小説『ファミリー』
作者:zebiaps(ZEBIAPS小説)

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聖弥は全力で走っていた。
助けてと叫びたかった。
教室を出てから父や兄の声が聞こえてくる。
道のあちこちに父と兄がいる。
何人も何人も。
「やめろ・・・。来るな・・・。やめてくれ・・・。来るなー!!」
どこに逃げてもいる。
耳を塞いでも聞こえてくる。
「頼む・・・。やめてくれ・・・。ごめんなさい! ごめんなさい! うわーーー!!!」
聖弥はずっと走り続けた。

一方、熱海市では騒動が起きていた。
叫びながら走っている子供がいると警察に通報され、あらゆる人々が話す話題がそれでもちきりになった。
警察はその子供を全力で捜し、行方を追っていた。
学校でも脱走する生徒がいたということが広まり始め、授業どころではなくなった。
全教師がその生徒を捜索するという異常事態が起きていた。
生徒達は先生達がいないことを知っていたので、廊下に出て、噂話を始めていた。
「誰が脱走したんだろうね」
「三年二組の木村聖弥っていう人らしいよ」
「何で脱走したのかな?」
「分かんない」
愛里達三人は、この状況なら自分達も学校から出られるだろうと推測した。
生徒達は噂話に夢中になっているし、先生達もいない。
「よし! 聖弥を捜そう!」
「うん!」
「おう!」
三人は学校から飛び出した。

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
聖弥は未だ走り続けていた。
先程はただ大勢の父と兄が見てくるだけだったのに、今度は追ってくるようになった。
車で追う者、バイクで追う者、走って追う者・・・。
聖弥は捕まらないように、柵を乗り越え、森に入っていった。
足場は悪いし、時々棘が刺さったりしたが、今はそれよりも逃げることのほうが先だった。
「やめろー!!!」と叫びながら走り続けた。

愛里達三人は、手分けして捜すことになり、それぞれがそれぞれの場所で聖弥を捜索していた。
愛里は、人の家の庭や、柵が取り付けられて行けなくなっている森など、道がない場所を重点的に捜していた。
美奈は以前聖弥と叫び合った海の周りを捜し回っていた。
翔大は家出した時のことを活かして、隠れそうな場所を予測して捜し回っていた。
だが、そう簡単に見つかるはずもなく、ただただ時間が過ぎていった。
それでも彼等が諦めることはなかった。
再び四人になることを目指して・・・。

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