【番外編 クリスマスプレゼント 2】
「そっか…海温石か……ありがとう。助かったよ。」
「うむ…それはよいのじゃが…」
「ん?どした?」
「それもショップで買えるはずじゃろ?なぜ、そこまで手間をかけるのじゃ?」
辺りは白一色の空間に金髪の青年と白い大蛇が向かい合って、話をしていた。
「まぁ、そうなんだけどさ。こっちも手作りでプレゼントした方がいいかなって思ってさ…やっぱり、人が自分の為に手間をかけて作ってくれたものって嬉しいじゃん?」
「そんなものなのか?いまいち我には理解できんことじゃな。」
「まぁ、ハクっちって何もかも効率的に済ませようって感じのタイプっぽいしな…まぁ、それはそれで魅力的だけど…」
「………」
「そういえばさ……」
俺はこの際だから、いくつか気になっていたことを聞こうと思い口を開く。
「ハクっちって本当の姿ってどんな感じなの?」
「どんな感じと言われてもな…」
「もし、迷惑じゃなければ…っても、迷惑だろうけど…本当の姿見せてくれない?今までのお礼でさ、酒も持ってきたから一緒に飲もうぜ?」
そう言って、マサヤは酒樽を目の前に出す。
「何か持ってきていると思えば、そんなものだったのか…まぁ…だが……感謝する…」
「いやいや、こっちこそありがとう…」
「では、今から人の形をとるから少し、気を張っておけ…」
「…え?」
少し怪訝に思いながらも言われた通り、何が起こってもいいように精神を集中させ備える。
そんな俺の姿を見届けた直後、ハクッちの身体は虹色の光に包まれ、人の形へと変化していく。
「……くッ…!」
よくアニメなどで見る魔法使い達の変身シーンに似ているが…そこから溢れだす威圧感は半端ではなく、マサヤは少し顔をしかめる。
「よし…これでよいか…どうじゃ、マサヤ。」
「ちょい待って…って、えええぇええ!」
「なんじゃ、人の顔を見て、失礼な奴じゃ。」
腰に手を当てて俺の態度を咎めるハクっち、その姿は…
「ハンコック…」
にそっくりであった。
ただ、ハンコックと異なる点もある。
まずは髪型、ストレートなハンコックに対し、こちらはポニーテールであり、この髪型もかなり似合うなぁと思ってしまった。
そして、彼女の体から溢れ出る、幾年の時を重ねて得られた神々しさ。
可愛さだけではなく威厳も兼ね備えたなんというか…女性としての一つの完成系みたいな…そんな印象を受ける。
「ほら、どうした?酒を飲むのであろう?呆けてないで、はよう近こう寄れ。」
「あ、ああ。じゃ、お邪魔しまーす。」
気を取り直し、ハクっちの目の前まで近づき、腰を下ろす。
「っても…凄い気というか力だなぁ。」
「いや、これでも抑えている方なんじゃがな…人型になると無意識に本来の力を使おうとしてしまうから力の制御が雑になってしまうのじゃ。」
「ふ〜ん。やっぱ、元の姿とここでの姿の力の差ってかなりでかいもんなの?」
目の前のハクっちの威圧感から推測する力とナゴミ達の力を比べてみるが桁違い…そんな言葉が頭をよぎる。
「まぁ、あやつらは正規の方法でここに来ておるから、この世界のルールによる制約も強い。大体、個人差もあるが、ここに来たやつらは今、元の姿の1〜5%程の力しか持っておらぬ。」
「1〜5%って……例えば、ナゴミは元々、今の20〜100倍の力を持ってたってこと?」
マサヤはナゴミ100人と戦うという構図を頭に浮かべ苦虫を噛み潰したような顔になる。
「いや…○○○の場合は、妹がおったであろう?それと、いつぞやの研究室で戦った者たち…そやつら全員をまとめて元の力の1%程になるんじゃ。」
「……え?」
「天使や悪魔にも個体差はあってな…とりわけ、○○○は天使・悪魔の中でもトップクラスの力を有しておる。そんな奴の1%というのはこの世界のキャラクター達の上限を遥かに凌駕するものであり……」
その1%に制限された力をさらにいくつかに分けていると…ハクっちは言う。
「じゃあ、裏ボス関係に姉妹が多かったのも…」
「それが原因じゃな。我も肉体がないから単体ではこの世界に干渉出来ないといった多少の制限を受けているが我の目的を達成させるためには力など必要ないしな…」
「ふーん。目的ねぇ…」
「なんじゃ?そなたは我の目的に興味がないのか?」
肩を寄せて俺を見上げるハクッち。
酔っぱらったのか顔が赤く、俺を見つめる瞳も潤んでいて艶やかである。
「いや、興味ないわけじゃないけどさ…」
「けど…?」
「まぁ、なんていうんだろう…そういうのはシラフの時にさ、真面目に聞いてあげたいと思うし、その目的が理に適ってると思うんなら手伝いたい。今みたいに酔っ払ってる時に聞いてもな…雰囲気的にもあれだし……つか、天使が酔っ払うなよ…」
「仕方がないだろ…このままだとすぐにアルコールを分解してしまうから抵抗力を下げたんだが…どうやら、調節を間違ったみたいだ。あぁ、マサヤが三人に見える……」
呂律は回ってるんだが…行動がちょっと危なっかしい感じで見ててとても面白いがやっぱり、怪我とかしちゃいけないしな……
「おい…」
「え?きゃ…」
俺はハクっちの手を引っ張り、ハクッちを横にして頭を俺の膝にのせる。
「こ、この無礼者!離せ、離さぬか!」
「黙れ、酔っ払い。見てて、危なっかしいんだよ。少し落ち着いたら自由にしてやるから静かにしてろ。」
「あとで覚えておれ…」
そう言って、大人しくなるハクっちの頭を撫でながら俺は穏やかな時を過ごす。
「なぁ、マサヤ…そなたは…」
「ん?」
「そなたの目的はなんじゃ?そなたはこの世界で何を為すつもりなのじゃ?」
「まぁ、最初にここにきた時はこの世界は俺のための世界だと思っててな。好き勝手に生きて楽しんでやろうって思ってたんだけどな…リディアの話を聞いてさ、まだ、記憶は戻っていないけどナゴミが神の支配からの解放を望むんならそれを叶えてあげたい。それに…自分がこの世界のスパイスのために呼ばれた脇役なんて認めたくないからな…まぁ、何とかしてその自称神の鼻を明かしたいと思ってるよ。」
「そうか。やはり、そなたは面白い男じゃ。力が必要な時には我を呼べ、いつでも力を貸してやる。」
「………」
「なんじゃ?黙って。」
「いや、何か…同じこと人に言った事あるけど…言われてみると結構恥ずかしいな…」
「そうか…なら…これも……どうだ?」
そう言って、ハクッちは飛び上がり驚いた俺と体勢を入れ替える。
「ちょ…やめろ。酔っ払い……」
「酔っ払いが大人しくすると思ったら大間違いだ…うりうり〜」
そう言って、膝の上にいる俺の頬を突つくハクっち。
いつも自分がやっていることをされ、凄く恥ずかしい気分になるが…一方で、楽しそうにそれをするハクッちの顔をみてると悪い気はしないという気持ちになってくるから…不思議だ…
「……ま、たまにはこんなのもいいか…」
俺はハクッちの楽しそうな表情を見ながらそう呟いた。