【第50話 ナミとの約束】
(SIDE マサヤ)
「本当にいいのか?」
何度目になるだろうか?
自分でもしつこいとは思いつつ、これが最後の機会だからってことで目の前のオレンジ色の髪をした少女ーナミに訊ねる。
「うん…私ね、決めたの……ここに残るって…そして、いつか…マサヤお兄ちゃんの足でまといじゃなくなるくらい強くなったら…迎えにいくから……待っててね…」
とニコリと笑うナミ。
しかし、その目は赤く充血しており、瞼も腫れ、肩も震えている。
…マサヤお兄ちゃん…いつからか呼ばれなくなったその呼び方…その呼び方を再び口にし出したのはヨートクの件からであり、もう2週間近くになる。
思えば、あの頃からだろう…ナミがこの島に残ることを決めたのは…今までにないくらい俺にくっつき、甘えてきたのはこれから会えない時間への覚悟を決めるためだろう…
「そっか…じゃあ、楽しみに待ってるよ…でも、あんまり、待たせるとこっちから会いにいくからな?…まぁ、それは冗談として、いつでも話したくなったら連絡しろよ?」
俺はそれに気付かないふりをして、いつも通り、ナミの頭を髪の毛がくしゃくしゃになるまで、撫でまわす。
「わ、わ…やめてよぉ…もぅ……」
何というか…昔のアレグレットのように甘えた声を出し、抵抗するナミ。
俺はそれを無視してナミを抱きしめる。
「え……ま、マサヤお兄ちゃん?」
「本当に…本当に…待ってるからな…お前が迎えにくるのを…お前の冒険話、いろいろ聞かしてくれよ?」
そう言って、マサヤはナミを離し、少し青みがかった、フローライトのペンダントをナミの首にかける。
「これは餞別だ。大事にしろよ?」
俺はそう言って、ナミに笑いかけ、船へと乗り込んだ。
(SIDE ナミ)
「じゃあな、元気でな〜」
船に乗り、こちらに手を振りながら出港するマサヤお兄ちゃん。
「…あ」
なんでだろう…この二週間、あんなに素直に自分を出せていたのに…出すように努力してたのに……今は声さえ出せない……
私は小さく手を振り返すだけ。
「はぁ…」
そして、船が見えなくなると同時にため息をつく。
「うっ…く……」
彼女の口からは嗚咽が響き、目からは涙がこぼれる。
マサヤの前で必死に抑えていたものが溢れ出す。
アレグレットがマサヤに助けられてそれから、数年一緒に暮らしていたことは本人達から聞いて知っていた。
そして、アレグレットがマサヤから離れた理由も……
「自立…か…」
アレグレットお姉ちゃんはマサヤお兄ちゃんに依存していたがそれではいけないと思い、海軍に入ったと言っていた。
その時にナゴミお姉ちゃんにもお世話になったと……
そして、時は経ち、アレグレットは成長し、マサヤと共に戦い…
『危ない!』
ナミの脳裏には倒れたマサヤを庇おうとするアレグレットの姿が甦る。
…マサヤお兄ちゃんは人の助けを必要としないくらい強い人で…彼が頼ったり、背中を任せるような人なんて本当に一握りの人で……
頭に思い浮かぶのはナゴミとハンコックの姿…
どちらも絶世の美女であり、強く優しい女性である。
ナゴミは戦友のような絆マサヤを支え、ハンコックはそのあふれる愛でマサヤに平穏と安心を与えている。
そして、先日見た、アレグレットも…マサヤの姿はサヤネになっていたが、お互いがお互いを高め合い、成長していく姿。
それを心底から楽しむマサヤの姿。
「私も…あんな風になりたいな…」
確かに、マサヤについて行き、そこで修行する方が確実に早く強くなれるであろう…しかし……
「心も成長しなくちゃ…」
そう…いくら強くなっても、マサヤに依存しているだけであれば、呼び方を変えても、どれだけの時が経とうとも、二人の関係は兄と妹という関係のままかわらないだろう…
「私、頑張るから…!」
ナミは先程もらったばかりのペンダントを握りしめ、気合いを入れる。
ハンコック、ナゴミ、サヤネ、アレグレット、ユサ…自分と同じように、マサヤから宝石のアクセサリーを貰った人達。
マサヤは何かしらの思い、願いを込めそれを渡す。
それは信頼であり、激励によるものであり、彼、彼女等はそれに応えるように日々、成長している。
「私も……」
マサヤの信頼に応えられるように…
そして、彼と……いつか…
「……できるかなぁ…」
遠く広がる海を眺めながら呟くナミ。
その呟きは海風に流され、聞こえなかったが何を言っているのかは頬を赤らめる彼女の様子から簡単に予想できた。