【第37話 親友との再会 4/4】
(SIDE ナゴミ)
「私がもしお前を………」
私はそこで口を閉じる……
そして、数時間前のことを思い出す。
「ナゴミが悪魔……?」
「ええ……ナゴミさんとは裏ボスのクエストで出会ったんですよね?先程、仰られたようにその時はこの世界ではオーバースペックだと感じたと…」
マサヤが違う世界から来たことは以前に聞いている。
別に何処から来たかなんてそんなの興味ないと言って笑い飛ばしたんだが……
まさか……自分も違う世界から来て…しかも、悪魔だなんて……
「そんなのあるわけねぇだろ…私にそんな記憶はないぞ。」
「はい。先程言ったようにこの世界は『羽を持つ者』の為に作られたものだから悪魔や天使がこの世界に入りこむときには制限が掛かったり障害が起きたりするの……この世界での記憶を埋め込まれたりね…」
私の記憶が……偽物?
「……っていうか『羽を持つ者』とか『悪魔』とか『天使』って何なんだよ?」
呆然とする私に変わり、マサヤがリディアに説明を求める。
「ええと……さっき、トモヤが言ってたけど……」
自称:神という奴がいて、そいつがあらゆる世界を常時見ていて気に入った魂をその魂の持ち主が死んだ後、輪廻転生するはずだった魂を掠め取り手元に置くらしい。
その魂が『羽を持つ者』であり、神の元『グリエラ』に置かれた時に新しい身体を与えられる。
そして、その魂と身体が長い時を経て完全に同調した時にその時の神への感情や現世への未練の有無等により、『天使』になるか『悪魔』になるかが決まるらしい。
『天使』も『悪魔』も羽の色以外は違いが無いらしい。
『天使』、『悪魔』になれば、人間よりも何階層も上の次元に住む者となり、もう、輪廻転生することや人間達が住む世界に干渉することもできず、一生(といっても彼ら・彼女らは死ぬことはないのだが……)『グリエラ』で過ごすことになる。
で、『羽を持つ者』の現世への未練をなくすため…また、『グリエラ』に住むための力の使い方等を学ぶために使われるのが今、自分達がいるこの世界―『グリエラ』では『神の箱庭』と呼ばれている。いわば、『天使』や『悪魔』になるための加速装置である。
で、リアリティを出すために、ほどほど自由が効く現世の物語の設定等が使われ、スパイスとして、その中に何人か現世の人間が招き入れられるらしい、それが今回はマサヤやトモヤというわけだ。
「ふ〜ん……でさ、なんで『悪魔』や『天使』がこの世界に来る時は障害が起きるんだ?」
「それは、『悪魔』や『天使』は魂が完全に神から与えられた身体に結びついているのでその身体から魂を引きはがしてこの世界に用意した触覚にそれを移す際に魂が不安定な状態になり、元々持っていた能力をこの世界に合わせてセーブさせられ、記憶もその時にこの世界の物語にあうような生い立ち等が準備され埋め込まれるるんです。」
「そういえばさ、この世界で死んだらどうなるの?」
「この世界で死んだ時は元の身体に戻ります。その際にこの世界の身体と元の世界の身体がリンクし、ダメージや記憶等が同期され、魂が元の世界の身体に戻ります。」
「それって…死んだ時のダメージが元の世界の身体にも与えられるってことだろ?じゃあ、ここで死んだら元でも死ぬってこと?」
「『羽を持つ者』や私たちの身体はこの世界の触覚よりも何十〜何百倍も頑丈にできてますので問題ありませんが……」
と言い、リディアはマサヤとトモヤを見る。
「俺達の元の身体はこの世界の身体よりも弱いからほぼ確実に死ぬ……と?」
「ええ………」
リディアはつらそうに答える。
「なるほど…ところで、リディアさんとナゴミって知り合いなの?」
「ええ、そんなに深い仲というわけじゃないけどね。ね?****。」
リディアに呼ばれた瞬間、私の身体は電流が流れたかのようにピクっと反応した。
それをリディアは優しい目で見つめている。
「多分、まだ、あなたには先程、私が言ったあなたの本当の名前は理解できないでしょうね。というより、頭に残っていないでしょう?」
「………」
その通りだった…
別にまったく異なる世界や異国の言葉というわけでもなく1語1語は理解できる語だったのだが…なぜか、頭に残らない…リディアが先程、私を何と呼んだのかが思い出せない……
「リディアもナゴミも『悪魔』なんだろ?『天使』っていないのか?」
マサヤが混乱するナゴミを見て話題を変える。
「えっと…いるにはいるんだけど…少ないわよ。というより…私の知る限り、1人だけだと思う……」
「結構、レアなんだな…『天使』って…」
「ええ……。さっきも言ったけど……」
『天使』と『悪魔』の違いは現世に未練があるかどうかというのが最大の基準になるらしい。
例えば、愛し合ってる人がいて生まれ変わってもまた、一緒に……とか、何か目指していたことが成し遂げられなくて、今度生まれてきたときは絶対に……
みたいな感じでなにか強い思いを持っていて輪廻転生を願っていた人の魂が『神の箱庭』に入っても変わらずその思いを持ち続けた人達が『悪魔』となるらしい。
で、『悪魔』の中には少なからず、こんな所に連れて来やがって……と神を恨む人もいるわけで……
その神への復讐として『神の箱庭』に入り、『神の箱庭』を破壊するというのが『悪魔』達の目的らしい。
『悪魔』の中でも一部の人はただ楽しみたかったり…未練を消したかったりする奴もいるみたいだが……
というわけで、『天使』がこの『神の箱庭』に来ることは稀であるらしい。
「その……『天使』ってかなりの変わり者だよなぁ……」
「お前みたいにな。」
「いや、お前だろ。」
「ふふふふ。」
マサヤとトモヤを見て笑うリディア。
「マサヤさんはもう、天使と会っていますよ?というより…」
「ん?」
リディアはマサヤの手を見て、さらに言葉を続ける。
「かなり、気にいられてるみたいですね。彼女が他人に触れるなんて結構珍しいんですよ?」
?マークが頭の上に浮かんでいるような様子のマサヤ、なんのことだかわからないらしい。
「え〜っと、彼女が言いそうな言葉で言うと契り?契約?そんなことをした記憶はありませんか?」
「あ!ハクっちのこと?」
「は、ハクっち……?」
「いや、白蛇って言ってたから、ニックネームでハクッちって付けたんだよ。」
「彼女、結構、気難しいというより、そういったところは気にする人なんですけど……マサヤさん、よほど気に入られたんですね……」
リディアも少し驚いた顔をしている。
聞く限り、その白蛇という人?も変わった人みたいなので変態同士、気があったということなんだろう……
「でも、あいつは自分はバグみたいなもので力は無限に使えるって言ってたぞ?『悪魔』と『天使』ってそう違わないものじゃなかったのか?」
「ええ、違いません…ですが…彼女は……なんというか………」
リディアは困った顔をしながらも説明をしていくのだが…なるほど…白蛇は変態だ…変態だった………
普通、『天使』や『悪魔』がこの世界に干渉するには『神の箱庭』にキャラクター(触覚)として入りこむのだが。
彼女はそのシステムを解析しデバッグモードのようなものに入り、この世界に干渉しているのだ。
「なるほど…ハクっちとは気が合いそうだ…今度、酒でも持っていくかな……」
「「「…………」」」
こいつも…変態だ………
そんな目で3人から見られるがそんなことには動じないマサヤであった。
―コンコン―
「トモヤ国王、宴の準備が整いました。」
「わかった。すぐに行く。」
宴の準備ができたようで兵士が呼びに来た。
「じゃ、そろそろ行くか?まぁ、時間はこの後もあるしな。今日はここらへんでお開きにしようや。」
そういって、トモヤは立ち上がり、部屋を出ていく。
マサヤと私もそれに続いていこうとしたのだが…
「ナゴミさん少し…話しませんか?」
「えっと……」
「ま、いいんじゃね?俺はトモヤ見失ったらいけないから先行っとくわぁ。じゃあな」
「え…ちょ………」
マサヤはそのままトモヤに続き部屋を出ていった。
どれほどの時が経っただろうか……マサヤは茶化すことなく真剣に私が何かを言うのを待っている。
『不安なんでしょ?私みたいに元の記憶が戻った時のことが……』
リディアと二人で話した時の記憶が甦る。
『でも、安心して。記憶は植え付けられるけど、性格は自分のままだし、自分の行動が誰かに操られていた…なんてことはないから……今のその状況は貴女が選び行った行動の結果よ。』
『………』
『だから、きっと記憶が戻っても貴女は彼のことを変わらず、想っていられるわ。『グリエラ』であなたの現世での話を聞いた時には少し信じられないって気持ちがあったんだけど…
この世界で貴女達と会って、なるほど…って納得したわ……
まぁ、最初会った時は本当に貴女が頼れる人がいるだなんて……って少し驚いたんだけどね……』
リディアのお墨付きをもらったからというわけではないが…
たとえ、最初から記憶があったとしてもマサヤとは戦い、このような関係になっていただろうなと思う。
だから…恐れることはない……
「いや……私がどうなってもお前の側にいてやるからな。覚悟しとけよ。」
「ははは、『悪魔』様に言われると怖いな。っていうか、お前が『悪魔』って似合わないよな…どっちかというと戦乙女…いや、それは美化しすぎか……狂戦士ぐらい?」
「おい…」
「冗談だって、まぁ、お前が『悪魔』でも『天使』でも狂戦士だろうと、お前は俺のパートナーだ。これからもよろしくな!」
とマサヤは手を差し出してくる。
「そういえば……」
「ん…?」
私は差し出された手を取りながら続きを促す。
「お前の現世、俺の前世でも俺達、こんな感じで組んでたのかもな。だとすると凄いロマンチックじゃね?」
「………」
笑いながらそんなことを言うマサヤ。
神はいくつもの世界から魂を取っているらしいし、マサヤが言うようなことが起きる可能性なんて天文学的確率だろう……だけど……
ナゴミの脳裏には戦場で二人の男女が倒れている場面が映し出される。
この世界で状況になった覚えはないし、男女のどちらの人も見たことない奴だった……もしかして、これが自分の現世の記憶?
「ナゴミ…?」
私は頭を振り、マサヤの目を見つめる。
まぁ…自分が現世でも同じように男の人と組んで戦場を翔けていたのだとしても…やはり、それがマサヤの前世だという可能性は限りなく低いだろう……
でも………
「そうだったらおもしろいな」
そうだとすればどんなに素敵なことだろう……
そんな奇跡が起きたならどんなに幸せなことだろうか…
元の自分がどんな人だったかわからないが涙を流して喜ぶに違いない。
まぁ、そうじゃなくても私は今、幸せなんだけどね……
「ちょ………」
私は握った手を引っ張り、自分のもとにマサヤを引き寄せ、空いている方の手で顔を固定しマサヤの口に私の口を近づけ、接触、舌を滑り込ませる。
「ん……んちゅ……ちゅく……ベロッ……」
一瞬、マサヤも驚くが、もう、慣れたものですぐに気を取り直し、逆に舌で私の舌を絡ませ口内に侵略してくる。
「ちゅく……ちゅ…ちゅる……」
広間では宴の終わりが近づいているのか、多くの人達の歌声が聞こえる。
そんな歌声と綺麗な町のイルミネーションをバックに二人は愛を確かめ合った……