小説『ONE PIECE【changed the course of history】』
作者:虹犬()

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【第42話 平穏を望む者 2/4】





(SIDE ルティス)

「はぁ…はぁ……」

ルティスは向かってくる球体を避け、ヨートクから距離をとり呼吸を整える。

…なんでこの人…仲間を躊躇もなく攻撃出来るの?…

姉の能力ー超人系 カエカエの実の能力により、自分達とヨートクの子分達との位置を交換して最初の攻撃をよけたのだが…ヨートクは驚いたり戸惑ったりすることもなくさらに攻撃を続けて来たのだ…自分の味方達に囲まれている私達に向かって……

おかしい…こんな人がいるなんて……

姉の人と人、物と物の位置を交換する(人と物は不可)能力を見た者は驚いて混乱したり、熟練者であっても警戒して慎重になるはずなのだ…少なくともこれまではそうだった。天竜人を殺して大将が来た時も、襲ってくる海賊達も、そしてこの間、遭遇した2人の少女達もそうだったのに……

「どうしたよ?そんなに驚いた顔をして」

「なんで…味方を……」

余裕綽々といった感じでこちらを見るヨートク。
その姿とは対照的に今の彼には油断も死角もない。
彼の周りには今も球体が回転しており、その一つ一つが大きな破壊力を持っており、球体を投げると同時にまた新しい球体が出現し…といった風にいつまでも彼の周りには強固な盾と剣が存在しているのだ…
姉、リエラの能力もその球体に阻まれてヨートクには使えない…

「なんでって…そりゃあ、お前等がやったんだろうが。俺の仲間をこんな風にしてよ〜。俺だって心が痛いんだぜ?」

…絶対に嘘だ……

「信じられねえって顔だな。まぁ、お前等のような小娘にはわからねえか…」

とヨートクは勝手に自分たちの誇りや他者を支配する喜び、それに命を懸ける格好良さ等を喋るが、その内容は何ひとつとして彼女達の心には響かない。

それは今まで彼女達が支配される側にいたからであり…さらに…彼女達は生きたいと思っていたから……そんな簡単に…そんなくだらない理由で命を捨てるだなんて…理解できない…いや、したくない……
胸踊る冒険なんて興味ない、囚われのお姫様になりたいとも思わない…私は…私達は普通に…お金は無いけど平凡で穏やかな村で…好きな人と淡い恋愛とかをしてみたり、家族を作って……みたいな普通の生活がしてみたいだけだから……特殊な力もいらないし…富や名声や地位もいらない。
だから、この人たちとは決して分かり合えない……

「……けるな…」

「あ?」

「ふざけるな!そんなくだらない理由で私達の邪魔をするな!」

同じことを考えていたのかリエラがヨートクの話を止める。

「ハッハッハ!悪いな!なんか気に障るようなことでも言ってしまったみたいだな…」

と詫びれもなく笑うヨートク、しかし…

「だがな…男のロマンをくだらないって言うような子には少しお仕置きが必要みたいだな…」

と全身に少しの怒気をこもらせ、彼は辺り一面に球体を発生させた。









(SIDE リエラ)

「これは、ヤバイ…」

とリエラは呟く。
彼女達の目の前には球体が所狭しと空中に漂っている。
そして、それは明らかに船に乗っている人の数よりも多く、自分たちに逃げ場所が無いという現実が突きつけられる光景であった。

「お姉ちゃん…」

ルティスが覚悟を決めた目をして私に呼びかける。

…わかってる…でも……

今、この状況を抜け出すにはルティスの能力を使うしかない。
わかっているのだが……

「お頭ぁ!」

「なんだ?」

部下の一人がヨートクの後ろを指差し呼びかける。
本来ならば彼は戦闘中に部下の言葉などは気にも留めないのだが…あまり見ない部下の表情に、ヨートクもそれに対して応える。

「500m程南の方角に”金狼”のマサヤの物と思わしき船が!」

「何ッ!?」

終始、不敵な笑顔だったヨートクの顔に初めて、焦りのような感情が浮かび上がる。
しかし、慌てて振り返るようなことはなく、目線は私達に向けたままである。
私もヨートクを見ながらその後ろにある船を見てみると……

……何、あれ?…

それは小型の船であった。
ただ、普通と違うのはまず、船の全体が黒く塗られていること…
そして、側面や甲板、帆にはオレンジ色のラインで何かの儀式に使われそうな模様が書かれていた。

「悪いな、嬢ちゃん、じっくりといたぶってやるつもりだったが事情が変わってな…」

と言って、先程、出した球体に加え、さらにその倍の量の球体が彼女の前に現れ、向かってくる。

…なるほど…もしかしたら…

今のヨートクの様子から考えるとあの変な船に乗っている人は少なくともこの人たちにとっては敵…しかも、あのヨートクが恐れる程の実力を持った人ということがわかる。
その人が自分達にとってどんな立ち位置にいるのかは分からないが……自分たちが助かる可能性があるかもしれない……

…お願い、船の外にいてください…!…

リエラは目を凝らし、マサヤの船の甲板を見つめる。
リエラの能力の範囲は視界に収まる範囲内であり、船の中にいられたらどうしようもない……

…いた…

「ごめんね。ルティス。」

「え……」

向かってくる球体を見て、力を開放させようとしているルティスに向かって、小さく謝って、ルティスと甲板にいる金髪の青年を入れ換える。

これで私の出来ることはもうない。
後は、天に身を任せるしかない……お願い……神様、一度くらいは私を助けて……あと、金髪の青年さん、ごめんなさい。
あぁ、そういえば、遠くからでよく見えなかったけど…あの人、私のタイプかも……

と緊迫した状況でそんなことを考えながらリエラは目を閉じた。









(SIDE マサヤ)

「よし!決めた」

とマサヤは時間を元に戻す。

目の前の球体は(体感的な)スピードを上げ、向かってくる。
自分だけであれば避けることも可能ではあるが自分の横…というか、斜め後ろには自分を呼び出した女の子が立っており、マサヤが避ければ、彼女に球体が当たるであろう……また、球体自体が人やものに触れた瞬間に破裂し、相手に衝撃や斬撃などのダメージを与えるため、はじき返すことも不可能ときている……

……どうするかって?…そんなの簡単だろ……

「『返せない球なら、返さなければ良い。』だろ?これ常識ネ!」

とわけの分からないことを言って彼は手を広げる。
すると、彼に向かっていた球体はまるで彼を避けるように方向を変えて通り過ぎて行った。

彼の後ろからは男達の叫び声や船が壊れる音などが聞こえるが気にしない…とりあえず、女の子が無事であるかだけを確かめ、俺は目の前の驚いた表情をしている眼帯をつけた男に向かって行く。

男の周りにはまだ男を守るように球体が回転しているが問題ない。
マサヤは男の周りを流れる気を読み取り、その球体の流れに手を加える。
すると、男を中心に回っていた球体が彼から離れて行った。

「なッ!?」

驚く男にさらに近づき、双撞掌 収を叩き込む。
男はまともにそれをくらい、無人島の中へ吹っ飛んでいった。

あえて、言わせてもらうが…別に男が弱かったわけではない。
最初の攻撃も自然系もしくは白ひげのような範囲攻撃が出来るものでなければ防ぐことは無理であっただろう…
それをマサヤは球体が辿る気の流れを強引に変えることにより球体の進む方向を変えたのだ。
とりあえず、技名は『幻影路 (ファントム・ビジョン)』と名付けておこう。
もしも少女が目を閉じていなければその顔は驚愕に彩られていただろう…それ程、マサヤは凄いことをやってのけたのだ。
まぁ、気の流れが読めないほとんどの者が見れば、彼が何かの能力を使ったように見えるのかもしれないが…

「よし、こんな感じか…」

と何事もなかったかのように向き直り、まだ目を閉じている少女の元に歩み寄る。

…この子、いつまでも目を閉じてるんだ…てか寝てる?もしくは誘ってる?……

実際にはそれ程、時間は経っていないのだが、時を止めて考え事をしていたマサヤにとっては長い時間が過ぎているように感じたのだった。

…うん!きっと誘ってるんだ。よく見るとこの子、可愛いし……チョットだけ…からかってみるか……

とバカなことを考え、マサヤはさらに少女に近づき、彼女の唇に……









(SIDE リエラ)

目を閉じて、どれ程の時が経ったのか…もしかしたら…もう私は死んだのか……それとも死ぬ間際だから時がゆっくり流れているように感じるのか……

実際には目を閉じた瞬間に緊張して張っていた意識が一時的に切れていただけなのだが……

戦闘中に意識を失うなんてと思うかもしれないが、無理もない。
精神力、体力共に限界をとうに超えていたのだから、それに……

……なんだろう…あの人…初めて会ったはずなのに…何か、懐かしいような…安心出来るような……

と目の前に現れた(正確には自分が連れて来たのだが…)金髪の青年に安心感を覚えたのも理由の一つかもしれない…

…あの人にも悪いことしちゃったなぁ…後で、謝らないと…ってあれ?

もう既に自分達の元にあの球体が来ているはずなのに、一向にその衝撃が来ない…

…もう大丈夫なのかな?…

と目を開けようとしたのだが…

ーフニャー

何かが自分の唇に触れる感触が…

「きゃッ……」

リエラは慌てて目を開けるとそこにはお互いの息がかかるぐらい近い距離にいる金髪の青年がいた。

「な、な、ななな…」

何してるんですか?と言いたいのに焦ってしまい、声が出ない。

「えっと…はじめまして、俺はカミクラ マサヤ。よろしくね。っていうか…ちょっと落ち着こうね…」

と深呼吸を促してくるマサヤという青年。
私は言われたとおりに深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

…やっぱり、カッコ良くて、優しい人だなぁ……って違う!……

「な、なにするんですか!?」

唇に感じた感触を思い出し、私は赤くなりながらもマサヤさんを問い詰める。
するとマサヤさんは笑みを浮かべて、人差し指と中指で私の唇に触れる。
そして、

「びっくりさせちゃって、ごめんね。つい、可愛くってやっちゃった。」

と私の頭を撫でながら言う。
私はその姿に毒気を抜かれ起こる気もなくなった…というか…

「あれ…?」

…体に力が入らない…まぶたも重くなってきたし…平衡感覚が…

ートンッー

私は何かが柔らかくて暖かいものに受け止められる。

「大丈夫?」

なんだろう?と思っていると頭上から声がかかる。

「ご、ごご、ごめんなさい。」

どうやら、私はマサヤさんの胸の中に倒れてしまったようだ。
私は急いで立ち上がろうとするけど体が動かない…

「あれ?身体が……」

「大丈夫。多分、ハンガーノックのようなものだと思うから…」

「はんがー……のっく?」

「あぁ、簡単に言うとエネルギー切れだよ。意識に反してからだが動かなくなるんだよ。よほど無理してたんだね…」

と私の頭を撫でながら説明してくれるマサヤさん。
何か言いたいんだけ声を出すのも億劫だ。

「まぁ、俺の船に食料あるし、君の安全は保証するから、ゆっくり休めばいいさ。」

…船……そうだ!……あの船にルティスが……

「あの……船……わた……いもう…と…が……」

途切れそうな意識をなんとか繋ぎ止め、私はマサヤさんに船に妹がいることを伝える。

「わかった、任せろ。」

と優しく微笑むマサヤさんの顔を見ながら、私の意識は闇へ溶けていった。



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