小説『ファミリー』
作者:zebiaps(ZEBIAPS小説)

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

「終わったー!」
「帰れる!!」
教室では全ての授業が終わり、生徒達が歓喜の声を上げていた。
しかしその中で三人だけ静かな生徒がいた。
聖弥、愛里、美奈だ。
朝の出来事のせいで、お互い何も話していない。
そんな状況の中でも、三人の中で特に心配性の愛里が、翔大のことがどうしても気になり、二人を呼んだ。
「ねえ、これから翔大のお見舞いに行かない? 風邪ひいてるらしいから心配だし」
「そうだね。そうしよう」
なぜ気まずい空気になっているか分からない聖弥は、とりあえず空気に合わせて静かに答えた。
聖弥も翔大のことは気になっていたのだ。
美奈も「そうだね」と静かに賛成し、三人は翔大の家へと向かうことになった。

しばらく歩き、翔大の家に着いた三人。早速愛里がインターホンを押し、
「三人で翔大君のお見舞いに来ました」
と言った。
翔大の母、尾崎は三人の突然の訪問に驚き、それと同時に翔大が家出したという事実がバレることを恐れた。
そのため、三人を引き帰らせようとした。
「ごめんね、翔大の熱がどうしても下がらなくて、ずっと寝込んでるの。起こしたら悪いから、今日は帰ってくれる?」
この対応を不審に思った愛里は、出来るだけ家に入れてもらえるように努力することにした。
「どうしてもダメなんですか?」
「え、ええ・・・」
「宿題のプリントとかも渡したいですし・・・」
「熱がひどすぎて手をつけられないと思うわ」
こんな調子で五分ほど粘り、愛里は決めのセリフを口にした。
「そばにいるだけでいいんです」
この言葉には尾崎も困った。
無理矢理返せば怪しまれるし、入れればバレる。
尾崎はしばらく考え込み、沈黙の時間が一分ほど続いた。
そして諦めたように尾崎は話し始めた。
「実は、あなた達は家の中に入る必要はないのよ。なぜなら翔大はいないから」
突然そう言われた聖弥、美奈は同時に「え?」と呟き、愛里は「やっぱり・・・」と呟いた。
愛里は先生や尾崎の態度から、翔大の休んだ原因が風邪程度のものではないと想定していた。そして今の尾崎の発言により、その考えは確定した。
「実は、翔大は昨日から家出してるの。風邪というのは嘘」
愛里はなるほど、と思った。それなら朝の先生の態度や尾崎の態度も説明がつく。
「家出!?」
突然聖弥が大声を出したので、愛里と美奈は驚いた。
「なぜそれを先に言わないんですか! 早く捜した方がいい。多くの人に捜してもらった方がいい。絶対そっちのほうが見つかる確率は高いじゃないですか! それとも心配じゃないんですか? 僕は心配ですよ。空腹になっているかもしれないし、交通事故になっているかもしれない。急いで捜してきます!」
そう言って聖弥は走り出した。
この言葉を聞いた愛里と美奈は、やはり聖弥は、父親にナイフを向けるような人ではないと改めて実感し、「私達も捜してきます!」
と勢いよく走り出した。

-9-
Copyright ©zebiaps All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える