【第3話 完膚無き敗北】
―サバイバル生活 一年目―
「どうして……こうなった………」
そう呟きながら横から鞭のようにしなり放たれた打撃を脱力し衝撃を吸収、
方向をずらし受け流す。
化勁や消力等と呼ばれる技術であるが今はそんなことどうでもいい。
両足に気を移動させ一気に爆発させ一瞬の内に相手の懐に入る。
その間も敵の攻撃が何度も繰り出されたのだが
まるで未来予知しているかのように相手がどんな動きをしてくるのかが頭の中に浮かび危なげなく全てを避けることができた。
そして、跳びあがり、瞬時に右腕に気を移動させ空中に重力の床を作りそれを足場に相手の眉間に寸勁を打ち込む。
当てられた相手は白目をむきドサッと倒れる。
その後、何度か痙攣しやがて動かなくなった。
「ふぅ………」
相手―巨大なマンモスの攻撃を受け流し攻撃へ転じ倒すまでわずか2秒足らず。
重力操作の能力で満足に食料調達ができるようになってから約半年、
マサヤは一段と成長していた。
本来ならば、凄く喜ぶべき場面なんだが………
「あれって…、絶対に覇気じゃないよな……どっちかというと百錬自得の極みと才気煥発の極みだよな。俺の身体光ってたし……」
マンモスと戦っているときのマサヤの身体は自分から見てもわかるほど発光しており、足や手に集中した時は光がその部位に集まっていたのだ。
「原作じゃ、そんな光ってなかったよな……。やっぱ、あれのせいか………」
―そう。あれは今から5か月前、新技を考え始めてから1カ月目のことだった。
「あ〜、やっぱ、無理か。今の状態の圧縮率じゃまだ、作れねえよ…」
超強力な重力と質量を操り小規模なブラックホールを作って線形にしてそれを飛ばすという技を作ろうとしていたのだがまだ今の練度では足りないようでなかなか新技開発は進んでいなかった。
「もう、武術の方を専念して鍛えるか………。」
新技開発のおかげで重力操作自体はかなりの調節はできるようになっていたので残りの課題の能力を使わない状態での破壊力の強化に専念しようとしたのだが………
「やっぱ、こういうのって相手がいないとつまらんよな………」
マサヤの身体の記憶を探ってみても今まで武術や剣術の修行はほとんど一人であり、
たまに帰ってくる親やその上司、部下に稽古を付けてもらうことはあったが、
それも2年に一度くらいだった。
よく、そんなんでこんな強くなれたなあ……
まあ、ゲームだからってのもあるんだろうけどこの設定、
こんな真面目な子の身体を俺みたいな中二病患者が使っていいのか、
正直疑問というか申し訳ない気持ちになってくる(汗)
で、とりあえず、シャドーボクシングみたいに相手を想像して拳法の型を行っていたのだが…
「あっ、そうだ。リアルシャドーってできねえかな……」
某格闘漫画の主人公が得意としているリアルシャドー、目の前にシャドーの相手の幻を作り出しそいつと戦うというものだ。シャドーボクシングと違うのはその幻が放つ攻撃が現実に自分の身体にダメージを与える所だ。
水を入れたやかんをいきなり持たされてやけどするといった脳の働きを利用したものらしいんだがあの漫画の世界は迫力=説得力だからなあ……
まあ、せっかく漫画の中にいるんだしやってみるか……ということでやってみた。
結果………目の前には冥王シルバーズ・レイリーが立っていた……
まあ、適当に組み手と言うか戦ってボコボコにやられて、これからはこれで修行してみるか……と思った時にふとある疑問が浮かんだ。
「そういや、別の漫画のキャラクターとか出せるんかな?」
そう思い、よく読んでいた漫画の「テニスの王子様」から跡部景吾を出し、森林を重力で少し更地にしテニスコートを作り、木でテニスラケット、ボールもリアルシャドーで生み出してテニスをしてみた。
いや、まあ……結果?
基本性能とか現実とは全然違うし勝てるかなと思ったんだが………
負けました………
『ほうら、凍れ』
とか言われて全然反応できなかった………
そして、最後に
『俺様の美技に酔いな』
で破滅への輪舞曲で止めを刺されました。
そして、項垂れる俺に掛けられる氷帝コール。
えっと…これって何の世界でしたっけ?(泣)
―ということでそれから今までの5ヶ月間ずっと、
テニスの合間に武術、剣術、重力操作の修行をしてたわけである。
え?普通逆だろって?
あははは―だってあの中学生達に修行した後で勝てるわけないじゃん?
テニスボールを当てられ2,30m吹っ飛んだり、五感を失ってしまったり、
ワンピースの世界でも滅多にというか絶対に味わえない体験ができたことにより、
俺はいつの間にか無我の境地の2つの扉『百錬自得の極み』『才気煥発の極み』
が使えるようになっていたわけである。
ま、いいよね……?
結果的には強くなったんだし……。
まだ、勝ててないのが何人かいるけど……
で、この話題は終了にして今、問題になってるのが、
このサバイバル生活を始めて1年―正確には一年と10日。
そう、迎えが来ないのだ……
「あの爺…なにしてるんだ……?つかもしかして……忘れてね?」
余談だがその頃賭博場でくしゃみをしたおっさんがいたのは秘密の話(笑)