜天の主 クロス38
 『構成素体〜夜天と闇〜』











 「く……何という禍々しさ…まるで闇そのものだ…!」

 感知されないように距離を開けていたリインフォースは、現れた存在に顔をゆがめた。
 見た目は大切な主と同じでありながら、決定的に違う其の存在に。


 だが、それ以上に発せられる闇の気配が強すぎる事も顔をゆがめた原因の一つだ。
 この闇の力はナハトには及ばなくとも、全快でないリインフォースが相手をするには手に余るほどに強い。


 更には、さして苦戦しなかったものの連戦では先に疲労が出るのは当然。
 状況はリインフォースが圧倒的に不利なのだ。


 それでもリインフォースは諦めはしない。
 そもそも『諦める』という選択肢がないのだろう。

 「この治りきっていない身体でアレを砕く事ができるかどうか……否、やるんだ!皆の為にも…!」

 その胸には仲間への想いがある。
 それが圧倒的に不利な状況での戦闘を決意させる結果になった。

 「よし…!」

 覚悟を決め、己が魔力を高め精神を集中させる。
 それでも勝率は良くて五分……無茶、無謀は明らかだ。



 だからだろうか?
 リインフォースが飛び出す前に彼女の到着が間に合ったのは。

 「リインフォース!」

 「…我が主!」

 今正に飛び出そうとしていたリインフォースの前に現れたのははやて。
 彼女を探し、全速力でやってきたのだ。

 「もう、そないな無茶したらアカンよ?私も一緒に戦う!」

 「我が主…其のお気持ちは嬉しいのですがアレはあまりにも強い上に、私の融合機能も回復していません…。」

 共に戦うと言うはやてに対して、暗に『融合無しでは勝てない』と伝えるも、はやては首を横に振るのみ。
 それだけではなく、

 「大丈夫。無理を通して道理を引っ込めるくらいの手は用意してきた。」

 「?」

 切り札宣言。

 流石にリインフォースも其の『切り札』がなんなのか分らないようだ。

 「融合の最終手段、究極の切り札…リインフォースが私にユニゾンするんや無くて、私がリインフォースにユニゾンする!」

 「!!『逆融合』…そんな、危険すぎます!!」

 はやてが言った切り札、それは『逆融合』或いは『リバースユニゾン』と呼ばれるモノ。
 融合騎を主体にしたユニゾン方法で、其の力は通常のユニゾン状態を遥かに凌駕する。

 だが、融合している本来の融合適格者への負担が大きいと言う面がある。
 更に幾ら通常融合時の融合率が高くても、逆融合時の融合率はまた別だ。
 もし融合率が低ければ、最悪暴走を引き起こし、融合適格者が融合騎に『喰われる』危険性すらあるのだ。

 其れを知るリインフォースにとって、この提案はとても呑めるものではない。

 「大丈夫や、リインが私のこと信じてくれればきっと…ううん、絶対巧く行く。私はそう信じてる。」

 だが、はやては一切の迷い無く言い切る。
 其の姿は只の9歳の少女ではなく『最後の夜天の主』の其れだ。

 「我が主…」

 「それに、危険で無茶はお互い様や。リインフォースかてたった今無茶しようとしてたやろ?」

 「そ、それは……」

 「1人では危険な無茶でも、2人やったら危険性は半分になるし、成功確率は倍になる…そやろ?」

 にっこりと笑って告げる。
 其れを見て、リインフォースも思わず顔が綻び、先程とは別の決意が固まった様だ。

 「そうですね。…分りました我が主、一緒に止めましょう、闇の中枢を!」

 「うん!行くで…ユニゾン!」

 「イン!」


 瞬間、リインフォースとはやてが1つになる。
 そして…

 『融合…完了や!』

 「融合率98%…!其れに、この力は…!!」

 融合は成功。
 其の証としてリインフォースの姿が変化している。

 雪の様な銀髪とサファイアの様な紅い瞳は、夕暮れを思わせる淡い茶色に変化。
 其の身から発せられる魔力は今までとは桁違い。

 主を取り込み暴走したときと同等、いやそれ以上だ。


 『行こうリインフォース。私等の手で終わらせよ!』

 「Jawohl Meister.行きましょう…!」

 ベルカ語を交えて答え、超高速で闇の中枢に接近。

 近づけば近づくほどに闇の力は強くなるが、夜天と祝福に恐れはない。


 あっという間に対象に接近完了だ。

 最後のマテリアルと思われる存在も其れに気付き、しかし余裕の笑みを持ってリインフォースを見やる。


 「来たか羽虫が。」

 『誰が羽虫や!この…劣化コピー!』

 行き成りの毒舌だがはやても負けじと応戦。
 出会い頭の舌戦だ。

 「ふん、よく吠えるわ塵芥の分際で…まぁ良い、書の復活までは間もなくぞ。ククク…素晴らしい事だなぁ?」

 「闇の書は復活させはしないさ。私が…私達が其れを止める。」

 「ほざけ、不完全な融合騎風情が。羽も揃わぬ小鴉と融合した程度で止める気か?この闇総べる王たる我を!」

 『傲慢此処に極まれり』と言う他ない。
 自身を『闇総べる王』と称し、他者を見下す態度は傲慢以外の何者でも無い。


 だが、リインフォースもはやてもまるで恐れてはいない。
 それどころか何処か余裕すら感じられる。


 「止めるさ。私と我が主が力を合わせれば出来ない事じゃない。」

 『闇の書の復活はさせへん!此処で終わらせたる!』


 一切の迷いは無い。
 だが、闇王には其れが気に入らない。

 「下郎が…。なれば先ずは貴様等を屠ってやろう。そして其れを書の復活の狼煙としてくれる!」


 言うが早いか…

 「吹き飛べ、エルシニアダガー!」

 無数の誘導弾で先制攻撃。

 『させるか!刃以て血に染めよ!』
 「ブラッディダガー!」

 だが其れも即座に相殺。
 更に、


 『リインフォース、アイツが私のコピー言うならクロスレンジは強ない筈や。接近戦で畳み掛けるで!』
 「了解です我が主!」

 リインフォースの方ははやてが居る。
 つまり闇王の弱点などとっくに分っているのだ。

 「今のを相殺するか!…だが我の勝ちは動かぬ!」

 「其れは如何だかな…!喰らえ!」
 『スクラップ・フィスト』!


 繰り出された鋭い拳打。


 「小賢しい…させぬわ!」

 闇王は障壁を張って其れを阻止する。


 「覇ぁ!」
 『コレで、ドナイや!』

 「ちぃぃ…でぇぇい!」


 力がはじけ間合いが広がり、所謂『ミドルレンジ』の状態に。
 この距離ならば近接戦と射撃戦がメインになるが…

 「疾っ!」

 魔力を使った『アクセルダッシュ』で一気に間合いを詰め、リインフォースは再度接近戦を挑む。

 「紫電一閃!」

 シグナムの決め技を魔力を纏わせた手刀で放つ。
 闇王は再び其れを障壁で防ぐが、猛攻は止まらない。



 ――ガガガガガガガガガガガガ!



 宛ら機関銃の如き凄まじさで繰り出される無数の打撃。
 障壁を展開して防いではいるが、闇王は防戦一方の状態。

 だが、闇王とてマテリアルを総べる存在ゆえに只ではやられない。

 「図に乗るな…塵芥がぁ!!」

 爆弾が爆発したかの如く、魔力を炸裂させ強引に間合いを離す。

 「破壊の剣!」

 更に間髪入れずに直射砲を追撃として放つ。

 『クラウソラス!』
 「破ぁ!!」

 炸裂した魔力に吹き飛ばされたリインフォースも体勢を立て直し、これまた直射砲で迎撃。


 「ふ、捕らえたわ!失せろ、ドゥームブリンガー!」

 「!」
 『あ、アカン!!』

 直射砲と同時に放ったのだろう、闇王が展開した無数の魔力の剣がリインフォースを取り囲むように展開されている。
 上下左右周囲360度全て……全回避は不可能だ。

 「落ちろ下郎が!」



 ――ドォォォォン!!



 一気に放たれた其れリインフォースを襲う
 数百発はあるだろう……着弾と同時に爆発が起こり、其れが連鎖的に続き硝煙が立ち上る。

 「ふん…盾突きおってからに…」

 今ので終わったと思ったのだろう、闇王は不敵な笑みで硝煙を眺めているが…


 ――シュン!


 「!!コレは!!」

 其の顔の横を桜色の魔力弾が掠める。
 しかも1発ではない。

 「く……まさか…!」

 『そのまさかや!』
 「アクセルシューター・パニッシュシフト!行け!」

 其れを放ったのはリインフォース。
 その身の周りには白銀の魔力障壁が展開されている。
 コレで闇王の不可避攻撃を防ぎきったのだ。

 「貴様…その障壁は!」

 「守護の風盾『ヴィクティム・サンクチュアリ』。破滅を包む無敵の盾だ!」

 誘導弾で動きを制限されている闇王に三度接近戦を挑む。


 だが、今度はさっきまでとは勝手が違う。
 闇王は誘導弾を同時に対処しなければならない為に動きは極めて悪くなる。

 僅かではあるが決定的な『隙』が生じるのだ。


 その証拠に、

 「ソニックエッジ!」

 「ちぃ!」

 繰り出された蹴りを、手にした杖――エルシニアクロイツで防いだ。
 防御障壁を張る暇が無かったのだ。

 リインフォースも障壁を張らせる様な事はせずに、怒涛の猛ラッシュ。
 更にはユニゾン状態のはやてが誘導弾を操作しているために完全に接近戦のみに集中する事ができている。


 闇王からすれば余りにも分が悪い。
 見た目はタイマン勝負でも、実際には目に見えない1対2。
 しかも、完全に不得手なクロスレンジに引っ付かれてラッシュを掛けられては防御に徹する他ない。



 そして遂に…

 「アクセルスラッシュ!」

 「くっ!!」

 鋭い突きにガードがこじ開けられる。

 『今やリインフォース!轟天爆砕!』
 「ハンマーシュラーク!」


 ――ドゴォォォォォォ!!


 「がはっ…!」

 略ゼロ距離で炸裂した重爆ボディブロー。
 ヴォルケンリッター最強の破壊力を持つヴィータの最強技を体術にアレンジした一撃だ。

 その効果は覿面。
 更に、

 「落ちろ!」

 逆の腕でアッパーカットを放ち、その腕をそのまま振り下ろすようにしての肘撃ち。
 それらの打撃には全て魔力付加がされ威力はとてつもなく上がっているのだから堪らない。

 『さっきのお返しや!』

 続けざまに、動きを制限するために飛び廻っていた誘導弾が闇王に向けて一斉照射。
 先程のドゥームブリンガーの全包囲攻撃のお返しといわんばかりの攻撃だ。

 「むぉぉぉ!!…く…舐めるな!我が闇は尽き果てぬ!!闇に沈め…エクスカリバー!」

 その攻撃を受けつつ、しかし倒れずはやての『ラグナロク』に酷似した極大直射砲。
 だが其れも通じない。

 「無駄だ…我が主のおかげで私はナハトの浸食を受ける以前の力を、限定的とは言え取り戻している。
  闇の書の残滓であるお前の攻撃は、今の私には通らない。己の力で沈め…烈鋼襲牙!」

 右手のシューティングハートにありったけの魔力を篭めて極大直射砲を殴り返し、更に左手で追加の魔力弾。
 鉄壁防御を誇るザフィーラの対魔法最強の技だ。

 「んな!?バカなぁぁぁぁ!!!」

 攻撃直後の即時反射されては防御など出来ようも無い。
 反射された直射砲も追加の魔力弾共々、闇王を完全に飲み込んだ。

 「……しぶといな。」

 だがそれでも未だ闇王は落ちない。
 既に見た目はボロボロであるにも拘らず、その目にはまだ力が残っているのだ。

 「己ぇぇ…だが、我は消えぬ…!砕け得ぬ闇を我が手中に収め、我は真に闇総べる王として…!」

 最早執念だ…が、矢張りダメージは許容量を超えていたのだろう、体が崩壊を始めた。

 「く…我が力が!!…オノレ…あと少しで砕け得ぬ力を手にできたというのに…!」

 『…ユニゾンアウト。』

 消え行く闇王を見ながら、ユニゾン状態を解除。
 矢張り負担が大きかったのか、少しふらつくが其処はリインフォースが確りと支える事でフォロー、流石だ。

 「夢はいつか消えるもんや……同じように闇も何時かは晴れる。」

 「その通りだ。決して終わる事のない永遠の力など有りはしない。」

 諭す様に言う夜天の主と祝福の風。
 其れを睨みつけ、闇王は…

 「くそ…おのれぇぇぇ!!!」

 消え行く身体で2人に襲い掛かる。
 最早特攻としか言いようの無い突進で。

 「「!!」」

 予想外の行動に驚くも、2人には頼りになる仲間が居る。



 ――ドシュ!

 ――バシュゥゥゥ!



 「うがっ……な、仲間?…く、最後の最後で…!」

 2本の矢が闇王を貫き、完全に霧散させた。


 「遊星!」
 「将…!」

 其れを行ったのは遊星とシグナム。
 シグナムの『シュツルムフォルケン』と遊星が召喚したジャンク・アーチャーの『スクラップ・アロー』が寸での所で闇王を止めたのだ。

 其れにこの2人だけではない、ヴォルケンリッター全てがこの場に集まっている。
 全員が、仲間の安否が気になってきたのだ。

 「間に合ったか。」

 「正に間一髪だったがな…」

 遊星とシグナムもほっと一息だ。

 「さてと……リインフォース、ちょっとこっちへ来い。」

 「?」

 「良いから来い。」

 で、何を思ったかシグナムはリインフォースを自分の近くに呼ぶ。
 何か有るのかと不思議そうな顔をするも問答無用らしい。

 「将?」

 「ふぅ……」



 ――ごつん



 近くに来たリインフォースに軽くだがゲンコツ一発。

 「将……痛い…」

 「この馬鹿モノが!無茶をしよってからに!最終的にどうにかなったものの、お前のこの行動は馬鹿な事だ!」

 そして説教。
 口調は厳しいが、其れはリインフォースを思っての事。
 危険な橋を1人で渉ろうとした事への一発だ。

 「シグナムの言うとおりだぞ。自分の手で決着つけてー気持ちは分らなくねーけど無茶はよくねぇ。」

 「もう少し我等を頼れ。我等は…仲間であり家族なのだからな。」

 ヴィータとザフィーラも続く。
 本当に、仲間であり家族の事を大切に思っているのが良く分る。

 「そう、だな…すまなかった。お前達にもきちんと言うべきだったな。」

 「まぁ、今回は結果オーライって事にしておきましょ?でも、次はね?」

 「あぁ、分かった…ありがとう騎士達、遊星…そして我が主。」

 「当然の事だ、仲間だからな。」

 「夜天の主…てか八神家大黒柱として家族は放っておけんて♪」

 口々にだ。



 ――シュゥゥゥゥ



 闇王が消えたことで結界も消滅していく。



 ――ヴォン


 『聞こえますか〜?アースラのエイミィです。』

 タイミングよく通信。
 内容は、全員が大体の予想が付いていた。


 『え〜とですね、マテリアル4体が消滅したのと同時に各地の闇の欠片も消えています。更に、新たに発生する気配もありません。』

 「そやろな。闇の中枢は、皆で砕いたところや。中枢がなくなればもう大丈夫やろ?」

 『そうだね〜。一応準警戒態勢は維持してるけど、取り敢えず騒動は終結ってとこかな。』

 中枢が無くなれば、新たに欠片が発生する事はない。
 事実、アースラでも新たな結界の発生はその予兆すら観測していないのだ。

 闇の書の残滓は全て消え去ったのだろう。

 『なのはちゃんが限界突破して疲れて眠ってるけど、怪我人は0!闇の書関連の事件にしては極小規模だって。』

 「そうか、ならば良かった。」

 『うん!そう言う事だから皆お疲れ様!』

 「んぁぁ、オメーもな!」

 通信終了。
 どうやら事件は完全に終息した様だ。


 「あ〜…ほっとしたら疲れが来たわ〜…ほな帰って皆でゆっくりしよか?良い時間やし、夕飯の買い物してからな♪」

 「良いんじゃないか?皆で一緒にな。」

 事件が終わればお次は休息。
 はやての一言を受けて、ヴィータは完全に夕飯の買い物モードに入っている様子。

 「はやてはやて、寒いから今日は鍋が良い!」

 「お鍋か〜〜うん、その案採用や!」

 「やったー!」

 今まで戦闘が行われていたとは思えない雰囲気だ。



 欠片の対処に当たった他のメンバーも各々撤収を始めているだろう。



 闇の所を巡るホンの小さな事件。
 後に『闇の欠片事件』と呼ばれるが、管理局の記録にも残らない事件はこうして幕を閉じた…















   To Be Continued… 




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