【第20話 白蛇の伝説 後篇】
昔々、山の民と海の民が住む小さな島がありました。
その島は1年中穏やかな気候でとても暮らしやすい所であり、海の民も山の民の交流も盛んで関係も非常に良好でした。
そこに生まれた2人の少年と1人の少女の物語。
山の民の少年ライ、海の民の少年ケイ、そして、島に流れ着いてきた少女リサ。
この3人は小さい頃からずっと一緒でした。
ある日、リサは森の中で大きな白蛇と会い、願いを叶える不思議な力を持ちました。
病が流行ればその病を治す薬の知識を与え、子供が迷子になればその子供の居場所を予言したりとその他にもその島の人の誰もが知らない知識や常識を超えた力等を持っていたため山・海の民に崇められ島の中心に立派な家が建てられそこで暮らすことになりました。
時は経ち、ライは山の民の長に、ケイは海の民の長になりました。
それでも変わることなく3人はずっと一緒でした。
しかし、ある日から突然発生した気候の急激な変化により山の生物は減少し、作物は不作に周辺の海も魚や海王類がいなくなり島民の生活は一変しました。
もちろん、島民は白蛇の少女に頼みますが気候を変えることはその頃の少女には不可能でした。
そして、2年もの間、気候は直らず、海・山の民、それぞれが切羽詰まった状況となり、交流は減少し次第に小競り合いが起き始めました。
ケイとライは共に島民の暴走を抑えようとしますが、効果はありませんでした。
そして、ある日、リサは言いました。
島を元の状態にできるようになりました。ただし、範囲は島の半分だけです。それから1年後にもう半分も変えます。
リサはあの日から白蛇の力の制御の精進を重ねやっとのことでそこまでの力を持つことができたのです。
ただ、それは少女に多大な負担を与えることになり、1年もの間、力が使えなくなるという代償がありました。
それを聞いた山・海の民は互いに争いを始めました。
山の集落は海の民を向かい入れるだけの広さはなく逆もまた同じであり、お互いが限界状態であったため互いの民も長の制止を聞かず、相手の集落へ略奪等の行為や破壊工作、戦闘行為等が発生しました。
それを知ったリサはショックを受け、姿を消します。
それがさらに混乱を生み、互いの民がリサを幽閉したという噂が流れ始め互いの争いは激化し戦争と言っても過言ではない状態になりました。
ライとケイも最終的に闘うことになり、お互いと自身の不甲斐なさを罵りながら相討ちとなり、死ぬ直前に見上げた空……それはとても晴れやかなものでした。
そう…いつの間にか島は元の姿に戻っていたのです。
二人は気付きました…リサが姿を消した、あの時、自分の命と引き換えに島を元に戻したことを………
そして、二人はそのまま涙を流しながら死んでいきました。
というのが白蛇から聞いた白蛇の伝説の真実だった。
まあ、アマゾン・リリーで言われている白蛇の伝説も似たようなものであったがあれは島民が全員死んだあとにリサが悔やみ自分の命と引き換えに……という展開だったしな、もちろん、ライやケイも出てこなかったし……
正直な話、気付かなくて当然かもしれんな。気候がよくなったからといってすぐに生活がよくなるわけでもないし戦争中だもんな……
で、これには続きがあって、リサはあの祠の中で毎晩、泣きながら謝り続け、ライとケイは涙を流しながら互いに闘い続けているらしい……怨念みたいな感じになって…
で、姿は今のところ俺にしか見えないらしいから俺に解決してくれとのことらしい。ライやケイには覇気が通じるらしいから一応、攻撃はできると聞いている。
とりあえず、残りの貝はその二人が持っていると思って間違いないだろう、それを……
「マサヤ、何があったのじゃ?いきなり、消えてしまって…」
考え事をしている俺を覗き込むハンコック。
俺が帰ってきたとき涙を浮かべ抱きついてきた。
まあ、仕方ないよな手を繋いでいたはずなのにいきなり消えて気味の悪い地下室に一人きりって……
「それがな……」
白蛇に会ったことや白蛇の伝説や今後のことについて話す。
まあ、ハンコックは頭も良いし、原作ほどではないにしても強いので、正直に話した方がこちらも動きやすい。
覇気が通じるのならハンコックも戦えるし姿が見えないのは俺に少し考えがあるから、まぁ、なんとかなるだろ……
ということで、夜になった。
白蛇の話によると毎晩、海岸で二人は斬り合うらしいのでその辺に光を灯し、待っているのだが……
「マサヤ、本当にそのライとケイとやらは来るのだろうか……マサヤを疑うわけではないが……」
「わかんね。俺も騙されてるのかもしれんし…まあ、何もなけりゃそれで良いとは思ってるけど…」
まぁ、仕方ないよな?いきなり、怨霊退治?というか成仏させるのに手伝ってくれとか言われたらさ……
―ドンッ―
いきなり、海面に水柱が立ち上るそして、そこから出てくる一人の男…
そして、反対側…つまり森の方からも地響きを立てて男が現われる。
共に身長は2m30cmくらいあり筋骨隆々だ。
俺やハンコックが190ぐらいだから結構、見上げる形になる。
で、その二人が俺たちを気にせずお互いに剣を持ち闘い始める。
「な、なんじゃ?この音は?……マサヤ…」
剣を打ち合う音は聞こえるのか、ハンコックが周りを見渡し俺の腕にしがみついてくる。可愛い……おっと、とりあえず、作戦開始するか。
「ハンコック、もう少ししたらお前にも二人が見えるはずだから右の方に攻撃してくれ、俺は左の奴を攻撃する。」
と言って、集中する。
リアルシャドーを人に見えるほどの集中力で再現する。
それを実物と重ねて動かせばハンコックにも見え、攻撃できるはずである…
さあ、上手くいくか……
「マサヤ、わらわにも見えた!」
「おk。じゃ、行くぞ」
と俺とハンコックはライとケイに向かい突っ込み、俺は覇気の籠った寸剄を、ハンコックは蹴りを叩きこむ。
俺が打ち込んだ方は倒れたがハンコックの方は威力が足りなかったのか仰け反っただけですぐに体勢を立て直しハンコックへ斬りかかる。
「ハンコック、そいつは任せた。」
といい、俺は倒れた奴の方へ近づく、なんとか立ち上がろうとしているが立ちあがれない。
「オオオオオオオオオ!」
「今日は…静かに眠ってくれ……」
涙を流しながら雄たけびを上げる姿は見ていてあまり気分のいいものではない、俺はそいつの頭に寸剄を叩き込む。
すると、男は砂となり消えていった。
そして、残ったのは祠の地下室で見た台座にあったものに似た貝だった。
「やっぱり……」
「マサヤ!相手が見えなくなった…」
「しまったッ!!」
振りかえると、敵を見失っているハンコックに男が剣を振りかぶり斬りかかろうとしている所であった。俺と男の直線状にハンコックがいる形だ。
「ハンコック!俺を信じろ!」
といい、ハンコックに向けて『拳弾(ファウストパトローネ)』を放つ。
―ドンッ―
衝撃はハンコックをすり抜けその奥にいた男に炸裂する。
まぁ…これ、遠当てじゃないような気がするけど…まあ…いっか………
同じように砂になって消えていく男…こちらにも貝が残った。
「ハンコック、すまない。俺のせいで危険な目にあわせた……」
「い、いいのじゃ。そなたは私を助けてくれた。それだけでわらわは十分じゃ///」
いや…それは…俺のせいだしな……
まあ、あんまり引きずってても逆に迷惑だろうし……気持ちを切り替えよう。
「じゃあ、今日はこれで寝るか。じゃあ、寝床に帰るか。」
「はい。わらわ達の愛の巣へ」
「いや、それ。意味違うから…というかそんな言葉どこで覚えてくるんだ?」
「え?ニョン婆が言っていたのじゃが…何かおかしかったじゃろうか?」
「う〜ん。間違ってはいないのかな……俺にもよくわからん。」
男女が一緒に寝る場所だから間違ってはいないのか……?
う〜ん。悩む……つか、ニョン婆!変なこと吹きこむな!
で、実は探索中の明るいうちに建物跡の比較的朽ちていないところにちょうど、雨風が凌げそうなところがあったので寝床として準備していたのだ。
今日の所は、ここまでとして、明日、貝を持って祠に行くとしよう……
―翌日―
「じゃあ、貝をはめるぞ?ハンコック、離れるなよ?」
といい、昨晩、ライとケイから取った貝を台座にはめる。
「…………。」
「…………。」
「………………。」
「………………。」
「……あれ?」
何も起きない……あれ?どうしてだ……
「マサヤ、最初に取った貝をはめないと……」
「あ……」
そうだった。リサの分の貝を取ったままにしてた……テヘッ☆
「じゃ、気を取り直して!貝をはめま〜す。」
恥ずかしさをごまかすため、わざと大きな声を上げながら台座にはめる。
―ガンッ…ゴゴゴゴゴ―
壁が動き、先へ通じる通路が現れる。
それを進んでいくと……
「これは……」
ハンコックが呟く…
地下室の一番奥の部屋、そこには白骨があった。
多分、というかこれはリサだろう。
リサの手は何かを大事そうに抱えていた。
「これは……音貝…?」
確か、音声を録音し、再生できる貝だったはず。
つまり、この貝に録音されている音声をあのライとケイに聞かせれば良いというわけか……
でも………白骨から物を取り上げるのは怖ぇ……
恐る恐る白骨から音貝を取り出しポケットへしまう。
「これで、後はこれをあいつらに聞かせるだけか……」
「マサヤ、この後はどうするのじゃ?」
「いや、だから……」
「そうじゃない。この島での探索が終わった後のことじゃ。一度、アマゾン・リリーに寄ると言ったがその後はどうするのじゃ?」
「いったん。アマゾン・リリーに寄った後は数日したら、旅に出ようと思ってるよ。」
まあ…嘘を言っても仕方ないしな……
「わ、わらわも……」
「駄目だ。」
「どうしてじゃ?わらわと一緒は嫌か?迷惑なのか?」
「迷惑じゃないよ。この二年間とても楽しかった…ずっと、アマゾン・リリーにいてもいいかなあ…って思うくらいな」
「そ、それなら……」
ギュッと俺の手を握るハンコック。
俺もそれを握り返しながらも歩く。
「でも、俺は世界を周りたいんだ。全ての海を周っていろんなことを経験したい。俺だって、ハンコックと一緒にいたいけど、ハンコックにはアマゾン・リリーの女帝という立場があるだろ?もう、自分みたいに人攫いに攫われないように船を見ただけで相手が逃げ出すような凄い海賊になるって言ってただろ?」
「う、うん…」
「大丈夫だって、ハンコックならやれるさ。俺も、目的を達成したら、いや、時々でもアマゾン・リリーに帰ってくるからさ…」
「うん。わかった……」
とりあえず、ハンコックを説得しながら祠を出て寝床へ着いた。
別にさっき言ったことは嘘じゃない。
ハンコックのリアクションは面白いし、可愛いし、最近は家事、料理にも励み凄い速度で上達している。
このまま、アマゾン・リリーにいても、何一つ、不自由ない生活が送れるだろう……
ある意味、ハッピーエンドだと思うが、なぜか自分はまだ、行かなければいけないところがあるような……会わなければいけない人がいるような…そんな気がするんだ……
そんなことを考えながら俺は眠りにつく。
ハンコックには夕方になったら起こしてくれと言ってある。
昨日は夜、ライやケイが復活して襲ってくるかもしれないと思い、ずっと見張りをしていたから…眠い……もう限界だ……
「お休み……」
「マサ……マサヤ……」
声が聞こえる。
ああ……もう、夕方か……と身体を起こす。
―ぶよん―
「い、いやぁ……」
「ん……?なんだ、これ?」
頭というか顔に柔らかい感触。
「あ、あの…ま、マサヤ、う、うれしいのじゃが…わらわにも心の準備というものが///」
ん……?この感触とさっきの悲鳴とこのセリフ……もしかして…
頭を下げるとそこには胸があった……
そして、見える赤くなったハンコックの顔………そして、頭には枕よりは固いが固すぎずちょうどいい感触……なんで……?
なんとなくわかってきたけど………なんで?
「え、えっと、なんで、ハンコックが俺に膝枕してんの?」
「それは…マサヤが頭に敷いていた石が固そうじゃったから…代わりにと思って……その……膝枕を…迷惑だったか?」
「いや、おかげでよく眠れたよ。ありがとう。重くなかった?」
「いや、大丈夫じゃ。それにわらわも幸せな気分になれたから……」
「……?膝枕ってやる方も幸せなのか?今度、帰った時やらせてくれよ。」
「え…え?マサヤがわらわに膝枕…………///」
なんか固まってしまった。
ハンコックから起き上がり、周りを見てみる。
どうやら、もうすぐ時間のようだ。
「ハンコック、いくぞ」
「……はぁ…マサヤがわらわに膝枕……これが……婚約?」
「違う違う……ほら、行くぞ」
とハンコックの手を引っ張り連れていく。
そして、夜になった。
―ドンッ―
昨日と同じように海面に水柱、森から地響きが鳴り、ライとケイがやってきて互いに闘いだした。
俺はハンコックにここで待っているように告げ、二人に近付き、音貝からリサの音声を再生させる。
『えーっと、テストテスト、あー、聞こえますかー……』
えーっと…なんだこれ……二人も戦いをやめ、音貝に注目する。
『リサです。ライ兄さんとケイ兄さん元気ですか?私は多分、死んでいると思います。色々と伝えたいことがあるんだけど、まず、お兄ちゃん達の前から勝手にいなくなってごめんなさい。私のせいで島の皆が不安になって争いが起きてしまって…きっと、お兄ちゃんたちならなんとかしてくれると信じています。私は、もう二度とこんなことが起きないように…私たちが育ったこの島を…みんなが笑顔でいられるように元通りにします。白蛇さんに聞いたら、私の命を賭ければずっと、気候とか災害とか起きない平和な島にできるそうなので私、頑張ります。後、えっと、……何を言おうとしてたんだっけ……思い出せない…ぐすん……ぅぅ……いっぱい…言いたいことあったのに…また、あの頃のように三人で楽しく喋りたいよ…遊びたい……私、こんな力なんていらなかった……一人は怖いよ。私、ここにいるから……昔、みんなで遊んだ秘密基地に……だから迎えに来て……』
音声はそこで途切れていた。
二人はそれを聞いた後、武器を捨て祠の方へ歩いていく。
「ハンコック。お疲れ様。今日はもう帰ろう……」
「いいのか?ついていかなくても」
「ああ、今日は疲れただろ?さっさと寝ようぜ」
ついていこうか迷ったが…止めておいた。
兄妹の邪魔なんてするべきじゃないしな……