【第44話 平穏を望む者 4/4】
(SIDE リエラ)
「では、妾達は行って参る。暫しのお別れじゃが元気でな。」
「何か困った事があれば、ホノミに言えよ〜」
と私達に話しかけてくれるハンコックさんとナゴミさん。
ここはアマゾン・リリーの港のような場所で、現在、沢山の人がハンコック達の遠征の見送りをしている所だ。
本来、ナゴミさんはいく必要はないようなのだが最近、物騒だからってことでついて行くみたいだ…海賊に物騒って……
「はい。ありがとうございます。ハンコックさん、ナゴミさんも気をつけて…」
と言って私は手を振り、彼女達の船出を見送る。
「さて、今日はどこに行こうかな…」
彼女達を見送った後、私達は島の中を探索する。
この島にきてからほんの数日くらいしか経っていないが、みんな良い人ばかりでとても穏やかな生活を送れている。
特にハンコックさん、ナゴミさんには本当にお世話になった。
ハンコックさんは優しく包容力のあるお姉さんみたいな感じで、ナゴミさんは悪戯好きだけど頼りになる、マサヤさんの女版みたいな人だ。
2人ともマサヤさんの妻だって知った時は驚いたけど…お似合いだと思う。
男子禁制という変わった決まりのあるこの島で唯一の例外であるマサヤさん。
彼の評判は高く、島の人に聞けばどの人も親しみを込めて彼のことを話してくれる。
そのことからも彼がとても良い人だということがわかる。
「ちゃんとお礼が言いたかったんだけどなぁ…」
彼は私がここに来た次の日には知り合いの海軍の人から呼ばれたので東の海に行ってしまったらしい。
まぁ、彼の交友関係に今更、驚いたりしないがちゃんとお礼が言えなかったのが少し心残りだった。
天竜人の烙印を消してもらったあの時は私もルティスも泣いてしまって何を言ったのかも覚えていないし…何か勢いで抱きついてしまったりして……今になって考えてみると、とても恥ずかしい……
「また、会えるかな……」
リエラは赤くなりながらそう呟いた。
(SIDE ルティス)
「また、会えるかな……」
「ふふふ」
顔は赤くなり、ボーッとしながらも器用に歩く姉を見て微笑するルティス。
こんな姉が見れる日がくるなんて…本当に夢みたいだ。
足掻いてもがいて願い続けた平穏な生活。
その中に私達はいる。
そのことが夢みたいで……何度頬っぺたをつねったことか…
「お姉ちゃん。これからどこに行くの?」
「はぁ……」
返事がない…ただの恋する乙女のようだ……
私達がここに来て、もう5日になるのだが、ずっとこのまま甘えているわけにはいかないので自分達にできる仕事を探そうということで現在、島を回っているのだが、このアマゾン・リリーは海に囲まれており、自然も豊富なため、漁や猟、農業や鉱石の発掘、加工等、島の護衛等、たくさんの仕事がある。
その中から自分たちにできることや、それ以外の自分達の知識や能力でできる新しいことなどを考えるための探索なんだけどなぁ……
…まぁ、お姉ちゃんはお姉ちゃんで大変だしね…
と先程、見送った2人の女性を思い出す。
ハンコックさんとナゴミさん……
種類は違うけど…どちらも素敵な女性だと思う。
そんな二人に惚れられた人を落とさないといけないんだもんね。
…本人には自覚ないんだろうけど…
『あいつ、変態だけど…奥手というか……自分からは手出さないからな……自分から誘って、釣り上げないと手に入らないぞ?』
ふと、ナゴミさんの言葉を思い出す。
確か、ナゴミさんにマサヤさんのことを聞いた時に言われたんだっけ?
それを聞いて顔を赤くしている姉をナゴミさんはニヤニヤして見てたなぁ…あれは面白かった……
「うふふ」
あの時の光景を思い出してしまい、笑いがこみ上げてくる。
「ルティス?どうしたの?」
何時の間にやら正気に戻った姉が私の顔を覗き込んでいる…
もしかして、私も姉みたいな状態になってたの…なんか…恥ずかしい……
「な、何でもない……ほら、行こ。お姉ちゃん!」
私はお姉ちゃんの手を取り、走り出す。
「ちょ、ちょっと、どうしたのよ?ルティス!」
慌てる姉の声が聞こえるが気にしない。
やることもまだ決まってないし、これからどうなるかなんてわからないけど…
私は今、とても幸せです!
(SIDE ナゴミ)
「じゃ、私は寝るから何かあったら起こしてな。」
「うむ。わかった。」
と言って、ハンコックの部屋のソファーで眠りにつこうとする私を止めることなく、何かを作っているハンコック。
「で、さっきから何を作ってるんだ?」
出港してからもう、半日くらいになるがハンコックはずっと、毛糸で何かを編み込んでいる。
まぁ、誰に渡すものなのかは容易に想像できるけど何ができるのかは気になる……
「こ、これはマサヤにあげるマフラーじゃ。」
と恥ずかしそうに答えるハンコック。
成る程、マフラーか。
「そのマークって何を書こうとしてるんだ?」
黒い毛糸と赤い毛糸を用いているところを見ると黒がベースで赤で何かのマークを描こうとしているのはわかるんだが……もしや…
「ハートじゃ!わらわの思いをこの服に込めようと思ってな。」
と大事そうに作りかけのマフラーを抱きしめるハンコック。ベタだベタすぎる……
…それにしても…ハンコックからあの服を貰うときのマサヤの反応が簡単に想像できてしまい…
「くふふ」
「どうしたのじゃ?ナゴミ」
笑ってしまった、私を怪訝そうな顔で見るハンコック。
「いや、ハンコック、可愛いなって」
「な、な、ななな…」
「あははははははは」
慌てるハンコックがツボってしまい身体を折り曲げて笑ってしまう。
ヤバい、お腹がいたい、誰か助けて……
「もぅ、笑すぎじゃ…ナゴミ」
「ごめん、ごめん。つい……」
しゅんとなり、拗ねるハンコックに近寄って、謝る私。
ハンコックはもう良いのじゃ…と言っていじけたようにマフラーを編む。
その時、
ードンッー
何か大砲のような発砲音の後、衝撃が船内に伝わり、船が大きく揺れる。
「きゃっ」
ハンコックはバランスを崩し倒れかかるが私がそれを受け止め……
ービリッー
なんか…とても聞いちゃいけない音を聞いてしまったような……
私が恐る恐る音のした方を見てみると……ハンコックの持っていたマフラーがハンコックの座っていた椅子に引っ掛かり…無残に……
ートントンー
「姉様…失礼…きゃッ」
ハンコックの部屋に報告にきたマリーゴールドが悲鳴をあげる。
「どうした?はよ、報告をせよ」
「は、はい!海賊からの襲撃を受けました。敵の大砲は命中していませんが…」
「もうよい!そやつらはまだ近くにいるんじゃな!」
「はいッ!現在、こちらに向かって…」
「わかった!では、戦闘じゃ!よいか、1人も生きて返すな!これは命令じゃ!」
あまりのハンコックの迫力に口調が変わっているマリーゴールド。
というか…ハンコックの周りにドス黒いオーラが見える気がする……
ドスドスという音が聞こえそうな勢いで外に出ていくハンコック。
「いったい…姉様に何が…」
と呆然とするマリーゴールドを見た後、私もそれに続く。
一応、必要はなさそうだけど彼女の護衛を任されてるしな……と思いながら彼女は呟く。
「そういえば、あいつも少し怒ってたけど…何があったんだろうな…」
島を出る前のマサヤの姿を思い出す。
隠そうとしてたみたいだけどあいつ…わかりやすいしな…
ードンッー
再び聞こえた発砲音に思考は中断させられる。
「ま、考え事は後でするか…」
と私は修羅と化した蛇姫と一緒に戦場に躍り出るのだった。