【番外編 クリスマスプレゼント1】
(SIDE リエラ)
「え…え!?……ちょ…」
「ちゅ…チュル……」
手が届く程、近い距離に見える金髪の端正な顔…いや…もう、届いているというか……
「マ、マサヤ…さん?」
「ちゅ…はぁはぁ…これで、血が……ってダメか…救急箱ってある?」
私の指から口を離し、その手を取り、傷口を確かめるマサヤさん。
「え、えっと……その…そこの棚に…」
私はバクバクと鼓動を打つ心臓を抑えながらマサヤさんに救急箱の置き場所を教える。
「お、あった、あった……じゃ、手貸して」
と言って、私の手を取り、傷口を水で洗い、アルコールで消毒、綺麗な布と包帯で手際良く私の指を巻くマサヤさん。
「あぁ、俺も良く怪我するからなぁ…自分でやってるうちに慣れちゃったんだよ。」
と興味深そうな私の視線を感じたのかマサヤさんが恥ずかしそうに笑いながら話してくれる。
「これでよし!っと…えっと、ごめんな。いきなり、声かけて…」
「…いえ、確かにビックリしましたけど…手を切っちゃったのは私がドジだっただけで……」
「いや、俺が声かけなきゃこうならなかったんだし…謝らせてほしい…ごめん、リエラちゃん。」
私の手を離し、じっと私の顔を見つめた後、頭を下げるマサヤさん。
私はマサヤさんのそんな姿を見つめる。
「………」
「……」
暫く、無言の時が続く。
しかし、それは気まずいものではなく…心地良いものであり……私は…
「マサヤさん……」
「何?」
「あっ…そのッ!…えっと……」
話す内容を考えてなかったのに、思わず名前を呼んでしまい焦るリエラ。
そこに…
「あぁ、もう!まどろっこしいな。そのまま雰囲気に任せて、ブチュってキスすればいいでしょ。お姉ちゃん!」
そんな場違いな声が響き渡る。
「ルティス?どうしてここに?」
さっき、ホノミさんの所に行ってくると言って出かけたばかりなのに…とリエラは問いかける。
「私がここにいるのは不思議で、マサヤさんがいるのは不思議じゃないの?」
「そういうわけじゃないけど…というより、マサヤさん…なんでここにいるんですか?」
「えっ?そりゃあ、リエラの作った料理を食べに来たんだよ。」
「え……?」
…私の料理を…ってまだ、練習中なのに…
「ま、でも、そのせいでリエラちゃんに怪我させてしまったわけだし…そうだ!今日は代わりに俺が料理作るよ。」
そう言って、キッチンに立ち料理を始めるマサヤさん。
「あ、ありがとうございます……じゃなくて…!」
「ん?」
「なんでマサヤさんがアマゾン・リリーにいるんですか?いつもは…」
「あぁ、ちょっと用事が思ったより早く済んで帰ってきたんだよ。まぁ、その辺の話も食事する時にでも話すから、リエラちゃんはゆっくりしといてな」
そう言って、マサヤはフライパンを器用に振る。
「あ、あの…」
「ん?」
「わ、私も手伝います。片手でもできることは多いと思うんで…」
私は勇気を出して、手伝いを申し出る。
「ありがと。じゃあ、そっちのスープお願いできる?」
「は、はい!」
マサヤさんはニコリと笑って、私の申し出を受け入れてくれる。
私はドキドキしながらマサヤさんの横に立つ。
「おぉ、お似合いですなぁ…二人とも…」
そう野次を飛ばしてくるルティス。
「リエラ、あれはほっときゃいいからな…」
「はい。」
小声で私に話しかけるマサヤさん。
決して広いとはいえないキッチンの中、密着とまではいかなくとも、小声でも十分伝わるほどの距離。
私は不思議な気持ちになりながら料理を作った。
ー2時間程前のこと
(SIDE マサヤ)
「帰ってきたのはいいけど…」
ここはアマゾン・リリーのジャングルの中。
約1年に渡るサヤネ達の特訓指導を終え、白蛇の力でマリンフォードからアマゾン・リリーへと一瞬にして跳んだマサヤは腕を組み、考えていた。
「う〜ん…どうしよ?」
帰ってきたのはいいんだけど…お土産忘れてた…
ハンコック達なら別にいいって言いそうだけど…先月に帰ってきた時に約束したしな……
去年、手作りのクリスマスプレゼントをあげられなかったから、今年こそは…と意気込んでいたハンコックと約束したんだよな…
なぜかそれを見てナゴミがなんとも言えない微妙な表情をしていたけど…あれはいったい何だったのだろう…
「あれ?マサヤさん?」
「ん?」
突然かけられた声に振り返るとそこには、赤みがかった髪に短めの縦ロール、右目の下にホクロがある少女が立っていた。
「ああ、久しぶりだな。“ルティス”ちゃん」
「もぅ…私はリエラですよ。間違えないでくださ…」
「えい!」
俺はニコニコと微笑むルティス?のそばに近づき彼女のほっぺたをつまんでぐるぐると回す。
もちろん、痛くないように加減はしている。
「ふぁ?ふぁにするんでふかぁ?」
少し怒った瞳でこちらを見ながら可愛い声で抗議するルティス?。
俺はごめん、ごめんと言いながら彼女の頬から手を離し、右目の下にあるホクロを触ると
ーぺりッー
「…あ……」
剥がれた。まぁ、ホクロは剥がれるわけないからシールか何かだろう…
「ふ〜ん。ホクロがなかったらこんな感じなんだ…元がいいからどっちも可愛いけどな…」
「えっと…何でわかったんですか?」
「匂い」
「………」
「……」
時が止まる…わかっているとは思うが、レンの能力ではない。
言葉の魔法ってやつだな…うん…ナゴミ達みたいなノリで言っちゃまずかったな……そう考えていると…
「…っぷ…うふふふふふ」
突然笑い出すルティス。
「ごめんなさい。マサヤさんの困った顔が面白くて…つい…ふふふ」
「…笑いすぎだ、この悪戯っ娘。」
と言いながら、ルティスのおでこを指先でちょんと押す。
「ごめんなさい。ナゴミさん達を見てたら、つい……」
自分もやってみたくなったみたいだな。
まぁ、こんなところで俺に会うとは思ってなかっただろうし、それでも俺を見つけて瞬時に準備したってことは入れ替わりをしょっちゅうやっているってことなんだろうか…
「はぁ……」
そう考えると俺の口からは自然とため息がこぼれていた。
「なんなんですか?そのため息は!」
「………」
「あ、今、私のことを面倒な奴とか思いましたね…ひどい…ひどいです…マサヤさん…」
「……」
…なるほど…ルティスちゃんってこんな子だったんだ…
「まぁ…とりあえず、それは置いといて…なんでルティスはここにいるの?」
嘘泣きは取りあえず、スルーして本題へと入る。
「えぇ、私の涙は無視ですか?ひどい…」
「ナゴミがお前にする対応と同じものでよければ、喜んで突っ込んでやるぞ?」
「ごめんなさい!調子に乗ってしまいました。えーっと、私がここにいる理由ですね…」
余程、ナゴミのツッコミに対しての恐怖があるのか巫山戯たなりを潜め、真面目に話し出すルティス。
…まぁ、あいつも俺と似た性格だしな何をしたのか大体は予想がつくけど…
「で、マサヤさんはどうして、ここにいるんですか?まだ、いつもの日には早い気がしますけど…」
「あぁ、それはな……」
俺もルティスに予定よりも早く用事が済んだこと、ハンコック達に渡すプレゼントを忘れてしまったことなどをかいつまんで説明する。
「なるほど…マサヤさんも…意外と抜けてますね…」
「あぁん?」
「い、いや、なんでもないです…あ、そうだ!私達の家に来ませんか?皆で考えれば何か思いつくかもしれませんし、それに…」
「それに?」
「い、いえ、マサヤさんが顔を出せば、お姉ちゃんも喜ぶと思いますし…多分、今は料理の練習をしてると思うんで、味見してあげてください。そうすれば、お姉ちゃんのプレゼント作りもはかどると思うし…」
そう言って、ルティスはマサヤの手を引き、自分達の家にマサヤを招き入れたのだった。
「…ということがあってだな…とりあえず、リエラの作った料理でもいただこうかなってことでお邪魔したんだけど…ごめんな。」
「むぐむぐ…ごくッ…そうですよ。お姉ちゃんを傷物にした責任とって下さい!」
ーパッシーンー
「いったーい…」
「もう、ルティス変なこと言わないの!マサヤさんに失礼でしょ。」
どこから出したのかリエラが持つスリッパが小気味いい音を鳴らす。
「ごめんなさい。ルティスもマサヤに会えてはしゃいでるんですよ。」
「も?……ご、ごめんなさい…」
ルティスがすかさず、ツッコミをいれるがそれをひと睨みで黙らすリエラ。
「まぁ、俺も久しぶりに二人に会えて嬉しいよ。でさ、ちょっと…聞きたいことがあるんだが…」
「何ですか?」
「二人とも何か欲しい物とかない?」
「え?」
「さっきも言った通り、プレゼントを何にしよう…って話なんだが…なかなか思い浮かばなくてな…なんか、これがあれば便利だなぁとかあれが欲しいなぁ…って何でもいいから教えてくれ。」
俺がそう言うと二人は顔を見合わせるが…
「私達に今、欲しい物はありません。」
「今がとても幸せだから…」
すぐに、こちらを向き、そう答える。
二人には遠慮しているといった様子はなく、本気でそう思っていることが感じられ、俺まで嬉しくなってくる。
「そっか…」
「あっ…でも…」
「ん?」
マサヤが穏やかな瞳で二人を眺めているとルティスが何か思い出したように呟く。
「お姉ちゃんが…」
「リエラが?」
「恋人が欲し…」
ーパッシーーーィンー
本日、二度目のツッコミにルティスは頭を抑え、蹲る。
スリッパとはいえ、かなりの威力が予想できる一撃だったしな…
「ま、マサヤさん、私、そんなこと…」
「わかってる。ルティスの性格も大体わかってきたしな…でも、まぁ一理あるか…」
「え……」
「こんな可愛い子が独り身ってのもあれだしな…」
「え…?」 「お?」
蹲っていたルティスも起き上がり、興味深そうにことらを見る。
「あれだ、一緒にリエラの彼氏を探す旅でもするか?」
ーガタッー
「おい、大丈夫か?」
二人に揃ってずっこけられて驚くマサヤ。
「えっと…マサヤさん、それって冗談だよね?」
「いや、わりと本気だぞ?まぁ、彼氏云々は冗談だが…俺らって知り合って一年以上が経つけど、一緒に過ごした時間って数えられるくらいしかないしな…お互いのこと知っていくには一緒に旅するのもちょうどいいんじゃないかってな…」
まぁ、ナゴミから俺に対する誹謗、中傷の数々を刷り込まれてるかもしれないから、それを払拭したいしね…と付けたし笑うマサヤ。
「えっと…でも…私達…賞金首で…」
「大丈夫。俺がお前らを守ってやるから。まぁ、それに旅っていうのは手段の一つで俺の目的はお前らと仲良くなりたいってだけだしな…これからはここに暫くいるつもりだから少しずつでも……って…あれ?」
(SIDE リエラ)
「………あれ?」
言葉の途中でマサヤさんは目を見開き、私達を見つめる。
「え、えっと…どうしたんですか?」
「いや、お前らさ…服…」
「服?」
私達はマサヤさんの視線を追い、自分の体を見てみるが何のことをいっているのかわからない。
「えっと…この島流の服装になったんだなぁ…ってな。なんか意識すると…やっぱ、刺激的だわ…その格好…」
「え…あ!」
ここみは女性しかいなかったため意識することがなかったので忘れていたが…このアマゾン・リリーの服装はなんというか…マサヤさんが言うとおり、刺激的なものであり、それを意識してしまうと…とても恥ずかしくなる。
しかも、それが異性…しかも、マサヤさんの前ということもあり……
「え、あ、きゃ、マサヤさん、見ないでください…」
と言って、リエラは自分で自分の体を抱く様に縮こまり、机のしたへと隠れてしまった。
それに対して…
「えへへ、そう?似合う?」
と何かよくわからないポーズをとるルティス。
「ああ、二人とも凄く似合ってるよ。でも…」
「「でも?」」
一人は顔だけ出して不安そうに、もう一人は少し不満そうな顔をする。
「ずっと前から思ってたんだが…その格好って冬、寒くないの?」
「「は?」」
「いや、なんか、どの季節でも同じような格好してるよなぁ…って昔から気になってたんだが、聞くに聞けなくてさ…」
「はぁ…やっぱり…少し寒いと思う日もありますね…ハンコックさんも外海にいた者にはキツイだろうから、無理はしなくていいと言ってくれるんですけど…」
いつまでも…お客様気分じゃいけないと思うから…と答えるリエラ。
「そっか…リエラは偉いな…」
そう言って、マサヤはリエラに近付き、リエラの頭を撫でる。
「それにありがと。」
「え?」
そして、紡がれる感謝の言葉。
「リエラのおかげで、プレゼントが決まったよ。お礼に今回のプレゼントはお前に一番最初に渡すからな、楽しみにしといてくれ。」
私の頭を軽くポンポンと叩き、ウインクをするマサヤさん。
「えー、私は?」
「お前にもやるから安心しろ。でも…」
「ありがと…私のおかげ…私…一番……」
近くではルティスとマサヤが何かを言い合っているが、それを気にすることなく、リエラは幸せそうにマサヤの言葉を反芻し、胸に刻み付けるのだった。