小説『東方羅刹記』
作者:unworld()

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第七話 『去って行く面影』

メリーさん蓮子さん達と同居を始めて一ヶ月。
もうすっかり景色も雪に染まり、はいた息も白くなる。もう冬本番だ。
だが、この日俺 無角月夜は一旦東京の家に帰ろうとしていた。

「じゃっ…家のこと頼みますね。
メリーさん蓮子さん。」
「うん。大丈夫だよ。」
「しっかりね。」
「あのさ、月夜。俺は?」

メリーさん達と玄関先で挨拶を交わすと俺の兄 無角三多が口を挟む。
別に、ワザと外したのに…

「お酒は飲みすぎないこと。特に兄さん。
俺は一旦、帰りますが何かあったら連絡ください。
また、会いましょう。」
「うん、じゃあね」

蓮子さん達の見送りをしてもらうと俺は新幹線がまつ駅へと歩いて向かう。
しかし、

「ちょっとまって!」

メリーさんに止められた。

「なんですか?」

俺は立ち止まり、メリーさんを見る。
その目には少し涙が溜まっており、今にも零れそうだ。

「あの…月夜君!」
「ん?どうしたんですか?」
「…絶対帰って来てね!」

メリーさんはすこし下にうつむきつつ顔をほのかに赤くして俺にそう告げた。

そんなに恥ずかしい言葉ではない気がするけど…やはり女性にとってそういう言葉は大事なのかな?と思いつつ俺は答えた。

「わかりました。約束です。俺は絶対帰って来ますよ。」
「約束?」
「ええ、約束です。
そうだ。はい、」

俺は自分で編んだ紫色のマフラーを外し、メリーさんにかける。

「これって…」
「あげます。僕からのプレゼントです。
まぁ、もっとマシなものをあげられたらいいんですけど…
今はこんなものしかありませんか。
これで我慢してください。」

そして、メリーさんの頭を撫でる。
あうぅと言って、顔を赤くしながらも抵抗しないメリーさんをみて、不覚にも可愛いと思ってしまった。

「では…また会いましょう。
必ずです。」
「うん、待ってるよ…月夜君」

俺はそのままメリーさんの姿を背中に感じながら駅へと向かった。

………

新幹線の切符を買って乗り込み適当にご飯を買った。

今回俺が東京に帰る理由もちろん仕事が溜まっているのもある。
だが、俺の本来の目的はそこじゃあない。
東京で『別天津神らしきモノが見つかった』らしい。

俺の本来の目的はその調査だ。
まぁ、妹君や早苗君にも用があったりなかったりなんだが…

兎に角、俺は東京に戻らなきゃいけないらしい。

すると、新幹線は発車し出し、俺はため息を尽きつつ、東京に着くのを待った。

しかし、俺の今回の席は相席、目の前には黒髪の美しい女性が座っている。

だが、俺はその人を若干だが知っている。

「何してるんですか?禍角さん…」
「あら、無角の四男さん。わたくしの名前を覚えていてくださいましたの?」
「そりゃあまぁ…というか、『また』へんなもん取り込んだんじゃあありませんよね?また、変な匂いしますよ?」
「あらあら、変に鼻がキくのね?あなたのほうは犬でも取り込んだ?」
「取り込んだって言わないでくれませんかねぇ。俺の場合は封印ですから。てか、話の腰をおらないでいただけませんか?」
「まぁまぁ、物騒な…」
「まず、なんであなたが東京に向かっているかというのがおかしいと思いますけど?」
「なぜです?」
「なぜって…あんたら禍角家の奴らの本拠地は京都でも、東京でもないはずでしょう?
なぜ、京都から東京へ行こうとしてるんですか?」
「ただの旅行ですけど?」
「てめぇ…おちょくってんのか?」
「あらあら怖い。」

正直、イラついてる。
なぜ、こんなやつと一緒にならなきゃいけないのかということからまずイラついるんだ。
こいつは禍角神無、俺の元許嫁だ。
一つ年上なんだが如何せん空気みたいなやつで俺は正直好きじゃあない。
こいつも一応能力者だ。
『あらゆるモノを取り込む程度の能力』という能力らしい。こいつ曰く昔に言ってもらった。

「そういやぁ、あんたの『三ツ首の番犬』(ケルベロス)はどうなったよ?」
「あぁ、あの駄犬は捨てましたわよ。」
「おいおい…」
「まぁ、ちょうど良い機会でしたわ。
だってわたくしは素晴らしいモノを手にいれたのですから!」
「はぁ?なんだそりゃあ?」
「いつもならしゃべらないところですけれど…あなただから特別に教えて差し上げますわ?」
「嬉しくもねぇことをベラベラと…」
「『幻想郷』」
「っ!!!!」

俺はついつい立ち上がり、衆目の目を浴びる。
俺はおちついて座り直す。
禍角の方をみるとやんわりと笑っている。
一般人がみたら美女の括りにはまる奴だが、本当は煙みたいな奴なのだが…

なぜ、こいつ幻想郷をしっていやがる!

「おい、てめぇ。なんでそのことを知っていやがる?」
「女性に向かって『てめぇ』だなんて
女心を察して欲しいものですわ。」
「…なんで、あんたが幻想郷のことを知っている?答えろ」
「無角月夜さん?あなたはモイラという神を存じ上げまして?」
「…運命を司る神様だったか?」
「まぁ、そんなところですわよね?
私が取り込んだモノ…それはモイラでしてよ?」
「…なんのつもりだ?」

俺はそんなことを言う。
モイラは運命の神様だ。
モイラの操る運命には主神ゼウスでさえも逆らえない。
すると、新幹線はトンネルに差し掛かる。
そして、禍角は何も言わず一本の糸をどこからともなく取り出した。

ん?まさか…

「こうするつもり…ですわ。」

そして、あいつは伸ばした糸をまたもやどこからともなく取り出したハサミで切った。
その瞬間…

「なんっ…」

新幹線が大きく揺れた。
ギギギギという嫌な音を立てている。

「まさか!禍角!お前!」
「いえいえ、ただわたくしは
この新幹線の運命をすこし変えただけですわ。」

そういうと禍角の体は歪み虚空へと霧散する。
くっそっ!!!!
あいつがあんなこと言うってことは!
そんなことを思った瞬間新幹線が完全に傾き倒れた。
その衝撃に耐えきれなかったのか、あるいは意図的なのか、トンネルの天井までもが崩れ落ち新幹線へとふり注ぐ。
外壁を突き破り車内に入ってくる巨大な岩。
俺が乗客を避難させようと思い立つ頃にはもう全てが遅すぎた。
降ってくる荷物、岩。
ガラスに肌を傷つけられ、血がにじむ乗客。
泣き叫ぶ子供。
そして、ここを絶望へと導く出来事が起きた。

なぜ燃料が漏れ始め、なぜ火がついたかもわからないが車両一つが吹き飛んだ。

「なっ!」

驚愕をあらわにする前には連鎖的に爆発が発生し、車内が阿鼻叫喚へと変わる。

そして、ついに俺が乗っていた車内も爆発しトンネルの天井は崩落を進め、全てが混沌になり、いきなり目の前が暗くなったかと思うと大きな岩が俺を潰した。
そして、当然俺は死んだ。

…………

京都無角家

朝のニュースはメリー達には衝撃が大きすぎた。

「いや…いや…嘘よ!」
「メリー…落ち着いて」
「月夜…」

メリーは大声をあげ、泣いていた。
朝のニュースは新幹線が脱線した話題一色だった。
メリー達は新幹線が脱線したと聞いて一瞬耳を疑ったが、いつものように過ごしていた。
新幹線の名前と車両番号が言われるまでは…
その新幹線には月夜がのっていたはずメリー達は動きを止めニュースに聞き入った

「えっ?」
「はっ?」
「おいおい…マジか…」

そして、中継で映し出された惨状に思わず酸っぱいものがせりあがる。
明らかに惨状。よく、こんなモノをみて平気でいられると思ったほどだ。
その中に…瞬間、映ったのだ。
月夜の遺体と思しきものが。そして、その近くにはメリーとお揃いのマフラーが落ちていた。

「今のって…」
「つ、きよ、く…ん?」

メリーはその場に泣き崩れた。
蓮子も泣いていた。
三多泣いてはいなかったが、目には涙を貯めている。
程なくして、死亡者リストが発表され、その中にあったのだ。
確かに…聞き間違いじゃないことはわかっている。

「嘘よ…嘘よ…ね、ねぇ?さん、た、くん?」
「…メリーもういい」
「ね、ねぇ…答えてよ!」
「メリー!やめて!!」

蓮子がそう叫ぶと、何かが壊れたようにメリーと蓮子の涙腺が崩壊した。

「う…ううっ…うぁぁぁぁぁ!!!!」
「ひっく…ひっ…ううぁぁ…」
「……っけんなよ…
ざっけんじゃねぇよォォ!!!!
なんでなんだよ!!
なんで、月夜がぁ!!
あいつが何したってんだよ!!
なぁ、神様よォ!!!」

サンタは声の限り叫び、この世の運命を呪った。

……

東京…

七花と早苗はニュースをみて泣いた。
月夜が死んだと言うことを知って大泣きした。
七花は自室で机に突っ伏して泣いていた。
早苗は口に手を当て、ポロポロ涙を流した。

「お兄ちゃん…お兄ちゃん…」
「そんな…月夜さん」

東京の無角家でも同じ反応がされた。
月夜の死亡。
その事実を妹 七花と実質もう一人の妹のような存在 早苗はこれ以上ないほどに落ち込んだ。

七花達は月夜に何かと言いながらも頼りにしていたし、同時に好きでもあった。
そんな存在がいなくなったのだ。

「おにぃちゃぁぁぁん…」
「ぐすっ…ぐすっ…」

二人の少女の泣き声は家中に響いていた。

…………

「う、うぅん…がぁ!」

俺が目を開けると、そこは事故が起こったトンネルだった。生きてるか…
死んだはずなのに生きてやがる。
能力の自動発動か…

「チートかよ…げほっ!」

身体を動かそうにも岩に挟まれ、動かせない。

「ぐっ…がぁぁぁ!!
『妖化』!『羅刹鬼』!!!」

俺は岩に力をいれ破壊していく。
ビキビキと音がして岩に指が食い込む。
そのまま、俺は岩を砕き割った。

「はっ…はっ…げっほっ!」

俺はフラフラしながら立ち上がった。
辺りを見渡すと死体などは回収されていた。
つまり、救助隊が来たがさすがにあんなに岩があると、どかせなかったか…

これも早苗の『奇跡』か?
ありがたい。
だが、俺の内蔵はほとんど潰れ、まだ回復しきってない。
それに、さっき岩を砕いたせいで両手首らへんから血が吹き出してる。
まぁ、死なないだけ、奇跡ってか?

はぁ…
俺はため息をつき壁によりかかる。
この場所はトンネルの最深部に近い。
色々な人の足跡があるから、さっき中継かなにか来ていたのだろう。
思ったより傷が酷いな。
まぁ、乗員乗客合わせて半数くらいか?犠牲者。
怪我人含めたら全員だろうが…

とりあえず、携帯を起動させるが…

「まぁ、壊れてますよね。」

俺は立ち上がり荷物を拾い出口へと向かう。
くっそっ…
まさかこんなことになるなんて…
連絡符なんて持ってねぇぞ?

俺たちを無角家は符と呼ばれる札を持っている。
俺は基本的には『化身符』『強化符』
『治療符』『爆符』だ。
この四つの符は俺らの中で近接格闘に使われる符で。
強化、治療符は言わずともがな、文字通りだ。
まぁ、治療符の場合は何でもかんでも治療できるわけではなくて。
包帯の代わりをするのだ。まぁ、でも治りの早さはお墨付きだが…
化身、爆符は化身は一定時間なりたいモノになれる符。爆符は一定時間、その身体に爆発させる力を持たせることができる。

俺の身体と両手首は今は治療符で出した包帯を巻いている。
じゃないと出血多量で死ねる。
まず、前提として俺の能力は死ぬことは回避できるが…その内容までは指定出来なくて、今回の場合、事故死を乗り越えただけで、出血多量による死は場合にもよるが、今は避けられない。
まぁ、簡単に言えば『死因』までは乗り越えられないのだ。

俺はまだ、報道陣がいる中気配を消して歩いて行く。
どんなに限界がこようとも、歩みを止めるわけには行かなかった。
みんなとの約束を守るために…
それから俺の狂った感覚で三日後、俺はまだ歩いていた。
飢えが喉の渇きが俺を襲い苦しめる。
その時…俺は一筋を光をみた気がした。
俺は知らず知らずのうちに光が刺した不思議な山へと歩んでいく。
やはり雪はうっすらとつもり落ち葉を踏みながら歩みを進める。
しかし…やはりこう言う時に危険はやってくるのである。
黒いものが飛来したかと思うと俺の胸を白い手が貫通していた。

はぁ?…と思いつつも後ろを振り返る。口から血が漏れる。
そこには黒髪の美しい女性。
しかも、そいつは俺を殺そうとした元凶で…

「どこぉにぃ行きますのぉ?」
「禍角ォ…てめぇ」
「悪運強いことですわねぇ?
あの時死んでいれば楽に死ねたのに?」
「てめぇ…俺を…殺すため…だけに…あんな…ことを?」
「いえ、そんなことはありませんでしたよ?あなたはつ・い・で
私はある人物を殺そうとしましたの。
それは…一水さんですわ」
「あの人…も…」

阿部一水、俺の友人で阿部晴明の子孫らしい。
もちろん陰陽に通じており、俺も習ったことがある。

「でも、あの人強くて全然意味がなかったですわ。
まぁ、あなたも邪魔な一人ですしぃ?
では、死んでください」
「ぐっ…ぁぁぁぁぁ!!!!」

手を胸から一気に引き抜かれ、その次の瞬間、俺の首が一気に締められる。
恐ろしい早技だった。
全く持って動けなかった。
手を動かそうにも動かせなかった。
すると、唐突に禍角は語り始めた。

「幻想郷…あなたにとっては懐かしいモノですよね?
でも、私たちにとっては全然違うんですよ。
私の目的ですか…それはですね。
幻想郷を幻想にすること。ですね。」

俺は何も返事ができない。

こんなに悔しいのに…

メリーさんと約束したのに…

みんなにまた合うと約束したのに…

ちくしょう!!

ちくしょう!!!

ちくしょう!!!!

そう、心の中で念じても禍角の力は緩まるどころか強まるばかりだ。

だが、ただ、これだけは思った。

「……よ…」
「は?」

俺は禍角の腕を掴んだ。
そのまま、俺はギリギリと力を込める。

「…っけんよ…」
「くっ…」
「ざっけんな……よ…」
「何を…」
「ふざけんなって…いって…んだよ…何が…幻想郷を…幻想…に戻すだと…
させるかよ…俺がぁぁあ!!!!
帰れなく…なんだろうか!!」
「ぐっ…きゃっ!」

俺は力の限り腕を掴み、拘束を逃れた。

「はぁはぁ…はぁ…禍角神無、お前が何をしようとしているかはわからない。だけど、俺はそれが許せない!
幻想郷が関わるならなおのこと!
幻想郷に不幸をもたらすなら俺はお前を殺してまで止めなきゃいけねぇ」
「…はっはっ…いいですわ…
もういいですわ!!!
あなたは死ぬ価値もありません!!
おとなしく絶界にでも封印されていなさい!!
『狂劇『深淵から伸ばされた呪縛の手』!」

禍角は何かの符を取り出し、宣言した。
すると、俺の足下から黒い水たまりのようなものが広がりそこから、黒い手が出てきた。

「なっ!?」
「この符は全てにつながり、全てから乖離した場所、絶界に入らせる符ですわ。
そこはまさに絶海の孤島。
だからこその絶界なのですわ。
あなたはそこに封印させていただきます。
あなたがどんな能力を持っているかわかりませんが…取り敢えず出てこないで下さいます?」
「はなっ…」

黒いは俺の腕を肩を脚を俺の全てを引き込むように掴み黒い水たまりへと落としていく。
俺はもがいたが意味はない。
やがて…

「さようなら」

俺は黒い世界へと堕ちていった。

…………



どうもunworldです。
月夜君と神無さんの話を入れてみました。
さて、本格的にモイラが出てきたので紹介しておきましょう。

モイラは運命を操るという風に書きましたが実際はすこし違います。
モイラは運命の糸を操るとされています。
話の中で出てきた神無さんが糸を出すシーン。
あれは新幹線の運命を断ち切ったと言うことです。
モイラは運命の糸を操るのですが、どうも、戦闘もするらしく。
巨人を青銅の棍で殴り殺したそうです。
そして、もう一つモイラは『無常の果実』という食べたら願いが決してかなわないという実をテューポーンという怪物の王の力を奪ったそうです。(この小説では簒奪としておきます)

では、こんな感じです。
ちなみに絶界というのはオリ設定。
全ての場所へとつながり、また乖離した世界ということです。
どういうことかは…次回
『絶界の黒鬼』で!
コメントなどなどよろしくお願いします!

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