小説『ONE PIECE【changed the course of history】』
作者:虹犬()

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【第53話 剣少女の覚醒 4/5】







(SIDE サヤネ)

「……ん…」

「ごめんなさい…」

私は苦しそうに寝返りを打つマサヤ兄さんを見つめ、呟く。
ここは海軍本部の医務室で、目の前にはマサヤ兄さんが眠っている。
詳しいことはまだ聞いていないが…暴走した私を傷つきながら助けてくれたらしい。
目を覚ました私に私達を看病してくれていたアレグレットがそう、教えてくれた。
そして、アレグレットは今、ここにはいない…なんというか…まぁ…彼女は今、休憩中というか……

「やっと、眠ったわね…やれやれ……顔に似合わず頑固者よね、彼女。」

そう言って、私の横に座る女性ーセリアさん。
まぁ、一言で説明するならこの医務室の責任者、つまり、医者である。

「まったく…あの子も疲れてるんだから寝ないで看病なんてしちゃあダメなのにね…」

「…でも、よく…アレグレットが納得して休みましたね?」

「まぁね。ここでは私がルールなんだから、例え、相手が元帥だろうが大将だろうが聞かせてみせるわ!まぁ…彼女の場合は結構、簡単だったけどね…」

と大きな胸を張って、自慢げに微笑むセリアさん。

「簡単…?」

そんなことないと思うんだけそな…あの子、マサヤ兄さんのことになると本当に頑固者になるし……
とサヤネが不思議に思っているとセリアはこれよこれと言ってサヤネの頬をプニプニと突つく。

「な、何するんですか!?」

「いや、ね。アレグレットちゃんが引き下がった理由が知りたいんでしょ?だから、これだって。」

と言って、さらにぷにぷにと私の頬を突つく。

「………」

「わかったって…そんなに睨まないでよ。私はただ、彼女に彼が起きた時、そんな酷い顔見たらびっくりするわよ?って言っただけよ。」

なるほど……それなら、アレグレットも休むだろう…というかセリアさん酷いこと言うな…

「ま、そんなわけであんたも起きたばっかりなんだからあんまり、無理しちゃダメよ。彼も命に別状はない…というか…驚異的な回復力で別状がなくなった…と言うべきか…まぁ、どっちにしろ今のところ、心配いらない感じだからさ。」

と言って、マサヤ兄さんのことを興味深そうに見ているセリアさん。

「えっと…あの、セリアさんはマサヤ兄さんに…」

「ええ、興味あるわね…」

「それは…最近…」

噂になっている事についてなのかと聞こうとしたのだが……

「あぁ、別に最近、噂の女たらしのヒモ狼さんの噂についてじゃないわよ?まぁ、そっちはあんた達の様子見てたら違うというか…ただのもてない男達の僻みだって言うのが分かるんだけどね…」

そう言って、彼女は言葉を続ける。

「まぁ、彼が女好き?というか女には甘いのは嘘じゃないだろうけど…私にも初対面で口説いてきたことだしね…」

「えッ!?それはどういう…」

慌てる私を制しながらセリアさんは笑う。

「まぁ、落ち着きなさい。口説くって言っても一緒にお茶しませんか?ぐらいだったし、多分、本気じゃないわよ。」

「な、なんだ…そうだったんですか…というか…なんでマサヤ兄さんがここに?」

「あぁ、あなたの部隊の子達の訓練で怪我した子のお見舞いとかよく来てたしね…まぁ、女性限定だったけど……」

「………」

「まぁ、でも、彼って凄いよね。」

「はい。強くて優しくて…」

「いや、惚気はいいから…私が言いたいのは…訓練の指導者としてのことでね…」

「指導者…ですか?」

「ええ。彼が指導し始めてからあなたの部隊の訓練での怪我人は格段に減ってるのよ。それも、訓練の強度を下げてるわけじゃなくてそれなりの効果も上げてるのにね……」

「…え」

「まぁ、怪我した子たちに聞いてみたけど、マサヤくんは一人一人の特徴を見て、その人に最も適した訓練法…というか体の動かし方を教えるみたいね…そういう感覚的な事って他人じゃわかりにくいみたいだけど、彼にはそういう才能があるのかな……で、自分のことを分かってもらえていると感じて、もっともっと頑張って、彼に褒められたいとか思っちゃう子が彼が言った以上の無理をして、怪我をしてここに来てしまうのよ…」

ほんと困ったものよね〜と肩をすくめるセリアさん。
言外にあなたもそうなの?と言われているような気がして私は目を逸らす。
そんな私を見て、フフフと笑って、セリアさんは立ち上がり、

「まぁ、いいわ。私も仕事に戻らないといけないから何かあったらそこの子電伝虫で呼んでね。」

と言って手を振り、出て行ってしまった。

「はぁ…マサヤ兄さん…ごめんなさい…」

サヤネは静かになった病室でため息を吐き、眠っているマサヤの顔を見つめ小さく呟いた。








(SIDE マサヤ)

「ん…ここは…?」

目を覚ますとそこは白い大きな布で仕切られた小さな部屋であった。

「…ッ…」

起き上がり、周りを身渡そうとしたのだが鈍い痛みがお腹に広がり、マサヤは顔をしかめる。

「あ…そういえば…」

と言いながら、自分のお腹をさする。

「この痛みから察するに…もう結構、治ってきてるってことか……レン…サンキュ。」

と、首元に巻きついているレンを撫でる。
レンの能力で回復力を早めてくれているのとまぁ、他にも理由はあるのだがそれはまだ言わなくていいだろう…

「すぅ……んん…」

「ん?」

足元から小さな寝息が聞こえるので見てみるとそこにはベッドに突っ伏して寝ているサヤネの姿があった。
おそらく、自分が目覚めるまでずっと、看病しているつもりだったのだろう…

「ったく…お前も一応、怪我人なんだから。おとなしくしとけよな…」

苦笑しながらサヤネの頭を撫でる。

「…ん…ぅん…」

くすぐったそうに頭を振るサヤネ。
それがなんだか面白くて俺はさらに頭を撫で続けていると、

「もぉ…やめてよぉ…まさや兄さん……ってあれ?」

とむくりと起きて、焦点の合わない目でこちらを見て、寝ぼけた声を出すサヤネ。
そして、次の瞬間、濡れた犬が水しぶきを飛ばすように頭をブルブルと振って眠気を飛ばす。

…こうして見るとなんかサヤネって犬っぽいよな…アレグレットもそんな感じするよな…

「マサヤ兄さん!大丈夫ですか?」

「あぁ、大丈夫だよ。サヤネの方こそ大丈夫か?」

「あ、はい。…その……」

とサヤネは俯き、数度深呼吸をして口を開き…

「マサヤ兄さん!ご……」

「ちょっと待った!」

「え…?」

謝罪の言葉を述べようとするサヤネに待ったをかけ、俺は彼女の目の前で人差し指を立てる。
意味がわからず、ポカンとするサヤネに俺は

「ごめんなさいは一回だけ。それ以上言ったら許さないからな?元々、今回はお前が謝る必要なんてないんだからさ…」

そう言って、サヤネの頭を撫でるが、それでサヤネが納得するはずもなく…

「そんなことないです!私があの時、マサヤ兄さんの指示に素直に従っていれば…」

「だから、それが俺のせいだって…お前のその性格とか性質を考慮してなかった俺の落ち度だよ。」

「……」

「不満か?」

…サヤネって不満があると黙り込むんだよな…わかりやすいというか可愛いわぁ…

などとマサヤが思っていると…

「…だって…マサヤ兄さん、ヨートクの時から私達のことを叱ってくれないじゃないですか?何度も何度もマサヤ兄さんの信頼を裏切ってしまったのに…」

「…だから、言っただろ?最初、お前らが戦った時は俺が思ってたよりもアレグレットの変身能力の精度が高かったからヨートクの能力が効いてしまったんだから、俺の判断ミスだ。人質になったのも不可抗力だし…俺が早く相手の狙いに気付けばよかったしな。今回のもさっき言った通り、お前らは悪くないよ。」

「でも…」

「じゃあ、俺がお前を叱れば満足なのか?よくも俺の信頼を裏切ったな…とかそんなに俺の言うことを信頼できなくて聞きたくないんだったら、もう勝手にしろ、お前の顔なんてもう見たくない…二度と俺の前に出て来るな…とか言えばいいのか?」

「……………はい…」

泣きそうな顔で頷くサヤネ……というより、実際、涙浮かべてるし……
怒った口調ではなく、出来るだけ優しく言ったつもりなのになぁ…
…ったく……

「サヤネ、ちょっとこっちにおいで…」

「…はい。」

俺はすぐ側に来たサヤネを抱きしめ、膝の上にのせる。

「え、え、え……ちょ…っと、マサヤ兄さん…?」

「サヤネ、ちょっと、落ち着け…暴れられると傷に当たって痛い……」

「あ…ごめんなさい…」

慌てるサヤネに注意して、俺は彼女に優しく語りかける。

「あのな、サヤネ。俺はお前にさっき言ったことなんて思ってないし、言いたくない。お前が頑張ってることは知ってるし、それがサヤネの良い所だって俺は思ってるしな…まぁ、ただ一つだけ言いたいことがあるんだけどな…」

「えッ?」

マサヤの腕の中でビクッと肩を震わすサヤネ。

俺はそんなサヤネをさらに抱き寄せ、頭を撫でる。

「いつまでも過去の失敗を引きずるな。確かに失敗への反省は前に進むために必要な事だけど…それのせいで今の自分を見失ったら元も子もないだろ?全ての失敗が自分のせいだなんて思うな。お前はその責任を背負わないといけない程の強さを持ってないし、不可抗力なことにまで気を負う必要はない。それでも…もし、どうしても背負わないといけないものがあるっていうんなら…俺が一緒に背負ってやるから…遠慮せずに話してくれ…」

「…え……」

「サヤネが海軍に入った理由を教えて欲しい。アレグレットと一緒で、何か目的があったんだろ?」

驚くサヤネの耳元で小さく呟く。
ここでは他の人の耳に入る可能性があるからなぁ…ってことで…

「セリア、いるんだろ?俺は元気だから帰らしてもらうぞ?いいか?」

「え…」

「いいわよ。というかこんなところで盛られたら迷惑だしね。」

「さ、さ、盛る!?」

まぁ、いるだろうなと思って呼びかけてみたけど本当にいたとは…
セリアはカーテンの隙間から顔を覗かせ、悪戯な笑みを浮かべてサヤネをからかう。

「だって、ほら抱き合ってるじゃん。」

「え、え?えぇぇえ!」

「羨ましいだろ?って…ちょ…暴れるな…サヤネ…痛い……」

「だって……マサヤ兄さん…離して…」

そう言って、サヤネはマサヤから離れる。

「クス、本当に羨ましいわね。マサヤくん。でもね…」

「…でも?」

「もう一人の妹ちゃんを放っておいてにゃんにゃんするのはどうかと思うけど?ねぇ?アレグレットちゃん?」

「「え?」」

俺とサヤネが驚きながらセリアの視線の先を向くとそこには笑顔を浮かべたアレグレットが立っていた。
顔は笑顔だがその瞳は笑っておらず…

「マサヤ兄ぃ…」

「ん?」

まぁ、別に後ろめたいこともしれないからと開き直って俺は受け答えると、アレグレットはすぐそばにやってきて…

「もし、私が悩んでても一緒のこと言ってくれてた?」

そう訊ねてくる。
その表情は真剣であり、マサヤも真剣な顔をして

「一緒ってことはないな…お前とサヤネは違う人間だし…負ってるものも性格や思考も違うだろ?だから、お前にはお前の…サヤネにはサヤネに合った方法でお前達の力になろうと思ってるからさ…まぁ、どっちとも俺にとって大切な人なわけだしさ…」

と自分の正直な考えを伝える。
しかし、いくら待ってもそれに対する返答はなく、気になってアレグレットに呼びかける。

「アレグレット?」

「ん…?うん…ありがと。」

「その…私も……ありがと…」

とアレグレット、サヤネから礼を言われる。
特別なこと言ってるわけじゃないんだがな……まぁ、これで一段落ついたみたいだし……

「さて、二人とも帰るか?」

「俺たちの愛の巣に!」

「「えぇぇえええ!?」」

「声帯模写するな…エロ医者。」

「いや、つい…二人の反応が面白くてね…」

と悪びれることなく笑うセリア。
その姿を誰と重ね合わせたのか、呆れたような顔で見つめ、ため息を吐く二人。
そんな妹達を横目で見ながら、

「じゃ、セリア、世話になったな。ありがと。」

「はいはい。まぁ、気が向いたらまた、来なさい。お茶ぐらいなら出してあげるから。」

「おう。」

「「お世話になりました。」」

そうして、俺達は医務室を後にした。



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