【第48話 成長のきっかけ 4/4】
(SIDE マサヤ)
「よし、こんな感じかな…っと」
自分に向かってくる球体を舞うようにして避けながらサヤネ…いや、マサヤは満足そうに頷く。
「って…これ、本当にイリュージョンだよな……久しぶりにやったけど…やっぱ、慣れねぇや」
テニヌの世界でも異質な技である『イリュージョン』を用い、サヤネに変身して、彼女のリベンジをしようとしたところまではよかったのだが……
マサヤが彼女に最後に会った(戦う姿を見た)のは数年前で現在はそれ以上に成長しているのでその調整をするために、数年前のサヤネに変身して、武器ーアレグレットの記憶から現在のサヤネの情報を引き出し、ヨートクとの戦いの中で調節していったのだ。
「よっと…」
周辺にある球体を一振りで纏めて叩き斬る。
その動きはアレグレットの記憶の動きと一致し、完全にマサヤはサヤネに変身できたことを意味するものであった。
「さっきから…ちょろちょろと……てめぇ、俺を舐めてんのか?」
「舐めてるわけじゃないんだがな…まぁ、ウォーミングアップってことで、勘弁してくれよ」
と剣を構えるマサヤ。
…それにしても……剣がでかく感じる………
小柄になった自分の体を見て、そう考えるマサヤ。
普段なら、楽々と肩に担いでいた大剣が全身の力を利用して振らなければならないほど重く感じる。
…ほんと、すげぇよな。サヤネちゃん。
そんな剣をまるでダンスでも踊ってるかのように華麗に軽やかに操っていた彼女のこの技術に感心させられる。
…だけど…この先に何かが……何かがあるはずなんだ……
彼女の能力がこれだけとは思えない…それはただの勘なのだが……
「俺の勘って大概、当たるからなぁ……」
と笑い、マサヤは動き出した。
(SIDE アレグレット)
…マサヤ兄ぃ?
私はマサヤ兄ぃに語りかけるが、先程から返答はなく、マサヤ兄ぃは黙々と私を振り続ける。
今までの洗練された動きとは一転して、身の周りのすべて物を断ち切ろうとする、とても攻撃的なスタイルに変わっていた。
球体を避けることを止め、全てを切り刻んでいるかと思えば、急に剣を手放し、ヨートクへ蹴りや掌底を見舞い、すぐさま離れ剣をとる。
「ちッ、何なんだよ!?てめぇは!?」
私と同じように突然変わったマサヤ兄ぃの動きに困惑するヨートク。
確かに、ヨートクに近接戦を挑み、ダメージを与えられることは賞賛に値するが…それは、致命傷を与えるというより、ただ、敵に当てるためだけの攻撃、まるで、敵を怒らせるのが目的のような……
……マサヤ兄ぃ?何を考えてるの?
こんなことは初めてだ……
昔からマサヤ兄ぃはちょっと意地悪だけど、優しくて、いつも自分を守ってくれて、何も言わなくても、行動でいつも私を安心させてくれていた……
でも、今は……
……痛い…痛いよ……マサヤ兄ぃ…
数多くの球体を切り、その衝撃を受け、さすがのアレグレットにもダメージが溜まっていた……このまま…この戦い方を続けていけば……
…なんで…なんで、こんなことするの?マサヤ兄ぃは何を考えてるの?私は何をすればいいの?……一緒に戦いたいって言ってくれたじゃない……私があんなこと言っちゃったから?……
色々な思いが頭を巡る…
相手が何を考えているのかわからない…相手の考えていることが知りたい…マサヤ兄ぃが怖い……
こんなことを考えるのは初めてだ…
「クッ…」
…きゃぁ!
斬れ味の鈍ったアレグレットソードはついに球体を切れなくなり、その球体の衝撃を諸に受ける。
私を持ったまま、マサヤ兄ぃは吹っ飛び、地面に転がる。
上手く衝撃を逃がしたが、服はズタズタに、身体中には擦り傷がついていた。
「これで、チェックだ。金狼!」
倒れたマサヤに向け、向かってくる大量の球体。
「危ない!」
私は思わず、変身を解き、マサヤ兄ぃの前に飛び出す。
全ては防げないかもしれないけど…マサヤ兄ぃを守ることなら…
私は自分の強度を上げ、押し寄せる球体に向けて、手を広げ…目を瞑る…
「ごめんね…マサヤ兄ぃ…」
「……バカヤロウ…」
すぐ横に感じるマサヤ兄ぃの気配。
目を開けるとマサヤ兄ぃが私と並び、球体を睨んでいた。
「ごめんな。辛い思いさせて。俺を信じられなくなったか?嫌いになったか?」
目の前の風景をとてもゆっくりに感じながら、私は頭を振る。
「ううん。でも、怖かった…マサヤ兄ぃの気持ちがわからなくて……」
「そっか……」
「ねぇ?」
「ん?」
「私、どうしたらいいの?マサヤ兄ぃは何をして欲しいの?私……マサヤ兄ぃのことが知りたい!」
私はマサヤ兄ぃに抱きつき、マサヤ兄ぃも私を受け止めて、抱きしめてくれる。
その瞬間、私達は光に包まれた。
(SIDE マサヤ)
「これが…サヤネの力か……」
俺は、自分の…体を見下ろし、思わず声を出す。
白銀の光を放ち輝く細身の剣、そして剣と同じ光を放ち輝く、自分の体、それからは凄い量の力が溢れ出す。
今までのサヤネの能力は武器の気配を感じたり、武器の記憶を読み出したりと受信側の力であった。
それならば、自らが剣に何かを送信することもできるのではないか……そう考えたマサヤはアレグレットに気を送り、纏わせようとしたのだがサヤネの体は気を外へ放出させる力が極端に弱くそれができなかった。
ならば、外からではなく今、自分が彼女から情報を引き出している回路から気を纏わせるのではなく、宿らせようとしたのだが…それも受信の力に押し戻されてできなかった…
なら、どうすれば……マサヤが考えたのは新しく、自分とアレグレットの間に送信専用の回路を作ろうというものだった。
ただ、問題点がひとつ。
それは……その回路の作り方がわからないということであった。
今まで、サヤネもそのようなことを考えたことがなかったのだろう……
まぁ、アレグレットを武器にするまで、武器は無機物、道具であり、こちらからそれに何かを送るだなんて思いつくはずがないだろうしな……
で、本題なんだがこちらから一方的に送っても駄目なら…向こうからも求めてもらえば…できるのではないか?
ではアレグレットに何を求めてもらう?力?気?そんな物の概念がすぐに分かるはずないだろう…俺だってそれを覚えるまで何年掛かったか……
なら、何を?答えは思いだ……
最近、気づいたのだが、アレグレットは俺の言うことを無条件で信頼している。
それはそれで嬉しいのだが……少し寂しく感じる。
相手のことが本当に大切であれば、相手が望むことを考えて行動したり、時には相手の気持ちがわからなくて不安になってしまうものだ…
アレグレットが自分を大切に思ってくれているのはわかるが…彼女のそれは…依存ともいえるものであり……まぁ、自分のせいかもしれないけど……いつかは何とかしないといけないと思っていたことでもあるし……
そう思って、アレグレットを不安にさせ、彼女の気持ちを引き出すという作戦を練り、やってみたんだが…
「上手くいったな…」
…上手くいったな…じゃないよ!本当に怖かったんだからね!…
未だにゆっくりと向かってくる球体に対して剣を一振りする。
すると剣からは銀色の斬撃が飛び、あたり一体の球体が一瞬にして消え去った。
「ヒュ〜」
マサヤはその光景に口笛を吹きながら、改めて白銀に光る剣を見てみる。
細身ですらっとしており、斬れ味を探求し、耐久性を度外視したようなそんな、とても実用的には見えない、オブジェのような剣。
しかし、その剣からは途方もない力を感じる。
送信用の回路ができたことにより、気や思いをアレグレットに送れるようになり、まず、アレグレットがマサヤの思い描く、サヤネの身体に最適な重さ、形状、長さの剣を読み取り、それに変身し、次にマサヤが送ってきた気によって、アレグレットの中に眠っている覇気の素質が刺激され、まだ、未熟ではあるがそれがマサヤの送った気と合わさり、受信用の回路を渡り、マサヤへ返され、またそれを……と言った感じでお互いの気を混ぜ合わせ、気の濃度を濃密にしていったのだ。
白銀の光はその混ぜ合わさった気の色であり、その濃度の密度を表しているのだろう…そして、威力は先程、見た通りだ……
「どうだ?サヤネちゃん。凄いだろ?これが君の力だよ。」
と俺はアレグレットソードを方に担ぎながら呆然としているサヤネちゃんに笑いかける。
そして、同じく茫然としているヨートクに向けて、剣を振り上げ、
「チェックメイト…てな。」
と一言発して、剣を振り下ろした。
ードンッー
斬撃は彼を守る球体ごとヨートクを斬り裂き、地面に傷痕をつける。
こうして、サヤネのリベンジは達成されたのだった。