小説『ONE PIECE【changed the course of history】』
作者:虹犬()

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【第45話 成長のきっかけ 1/4】







(SIDE サヤネ)

「ごめんなさい……」

私は憧れの人の胸の中で涙を流す。
今まで溜め込んでいた自分の不甲斐なさへの怒りや悲しみ、その他色々な感情を吐き出していく。

ーポンポンー

その私の泣き言を否定することも肯定することもなく、ただ、優しく受け止め、子供をあやすように頭を撫でてくれるマサヤ兄さん。
やっぱり、マサヤ兄さんは優しくて…素敵な人だよなぁ……

だからこそ…そんな人から任されたことを果たせずに逆に迷惑を掛けてしまったのが悲しくて、悔しくて…こんな自分が…

「許せないよな……」

「え…」

あまりのタイミングに自分が怒られると思い、反射的に身体がビクッとなってしまう。
そんな私を抱きしめ、頭を撫でながら、

「俺の女に傷つけやがって…本当にあの野郎…許せねぇ…」

「え……」

…俺の…女…?

先程とは違う理由で膠着する私の体。
顔が赤くなり、息が苦しく、鼓動が早くなるのが分かる。

「マ…サヤ…さん」

貴方は私を殺す気ですか?
マサヤ兄さんの言葉は凶器です。
真綿のように心地良く、気が付けば抜け出せなくなっている……そんな、たちの悪い凶器で……

「あぁ、大丈夫。あとは俺に任せろ。サヤネちゃんはゆっくり休んでていいから……」

と言って、ポンポンと私の頭を軽く叩いた後、抱いていた手を解き、離れていくマサヤ兄さん。

「あ…」

すぐ近くに感じていた優しさや温もりが離れていくことへの名残惜しさから思わず声が出てしまったがマサヤ兄さんは気づかずに

「じゃ、ゆっくり休んでね。俺はアレグレットの様子を見てくるから……」

と言って部屋を出ていってしまった……

「はぁ…」

思わずため息をこぼしてしまう私。
鼓動は未だに高く早く脈打っている。
私はマサヤ兄さんの愛の真綿に絞めつけられ破裂寸前のこの心臓を必死に宥める。

…本当にあの人は……

「うふふふ」

悔しさや辱しさといったものが消えたわけではないが、胸の中にはなんというか暖かくて心地の良いものが広がり、負の感情を軽くしてくれている。

「ありがと…」

サヤネはそばにあったぬいぐるみを抱きしめながらマサヤの去った方向に向けて小さく呟くのだった。







(SIDE マサヤ)

「別にいいじゃん。負けてもな。」

ーツンツンー

「負けず嫌いなだけだったら可愛いんだけどな…責任とか…そういうの負いすぎなんだよなぁ…もっと、気楽にいけばいいのになぁ…まぁ、職業柄仕方ないか……」

ーツンツンー

眠っているアレグレットの頬を突きながら呟くマサヤ。
今回は幸い、死者も出なかったわけだし、重症を負った者もいない。
なら、今回の失敗を次に活かすことも出来るし、それにより、自分を成長させることもできる。
敗北や失敗が人を弱くするんじゃない。
その後の気持ちの持ちようによって人は大きく変わるんだ。
まぁ、全然、反省しないで同じ事を繰り返すのは論外だけどね。

ーツンツンー

「やっぱ、変わらないよな。この寝顔。なんか悪戯したくなるな……よし!」

ーカプッー

「痛ッ!」

「ファふふでんどうお!」

「……人語を話してくれよ…てか、人の手を噛みながら喋るんじゃありません!」

と手に噛み付くアレグレットを引き剥がし、手をヒラヒラさせる。

「まったく、俺はお前をそんな人の手を食べるような子に育てた覚えはないぞ。」

「うるさい!また、顔に落書きしようとしたでしょ?マサヤ兄ぃも変わらないんだから…」

と頬を膨らますアレグレット。
まぁ、昔はよくやってたしなぁ……でも…

「違うっての…もう、お前も立派な女性なんだからそんなことしねえよ…」

「……え。」

何故だか知らないけど固まってしまうアレグレット。

「じゃ、じゃあ、何をしようとしたのよ?」

「これ。」

と言って、俺はポケットの中から名刺サイズのカードを取り出し、ペンを取り、左目でウインクをしている猫の絵を書き、その横に『君の唇はいただ……

ーポコッー

「何書いてるのよ!?」

書いてる途中なのにポカっと軽く叩かれ、カードを取り上げられる。
予告状になってないのがいけなかったか……
というか暫く会わないうちに暴力的になったなぁ…

「いや、お前を元気付けようと思ってだな…」

嘘ではない…そう思ってたのも事実なんだけど……まぁ、悪戯したくなるって言ってしまったしな……
なんというか訝しげな視線が痛い……
俺は何か現在のこの空気を変えるものがないか考え……

「そういえば……アレグレット」

「なに?」

「久しぶりにマサヤ兄ぃって呼んでくれたな、懐かしいな……」

と言ったのだが

「あ……えっと、その…それは……」

いきなりだったから…とか別に深い意味はないの!とか言って、慌てるアレグレット。

何か思っていた反応と違うんだけどなぁ…

「まぁ、いっか…」

百面相をしているアレグレットをほのぼのと見つめるマサヤであった。






(SIDE アレグレット)

…落ち着け…落ち着け…落ち着け……

「すぅーはぁーすぅーはぁー」

心の中を無にして、大きく深呼吸… よし!落ち着いてきた。

「もぅ、変なこと言わないでよぉ」

とニヤニヤとこちらを見ているマサヤ兄ぃに抗議するが俺、何か言ったっけ?と不思議そうな顔をしている。
…やっぱり、マサヤ兄ぃ、全然わかっていない……

…そういえば……

「マサヤさん、何でここにいるの?」

あ、マサヤ兄ぃじゃないんだ……と残念そうな顔をするマサヤ兄ぃ…
なんだか、複雑な気分だ……

「まぁ、ショックで記憶が跳んでるんだろう…そのうち思い出すだろうし、焦らんでもいいぞ。」

と頭を撫でながら言ってくれるが…なぜかそのマサヤ兄ぃの態度が気になり、懸命に思い出そうと試みる。

確か……10日程前にコノミ諸島に着いたのはいいがマサヤ兄ぃとは入れ違いになり、それから1週間程して、セヴァスト姉妹と遭遇するが逃げられてしまい、その3日後にマサヤ兄ぃから連絡があって……

「……あ」

確か…マサヤ兄ぃが海賊と戦闘になり、船長を無人島に吹っ飛ばしたけどわざわざ探すのも面倒だから、迷惑じゃなければ後始末をお願いしたい…みたいな内容だった気がする……
マサヤ兄ぃの情報からその海賊は懸賞金額1億7000万ベリー “武器殺し”のヨートク率いるジャコウ海賊団ということがわかった。
そして、本日、そのジャコウ海賊団を捕まえに……ってあれ?

…何で私、こんなところにいるんだろう……

さらに記憶を探っていくアレグレット。

確か…万全の準備をしてマサヤ兄ぃの言ってた無人島に行って、壊れかけの船を発見して調査、その後、島の捜索をしていたら、眼帯をつけた男ーヨートクを見つけ、戦闘に……

「あれ?」

その後、どうなったんだっけ?私は剣になってサヤネさんと一緒に戦ってなんとかヨートクを追いつめ……そこからの記憶がない……

「私……どうなったの?……!…サヤネさんは!?」

「あぁ、え〜っと…」

マサヤ兄ぃは少し言いづらそうにではあるが私の記憶が途切れた先のことを教えてくれる。
私がヨートクを斬ろうと彼に触れた瞬間に私は彼の能力により、球体になり、その隙をつかれサヤネさんは攻撃を受け……私達は負けてしまった…らしい。
また、船医によると、幸い、サヤネさんも私も重大な怪我はなく、数日安静にしていたら治る程度のダメージだったらしい。

「……というわけだ。まぁ、色々と思うところもあるだろうが、今は休め。疲れた頭で考えてもネガティブなことしか出てこないぞ。…特にお前はな……」

そう言って、眠るように促すがとても寝る気にはなれなかった……

油断していた…ヨートクの超人系ータマタマの実による触れた物を球体にしそれを操るという能力。(人には無効、空気や炎等は可、尚、球体には元の物の属性(剣なら斬撃、鎚は打撃みたいな感じ)が付加される。)
それは知っていたのだが…自分が球体にされるとは……

「こら」

ーポコッー

「言ったそばからそんな顔して…」

と嗜めるマサヤ兄ぃ。

「でも……」

「寝れないんなら子守唄でも歌ってやろうか?」

「い、いいよ。私、もうそんな子供じゃないし…」

私はどこからかギターやハーモニカを持ち出し、歌う準備を始めているマサヤ兄ぃを止める。

確かに…マサヤ兄ぃの歌はうまいし…最初は子守唄と言えなくもない感じなんだけど…段々盛り上がってきて……
もう、寝るどころじゃないようなテンポの歌になってしまうから困る……
しかも、大半がラブソングで……違う意味でも眠れなくなってしまう……
特にマサヤ兄ぃがよく口ずさむあの曲は……

「まったく…こっちが枯れたいよ……」

なんというか…凄い愛の告白に聞こえるあの曲…マサヤ兄ぃは誰を思って歌ってるんだろう……まぁ、ただ好きな歌なだけっていうのもありそうだけど……

「ん?何か言った?」

「何でもない。」

「ふ〜ん?ま、それより、体大丈夫か?喉乾いたりしてない?」

「うん。大丈夫。」

「そっか、じゃあ、俺は寝るから、何かあったらすぐ呼べよ。」

と子電伝虫を渡して、立ち上がり部屋を出ようとするマサヤ兄ぃ。

「…あ」

思わず声をあげてしまう私…
マサヤ兄ぃが去ろうとすると途端に寂しさが込み上げてくる。
久しぶりに会えたのだからもう少し喋りたい……いや、喋らなくてもいいから手を握ってそばにいて欲しい……
一人になるのが怖い…私…弱いからマサヤ兄ぃが言ったようにネガティブなことばかり考えちゃうから……
そんな思いが胸を巡るが言葉にすることができない……

「ん?どした?」

マサヤ兄ぃは私の声に気付き、振り返る。

「な、何でもない……」

私は目線を逸らしてそう呟くが……

「やれやれ……」

と肩をすくめ、私に近づいてくる。
そして、ベッドの横においてある椅子に座り、私の手を握って残った方の手で頭を撫でる。

「ったく……昔から言ってるだろ?素直になれって。そうやって、我慢ばっかりしてるとハゲるぞ?」

「ハゲないよ!」

「いや、この辺…」

ーカプッー

「痛ッ、だから、噛むなって…」

「ゴクッ。マサヤさんが変なことするからでしょ!人の頭指差して……」

「っていうか唾、飲むなよ。汚いのに…お前…もしかして…変態か?」

「べ、別にいいでしょ…それに…変態なのはマサヤさんだよ。」

まぁ、そうかもな…と冗談混じりに言うマサヤ兄ぃ。
それからは他愛のない話をしていたのだが……

「…ね?マサヤさん。」

「………」

「マサヤさん?」

「すぅ……すぅ…」

私の手を握り座ったまま静かな寝息をたて眠っているマサヤ兄ぃ。
私は横向きになるように寝返りをうちマサヤ兄ぃの顔を見つめる。

「…!」

良く見るとマサヤ兄ぃの目の下にはクマが出来ている…綺麗な肌も少し荒れて……

…もしかして……ずっと私達の看病を…?

「マサヤ兄ぃこそ……」

相変わらず無茶や無理ばかりして……

「そんなんじゃ、長生きできないよ?……」

アレグレットはそう呟き、マサヤの頬っぺたをツンツン突きながら、睡魔に負けて意識を失ってしまうまで愛しの人を眺めるのだった。

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