【第43話 平穏を望む者 3/4】
(SIDE マサヤ)
「「本当にありがとうございました!!」」
小さな船の中で可愛らしく頭を下げる少女たちーセヴァスト姉妹をマサヤは穏やかな表情で眺めていた。
「…にしても2人とも気付かなかったの?」
ヨートクを倒した後、力尽き、倒れたリエラを抱き抱え、俺は自分の船へと戻った。
…まぁ、正確には俺たちの様子を見たルティスが俺の船で迎えにきてくれたのだが……
その後は、リエラの看病と同様に弱っていたルティスの看病をして今に至るというわけだ。
とりあえず、日にちでいうと3日が経過している。
今日は元気になった姉妹達と話し、情報収集をしているというわけだ。
まぁ、と言っても先程から何か聞く毎に最後は感謝されてしまうので話が一向に進まない…
まぁ、礼儀正しくて可愛いから良いんだけどね。
今の所、彼女達が天竜人を殺して逃げ出した経緯や、彼女達の能力などを教えてもらっている。
で、先程、俺が彼女達に聞いたことなんだが…なんというか…彼女達が逃げ出すのに使った船がとても目立つことについての質問だった。
彼女達の話によると1週間で10度以上の襲撃があったことも…と聞いて不思議に思って彼女達の船を見せてもらった時に納得がいった。
何というか実用性を度外視した形、そしてそれに付けられた装飾品…明らかに金持ちの貴族達の遊泳用の船だったのだ…
「でも、よくこんなので凪の帯を抜けられたな…」
本当に感心してしまう…
「そんなこと言っても……マサヤさんだって…凄い目立つ船に乗ってるじゃないですか」
………え?俺の船って目立つの!?
…まぁ、他の船と同じだったらつまらないと思って、色を塗って少しは目立つかなと思ってはいたけどさ…
いや、そういえば色を塗ってから海賊達に襲われることもなくなったり、逆に姿を見られると逃げられたりすることが多くなった気がするけど…そのせいだったのか……
人のふり見て我がふり直せってこういうことなんだな!
「えっと…ごめんなさい。言い過ぎました…」
なんというか、考え込んで落ち込んだ俺を哀れに思ったのかリエラが俺を慰めてくれる。
「まぁ、船が他と違えば海賊旗つけてなくても誰の船なのかわかるからね。気を付けるべきだったね…」
とルティスもフォローする。
まぁ、俺の船を見て彼女達も学習してくれたのならそれで良かったかな…いや、良いんだ!
「それで…私達はこれからどうなるんですか?」
「ん?」
「その…マサヤさんって賞金稼ぎなんですよね?…その…私達を海軍に……」
「ルティス!」
不安そうなルティスの顔、それを嗜めるリエラ。
まぁ、仕方ないよな。
俺にそんなつもりはなくても世間的には俺も政府側の人間なわけだし…
そもそも、彼女達は数週間…いや、それよりもずっと昔から周りは敵だらけだったわけだし、
人を…特に男を信じられなくなっても無理はないわな……
「とりあえず、2人に聞きたいんだけど…君達はこれからどうしたいの?」
「私達は…」
「普通に…人間として暮らしたいの…贅沢な暮らしじゃなくてもいいから…」
普通の平穏な生活が送りたい…そのために強くなったし……
今回のような禁忌とされる天竜人の殺害もやってのけたのだ……
そして、それからも多くの敵に襲われ、倒れそうになりながらも諦めることなくもがき続けた……
「偉いなぁ…2人とも」
と2人の思わず2人の頭を撫でてしまう。
2人とも何も言わないが恥ずかしそうな顔をしているので一旦、頭から手を離し、
「そうだな。俺もできることなら君達の願いを叶えてあげたいんだが…その前に会ってもらいたい人がいるんだけどいいかな?」
と聞いてみた。
勿論、彼女達に会わせる相手というのはハンコックだ。
俺が話をするよりも同じ境遇の者同士で話す方がいいだろうし…
2人が安全に暮らせる場所というのもアマゾン.リリーくらいしか思い浮かばなかったからどの道、彼女の協力が不可欠になるからなぁ…
2人は顔を見合わせ、頷き合い、
「わかりました。」
「会います。」
と言ってくれた。
(SIDE ハンコック)
「ありがとう。ハンコック。」
「いや、礼を言うのはこちらの方じゃ。」
天竜人を殺した者達とは一度会ってみたいと思っていた…
「あの子らは強いな……それに比べてわらわは…」
未だに…心の傷から血を流し続け、苦しんでいる……
「そんなことはないよ。ハンコックだって強いじゃないか…それに…」
とマサヤは後ろから私を抱きしめながら話を続ける。
セヴァスト姉妹は今は、がむしゃらになっているから恐怖が薄れているだけでもう少し落ち着けば…私と同じようにその辛い過去を思い出し、恐怖に震える日がやってくると言う。
確かにマサヤが2人の天竜人の烙印を消してあげた時には2人は涙を流して喜び、マサヤに抱きついていた…
まぁ、それについては少しモヤモヤした部分もあったのだが…確かにその光景からはマサヤの言う通り、彼女達にも植え付けられた恐怖の闇が潜んでいるような気がした。
「あとな…ハンコック…もう、自分を責めるな。お前は何も悪くないだろ?逆にもっと自分を誇ればいいんだよ。」
つらい時は話してくれればいい…自分が悪くないのに、そんなに卑屈にならないでくれ。
もっと自信を持ってくれよ。お前は俺が愛する人なんだから…とさらに強く抱きしめてくれる。
「マサヤ、苦しい…」
「あ、ごめん。」
とマサヤは腕の拘束を緩める。
「あっ…」
息苦しさからは解放されたが同時にマサヤのものになっている実感が減ったような気がして私は小さく声を上げた。
そのハンコックの様子に気付かなかったマサヤは
「そうだ、今度からハンコックがこのことで自分を責めたり、一人で背追い込んだりしたら、お仕置きしよう。」
と冗談まじりに言った。
「お仕置き?」
…その言葉に胸が高まる私……私っておかしいのだろうか…いや、違う…マサヤが悪いのだ…
だって、彼が言うお仕置きって……
「うん。ハンコックが自分を責める度に、俺が満足するまでさっきみたいにきつく抱きしめるってのはどうよ?」
「いやじゃ。」
…ほら、全然、お仕置きになっていない…
そんなことされたら…私…どんどん弱くなってしまう…彼の望む強い私になれなくなるから……
「できれば、お仕置きじゃなくてご褒美が欲しい…わらわはあなたの言うとおり、つらい時にはあなたに相談するし…自分を責めないようにするから……その時には…ずっと、そばにいて欲しい。」
「ずっと?」
「うん。わらわの気持ちが落ち着くまで、そばにいてだきしめて欲しい。」
「こんな風に?」
と言って私を立たせ、今度は正面から抱き寄せてくるマサヤ。
私の頭はマサヤの胸にあたり、そこから聞こえてくる穏やかな心音を聞いていると自然と気持ちが安らいでくる。
「うん。わらわはずっと……」
「あ〜、ゴホンッ。2人とも仲が良いのは結構だが…時と場所を考えてくれねえか?」
「えっ…」
後方から聞こえてくる苦言に驚き、私はサッとマサヤから離れ、振り向くとそこにはナゴミさんとホノミちゃんがいた。
そうだった…私とナゴミさん達が話している時にマサヤ達がきて……ナゴミさん達は私達は物陰に隠れてるからと言ってなぜか隠れていたんだった…
「つか、マサヤ。お前、気付いてただろ?っていうか、お前には色々言いたいことあるんだけどな…まぁ、いいや。それは後でってことで…」
と言って、私達に近づいてくるナゴミさん。
そして、マサヤに手が届く位置まできて、
「お前のわがままを聞いてやった健気な私にもご褒美くれねえか?カハハハ。」
と言って目を閉じ、顔を少し上げるナゴミさん。
…これってもしかしなくても……
マサヤもそれに応えるようにナゴミさんに近づき……顎を左手で固定して……
「まぁ、別にいいけどさ…お前、本当にいいのか?ホノミ。」
「え?」
「ちぇ、やっぱりばれちゃったかぁ」
と悪戯っぽい笑みを浮かべるナゴ…いや、ホノミちゃん?
マサヤはホノミちゃんの顔を固定したまま、右手で軽くデコピンをする。
パッチーンというとても良い音が鳴り響き、ホノミちゃんは額をおさえる。
「いったーい」
「カハハハ、だから、言っただろ?マサヤみは通じないって…」
「そうだぞ、そんなにキスして欲しいんなら、ナゴミの真似じゃなくて自分自身を出してこい。」
…いや、そういう問題でもない気がする……
「むぅ…何で、分かるの?」
…私もそう思う。2人は姿や声が瓜二つというくらいに似ているし、見分けが振る舞いからしか判別出来ないので私は時々、間違えてしまうこともあるのに……やっぱり、これも愛の為せる技なのだろうか……
「う〜ん……匂い?」
「え?私って匂う!?」 「カハハハハ、匂いって何だよ。この変態。」
と自分の服を急いで匂うホノミちゃんと腹を抱え笑い出すナゴミさん。
「いや、冗談だって。2人ともいい匂いだぞ」
…いや、そういう問題ではないと思う。
「で、どうしたの?2人とも隠れてさ。」
「お姉ちゃんが…」
「あぁ、お前の新しいハーレム要員がどんな子なのかなって思ってな。観察したかったんだよ。」
「え!」
マサヤをからかうナゴミさん、驚く私、それに笑いながら応えるマサヤ、2人の暴走を止めようとするホノミちゃん。
そんな私にとっての楽しい時間は夜が明けるまで続いたのだった。