小説『真弓が真由美になりました』
作者:みき(かとう みき◆小説部屋◆)

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011◆閑話3◆子犬に怒りは持続しないよ

☆☆☆

 何て云うか。
 こんな人だったんだな。

 それが感想だった。

 山里って女は、昨日までは嫌な女代表みたいな女だった。
 私にとって、だけかも知れないけど。

 派手系美人かな。
 茶髪で、彫りの深いお人形みたいな顔。
 睫毛バサバサで、気怠げな表情で、いつもつまらなそうにしてる。
 仕事中に退屈そうに溜め息つくとか、マジうざい。

 これで、仕事出来ないとか、しないとかなら、莫迦女代表だよね?
 それだったら文句も云えるんだけどさ。

 仕事は出来るんだ。
 寧ろ出来すぎなんだ。

――ムカつく。

 マジで、ウザイです。
 あの女!!

 私たちより、断然早い仕事ぶり。
 私たちより、沢山処理をして、手が空いて退屈そうに気怠い表情です。

――呪われろ!ビッチ!

 大嫌いです。
 大嫌いでした……かな?



 だって……ねえ?

 今のあの子ときたら。
 いや、あの人ときたら。

「佐倉さん。これで良いですか?」

 あの恐ろしい佐倉さんに、子犬のように纏わり付いて。
 誉められたら、見えない尻尾をブンブン振ってるみたいな態度と笑顔。

――ううむ。何か可愛い。何?あれ?

 気怠い眼差しの美人は何処に?
 美人だけど、今は子犬。
 しかも。
 どうやら、こいつ天然じゃね?

 今まで反感持ってた自分が、何だか莫迦だと思えてきたよ。
 私は波多野先輩と顔を見合せて苦笑した。

 それに。
 恩恵も有った。
 子犬が懐いてるから、それに構う佐倉さんを見て。
 そんなに怖い人でも無いと知った。

 絶対逆らう気は無いけどね。
 私はそこまでの冒険野郎では無い。
 そうしたらさ。
 やっぱり、色々教えて貰いたいじゃない?
 昨日の話はレベル高くて、よく解らなかった。
 この人の知識は、多分凄いんだろうな。

 それでも最初は、話し掛けるのには勇気が必要だったけど。
 佐倉さんは穏やかで優しい態度で教えてくれた。

――あれれ?何だかドキドキするんだけど?

 何だかな。
 佐倉さんて、ちょっと経理部の部長に似てる気がする。
 この間亡くなったばかりで、まだ実感が薄いけど。
 仕事の出来る素敵なオジサマって感じだった。

――かっこ良かったなあ。

 大人の余裕って云うの?
 穏やかで、優しくて、でも厳しい時はキリリとしてさ。

――あれ?そこも似てるね?

 昨日の佐倉さんは、会議室にお茶運んだ時に見た、真弓部長の静かな眼差しと重なる。
 口調も似てた。
 何か思い出したら益々似てる気がする。
 周囲が何も云えない空気を作る人。やっと突っ込んだ、高峰部長の日本語の誤りを指摘した時は、ちょっとドン引きしたけど。
 普通云うかな?みたいな。いや、もう笑うしかないのか?みたいな。

 でも。
 あくまでも静かな口調で、微かな笑みが怖い程にキレイだった。
 部長と同じ表情だったのよね。ドキドキしたのは、恐怖だけでは無い気がする。

 真弓部長も、物凄く怖い人だったんだよ。
 怒らせたらヤバい人筆頭だよ。

――亡くなったから、佐倉さんが筆頭だね。

 普段は穏やかな口調も、同じくらい素敵。
 って、ユリか私は?
 佐倉さんが男だったら絶対ゲット狙うのにな。
 勿体ないなあ。

――あ、すると木崎主任が狙ってくるかも?

 経理部の木崎主任は嫌味な性格で有名なんだけど、真弓部長には忠犬だった。
 真弓部長が居ないところでは、大概が人を莫迦にした表情で、見下す眼差しと口元を僅かに歪めた嘲笑がチャームポイントだ。
 近付きたくはないが、遠くから見つめたい。本社で五指に入る美形さんだよ。

 昨日は佐倉さんをキラキラする眸で見てたのを、私は見逃してはいない。内心ニヤリと笑った私です。

――お似合いかも♪

 私は仕事も好きだけど、恋愛事はもっと好きだ。
 良い男ウォッチングは欠かさないし、他人の恋愛事情は聞くのも見るのも大好きだよ。

――ふふふ。佐倉さんと木崎主任。萌える。

 佐倉さんの好みってどうなんだろう?
 でも仕事中に聞くのは死亡フラグな気がする。
 昼かな。昼だな。あ、ついでに山里も誘うか。

 しかし山里。この子、大丈夫かな?佐倉さん女の人だよ?
 尊敬や敬愛はともかく、行き過ぎるなよ?

――私は止めたりなんかせずにウォッチングするけどね♪

 山里の未来に倖あれ。
 そんなに面白い事態にもならないだろうけどね。
 でも、既に執着が面白いかな。
 恋愛じゃないけど、何だろう?

 飼い主と子犬。

 ふと波多野さんを見ると、何だか生温い眼差しで二人を見守っていた。
 うん。
 そうだね。見守りましょう。

――飼い主は押し掛けて来た子犬に少し当惑気味かな?

 困ったような眼差しで、けれど優しく教えてあげている。

――これはこれで。

 何だか眼福です。
 ごちそうさまな気分で仕事もはかどるね♪

――木崎主任はどうかな?絶対佐倉さんを好きになる筈!あの部長への忠犬ぶりなら、佐倉さんは女神な筈!

 私は会社に来る楽しみが増して、非常に満足してました。

☆☆☆


◆コメント返信◆

2012-07-29 08:02:14
あすか様。

コメント有難うございますm(._.)m
木崎に関しましては〜、飼い主不在の日々より倖せと云う事でww
これからライバル?も出て来ますので、木崎の苦難を見守ってやって下さると嬉しいですw

かとう みき拝

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