小説『東方羅刹記』
作者:unworld()

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第三話 羅刹天とツキヨ

京都の無角家の本家では封印蔵が軋みを上げていた。
その前に立った俺は黒い襟立ちのロングコートを着て手には黒い鈴二つがついているブレスレット…思い出の品をつけ中は適当な服だ。
まぁ、この服はせめてものカッコつけだ。
黒い鈴は俺のなつかしい品だ。
この前たまたま見つけ、すこしためらいながらもそれをつけたのだ。
それにてきとーな服じゃない。適当な服だ。

「行くぞ…開けてくれ!」

ギギギと鈍い音が響き、重厚なドアが開かれる。
ドアを開けた瞬間に中から嵐のような風と神力が俺を飛ばそうとする。
少しすると風と軋みが収まりまるで俺を呼んでいるかのようだった。
その中の様子は確認出来ないが、黒いモノが広がっていて先は見えない。

「行くか…」

俺はドアを超え、黒いモノが広がるところに入った。
その刹那…さっきの遅い動きからは想像も出来ないほどのスピードでドアが閉まった。

「まぁ、閉めるよな…普通…」

まあ、わかってはいたがすこし悲しい。拒絶されるのはやはり慣れてはいても楽しいものではなく苦しいものだ。

「待ってろよ…カク。
俺が封印してやるよ…」

俺は黒い空間をゆっくりと進み始めた…


七花御一行が泊まるホテル…

七花たちはご飯をすませ、浴衣姿で部屋に向かっていた。

「あーお腹いっぱい」
「ホントに沢山食べてたねー。
太らないの?」
「その分運動するからだいじょーぶ!」
「へぇ…」

内心早苗は七花が食べた分をみて思っていた。

もしかしたら、この子は太らない体質ではないのかと…

本当は美少女どうし思うところがある。
胸は早苗の方が圧倒的にボリュームがあるが、
七花は程よくくびれた腰回り、すらっと整った脚。
顔立ちも美少女にふさわしい。
ついつい自分も顔は!とか思ってしまったことを恥じていたのだが、そんなことは七花にはわからない。

「まー、早苗も…っ!?」
「これって…」
「「神力!?」」

まぁ、巫女同士わかるものはわかるこれは完全なる神の力。
羅刹天は強大な神だ。最悪の場合死ぬし、いや、最悪じゃなくとも普通は生きてはいない。
だが、兄なら…そう思い願う。
そして、七花の最愛の兄がそれを封印しようとしている。

「お兄ちゃん…」

すこしでも気を抜くと倒れてしまいそうなほど、濃密な神力。
早苗も顔色が目に見えて悪い。
自分も頭がいたい。
しかし、これを見ないわけにはいかない。

「お兄ちゃん…頑張って…」

もう一度だけ自分の希望をつぶやいた。

sideout


俺がこの暗く黒い空間を進むといきなり灯篭を灯すように、火が自分の行く道を教えてくれる。

「ありがとう…」

感情がないであろう灯篭に言ってもなんの意味もないのだが、俺なりの精神の落ち着け方だ。

灯篭に導かれた先には10メートルはあろう黒い巨躯。
ぎょろりと紅く光る目。
龍を思わせる口。
鬼の角は前方に弧を描くように曲がっている。
それが羅刹天だった。

『久しいのぉツキヨ』
「よぉ、カク」
『カクか…懐かしい名前じゃ…お前が儂につけてくれたなまえじゃからのぉ…本当になつかしい…』

カク。子供ころ俺が羅刹天につけた名前だ。別にふざけていたわけではない、ただ友達が欲しかった。
無角に嫌われていたし、自分が無角家なのが恨まれた。
だからカク。
自分が無角で無くなる名前。
羅刹天がいれば自分は無角じゃないと思ったのだ。

子供の浅知恵だ。
そんなことで無角を捨てられることはない。
知らなかったわけではない、だが、満たされた。
それがカクの理由だ。
それなことはどうでもいい。
今は…

「お前はいいのか?」
『ああ、儂は永く生きた。
別に心残りはもうないのぉ…』
「お前が神力を解放したのは自分の存在を知らしめ自分を早く封印させるためか…」
『あたりじゃ。
儂はもう信仰は愚か永く生きることが出来ない可能性がある。
だったら封印される方がいいと思ってな。
しかし、お前が器に足らなかった場合…
儂はお前を殺すぞ?』
「やられないし、やらせない。
死ぬのはもう十分だ。
もう、待ってるのも嫌いだし、
幸い、俺の可愛い妹が見てくれているんだろ?
だったら生きて帰るのが普通だろうが!覚悟なんてとっくに出来てる!
やれるもんならやってみな!
羅刹天…いやカクよぉ!!!」
「わかった…
儂もお前の力になろう…
では、始めよう」

カクはその体を霧散させ、それは俺をつつみこんだ。
そして、それは一瞬静止し一気に俺の中に入ってくると吸収された。
それが全部俺にはいり一息ついた瞬間…

「ごっ…!」

瞬きが強制的に止められ、凄まじい嘔吐感が俺を襲った。
俺はその嘔吐感に身を任せ口の中に溜まっていたものを吐き出した。
それは…

「血?」

俺の血だった。
しかも、嘔吐感は収まらず俺は口に溜まった血を吐き出して、吐き出して、吐き出しまくった。
嘔吐感が収まったかと思うと、今度は凄まじい頭痛とめまい。

「がぁぁァァァァァァ!!!!」

俺は叫んだ。頭が痛いどころじゃない
。オーバーリアクションでもなんでもない、ただ…

このままだったら死ぬ!!!!

純粋なる死の予感。
痛い痛い痛い痛い痛い!!!

身体のすべてが痛い!

「ァァァァァァァァァ!!!!!!」

それを紛らわせるように叫ぶ。
脚に力をいれて立とうともめまいがして思うように動かせない。手に力をいれようにも手足が痺れてきて力が入らない。

次第に楽になってきた…と一息着く頃には次の試練が待っていた。

「ぐぁ!」

何かに押さえつけられたような圧縮感。
まるで自分が強大なる重力に抗っているようなものだ。

「くっそっ…」

荒い息を整え立ち上がろうとした。
しかし、それは無駄だった。
俺が立ち上がろうとした瞬間、重力が増した気がした。

「おぐっ!?」

俺は床に叩きつけられる形になり身体全体に痛みが伝わる。
骨が体が軋みをあげ悲鳴をあげる。
力はさっきよりかは入る。
しかし、身体が動かない。

「ぬぉぉぉぉぉぉ!!!」

俺は全身の筋肉をここぞとばかりにフル活用する。
ここで使わないでいつ使うんだ!
いや、別にこのために鍛えたわけではないけれど…

俺はなんとか立ち上がり脚を踏ん張る。
すると、やはりなにか重いものがのしかかったかのように脚に負担がかかる。

「ぐうっ…」

俺は冷や汗で額を濡らしていたが、前を向いた時気がついた。

「なんだ?剣か?ずいぶん古いな。」

俺の前方にずいぶん古い剣が空中に浮遊していたのだ。
それにしてもやはり古い…形的には金剛杵の一種だと推測できる。
俺は重い脚を必死に動かしてそれに近づく。
ようやくそこに近づくとそれは何かの念を帯びた…いや、これは羅刹天の劔(つるぎ)である。
いわゆる、神剣だ。羅刹天は右手に持った剣で煩悩を切り裂くと言われていた。たぶんそれがこの剣なのだろう。

なるほどね。やっぱり三鈷剣だな。

煩悩を切り裂く剣ねぇ。
でも、何か違う。そうだ、この剣は三鈷剣じゃねぇ。
独鈷(とつこ)が四つに別れてやがる。しかも柄が漆黒だ。
俺は不思議に思いながらも右手でその柄をつかむ。

すると…

「っ!?」

左の甲に電撃のようなものが走った感じがしたと思ったらそこには何かの痕が残った。

「十字架?いや、ちげぇな。」

十字架と縦長のひし形を組み合わせたような形の痕が残されていた。
しかも、それはだんだん血か何かで赤く固まり、まるで…なにかの聖痕みたいなものになってしまった。

しっかし…

「なんなんだ?この三…じゃなかった四鈷剣は…」
『それが羅刹天封印の証じゃよ。ツキヨ』

俺が後ろを振り向くとそこには俺と同じ姿の奴がいた。
それは髪が紅く。身体が黒いという酷く醜いものだった。

「カク…」
『儂とツキヨを結ぶ剣それがその金剛杵…四鈷剣じゃ。』
「だが、これは…」
『神剣といえば聞こえはいい。
しかし、それは儂が扱えなかったものじゃ。お前が使ってくれツキヨ。』

神に扱えないものを俺にどう扱えと?
なんなんだよ。
この三…じゃなかったよ…四鈷剣は柄が漆黒。刀身は普通なのだが…なにかありそうだな、気をつけとこ。

いつの間にか、身体の気だるさが抜け身体が軽くなったことに気がついた。
そして

「あれ?髪ずいぶん長くね?」

肩くらいまで伸びていた髪がいつの間にか腰あたりまで伸びていた。
しかも、色は血のように深紅になっており俺の額の左上と右上に黒い角がついており前方に弧を描くようになっている。
そして、自分の身体も変わっていた。
漆黒。それが似合う。手が真っ黒に染まっていた。

「うそだろ…」
『それが儂の姿じゃな。
羅刹天は髪は赤く、身体は黒く描かれておったのじゃ。
まぁ、ツキヨの場合まだまだ、未熟じゃな。』
「えっ?」
『まだまだ甘いと言っておるんじゃ。そこで、お前にはある修行をし、生き残ってもらおう。』
「生き残る…物騒だな」
『実際、死ぬかもしれんしの。』
「…おぉい…」
『やってもらうのは…簡単なことじゃ。
一週間休みなしでこやつらを切り伏せろ。』
「……は?」

カクが言ったのは意味のわからない言葉。
しかし、俺はその現実を目の当たりにする…
突然黒いところからぞろぞろと湧き上がってくる騎士ぽい奴。
しかも、武器は十人十色。大剣…銃…刀…槍…おいおいうそだろ!!!!
しかもそれが先が見えないほどに作られて行く。

「ちょっ…えっ?」
『こやつらは一体一体が手強いぞ?
それをどうにか切り伏せろ。
それが最後の試練じゃ。』
「無理だろ!!!」
『まぁ、普通はな。しかし、お前は普通ではないからの。まぁ、それでいて異常というわけではないが…よかったな、お前はこれで晴れて異常になれるぞ。』
「いや、よくねぇよ!…ってどーせこれをクリアしなきゃ帰れないんだろうけどよ。」

俺は床に刺していた四鈷剣を引き抜き前に突き出した。

「俺は強くなりたい!
そのためならなんでもしてやる!!
鬼?神様?力をくれるならなってやる!!!
どんときやがれ!!俺はすべてを乗り越える!!!」
『(中2…)』
「うるせぇよ!?」

こうして俺はカクを封印し新たな試練にぶち当たった。




どうもunworldです。
こんにちは、今回は少し長め?です。
羅刹天の封印に成功し力を手に入れた月夜君ではありますがまだまだ弱いので強くします。

で、金剛杵や三鈷剣がわからない方も多いと思います。
金剛杵というのはですね、
インドの方ではヴァジュラと呼ばれ、バリエーションも豊富です。
三鈷剣もその一つで五鈷剣などもあります。
その意味は煩悩を切り裂くモノですね。
元は帝釈天の武器として使用されています。
羅刹天との関係は帝釈天も羅刹天が属する十二天に入っており羅刹天は右手に剣を持ちそれで煩悩を断つとされています。意味的にも似ているのでそうなのかなと思いました。

予告です。
羅刹天は護法善神にして破壊の神。
そして月夜はその力を手にする。
しかし、そんな月夜に新たな神を封印する仕事を使わされる。
その神とは!?…近日公開!
月夜「どこの番宣だよ作者」
作者「やっちまったんだぜ!」
?『はっはっはっやれるもんならやったみやがれ!ツキヨよぉ!!』
カク『全く…』

近日公開はあるかもです。この展開もありますよ。ではでは〜。

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