小説『ONE PIECE【changed the course of history】』
作者:虹犬()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

【第15話 乙女の旅立ち 後篇】





……強い……

「あ、そうだ。お前弱そうだからさ。手加減してやるよ。左手しか使わねえから安心しろ。あと、知ってるかもしれんが私の名前はナゴミ。よろしくな」

そんな言葉から始まったこの勝負。
血だらけになりながらも笑い、そして攻撃するナゴミに恐怖を覚える…
血だらけといっても私は未だに一回もナゴミに触れていない。いや、触れられない…
私が一方的に顔をはたかれているだけ……私の能力で触れた時にダメージを与えているだけ……
与えている傷もひとつひとつは小さい物で最初は首の薄皮一枚が切れたぐらいだった…それが何度も重なり、一度は首を完全に切断したはずだったのに一瞬で元に戻った…もう、どうすればいいのかわからない……

「あははは、すっげえ能力だな。あれだ、お前、全身凶器人間だな。まあ、防御力は紙だが…」

「……ッ」

マサヤ兄ぃと特訓して防御力も実際の鉄ぐらいの強度になれるようになったのに…それでも紙レベル……強すぎる……

「おいおい、どうした?全然、反撃してこねえじゃねえか?この後、マサヤお兄ちゃんに会うんだろ?顔が腫れ過ぎて気付いてもらえなくなるかもしれないぜ?」

「ッ………」

今まで、ずっとビンタで攻撃してきたのはそのため……?なんて意地悪な人なんだろ……
なんか少し、マサヤ兄ぃに似てる気がする……
足元に落ちている砂や石を拾い右手、左手と時間差でそれを投げ、ナイフに変える。

「甘い甘い甘い甘すぎるぜ!それじゃ虫歯になっちまうぜ!!!」

投げられたナイフは全て避けられ、ナゴミは自分にまっすぐ向かってきているだろう…そもそも、先程の物は当てるためじゃない…ルートを絞るための囮だ。
右手を剣に変え、予想されるルートに剣を突き出す。もう、見えないんだから勘に頼るしかない。

「惜しい。外れだ!」

―パンッ―
―ザシュッ―

頬が叩かれる音と首が切れる音が響き渡る。

「ったく、こっちは一発も喰らってないのに傷がつくって反則じゃね?コンプリート勝利出来ねえぞ、まったく……遠距離攻撃しかねえけどそれじゃ、手加減できねえしな…殺したらマサヤに怒られるしな……」

地面に手をつき、よろよろと立ちあがるアレグレット。
ナゴミさんが手加減してくれているから見た目ほどダメージはない。
なにか…ここまで力の差があると悔しさよりもいっそ清々しい気分になってくる。

「あははははは……」

―私、本当はどうしたいんだろ?

ナゴミへ突っ込み、剣を振るが避けられビンタ。衝撃で地面に倒れるがすぐに立ち上がる。


―海軍に入りたいというのも本当だし…マサヤ兄ぃについて行きたいというのも本当の気持ち。

『だからな、おまえはそんな最強の主人公の妹なんだ…だからそんな能力ぐらいに翻弄されんな。真っ向からねじ伏せろ。そして、俺の妹に相応しい女になって見せろ!俺が自慢したくなるような極上の女にな!!』

私が両親を亡くし、悪魔の実によって普通の人として生きていくことができないと知り、心が壊れそうになった時にマサヤ兄ぃが言った言葉を思い出す。
あの時から私はマサヤ兄ぃを拠り所にして辛かったことや悲しかったことを全部背負ってもらってた…能力が制御できるように強くなろうとしたのも捨てられるのが怖かったから……そんなことないのに…あの人が自分を捨てることなんてないのに…
マサヤ兄ぃを信じられないという弱さのせいで今も迷惑をかけてしまっている。
このままの私じゃ、たとえ一緒に旅に出たとしても……




「いけない…私、もっと強くならなくちゃ……」

「ん…?どした?」

「ナゴミさん。貴女の言うとおり、私は弱いです。妹なのに兄を信じられなかった…」

「まあ、あいつ胡散臭いしな。しゃあねえよ。半分以上ノリで出来てそうなやつだし…」

残り半分は「シスコン」だろうな。とアレグレットに聞こえないように呟く。

「いつか捨てられるんじゃないかと不安だった…」

「ま、よくある話だね。」

「でも、これからでも頑張れば変えられますよね?というより変わりたい。」

ある日突然人攫いによって全てを奪われたことにより生じた失うことへの恐怖。
その恐怖心から生まれたマサヤへの依存心。
これを克服するのは並大抵のことではない。
だが…マサヤに相応しい女になれるように…信頼を裏切らないように…
それは捨てられる恐怖からじゃなくこの2年間で育まれたもう一つの想いから…

「私はマサヤ兄ぃ……いや、マサヤさんが好きです!」

そう言って、ナイフを取り出し、自分の髪のポニー部分を切り、それを宙に投げる。
髪は風に乗り広がり、舞い上がるキラキラと…

「あ〜、何してんだよ…せっかく綺麗な髪だったのに。」

「いいんです。これが私の決意です。受け取ってください、ナゴミさん。」

右手を剣にしてナゴミへ向かい突き出す。
ナゴミはそれを後ろに下がり避けるがそれを読んでいたアレグレットが剣の長さを伸ばし追撃する。それすらも横へ回避するナゴミ、だが、気にしない。
ナゴミの少し後方にある岩に突き刺し自分の体をそこへ引きつけると同時に舞い上がっていた髪を時間差で剣に変える。
ナゴミの周辺一帯に落ちてくる剣の大群…それをナゴミは弾き、避け、躱していく。
アレグレットは地面に突き刺さった剣を持ちナゴミに投げる。
当然それをナゴミは避けるが、剣がナゴミの身体の近くを通過した瞬間…

―ドンッ―

剣は爆発し、衝撃をナゴミに与える。

「……ッ、効ッく〜。」

ナゴミはそれでも笑顔で降ってくる剣と投げられる剣、そして、それが爆発する衝撃を躱し続ける…
そして、剣の雨が止み地面に刺さった剣も残り1本となった。
ナゴミも剣自体は全て、躱したが衝撃でダメージを負っている。

「これが最後です。行きます。」

「おう。来い!」

アレグレットはナゴミに剣を振りかぶり切りつける!

ナゴミはそれを躱し、私にビンタしようとする…
その時、私は持っていた剣を爆発させた……




―ザシュッ―

「……なんで?」

予想していた展開とは全く異なる光景にアレグレットは驚く……
ナゴミは振り下ろされた剣を避けなかった。
剣はそのままナゴミの首へ届き、それを断ち切っていた。

「そりゃあ、あれだ。」

首が喋る。そして次の瞬間、ナゴミの身体は元通りに戻っていた。

「女の命を賭けた攻撃を避けるわけにはいかないだろ?」

とウインクしながら言ってくるナゴミさん。そんな彼女にお礼を言うと、

「よし!決めた。あんた、私のことナゴミお義姉さんと呼んでいいわよ。」

「なんだか、音は一緒なのに意味が違う方のような気が…そういえば、マサヤ兄ぃとナゴミ姉ぇはどんな関係なんですか?」

「え〜っとね、恋人以上夫婦未満?……えと………ああ、ごめん。ただの気の合う友達…まだね…」

「よかった……」

「そうだよな〜。凄いでかい声で愛を叫んでたもんな〜」

ナゴミがからかうと顔を真っ赤にして照れるアレグレット。その顔からはもう、迷いはない。

「あ、そうだ。ナゴミ姉ぇ。これから私達って……」

「そう…、私達は恋敵。」

「えええええ!違いますよ。姉妹ってことでいいんですよね?」

「そうだな。姉妹で恋敵…ドロドロな関係ね……」

「え〜っと…マサヤ兄ぃに恋愛感情とかないんですよね?」

「どうだろうね。向こうは私にもあんたにもないって言ってたけどな。」

「ああ、そうなんだ…私にも、ってええええええ!」

いやいや、この妹、リアクション良すぎだろと楽しんでいるナゴミ。

「いや、3か月前にあったこと聞いてその時についでに聞いといたんだ。ありがたく思えよ。」

「なんで、そんなこと聞くんですか?というか他には何か言ってました?」

「いや、あんたには何も言ってないよ。私には顔と性格が好みって言ってたけどね」

「………」

「いやいや、本当のことだしさ。それにどっちともないって言われてんだからドローじゃん?…というかあんた、約束の時間もうすぐ来るよ?」

「え……今何時………ヤバイ…。」

本当にもう少しだった…時間にしてあと、10分……どうしよ…

「まあ、慌てるのもいいんだけどあんた、その顔で行くつもり?」

「顔……あ、……どうしよう………?」

ヒリヒリする膨れた顔を擦りながらアレグレットは慌てる……
それを何かを飲みながら眺めているナゴミ。

「ナゴミ姉ぇ、どうすればいいの?これじゃぁ……ん!?……ん〜!…ちゅ……ゴクッ」

ナゴミに何かを口移しされ顔を真っ赤にしてオロオロしているアレグレット。
愛いやつじゃの〜と眺めるナゴミ。

「な、何するんですか!?わ、私の…ファ、ファ、」

「ミ、ミ、ミ、ラ、シ、ド、ラ?」

「ファ…ファーストキスです!」

ほんとに愛い奴じゃ〜とアレグレットを頭を撫でるナゴミ。

「ほら、あれだ、お前の兄さん、直伝の秘儀…癒しのキスだ。顔、治ってるだろ?」

そう言って、顔を触り、ああ、つるつるして良い肌だ〜とオヤジ風なことを言う姉をほっといて、自分の手を刃物にして顔を見てみる。

「あ……ほんとだ。治ってる!凄い!……って兄さん?」

「そう…お前の兄に秘境の療水とやらをもらってたんだよ。私に何かあったときのためにってな……あと、マサヤのファーストキスも私が頂いた!」

「え……?」

「まあ、後はマサヤ本人に聞きな。もうそろそろ行かんと遅れるぞ?」






(SIDE マサヤ)

約束の時間になった。

「来んのぉ……」

「どうしたんだろうね?」

男二人、港で待ちぼうけ……なんかとても嫌な絵だ……と思っていると

「ごめんなさ〜い。遅れました。」

と言ってボロボロの姿で駆けてくるアレグレット。
ん…ボロボロ?
服はあちこちが裂け、泥がつき、足は擦り剥いたりしている。
それに髪………

「どうしたんだ?そんな姿になって?」

「あ、お待たせしてごめんなさい。アレグレットです。ガープ中将ですよね?」

あれ……?俺、無視されてね?

「そうじゃ!儂がモンキー・D・ガープじゃ!」

「私を海軍に入れてください!」

「いいぞ!」

「軽ッ!」

いいんすか?そんな軽いノリで?つか、アレグレット海軍入ることになったんだ……なんか顔つきが変わったような気がするんだが……
ボロボロの恰好+俺への無視+アレグレットの変化=あいつの仕業……か?
俺がいろいろと考えている間もガープとアレグレットは何かを話している。

「そうか。じゃあ、今からでも行くか?」

「いえ、今日はお世話になった人達に挨拶をしたいのでよろしければ明日に……」

「わかった。じゃあ、明日の朝にここで待っとるわ」

ふ〜ん。明日行くのか…って急だな……って考えてると肩に手が置かれる。
なんか…怖い……何…?この気迫…?

「じゃあ、兄さん…行きますか。」







―次の日の朝―

「おう!来たな!ってどうしたんじゃ、マサヤ!その顔は…」

「い…いや、俺のことは気にせんでくれ。ほら、アレグレット…」

港にアレグレットと一緒に来る。
見送りはどうやら俺一人みたいだ……まあ、他の人も遠慮したんだろう……
昨日の俺の扱いと仕打ちを見てればな……うん。思い出したくない……

「お待たせしました。じゃあ、行きましょうか。ガープ中将、これからよろしくお願いします。」

「よし!行くか」

「そうだ…アレグレット!」

「なに…兄さん?」

ジロリと睨んでくるアレグレット。また、会えるとはいえこれでお別れじゃあな…
締まらないしな…

「ちょっと、こっち来い。」

「…?」

訝しげな顔をしながらもこっちに近付いてくるアレグレット。

「アレグレット、1秒だけ目をつぶれ。」

「?……わかった。」

『相対虚空 (ウィ・アーカーシャ)』で1秒を10秒に引きのばす。
そして、アレグレットの首に昔、買ったエメラルドのネックレスをかける。
『相対虚空 (ウィ・アーカーシャ)』解除

「ん?何?」

「首見てみろよ。プレゼントだ」

「え?」

と自分の首を見るアレグレットが可愛い。

「まあ、大事にしなくてもいいけど貰っといてくれ。兄からの選別だと思ってさ…」

「だ、大事にしないわけ…ないよ……。う……」

「泣くなよ。ほら、と手を伸ばし頭を撫で…いてっ…」

頭に触れると腕に少し切り傷が……あいつ……と思った時に頬になにか変な感触。っていうかこれって唇?

―んちゅっ―

「マサヤ兄ぃ。油断しすぎ。そんなんだから好きでもない子にキスされるんだよ。」

「いや、好きだけど…愛してな……いや、もういいや。」

「私は負けないからね!絶対にマサヤ兄ぃに相応しい女になるから!」

うん。わかった…まあ、そりゃあ、置いといてさ……アレグレットさん?貴女の後ろでニヤニヤしてるジジイが……

「おう、儂のことは気にせんでくれ!若いっていいのぉ、ハッハッハ。」

「ゴホン、まあ、アレグレットお前も頑張れよ。わしも伝説の釣り人になってみせるからのぅ、お前も海軍の料理長を目指して頑張るんじゃぞ?」

「……そんなもの目指してないもん。というか、ほんとにナゴミ姉ぇに似てるよね…マサヤ兄ぃって…」

「失敬な!俺をあんな下ネタボケマシーンと一緒にスンナYO」

「わけわからないよ…。じゃあ、行ってくるね。またね」

「おう……じゃあな。」


ということで、俺の妹は旅立った……頑張れよアレグレット。

-16-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




【ONE PIECE】ワンピース公式アクセサリー第4弾マルコシリーズリング/ブルー21号/モビーディック号BOX
新品 \12600
中古 \
(参考価格:\)