【第39話 Re:東の海へ(アレグレット・サヤネ編)】
(SIDE アレグレット)
―ベチャ―
紙の上にインクが落ち、滲みだす。
「あぁ…またやっちゃった……」
私はその紙を丸め、ゴミ箱に捨てる。
もう、これで3枚目………言い訳じゃないですけどいつもの私はこんなことしませんよ?
って私が何をしているかって?
私は今、書類を書いています。
先月、私は准将に昇格しました。
階級が上がれば権限も強くなりますが、その分、責任も重くなります。
特に将官以上になると重要な戦力として数えられるので自由に動くことが出来なくなります。(一部というか結構な数の例外はいますが、その人達の部下はとても苦労しています(泣))
現在、私が書いている書類はその自由に動くための申請書で、前述した階級が上がれば〜……が比較的、適用されない自由人な私の上官とその上官の上官から回ってきたものです。
詳しく言うと、ガープ中将の代わりに私の上官―サヤネさんがする仕事(遠征)の諸々の申請書をめんどくさいからという理由で私が書くことになってしまったわけです……
以前まではこの申請書を書くのに権限が足りず、全部、サヤネさんがやっていたのに私が准将になってからはかなりの数の書類を任されるようになりました。
最近では昇格する前に戻りたいとさえ思います……
それで、なんで先程から私が申請書を何度も燃えるゴミにしてしまっているのかというと……
「…そうなんですか!…私たちも今から…」
目の前で電伝虫で誰かと話すサヤネさん。
その顔は笑顔で、時折、電伝虫のコードを指先でくるくると巻いたりと…お前は何処の乙女だ!とつっこんでしまいたくなる程、上機嫌である。
この人がこんなになるような相手は…一人しかいない……
そして、その人は私にとっても大切な人で……
「ええ……いいですよ。……公表されることですし、マサヤさんになら……」
―ドクン―
マサヤ―その名前を聞くと胸が高鳴る……
私のお兄さんであり、憧れの人、命の恩人、そして………な人で……
まぁ、そういうわけでマサヤさんとサヤネさんとの会話が気になり、仕事に手が付かない状態というわけである………
「はぁ……」
こんなのじゃ駄目だ……と私は気を落ち着かせるためにコーヒーを喉に流し込んだ。
(SIDE サヤネ)
今日、いつも通り、アレグレットに任せられる仕事を任せ、自分にしかできない書類の処理をしていたのだがその時に部屋にある電伝虫に着信があった。
『よっす!サヤネちゃん。元気かい?』
そんな軽い感じでかけられた言葉…
もちろん、それだけで誰からかかってきたものかわかった。
マサヤさんだ……
「はい。元気ですよ。何かあったんですか?マサヤさん」
マサヤさんはとても自由な人だけど、無闇に連絡してくることはない。
私達のことを考えてくれてるんだろうけど、それはそれで寂しいから1カ月に1日、日を決めてどちらからか連絡し合うことにしているのだが……
今日はその決められた日ではない。
何かあったのだろうか…?
『ああ、ちょっと、聞きたいことがあってさ……えっとさ、東の海で最近、変わったことない?』
「東の海ですか?」
高揚する気持ちを抑えつつ、私は平静を装う。
私は海軍本部少将…人の上に立つ立場であり、この部屋には気心のしれた友人とは言え、部下がいるのでその前ではしっかりしないといけない……じゃないと今、マサヤさんに呆れられるかもしれない……
『ああ…、ちょっと、気になってな。これから東の海に行く予定なんだが…最近どうなってるのかなッて。』
「そうなんですか。私たちも今から仕事で東の海へ行く予定なんです。」
もしかしたら、また会えるかもしれない……そう思うと嬉しくなる…っといけないいけない……平静…平静……
『え?何かあったの?もしかして……左遷…?』
「違いますよ!……ちょっと、新世界にいたやっかいな海賊が東の海に向かっているらしいのでそれを捕まえに行くんですよ。」
『ふ〜ん。そうなんだ。懸賞金どのくらいなの?というより、その情報って俺に知らせてもいいようなものなの?』
「ええ…いいですよ。もうじき、、公表されることですし、マサヤさんになら報せてもガープさんやセンゴクさんも何も言わないと思います。」
『俺……海軍じゃないのになぁ……そんなに信用されてもなぁ…』
困ったような声を出すマサヤさん。
なぜか、その姿が簡単に想像できてしまいクスっと笑ってしまう。
賞金稼ぎの中でも断トツに海賊の撃破、捕獲数が高いだけでなく、懸賞金の一部をその海賊によって荒らされた土地の修繕費などに用いたり、修復作業を手伝ったりする行動は海軍の中でもマサヤの評価を高くしており、私を通して、海軍、王下七武海への勧誘が行われたのだが……両方とも断られている。
まぁ…残念ではあるけどあの人には自由でいてほしいのでなんか複雑な気分である……
とその後はその海賊の情報やその他にも最近の海での出来事等いろいろ話をした。
しかし、その楽しい時間も終わりを告げ……
『まぁ、貴重な情報ありがとう。俺もそいつらを見つけたらサヤネ達の仕事手伝うよ。俺はこの前と同じで、コノミ諸島に行く予定だからまた、会えると良いね。じゃあ、また……』
「はい。私も楽しみにしています。それでは、また。」
『………』
「………」
『…………』
「…………」
『え〜っと…』
「ははは……」
『なんか…こういうのって恋人みたいだな…』
「こ、こ、恋…人……!?」
『ははは、冗談だよ。じゃあ、今度こそまたね。アレグレットにもよろしく言っといてね〜』
―ガチャ―
「あ………」
通話が切れる………
私も受話器を元に戻し………アレグレットと目が合う………
「随分、楽しそうに話していらっしゃいましたね?少将?」
「……………」
「そんなに時間があるのでしたら私の仕事を少し減らしていただきたいのですが」
「……ごめんなさい。は、早く、東の海に行けるように仕事をがんばろー、おー」
私はアレグレットから書類を数枚受け取り、机に向かう……
早く、準備を整えて東の海に行かないと…………
「でも、なんでマサヤさん。東の海に行くんだろう…」
私は、そう呟きながら、部屋の片隅を見た。
サヤネの視線の先には懸賞金額2億ベリー、"混沌"のセヴァスト姉妹と書かれた二人の双子が写っている写真があった。