【第51話 剣少女の覚醒 2/5】
(SIDE サヤネ)
「もぉ、絶対に当ててやるんだから!」
「そうそう、その調子。さぁ、来い、我が妹よ!」
…楽しそうだな…マサヤ兄さん…
目の前で繰り広げられる兄妹喧嘩…いや、訓練を眺めるサヤネ。
彼女の視線の先には金髪の少女と青年が迎い合っている。
少女は何か少し怒ったような表情で、構え、攻撃の機会を伺っている。
それに比べ、青年は余裕そうな表情に構えとはいえないようなだらりと弛緩した自然体な体勢で少女がくるのを待っている。
その手にはとても軽そうな素材で出来た武器とは言えないような子供のオモチャのようなハンマーを持っている。
「お、アレグレット准将が動いたぞ」
後ろで観戦していた海兵が声を上げる。
今日は陸での合同訓練があり、その後の自主訓練としてちらほらと海兵達が訓練に勤しんでいたのだが…最近の恒例となっている『兄妹喧嘩』が始まると各々が訓練を中断し、その観戦にまわったのだった。
「にしても、速いよなぁ…」
まっすぐ、矢のようにマサヤヘと突き進むアレグレット。
それを迎え撃つようにハンマーを横に振るマサヤ、アレグレットは身を屈めてそれを避け、拳を繰り出す。
ーピコッー
マサヤは攻撃が避けられても勢いを止めることはなく、寧ろそれを利用して高速で回転し、アレグレットの拳にハンマーを合わせていたのだ。
気の抜けた音とは対照的にそのハンマーはアレグレットの一撃を受けきり、更に一瞬の膠着状態の後に
「きゃぁ!」
ハンマーの勢いに負け、吹っ飛ばされるアレグレット。
「何で?あんなオモチャで……」
1人の海兵が信じられない光景を見て呟く。
「あれ、中将達が使う『覇気』ってやつみたいだぜ?」
「覇気?」
「まぁ、あれ見てみろよ。」
その言葉に従うように海兵達の目がマサヤの動きを追う。
「ほら、行くぞ。アレグレット。」
地面に転がるアレグレットに追い討ちをかけるためゆっくりと近づくマサヤ。
アレグレットもすぐに体勢を整え、周辺に落ちている石をマサヤに投げつける。
石は空中で剣となりマサヤを切り裂こうと迫るが
「だから…いつも覇気を意識しなさいって言っただろ?」
とやれやれと肩をすくめ、ハエでも払うかのようにハンマーで剣を払う。
剣は粉々に砕け、マサヤに傷一つ付けることなく地面に落ちて、石に戻る。
「まだまだ!」
アレグレットはその間にマサヤの右側(マサヤから見て)へと回っており、そこから左のハイキックを見舞う。
「そういう攻撃はスカート着てからやった方が色々と攻撃力あるぞ。」
と死角からの楽々と身を屈めて避けるマサヤ。
…やっぱり、凄いなぁ。マサヤ兄さんは…
マサヤの発言にうんうんと頷いている数人の海兵達を見なかったことにして純粋にマサヤの余裕と動きに驚嘆するサヤネ。
しかし、驚くのはここからであった。
「そこッ!」
先程、マサヤがしたように勢いを殺さずにそのまま回転し、下がったマサヤの頭を叩きつけるように足を振り下ろすアレグレット。
しかし、マサヤは“それを見てから”更に屈み込み足の軌道をすり抜け、無防備になったアレグレットに……
「はい。今日はここまで」
ーピコピコー
とアレグレットの頭をハンマーで軽く叩く。
そのハンマーには先程までの威力はなく音通りの衝撃をアレグレットに伝えていた。
「すげぇ戦いだったな。特にあの男の人。あれ誰なんだ?」
「なんか、アレグレット准将のお兄さんみたいだぞ?」
「ってことは中将とか少将なのか?やべ!俺、タメ口聞いちゃったよ。」
「いや、海軍には所属してないみたいだぜ?なんでも…賞金稼ぎをやってるとかで…」
二人の訓練が終わったと同時に周りの海兵達は息を吐き、マサヤについて話し始める。
ここは海軍本部の、さらにいえば、ガープ中将の部隊が良く使う訓練場となっている。
最近では部隊の底上げのために合同訓練をさせてもらっているのだ。
…それにしても……
観客が固唾を飲んで見守る程の迫力の戦いなのに、二人の顔には満面の笑顔…まぁ、アレグレットは隠そうとしてるみたいだけど…その幸せそうな雰囲気は隠しきれていない…
「これじゃ、喧嘩じゃなく、じゃれ合いね…」
とやれやれと呟くサヤネ。
しかし、その瞳には嫉妬、いや、羨ましさが宿っていることに周りの海兵たちはもちろん、サヤネ自身も気付いていなかった。
(SIDE マサヤ)
「ま、この調子で頑張っていけばいいと思うぞ。昔に比べたら充分強くなってるから、気にするな」
よしよしとアレグレットの頭を撫でる。
「でも……」
どうやら、俺に一撃も与えられなかったことがショックだったみたいだ。
「まぁ、あの時、もし、お前がスカートだったら、一撃くらってたかもしれないから、そんなに気落ちするな…」
「なんで、そんなにスカートに執着するのよ…マサヤ兄ぃのエッチ…」
「いや、絶対似合うって!黒のニーソにちょっと短めのスカート。そして、その間から見える神秘の世界!」
「………」
…やべぇ、凄いカミングアウトしてしまった……周りの…特に女性の海兵の反応が……男はちらほらと頷いている奴もいるな…大丈夫か?この部隊……
「やっぱ…なし。」
「…え?」
「お前、俺の前でしかスカートはくな。他のやつに見せたくない。」
「え、え………」
照れてるアレグレット、可愛い。ブーイングしている海兵達、顔は覚えたぞ?
「まぁ、そろそろ飯でも食いにいくか?なにが食べたい?」
意外とこの近辺は飲食店が多いからな、食には困らないんだ、これもガープさんのおかげか?
「え〜っとね…マサヤ兄ぃの作った料理が食べたい」
…なるほど、そうきたか……もう少しコマ出しにして上目遣いで言えば完璧だったな、惜しい…じゃなくて…
「じゃあ、食材買いに行くか…え〜っと」
俺は周りを見渡しサヤネを探す。
「マサヤ兄さん」
すると、後ろから声をかけられ、振り向くとそこにはサヤネがいた。
「おぉ、サヤネ。探してたんだよ。じゃ、行こうか…」
俺はサヤネの手を取り、歩き出す。
「え?え?ちょっと…マサヤ兄さん!」
慌てるサヤネを連れ出し、俺は商店街へと繰り出した。
(SIDE アレグレット)
「次、買う物って何だったっけ?」
「え〜っと、次は調味料ですね。」
手を結び、商店街を楽しそうに歩く二人に続きながら何ともいえない顔をしながらそれを見つめるアレグレット。
…これは、特訓なの…我慢…我慢…
先程はアレグレット覇気特訓であったが、今のこのデート…いや、買い物はサヤネの特訓なのだ。
マサヤが外部からサヤネに気を送り、サヤネの気を誘導して、気の存在や流れを感じさせることを目的とした特訓。
私では覇気がサヤネさんの受信回路から入り、サヤネさんの気を乱すことや、私が武器という特性上、気のコントロール権をサヤネさんが持つことになるので今の段階では気の暴走を起こして、共倒れになる可能性があるので、現在は私とサヤネさんは分かれて特訓をすることになったのだ。
「そうなんだ?でも、もう少しふっくらしても可愛いと思うけどなぁ…」
「また、そんなこと言って…」
…手料理なら買い物に行くことを考えるべきだった…
「そういえば…アレグレット。」
「え?なに?」
いきなり、名前を呼ばれて慌てるアレグレット。
「今週末は…」
「あぁ、うん、分かってる。ナゴミお姉ちゃんによろしくって言っといてね」
「おう。」
そう言って、サヤネと一緒に次の店に入るマサヤ。
それを見て、アレグレットはありがとうと呟く。
ヨートクを倒して監獄へ引き渡してからもう、3ヶ月が経つ。
私達はあの後、マサヤ兄ぃが見せたあの技を習得したくて、すぐにマサヤ兄ぃに指導をお願いした。
快く了承してくれたマサヤ兄ぃと一旦別れ、私達はヨートクを投獄して、1ヶ月程後にシャボンディ諸島で落ち合い、マリンフォードにマサヤ兄ぃを招き入れたというわけだ。ちなみにガープ中将に許可をとったのだが二つ返事でokをもらった。
で、マサヤ兄ぃはその特訓の条件として、サヤネさんに自分のことをマサヤ兄さんと呼ぶことと1ヶ月に3日程はナゴミの元へ帰ることを許可することを提案し、私達はそれを呑んだ。
そうして、今週末がその約束の3日間というわけだ。
「それにしても、ナゴミお姉ちゃんとマサヤ兄ぃかぁ……」
…どんな生活してるんだろう…
お互い似たような性格だし…戦闘好きだし、エロいし…なんか…凄く簡単に予想出来そうな……
自分の予想を頭を振って、頭から追い出し、マサヤ兄ぃとサヤネさんについていく。
「もう、ほとんど揃ったな。じゃ、帰って、作るか…」
「マサヤ兄ぃ、私も手伝うよ。」
「そっか、久しぶりに二人で……」
「私も料理教えてもらいたいんですけどダメですか?」
サヤネさんが上目遣いでマサヤ兄ぃにお願いする。
マサヤ兄ぃは悶えて、
「いいよ!大歓迎!手取り足取り優しく…」
「マサヤ兄ぃ!」
と暴走し出したので釘を刺しておく。
「え、あ、ごめんなさい。」
「ふふふふふ」
しゅんとするマサヤ兄ぃを見て、笑い出すサヤネさん。
「「あははははは」」
そして、私達も何だかおかしくなって笑い出す。
こうして私達の楽しい一日は過ぎていくのだった。