【第11話 打ち砕かれたプライド】
「グラララララ!久しぶりの決闘だ!楽しませろや、小僧」
小さな島の海岸で対峙する2人もちろんそれは俺と白ひげ。
海の上…というより、船の上では白ひげの一員+1がこちらを楽しそうに見ている。
まあ、良くある展開だよねこういうの……なんて言うんだっけ?因果応報レバニラチャーハン?
どうしてこうなったかって?…それは1時間前のこと………
「ほら、ついたぞい。」
気づけば自分達の乗っていた船の横に鯨のようなでっかい船、モビーディック号があった。
とりあえず、マルコに連れられ船内へと入る。
離れていても感じる威圧感、やっぱ白ひげは違うなあ…と思っているといつのまにか、
白ひげの前に来ていた。
「親父、金狼のマサヤを連れてきたよい。」
あ……さすがにここではシスコンのマサヤって言わねえんだな…まあ、言ってたら殴ってたかもしれないから助かったわぁ……
「おう。御苦労だったな、マルコ。で、その金狼の後ろにいる小僧は何だ?」
ギロリと俺の後ろを睨み覇気を飛ばしてくる白ひげ、流石に気絶はしてないみたいだけど、少し圧されているなあ…と思いながらユサに注がれる覇気を受け止めるように前に出る。
「ああ、こいつは俺の弟でアレッサンドロ・D・ユサっていうんだ。ちゃんと、マルコにここに連れてくる許可を取ったぜ?」
「D……。本当か?マルコ。」
「ああ、すまねえ。親父、実は………」
マルコが事の顛末を白ひげに説明する。
「「ええぇぇ!マルコ隊長に一発入れた!?」」
周りは驚き、白ひげは面白そうにユサを眺める。
「ほぉ……、なかなかおもしれえガキじゃねえか。俺の話が聞きてぇんだって?まぁ、それは後で聞かしてやるがその前に……おめぇ、俺の息子にならねえか?」
まあ…そうだろうな。条件付きでの試合とはいえ、たかだか10歳ぐらいの少年が信頼してい隊長のマルコを倒したのだ。興味を持つのは当然だ。
で、ユサを見てみると……一瞬驚いていたようだがすぐに立ち直り……
「断る!俺の光はマサ兄だけだ。目指す光が二つもあったら迷うだろ?だから、白ひげ、あんたの誘いは蹴らしてもらう。」
「グララララ!マルコを負かす程の男にそこまで言わすか。おめぇが言った啖呵もあながち嘘じゃねえっていうわけか。」
と言い、俺を見てくる白ひげ。
「俺、なんか言ったっけ?」
マルコを目で詰問してみる。マルコはそれに気付き、
「ああ、俺が親父にあの広場でお前が言っていたことを報告したんだよい。」
えっと…俺が言ったこと……う〜ん?……あッ!
「『主人公ってのは無敵なんだぜ?たとえ、海賊だろうと能力者だろうと…そう、白ひげにだって俺は負けねえ!』だったけ?まあ、あれは本音だ。許せ、白ひげ。」
自分の言った中二病発言を思い出し一応、謝ってみる。
白ひげはグララララ!と笑い
「まぁ、生意気な小僧だとは思ったが、そんな戯言気にしちゃいねぇよ。それより、おめぇ、その強さを何に使おうとしている?何が目的なんだ?」
なるほど、これが本題ってわけね……っていってもなあ。
そもそもこの世界に来たのはアクシデントだしな、目的があったわけでもないし……
まあ、楽しいからいいんだけど……まあ、最近いろいろ考えてることもあるんだけどね……
「やっぱ…あれかな……」
「?」
「いや…な、俺は俺を目指してんだ。目指すべき俺は今の俺のようなチャチな奴じゃなくて、なんつーかもっと風格あってさ、伝承とか伝説に出てくる英雄のようなめっちゃ強くて偉大な奴。で、俺はこの世界で主人公になるんだ。そして、どんな伝説、伝承も敵わないような至高の輝きを持つ物語を作ってやるんだ!」
一度は誰もが思うかもしれない夢物語、中二病発言…それを堂々と宣言し成し遂げると言い放つ少年。それを馬鹿にする奴はいなかった。
海賊も程度は違えども夢を持った奴らである。
それも、こいつらは白ひげ海賊団。人の夢を笑うことはしない。
………良い集団だな。
「まあ、あとはさ…欲しい物があってさ。そいつを手に入れることかな。」
「ん?なんだ?そりゃあ」
「…絆だよ。あんたらみたいな家族みたいな絆とは少し違った形だけどな。俺はそれを作りたいし、それを守るためならどんなことだってしてやる。」
「グララララ!まったく、おもしれえガキだ。なら、俺がお前にそれができる力があるか試してやるよ!おい、あの島に船を付けろ!決闘だ!」
「「「ええええええぇぇ!!!」」」
俺を含め白ひげ以外の船の上にいる奴らの叫びが海に響き渡った。
というわけだな。
まあ、条件はユサとマルコの時を同じ俺が白ひげの顔面ぶっ飛ばせばおk。
負けを認めれば俺の負け。
ってことで準備運動をしながら白ひげを見る。
白ひげは薙刀を持ちこちらを見ている。
「すまねえ、待たせたな。もう始めていいぞ!」
船の上の奴らに叫び合図を送る。
そして……
―ドンッ―
船から大砲が放たれ戦いの火蓋が切って落とされる。
大砲の音とともに百錬自得の極みを足に集中させ白ひげの胸元に飛び込み両手に持つ双剣に気を送りこみ切りつける。
「ふん……ッ!」
白ひげも薙刀を片手で双剣を迎撃し双剣と薙刀が硬直状態になる。
さすが…白ひげ……規格外の力だわ。足と手に気を送りなんとか踏ん張るが少しずつ押されているのを感じる……そして…
「甘いわ!」
薙刀を持っていない方の手で殴りつけてくる白ひげ。
これは避けられない……
―ドンッ―
吹っ飛びながらも化剄によって衝撃を受け流すが……
「ぐはッ…すげえ、覇気」
今の自分では全ての衝撃を受け流せなかったみたいだ。頭がくらくらする。
「やっぱ、力勝負は分が悪いか。いつも通りでいきますか……」
もともと、マサヤの戦法は真っ向からぶつかるような戦い方ではない攻撃が防御に防御が攻撃に繋がり相手の体を崩しそこを撃ち抜く変幻自在の戦闘型。
白ひげの力を見てみたかったので真っ向勝負をしてみたけど片手で簡単にあしらわれてしまった……マサ屈辱。
とりあえず…
「はッ!」
縮地法で白ひげの元に飛び込みまた剣撃を浴びせる。
先程のリプレイのように薙刀が迎撃に来るがそれを避け蹴りを繰り出すが腕によって防がれる。ちきしょう……びくともしねえ……
と……次の瞬間に白ひげは薙刀を回転させ石突の部分で鳩尾の部分を突いてきた。
「ぐッ……」
化剄によって受け流すそうとするも完全には受け流せずまたもダメージを喰らう。……これじゃあ、ジリ貧だ。能力は相手も使ってないので極力使いたくない同じ土台で戦って勝たないとかっこよくないだろ?主人公的に…
「ったく…この怪物が!!」
てか昔から思ってたんだけど俺の性格、戦闘時変わってね?
つか、それ…これ負けキャラのセリフ……
まあ、いいや、考えろ。まず、邪魔なのがあの薙刀。あれをふっ飛ばせば少しは楽になるか……よし、ユサを見習ってあれをやるか……
マサヤはポケットに入れてあるボールを取り出しそれに覇気を込めラケットで打ち出す。
「なんだ…そりゃあ…当たらねえぞ」
ボールは…白ひげには届かず近くにあった石にぶつかり…逆方向にバウンドし白ひげに向かう。
「…ッ」
白ひげは驚異的な反応でボールを掴むが、その時にはマサヤはもう白ひげの近くまで跳びみ剣撃を放っていた。
白ひげも一瞬遅れながらも薙刀で迎撃するという3度目の光景……
「待ってましたぁ!!」
白ひげに作った一瞬の時間を使い天衣無縫の極みを発動させる。
マサヤの身体は金色に輝き、そして……
―ドンッ!!!!―
先程よりも一層大きい音と衝撃が二人の間に響き渡る。
二人の得物は衝撃で吹き飛び、近くの海岸に突き刺さっている。
「まあ、男同士の戦いといえばやっぱり、殴り合いでしょ?」
「グララララ!生意気なガキだ!付き合ってやる!」
あれから数十合?お互いに打撃を撃ちあっているが未だに決着はつかない。
拳と拳、蹴りと蹴りがぶつかり合う…お互いに能力と覇気が籠った必殺の一撃を繰り出していくが相殺されお互いに止めを刺すことはできない。
……このままじゃ、俺が不利だな…最近出来るようになった天衣無縫の極み。
これは破壊力等は他の無我と比較にならないほど高いが体力も消費もそれに比例して大きい。
このままでは負けてしまう……どうする?レンの能力を使うか……?
いや、ここは自分の能力だけで勝ちたい………だが、どうする?
スピードはこちらが勝っているんだが…経験なのかことごとく先読みされ受けられる…
こうなりゃ、相手の後に出てカウンターで決めるか…でも…怖ぇ………
…でもやるしかねえよな……
覚悟を決め、またも白ひげの元に飛び出す。
才気煥発の極みでカウンターまでのルートを作成。
拳を突き出すフェイントをかけ、白ひげの動きを誘う。
が相手にされず、蹴りがマサヤを薙ぎ払おうと襲いかかる。
それを避けると白ひげが拳にグラグラの能力と覇気を込め殴りかかってきていた――
――これだ!これにカウンターを――
白ひげの拳に逆に潜り込むように突き進み顔面に向けて寸剄を放とうとする……しかし…
マサヤを狙っていた拳は動きを止める。
「………ッ!」
しまった……フェイント!!
気づけば逆の拳がこちらに迫っていた……若干だが向こうの方が早い……
ヤバイ、これは避けられない。歯をくいしばれ!このまま耐えて一撃を喰らわせる!!
―ドォォン!!!―
ふと、目が覚める。
どうやら、甲板では宴をしているようだ。楽しそうな声が聞こえる。
「腹減ったな…ちょっと、行ってみるか…」
マサヤはドアを開け甲板へ出る。
「お、目が覚めよい。何か食べるかい?」
「ああ、肉くれ、肉」
といい、適当なところに腰をおろし飯を食べ始める。
俺に気付いた他のやつらが声を掛けてくるので適当に応えつつ腹を満たしていく。
そして、ある程度、胃の中に食べ物を詰め込み、
「ふぅ……」
「よく食べるよい。そんなに腹が減ってたのかい?」
ずっと言葉を発せずに見ているだけだったマルコも頃合だと感じ声を掛けてきた。
「ああ、これはただのやけ食いだよ。」
「やけ食いって……おまえさんは条件付きとはいえあの親父に勝ったんだよい?なにか不満でもあるのかよい。」
「いや、な。あの後、船に乗り込んですぐにぶっ倒れたじゃん?俺。あれがちょっと不甲斐なくてな。」
「まあ、それでも勝ちは勝ちだよい。あれが殺し合いならとか…そんなこと気にしても仕方ない良い。」
まあ、そうなんだけどね。
フェイントをかけられ逆にカウンターを決められたあの時、耐えきって全力をぶつけたあの瞬間、自分は恐怖でレンの能力を使い、与えられた『ダメージを遅らせた』。
そして、白ひげに寸剄を当て吹っ飛ばした……まあ、すぐに立ってきたけど……
で、船に上がった時にダメージの遅延を解除するとともに俺は気を失ってしまったってわけだ。
レンの能力を使ってしまったこと―自分の信念を貫けなかったこと…それが凄く悔しかった……そんな俺の状態を見ながらマルコは言葉を続ける。
「おまえさんは理想の自分を目指していると言ったよい。それは今の自分じゃないだろい?今はその信念とかプライドを守れなくてもいいよい。そういった挫折を乗り越えながら成長していくのが主人公っていうものだろい?少なくとも俺の知ってる物語の主人公はそんな奴だったよい。」
「……ッ!」
すげえ…さすが隊長だ。今、考えていることを当てて俺にとってなんかすげえかっこいいセリフ言ってやがる……
「なるほど……サンキュ。あんた、良い奴だな……」
「まあ…年上からのアドバイスだよい。」
「……あんたみたいな兄さんいれば心強いだろうな。まあ、人の噂広げるような最低な奴だけど…」
ニヤっと笑いながら言ってみる。
まあ…本心なんだが…ちょっと恥ずかしい。
「あれはお前が悪いよい。まあ、本気でウチに入りたいんなら俺が推薦してやるよい。まあ、そんなことしなくても親父なら……って、あっ!」
「ん?」
「そういえば、おまえさんが目を覚ましたら呼べって言われてたよい……」
「それ一番先に言えよ…」
鳥頭…と言いそうになったがさすがにそれは呑み込んでおく。
「親父、連れてきたよい。」
「おう。よく寝てたようじゃねえか。小僧。」
「うるせえよ。勝ちは勝ちだ!文句あるか?」
「グララララ!文句なんてねえよ。お前の言った通り、勝ちは勝ちだ。いじけてたら檄を飛ばしてやろうと思ったんだがどうやら先に飛ばされたみたいだな。」
白ひげはマルコを見ながらそう言って酒を呷る。
「そういえば、ユサの話は聞いてくれたのか?」
「おう。あいつもなかなか生意気なガキだ。」
といいながらも笑っている。
あいつ本当に気に入られたんだな……
「用事ってそれだけか?俺はもう戻るってか寝るぞ。てか、明日帰るから船よろしく頼むわ。」
「それはマルコに任せる。また用事があればいつでも来い。」
「ああ……」
そして、次の日、マルコの船に乗り込み1週間程で俺達はシャボンディ諸島へ帰還した。