小説『ONE PIECE【changed the course of history】』
作者:虹犬()

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【第52話 剣少女の覚醒 3/5】






「「で、出来た…?」」

二人の少女の声が重なる。
しかし、そこには少女が1人立っているだけであった。
その少女の手には、まるで装飾品のようなスラリと細く、刀身には様々な模様が描かれ、とても実用的とは思えないような剣が握られている。

「で、出来ました!マサヤ兄さん!」

嬉しそうな顔をして近づいてくる少女を手を上げて制する金髪の青年。

「よくやったね。サヤネ、それと…」

彼は自分のことのように喜び、少女に笑顔を向ける。
そして、そこで一旦、言葉をきり…

「お前もよく頑張ったな。アレグレット。」

そう言って、少女の持つ剣へと声をかける。
アレグレットと呼ばれた剣はそれに応えるかのようにカタカタと微かに振動する。
それを見て、マサヤと呼ばれた青年は何処からか巨大な剣を取り出し、

「よし、じゃあ、今度はその力の制御の特訓だ。」

と言い、構えるマサヤの体からは金色に光が溢れ出す。

「はい!よろしくお願いします!」

サヤネもそれを見て、真剣な表情になり、剣を構える。
すると彼女の身を守るように銀色の光がサヤネを包み込む。

「では…行きます。」

「おう、来い。」

サヤネがマサヤに斬りかかり、マサヤがそれに応える。
そして、金色の剣と銀色の剣がぶつかりあう。

ーキィィィィンッ!!ー

こうして、盛大な音を響かせ、金狼と剣乙女の戦いの火蓋が切って落とされた。







(SIDE アレグレット)

「はっはは!その調子だ!」

楽しそうに笑うマサヤ兄ぃに吸い寄せられるように近づく私。
しかし、その軌道がわかっているかのように華麗に避けながら私の持ち主であるサヤネさんに反撃するマサヤ兄ぃ。
私はサヤネさんに迫ってくるたくさんの刃の前に引き戻され、それらを弾いていく。

「あんまり…舐めないでください!」

全ての剣を叩き落とした後、私達はマサヤ兄ぃの元へ飛び出す。
マサヤ兄ぃは刃を元の剣に戻そうとするが私たちの方が速い。
再び、私とマサヤ兄ぃとの距離が縮まっていく。

今の私は剣であり、もちろん、刃を潰しているわけはなく…むしろ、サヤネさんの『螺旋蛇絡剣(リレイズ・ノンフィーネ)』で全てを絶つ必殺の刃となっている……
つまり…今の私がマサヤ兄ぃに触れば……流石のマサヤ兄ぃでも無事では済まないだろう…
怖い…自分の能力でマサヤ兄ぃを傷つけることが……でも…

……マサヤ兄ぃに失望される方がもっと怖いから!…

そう言って、アレグレットはサヤネの動きにより深く同調し、マサヤに迫る速度を上げる。
そして、その刃はマサヤ兄ぃに…

「成長したな。アレグレット。」

ーキィィンー

そう呟くマサヤ兄ぃの左手にはいつの間にか短剣が握られており、それが私の頭を撫でるように剣の腹を滑り、軌道を変えて受け流す。

「アレグレット!」

…あっ!…

呆然とした私はサヤネさんに喝を入れられ我に返る。

…いけない…ボーッとしてた…これじゃ…マサヤ兄ぃに呆れられる…

私は気合いを入れ直し、より深くサヤネさんに同調し、より高密度に気を練り合わせていく。

しかし、一瞬とはいえ、そんな隙をマサヤが見逃すはずもなく…

…え……

サヤネに迫りくる刃、当たればそれは彼女の体を簡単に切り裂くであろう…それをサヤネは……







(SIDE サヤネ)

迫りくる刃を見ることなく華麗に避けるサヤネ、その顔には笑みさえ浮かんでいる。

「凄い…」

今までに感じたことがないくらいの体の軽さ、そして、勘の冴えに驚くサヤネ。
湯水のように湧き溢れてくる力、それは時が経つごとに勢いを増していき、自分が…いや、自分達が リアルタイムで強くなっていることに喜びを感じる。

「ボーッとしちゃいけないよ。二人とも。」

そんなサヤネを嗜めるようなマサヤの声と踵を返し大きな顎を拡げ、どこまでも獲物を追い続ける蛇のように彼女に襲いかかる数々の刃の群れ。
以前なら避けきれず剣で受け止めなければならなかったその攻撃を余裕の表情で避け、反撃に転ずる。
しかし……

「ははは、その調子!もっと気を制御して!」

そんなサヤネ達の成長を喜ぶように笑いながら、絶妙なタイミングでサヤネの攻撃を避け、彼女のギリギリ躱せる速さで攻撃する。
それは彼女達の成長を促すように…ここまでなら来れるだろう?と徐々に技のキレやスピードを増し、サヤネ達を導いていく。

「くっ…」

いつまでも続くと思われたサヤネ達の成長も時間が経つごとに緩やかになり、段々とマサヤの攻撃を躱しきれず、剣で受け止めることも多くなり…

「きゃッ…」

一瞬の隙を突かれた私はマサヤ兄さんに投げられ、地面に叩きつけられる。
そして、目の前には突きつけられる剣先。

「ほい、今日はここまでな。」

頭上からかかるマサヤ兄さんの声。
その声に対し、私は顔をあげ、

「まだ…まだ、私、出来ます!もう一度、お願いします!特訓を続けてください。」

とお願いするが…マサヤ兄さんは困った顔をしながら…

「駄目だ。二人とももう限界だろ?…特にサヤネは初めてなんだし…今は興奮してるから感じないかもしれないけど相当疲労溜まってるだろうしさ……俺はまだここにいるんだし、明日にしよう?な?最初でここまで出来たんだから上出来だって…」

と言い、私の頭を撫でる。
既にその体からは金色の光は消え、戦う気は一切感じられない。

「……」

それに対し、サヤネは不満そうな顔をして黙り込む。

…サヤネさん…気持ちはわかるけど…

そんなサヤネに語りかけるアレグレット。
現在、二人の回路は繋がったままであり、そこからお互いの感情が伝わる状態となっている。
そして、アレグレットがサヤネから受け取った思いはマサヤに迷惑をかけていることへの心苦しさである。

「これ以上…マサヤ兄さんに迷惑をかけるわけには……」

アレグレットとサヤネがマリンフォードにマサヤを連れてきてから半年程が経つが、その間の日々、全てが彼、彼女達にとって幸せなものであった…ということはなく……いや、少なくとも彼女達にとっては憧れの人との特訓や生活は有意義であり、楽しいものであった…それは間違いないのだが……

『なんで…あんな奴が……ただの賞金稼ぎ風情が…』

それはある日、彼女達が偶然、聞いてしまった会話の一部分。

元々、海軍本部であるこのマリンフォードでは基本的に海軍及びその関係者しか立ち入りを許されていない。
マサヤがここにいられるのは海軍内で彼の評判が概ね高い点、血は繋がっていないとはいえ、彼がアレグレットの兄であるという点、そして、決め手になったのが英雄ーガープの推薦だった。
そういうわけで彼は今、特例的な客人としてこのマリンフォードに迎え入れられているわけだ。

しかし、少ない割合とはいえ、彼に否定的な意見を持つ人も中にはいるわけで…そして、少ない割合とは言っても全体数が多ければ、それに比例して、反対派の人数もそれなりであり、時が経つごとに先程のような海兵たちの不満が表面化していったわけだ。

元々、マサヤは他人からの評価等を気にするような性格ではなく、さらにそれが見ず知らずの男からのものであるのなら尚更だが…
それが彼女達の評価にも影響を与えるのであれば話は別であり、彼は、アレグレットとサヤネとの人前で過度なスキンシップを取るような特訓を避け、他の海兵たちの指導も行い、なるべく目立たないようにしてきたのだがそれでも不満などは収まることなく……

『ごめんな。お前らに迷惑かけて…』

そう言って、困ったような顔をして謝るマサヤを思い出し、

…謝らないといけないのは私達の方なのに…マサヤ兄さんに頼まれた事も果たせなくて、迷惑をかけた上に、こんな所に連れてきてこんな窮屈な思いをさせてしまって……

湧き上がる自責の念。
それと同時に起こる力への渇望。

…もっと…もっと、私に力があれば…

…力、力…力が欲しい…強くなりたい……大好きな人にずっと、笑っていてもらえるように…自分の大好きな空間がもう二度と奪われないように…


…さん!…サヤネさん!…

「え?」

何度もサヤネに呼びかけるアレグレットの声にようやく気が付くサヤネ。
そこで、サヤネは自分の中に大きな力の塊が渦巻いていることに気付く。

「これは…?」

そこから感じられる力強さは私が手に入れたいと思っていたものであり…
私はそれに吸い寄せられるように……

「駄目だ!サヤネ、自分の意志をしっかり持て!力に呑まれるな!アレグレットも送信を抑えて、受信を…!」

「え…?」

その力の流れに身を任せようとする私に必死に語りかけるマサヤ兄さん。

…いけない…気が膨れ上がって……

しかし、その声によって選択を誤ったことに気付いた時にはもう遅く、サヤネの意識は力の渦に飲み込まれていった。






(SIDE マサヤ)

「ちッ……」

次々と繰り出される鋭い突きを避けながらマサヤが舌打ちをする。
サヤネが力に呑まれてしまった直後、彼女はマサヤに襲いかかっていた。

「アレグレット!大丈夫か?」

…うん。でも…動けないの…サヤネさんからの応答はないし…変身も解けないし…回路も……

「そうか…まぁ、俺がなんとかするから…サヤネへの供給を抑えることと回路を切るだけを考えてくれ。」

…うん。わかった。

と言って、俺はサヤネの顔を見る。
すべての攻撃が一撃必殺の威力を持ち、それでいて、舞うように軽やかであり、狙いは鋭く正確で正に彼女らしい動きである。
しかし、彼女の目には光がなく

「おーい、サヤネ。」

「………」

サヤネが『螺旋蛇絡剣(リレイズ・ノンフィーネ)』の力に呑まれてしまい、意識を失ってから何度目の呼びかけだろうか…結果はご覧の通り…

…もう、大丈夫だと思ってたんだけどな…

アレグレットも覇気の扱いに慣れてきて、サヤネも気の操り方を理解した今なら出来ると思ったのだが…
とはいっても途中まではうまくいってたんだけどね…回路を作って気を混ぜ合わせるまでは順調だった。
それ以降もうまく均衡を保っていたと思っていたんだがな…

簡単に今の状況を説明すれば、
何らかの拍子に混ぜ合わせた気の量がサヤネの気の許容量を遥かに凌駕したことによって力が暴走した。
ということになるだろう。

二人の気を混ぜ合わせながら循環させ、その濃度を上げて絶大な力を得る『螺旋蛇絡剣(リレイズ・ノンフィーネ)』。
単純に考えても二人分の気を使えるため強力な技なのだが…実際にその練り上げられた力を使えるのは剣の持ち主ーつまり、サヤネであり、彼女にはその力の制御という重要な役割が与えられる。
自分から相手に送る気の量、逆に相手から自分へと送られてくる気の量をコントロールし、常に適切な量の均衡に保つ必要がある。
理想としてはアレグレットが7、サヤネが3くらい。
それ以上になるとアレグレットの気の許容量の問題やサヤネがアレグレットを扱いきれなくなる可能性がでてくる。
また、その逆では……武器であるアレグレットの強化量が減ってしまうし、サヤネの気の許容量を超えてしまう可能性がある。
前者の場合はサヤネがアレグレットの気を吸い上げてコントロールしていけばいいのだが後者の場合、コントロール(サヤネ)側が許容量を超え、気の制御が不能な状態となり、サヤネはアレグレットから気を吸い続け、暴走を続けることになる。
それは彼女達の体と精神に多大な負担を与えるものであり……

「ちッ……、しゃあねぇか…これ以上、長引かせたらヤバいしな…」

舌打ちをして、マサヤは覚悟を決め、サヤネの突きに向かい、飛び込む。

ーザシュッー

…え!?…な、なんで…?…マサヤ兄ぃ!?…

マサヤの腹を貫くアレグレットからは叫びの声が上げられる。

「アレグレット…うるさい…ちょっと静かにしてくれ…振動して……傷口に響く…」

……ご、ごめん!…

「…ッ…だから…ッ」

マサヤはサヤネの手を掴み、それ以上、剣を動かせないように固定しながら顔をしかめ、アレグレットと話し、気持ちを落ち着かせる。
急所を外したとはいえ、痛いものは痛い…その痛みに集中力をかき乱されないようにマサヤは数度、深呼吸をした後、手を固定され、暴れるサヤネを顔を逆の手で捉え、その唇に自分の唇を押し付ける。

「ちゅっ……じゅる……ちゅ……」

…マサヤ兄ぃ!?…

ガタガタとマサヤの行動に驚き、声をあげるアレグレット。
その振動でマサヤの顔が痛みで歪んだことに気付いておらず、そのまま、アレグレットは詰問しようちしたのだが…

…だから、痛いって言ってるだろ?少しは俺を信じろ!…

…え?…

アレグレットに響き渡るマサヤの思い、それはサヤネと同調している時のように心と心で繋がっているような感覚で…

…あ…もしかして…

…あぁ、理解が早くて、助かるわぁ。お前と同調するためにわざわざ、貫かれたんだよ。いいか、これから、お前に気を送って、サヤネぁらは気を吸い上げる…で、気の均衡が取れたら、一気に接続を切れ。いいな?…

…う、うん。わかった!…

そして、マサヤからアレグレットに送られる気の流れ、更にサヤネからマサヤに吸い上げられる気の流れにより、アレグレットとサヤネの気の量の差は縮まっていき…

「今だ!」

アレグレットはその声に応じ、回路の切断にかかる。
そして、プチっという音を鳴らし、二人の間に通っていた回路は閉じ、サヤネを覆っていた銀色の光は消えていった…

「…はぁはぁ…よくやった…アレグレット……後は…任せた……」

そう言って、意識を失い倒れかかるサヤネを受け止め、腹に刺さったアレグレットを引き抜いた所でマサヤの意識は途切れた。


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