小説『ONE PIECE【changed the course of history】』
作者:虹犬()

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【第54話 剣少女の覚醒 5/5】






(SIDE アレグレット)

私達は今、マサヤ兄ぃの部屋で向かい合って、ソファーに座っている。

「そっか…だから、海軍に入ったんだな。まぁ、入ってくる情報も桁違いなわけだしな…」

「うん。で、自由に行動できるように頑張っていったら…」

「少将になってたと…成る程なぁ…」

目の前ではマサヤ兄ぃとサヤネさんの会話が進んでいく。
私はこれまで、サヤネさんとずっと一緒にいたため、お互いに海軍に入った目的を話したこともあったので彼女の生い立ちの話は知っていた……




ーそれは今から十数年も昔のこと。

サヤネは鍛冶屋の家系に生まれ、一人娘の後継として小さい頃からその技術を受け継ぐ為に修行に明け暮れていた。
彼女の武器を感じる能力はその家系特有の体質であり、気づいた時から使えていたそうだ。
そして、ある日、それは起こった。
それは早朝のこと、父の待つ鍛冶場の前に着くとそこはいつもとは違う雰囲気に満たされていた。
いつもとは違う鉄の香り、そして自分がくる前には既に鳴り響いているはずの鉄を打つ音が聞こえない。
そんな異常な現場へ女は勇気を出し、踏み出したのだが……

ーぬちゃー

サヤネが部屋に入ってすぐ、彼女の足には、なにか粘着性のある液体を踏んだような感触があった。
それが何かを確認しようと視線を下に移動させるとそこには倒れた男の体が横たわっていた。

「お父さん!」

この大きな体、いつも着ている作業服などによって、顔を見なくてもこれが自分の父親であることは明確であった。

「来てしまったんだね……」

「きゃッ……!」

突然、呼びかけられたことにより私は驚き、体勢を崩し、地面に座り込んでしまう。
自分の横にはもう動かない父親の体があるのだが、不思議と気にならず……彼女の目は自分に声をかけてきた人を…いや、正確にはその人が持っている剣に向けられていた…

「この剣が気になるのかい?やっぱり……」

そんなサヤネの様子を見て少年…いや、少女か?顔を隠しているので分からないが、サヤネより少しばかり年上の子供がサヤネを見てそう呟く。

しかし、サヤネはその言葉には答えず、ずっと子供が持つ剣を見ていた。

…なんだろう?あれ…他の剣とは違う…

刀身は真っ赤であり、スラリと装飾品のような綺麗な形。
自分が今まで、父親に教えてもらった剣の構造のセオリーから大きく外れたその姿に見とれてしまっていた。

「ここで消しておくべきか…」

そう言って、剣を持ったまま近付いてくる子供。
そして、その子供はサヤネの目の前で足を止め、剣を振り上げ…

…殺される…!

そう思って、目を瞑ったサヤネだがいつまで経っても痛みや衝撃が彼女を襲うことはなく、不思議に思ったサヤネが目を開くとそこには誰もいなかった…





らしい。
まぁ、自分の時のように幼い時の辛い思い出は記憶に残りにくいものなのだが…それでも、サヤネさんの頭の中にはあの血のように真っ赤な剣が未だに鮮明に残っているらしい。

「なるほどね…大体分かったけどさ。サヤネはその子と剣を見つけてどうしたいんだ?」

「それが…まだ…わからないんです…ただ、今はもう一度、その子に会いたい…それだけなんです…」

「そっか…まぁ、そん時になってみないと分からないっていうわけか……よし、分かった。手伝ってやるよ。」

そう言って、マサヤ兄ぃは驚いているサヤネさんを見つめる。

「 まぁ、多分、サヤネはそれを為すには力が必要だって本能的に気付いてたんだろうな…」

じゃないと少将になってまでさらに強くなろうと必死に特訓しようなんて思わないだろう…とマサヤ兄ぃは言う。

「俺はお前が助けを求めるんならいつでも手を貸すし、自分の力で…って言うんなら、サヤネがそれが出来ると自信が持てるぐらいまで鍛えてやる、もちろん、その子と剣を探すことも手伝うよ。」

「でも…これは私の私事で…マサヤ兄さんに迷惑を…」

「迷惑かけてもいいだろ?俺達は兄妹なんだからさ。妹が兄に迷惑かけて何が悪い?まったく…妹も弟も成長が早くて…遠慮して、頼ってくれることも少なくなって…寂しいんだぜ?」

とこちらを見ながら笑うマサヤ兄ぃ。

「何でこっち見るのよ?私は…」

「まぁ、最近は昔みたいに我が儘で可愛げのある子に戻ってきてる奴がいて嬉しいから余計にそう思うんだろうな…」

私はマサヤ兄ぃを睨んで抗議しようとするが、マサヤ兄ぃは私の側に座り、私の頭を撫でる。

「むぅ…私、我が儘じゃないもん…」

「あぁ、知ってる。からかっただけだよ…大きくなってもそういうところは変わらないな。アレグレットは…」

そう言って、変わらず頭を撫で続けるマサヤ兄ぃ。
昔から人の頭を撫でる癖は変わらないが昔のように髪の毛がぐしゃぐしゃになるような撫で方ではなく、痛い勘違いかもしれないけど…愛しい人、大切な人に触れるようなその手つきに喜びを感じる。

「ってことでさ、俺はもっとサヤネに頼ってもらいたい。サヤネは今まで一人で頑張ってきたんだから、少しぐらい人に頼ってもバチは当たらないだろ?」

そう言って、私を撫でながら横を向くマサヤ兄ぃ。
私の横に座った為、マサヤ兄ぃは私とサヤネさんに挟まれる形となっている。
つまり、マサヤ兄ぃの視線の先にはサヤネさんがいて…

「…でも……」

サヤネさんは周りに気が配れる優しい人だし、頼りになれる姉のような存在であるが、彼女はその性格のせいで何度も悩み苦しんできた。
私もそれを何とかしてあげたいと思っていたのだが…

「はいはい。もう、そうやって一人で抱え込むのはなし!あと、無理はしないこと!お兄ちゃん命令な。」

「「お兄ちゃん命令…?…」」

「そう、二人とも俺の妹なんだから兄の言うことは聞きなさい。その代わり……お前らの我が儘やお願いは余程の事がない限り、叶えてやるからさ…まぁ…お前なんて兄じゃないし、言うことなんて聞きたくないって言うんなら無視してもいいよ…それで、俺がお前達への態度を変えることはないから安心しろ。」

「「な…!?」」

あまりの理不尽な要求に驚く私達。
いつも思うけど…マサヤ兄ぃは強引だよ……これじゃ、言うこと聞くしかないじゃない…

「………わかりました。」

同じことを思ったのかサヤネさんは渋々といった感じで返事をする。

「それとサヤネは俺の傷が治るまで俺と一緒に寝ること。」

「「え、えぇぇぇえええぇえ〜!?」」

「そ、そそ、それはどういう……」 「何言ってるのよ!マサヤ兄ぃ!」

慌てる私とサヤネさん。

「まぁ、落ち着け…とりあえず、今回の件でサヤネの悪い癖も分かったしな…サヤネとアレグレット、お前ら、俺の看病するつもりなんだろ?」

「「うん。」」

今回のサヤネさんの暴走では私が気の制御をうまく出来なかったことも要因の一つであるため、心苦しく思っていたし…マサヤ兄ぃの言う通り、看病をするつもりであった……が…

「そんな心配そうな目で見つめられてたらぐっすり、安静に寝られないからな…なら、一緒に寝ればいいだろ?サヤネだったら俺に何かあればすぐ気づくだろうしな…」

「でも…やっぱり…」

「心配か?じゃあ、アレグレット、お前も一緒に寝ればいいだろ?」

「え?」

「まぁ、無理もないか…俺だって正直、お前らのような美女がそばにいて我慢できるか不安だけどさ…もし、万が一の事があれば、殺してくれてもいいし、そもそもそういうことが起こらないように寝る時だけ手錠してもいいぜ?」

「そんなことしないよ!」 「私はマサヤ兄さんを信頼してます!」

冗談半分で笑いながら言うマサヤに二人はすぐさまそれを否定する。

「まぁ、それは冗談だとしても…サヤネ、お前が俺に甘えられるようになって欲しいしからな…アレグレットとは昔、一緒によく寝たしな……」

「もう…マサヤ兄ぃ!何年前のことなのよ?…」

…いや、それとこれとは…関係ないというより…それはずっと昔のことで……

「ま、嫌だったらいいけどね。つか、まぁ、自分でも、ちょっとおかしいかなって思い始めたし…やっぱ、さっきの命令は取り消し……」

「私…やります。」

「「え?」」

驚く私とマサヤ兄ぃ。
マサヤ兄ぃの顔から考えて、まさか了承されるとは思ってなかったんだろう…

「私、マサヤ兄さんを信じてますから…それと……」

「それと?」

「マサヤ兄さんも私達に襲われないように気をつけてくださいね?」

「「え、ええええぇえぇぇえ!?」」

先程、からかわれた仕返しなのかサヤネさんが悪戯っぽい笑みでマサヤ兄ぃを見つめる。
よく見ると彼女の耳は赤く染まって体も微かにだが震えている。

…凄いなぁ、サヤネさん。

私はそう思いながらマサヤ兄ぃを見てみるがあまりに予想外だったのか凄くビックリした顔をしている。
サヤネさんの状態には気付いていないみたい…よかったね、サヤネさん。

「冗談ですよ。じゃあ、そろそろ、晩御飯を食べましょう?今夜は私が作りますからマサヤ兄さんは大人しく待ってて下さいね?」

と言って、そそくさと部屋を出て行ってしまうサヤネさん。
余程、恥ずかしかったんだろう…

「アレグレット〜、ちょっと手伝って〜」

「は〜い。」

「あれは…いったい…何だったんだ…」

サヤネに呼ばれ、部屋を出て行くアレグレット。
そして、部屋には呆然と呟くマサヤだけが残っていた。








(SIDE サヤネ)

「じゃあ、寝るか…」

と言って、ベッドに入って両手を広げて眠るマサヤ。
そして、ほんの数十秒で規則的な寝息が聞こえてくる。

「えっと……」

ほんの数時間前の私の一大決心は何だったのだろう…と思ってしまうぐらいの呆気なさに私は呆然としてしまう…

「久しぶりだな〜、よいしょっと…」

そんな私の横をすり抜け、マサヤ兄さんの横へと潜り込むアレグレット。

「ん〜、温い。」

「え、えっと…アレグレット?」

兄が兄なら妹も妹で既にウトウトとしており、放っておけば私一人だけ置いてけぼりにされそうだったのでアレグレットに話しかける。

「ぅん。なぁに?」

もう半分ほど眠りかけているのか、目はトロンとして呂律も回っていない、マサヤ兄さんの腕を枕にしてゴロンと寝返りこちらを見る姿は同性の私から見ても可愛いと思う…じゃなくて…

「マサヤ兄さんっていつもこんな感じなの?」

「んぅ?こんな感じって?」

「えっと、だから…いつもこんな感じで眠りにつくの早かったりするの?」

「ううん。疲れてる時とかはこんな感じだけど、いつもはもう少し、ベッドに入ってからお話とかして気が付いたら寝てるって感じだったと思う……それよりも…サヤネさんも一緒に寝よぉ?」

そう言って手招きするアレグレットに従うように私もそぉっとマサヤ兄さんを起こさないように静かにベッドに入ろうとしたのだが…

「えいッ!」

「え?うわッ」

サヤネの手を引っ張り、強引にベッドに引き入れるアレグレット。
サヤネはその勢いに負け、マサヤの胸の中に顔をうずめる形でベッドの中に入った。

「あははは、サヤネさん。大胆〜」

「アレグレット…あんた…酔ってない?というか、もう少し静かにしなさい…マサヤ兄さんが起きちゃうじゃない…」

「だいじょうぶですよぉ。一度寝たマサヤ兄ぃは何をしても起きましぇん!ほら、こうやってプニプニしてもぉ。」

と、マサヤ兄さんの頬をプニプニと突っつくアレグレット。

「あ、でもぉ、殺気とか出すと起きちゃうから気をつけてくださいね。」

「そ、そうなんだ…というか、殺気!?アレグレット…あんた…もしかして?」

「私はそんなことしましぇん!マサヤ兄ぃから直接聞いたのと一度見たことあるだけでしゅ。」

「な、なるほどね…」

アレグレットの言葉に相槌を打ちながらマサヤの腕を枕にして、布団の中に入るサヤネ。

「えへへ、仲良し3兄妹。」

と言って、ニコニコするアレグレット。

…これは完璧に酔っ払ってるわね…そんなにお酒飲んでたかしら?

「そういえば、サヤネさん。」

「な、なに?」

考え事をしている時に突然呼びかけられ、戸惑うサヤネ。
しかし、その直後のアレグレットの一言が更に彼女の心をかき乱す。

「それで、サヤネさんはいつマサヤ兄ぃを襲うんですか?」

「………。え?えぇぇえええぇ!」

「ちょっと、うるさいですよぉ。ビックリします。私が」

「あ、ごめん…じゃなくて!あれは冗談だから!本気でそんな事しようだなんて思ってないし…そんな事したら…」

マサヤ兄さんに軽蔑されてしまうだろうし…マサヤ兄さんの信頼を裏切るようなことはもうしたくない…と段々と小声になりながら言うがいくら経ってもそれへの返答はない。
からかわれたのかとアレグレットの少し起き上がり、アレグレットを見てみると…

「すぅ…すぅ…」

寝ていた。
横向きになってこちらの方向を向き、マサヤ兄さんに息がかかるほど近くにより、見ようによっては抱きついているような体勢でアレグレットは寝ていた。

「……はぁ…」

それを見てどっと、疲れを感じたサヤネはベッドに身を沈め、目を閉じる。
しかし、

ー 一度寝たマサヤ兄ぃは何をしても起きましぇん!ー

先程、アレグレットが言った言葉が頭の中をグルグルと回り、それに耐えきれなくなり、目を開ける。
そして、

「よ、よいしょ…」

照れながらもアレグレットと同じようにマサヤに近付く…そして…

ーチュッー

サヤネはマサヤの頬にキスをして、すごい速さで反対方向を向き、高鳴る鼓動を抑えようと深呼吸をする。

「すぅ…すぅ…」

もちろん、マサヤはそれに気付かず、寝息を上げ、気持ち良さそうに眠っている。
その寝息のリズムや腕から伝わる優しい温もりを感じ、サヤネの心は次第に落ち着きを取り戻し、振り向き、マサヤの方を見る。

「ありがとう…」

…ごめんなさいは一回だけっていう約束だったから…
その代わりに…ありがとうを……

今日の出来事やそれ以前のマサヤとの思い出が彼女の脳裏を駆け巡る。

私なんかに期待してくれて…私をいつも助けてくれて…私を…妹にしてくれて…そして…私を幸せにしてくれて…

「ありがとう…マサヤ兄さん。チュ…」

そう言って、もう一度、マサヤの頬にキスをするサヤネ。
しかし、今度は顔を背けることはなく、逆にもっとマサヤに近づくように腕の付け根辺りまで頭を移動させ、抱きつくように手を伸ばす。

「えへへへ」

お前も酔っ払いか!?と正常な状態の自分であれば突っ込んでいたはずの現在の状況。
彼女の心臓はとても早い速度で鼓動を打ち、そんなことさえ考えさせない程の苦しみを与える。

「ふふふ」

しかし、サヤネのその笑顔はとても嬉しそうで…とても幸せそうであった。



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