小説『マスター、お腹減ったんでちょっと出掛け……すいません、ガンド撃たないで!』
作者:モアイ()

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      第十四幕   マスター、こんなでも一応英霊です。




―――轟音。



今までとは比べ物にならない大音量が、辺り一帯へ響き渡る。



バーサーカーの大上段に振り上げられた斧剣は、その絶大な威力を持って轟音に加え土煙(・・・・)の柱を生じさせながら、地面へと叩きつけられる。



正確には、生じたそれは土煙ではない。




ここは町中の十字路……舗装された道路だ。




巻き上がる土などなく、かわりにアスファルトが地面を覆っている。




すなわち、土煙のように巻き上げられたのは、細かく砕けたアスファルト。




アスファルトを煙のように巻き上がるほどに細かくしたことからも、バーサーカーの一撃がいかに常軌を逸しているかが窺い知れる。




その凄まじい凶刃にさらされた士郎の身体は、まるで強風に煽られるビニール袋のように軽々と、爆発のような衝撃により横方向(・・・・・・)へと吹き飛ばされていた。




そう……真正面から斧剣の軌跡にさらされたはずの士郎は、斧剣をその身に受けることなく吹き飛ばされていた。




なぜか?




セイバーが士郎を庇うことに成功したから?




いや、士郎を庇おうと満身創痍な華奢な身体を盾にすべく近づいていたために、バーサーカーの桁外れな一撃の余波をもろに受けてしまっていた。




そのためにセイバーの身体は凛の頭上を越え、再びブロック塀に叩きつけられた。







ならば、凛が魔術を用いてバーサーカーの斧剣の一撃を逸らした?




いや……凛はバーサーカーの真正面におり、ガンドを撃ち込んでも士郎を横へ吹き飛ばすように斧剣の軌跡を逸らすことは不可能である。





そも、ガンドでは軌跡を逸らすほどの強い衝撃は与えられないだろう。




それ故、必然的に。





バーサーカーの斧剣による一撃、その軌跡を士郎の身体から逸らしたのは…………アーチャーただ一人、ということになる。




まさしくそれは真実であった。



アーチャーが今まさに手にしている拳銃…………デザートイーグル50AE。




これが射出する50AE弾は、衝撃を拡散することにより拳銃弾を防ぐ防弾ベストを、その衝撃だけで貫通せしめる。




その弾丸を、音を置き去りにする速度で振り下ろされた斧剣の切っ先近くに二発叩き込み、士郎の身体に真っ直ぐに伸びた軌跡を強引に逸らしたのだ。



その時間は、ほぼ一瞬。



凛やイリヤ、人間には知覚困難な一撃にタイミングを合わせた銃撃はこれまでのおとぼけを鑑みても、なるほどアーチャーのクラスにて現界した英雄にふさわしい技量である。




そしてアスファルトが砕かれ、士郎の身体が吹き飛んだ際にはもうすでにアーチャーは走り出していた。





無論、それをそのまま許すバーサーカーではない。




「■■■■■■ーーーッ!!」




咆哮とともに、アスファルトを抉り地面に食い込んでいた斧剣を、その圧倒的な膂力に物をいわせて横方向へと薙ぎ払わんとする。





その寸前、轟音と共にデザートイーグルが火を噴き直径12,7mmの鉛玉がバーサーカーの顔面…………正確には目元めがけて飛翔する。




本来なら吸い込まれるように狙った箇所に叩き込またであろうそれは、しかしバーサーカーが反射的に庇った左手の甲に当たるにとどまった。




しかし、自身の攻撃を防がれたはずのアーチャーの口元が、クイと持ち上がり普段のヘラヘラとした締まりのない顔とは違う不敵な笑みが浮かぶ。





そもそも、先ほど撃ち込んだ際には通用しなかった物をなぜ撃ち込んだかといえば、あくまでも目眩し……バーサーカーの薙ぎ払いの狙いを甘くさせるためのものであった。




アーチャーのみならばそのまま情けない声でもあげながら避けることは出来たろうが、いまはその軌跡に士郎がいるのだ。




もはやアーチャーのすぐ目の前、手を伸ばせば掴むことが叶う距離にいるといってもこのままでは斧剣が士郎を巻き込んで薙ぎ払われてしまう。




それでは意味がない。ゆえに残弾数一発のデザートイーグルを目に叩き込み、目を潰す……もしくは視界を狭くすることによって自身と士郎が薙ぎ払いの範囲から脱しやすくすることを選んだ。





それは功を奏し、士郎を抱えたアーチャーは自身の左手の甲により視界がゼロになったバーサーカーの一撃の範囲からギリギリのタイミングで飛びのいた。





そのままの勢いで、凛に背を向けながらその眼前へと移動した。




「アーチャーッ!!衛宮君は……」
「ホイサッ」


「ヒャッ!?」




目の前のアーチャーに士郎の様子を聞こうとした凛に、アーチャーはひょいと軽く士郎の体を預ける。



唐突に士郎を預けられた……というよりも押し付けられた形になった凛は、その60Kg近い重量に女の子らしい声を上げる。



とはいえ、よろめきながらも士郎の体をきちんと受け止めたことはさすがというべきだろう。




「アーチャー、とっとと」
「マスター、士郎さんと一緒にセイバーさんとこまで行っててもらえます?」


「なっ…………!?」



逃げることを指示する前にアーチャーが口にした言葉に、凛は絶句した。


アーチャーの提案にはアーチャー自身のことは含まれていなかった。



それは、つまり。



「あんた、一人であいつと闘うつもりなの!?」

「全員が背なんか向けたら、どうぞ殺してくださいって言ってるようなもんでしょ?それに、士郎さんは直撃を受けてないとはいえほっといていいような状態じゃないですし」



凛は、グッと言葉を詰まらせる。



アーチャーの懸念は、普段のおとぼけぶりからは考えられないほどに的を射ていた。


バーサーカーの巨体に見合わぬ速度を鑑みれば、誰かが留まらなければならないことは明白であり、それをこなせるのはアーチャーしか居ない。



士郎の怪我に対する懸念も、現状を悪化させる要因だった。



バーサーカーの凶刃は直撃こそしていない。



しかし華奢な体格のセイバーとはいえ、人一人を数メートルもの距離まで吹き飛ばす衝撃を間近で受けた士郎が無傷であるとは考えられないだろう。



だからこそ、唯一対抗することが可能なアーチャーを留まらせセイバーと合流し、士郎に治癒魔術を使った後に令呪でも使いアーチャーを回収し、あるいは見捨てることも視野に入れながら撤退することが合理的に考えて最善であると凛は理解している。



だが、しかし。




「でも、それは……つまり……………………」




生き残るためとはいえ、最優のサーヴァントたるセイバーを圧倒するバーサーカーとアーチャーを対峙させることはつまり、『死ね』ということとほぼ同義だろう。





そのことも十分に理解している凛は、思わず言い淀む。





合理的にあろうとし、しかし合理的になりきれないのが遠坂凛なのである。



「ハッハハッ。なぁ、マスター。これでも一応英霊なんですぜぃ、俺は」




そんな凛の垣間見せてしまった甘さゆえの態度を、アーチャーはいつものようなへらっとした顔と発砲スチロールのような重さの軽口で受け止める。



そして、右手のホールドオープン……弾切れになると起こる、スライドが後退したままの状態のデザートイーグルの空のマガジンを落とした。



マガジンはそのまま地面に落ちる……直前に赤い陽炎のような、魔力の光と引き換えに世界から消える。



「それに、マスターは高校生にしてこの冬木のセカンドオーナーを務めるよな優秀な魔術師なんでしょう?なら、そんな優秀なマスターに召喚されたサーヴァントたる俺は、時間稼ぎくらいそつなくこなせるでしょうよ」




違いますか、とでもいうように顔をこちらに向けるアーチャー。




アーチャーの意図するところを察した凛は、それに応える。







「………………ハァ?何言ってるのよ。あんたが私のサーヴァントだっていうんなら時間稼ぎなんてしょぼいこと言わずに、ガツンとぶちのめしてやります!!ってくらい言いなさいよ。ていうか、ガツンと派手にぶちのめしてやりなさい!!そのかわり…………」




凛は士郎の体を支えていた姿勢を変え、自由になった左手でアーチャーを指さして。



「むざむざ殺されたりなんかしたら、許さないわよ」



見惚れるような、しかしどこか威圧的な笑みを浮かべ、そんな言葉を言い放つ。



「ハッ、ハハッ、ハハハッ!!了解した、マスター」



受けたアーチャーは愉快そうに笑った後、カッチリとした返答をする。




言葉にこもった、優秀だがしかしどこか不器用なマスターの優しさを理解して。











「あっ、そうだマスター。これ使ってください」



アーチャーの唐突な言葉のどこか呑気な雰囲気に、これまでの付き合いから培った勘が凛の頭に高速で嫌な予感を走らせる。



具体的にいえばF1カー並みの速さで。



視線をアーチャーの左手に向ければ、銃のような持ち手が特徴的な注射器にこれでもかと詰められている緑の液体……………………。




「そんなもんいらないわよッ!!!」


「え〜、擦り傷切り傷打ち身に火傷、軽い内臓損傷から未知のウィルス寄生虫にまで効くんすよこれ」




むしろそれが未知のウィルスみたいなんだけど、という言葉をぎりぎりで、ほんと口を開けば勢いよく飛び出しかねないくらいぎりぎりのタイミングで凛は飲み込む。



「魔術があるからいいわよ、そんなの使わなくたって」




赤い光を伴い注射器を消したが、いまだ不服そうなアーチャーの顔を可能な限り意識から追い出し、真摯な思いを込め口を開く。




「それじゃ、あとは任せたわ」




その言葉を受け顔が引き締まり、赤い魔力の光が今度はアーチャーの全身に生じる。




そして光が消え去った後には、アーチャーの姿は黒を中心としたカジュアルな服装から、黒ずくめといった格好へと変わった。



上下ともに黒い、長袖に長ズボン。その上から、上半身は堅牢さより動きやすさを重視した鉄の数倍の強度の強化繊維で編まれた防弾ベスト。そして肘に膝、さらに脛を覆うプロテクター。様々な箇所に備えられたポケットに小物入れ。左の腰には大型ナイフ。




見る人が見れば、軍隊の特殊部隊の装備のようだと評するだろう黒ずくめの服装は、アーチャーの日本人然とした黒髪も相まって闇夜に溶けていきそうである。




そして左手でマガジンをポケットから抜き取り、デザートイーグルのグリップへと滑り込ませる。




そして、クイと顔を凛に向け口の端を持ち上げながら一言。



「ええ、任されました」



そのすぐ後。



ガシャン、と金属がこすれぶつかる音とともにスライドが前進し初弾が装填される。




合図と決められたわけではないが、凛はその音とともに自身に強化の魔術をかけセイバーの元へと駆ける。



そしてアーチャーは、押し潰すかのような殺気を放つバーサーカーと相対した。




凛side




明日の天気は槍の嵐かしら。



これまでのおとぼけは、一体なんだったのかと言いたくなるようなバカーチャーの態度が妙に頭に残る。




最後にこちらに向けた表情が不敵な笑みに見えたのも、今までとは違う態度が原因だろう。




…………フゥ。



らしくないわね。バカーチャーも、私も。




とりあえず今は一刻も早くセイバーのところへ行くべきね。




私が近くにいたら、間違いなく足手まといだ。



あそこまで大見得を張ってもらっておいて、私がいたせいで…………など笑えない。




そもそもどうあっても笑えるような状況でもないが。




「グウゥゥ……ハァ、ハァ」



崩れたブロック塀から這い出すセイバーが視界に入る。






……………………この闘いで荒れた道路などの隠蔽工作などは、監督役である綺礼に丸投げしようと思った。




「……魔術師(メイガス)、士郎は……無事ですか……?」




セイバーは自身の身体よりも、マスターである衛宮君を心配している。




……なぜだろうか、これをバカーチャーに置き換えようとするとまるで映像が浮かばない。




「とりあえずは生きてるわ。まだきちんと様子を見たわけじゃないからなんともいえないけれど」


「ずいぶんと……ハァ……余裕があるのですね、貴女は」



多分この余裕は、バカーチャーとのアホなやりとりのおかげだろう。




「余裕をもたなきゃやってられないわよ。こんな状況」




どうにも癪に障るから口に出す気などまったくないが。



魔術師(メイガス)、アーチャーはどうした?そもそもバーサーカーは?」




どうにか落ち着いてきたらしいセイバーが、現状を確認してきた。




もっとも、あくまで整ったのはあがった息と外見だけで実際にバーサーカーと闘えるかといえば、間違いなく答えはNOだろうが。



「バカー……アーチャーはいまバーサーカーを足止めしているわ」


「なっ、大丈夫なのですか!?」



セイバーが一瞬息を呑み、疑問を呈するのは当然だろう。



アーチャーとは弓兵、本来は遠距離から狙い撃つのが本分なのだから。



実際バカーチャーの武器は飛び道具だ。



だがあいつは、今日ランサーの猛攻を回避しきったのだ。



あの時は思わず、一方的に攻められている様子にバカーチャーを弱いと判断したが今…………落ち着いて考えればあいつは弱くなどないだろう。



遠距離が本分であろうアーチャーでありながら、最速のクラスたるランサーの攻撃を、一撃も掠めることもなく、避け続けたのだ。



それにあいつはすっとぼけてはいるが、私の指示をきちんと聞き入れている。



昨日、ランサーと闘う前日に出した『回避中心に闘え』という指示に従ったのだろう。



つい先ほど使っていた拳銃を使わずに、回避しかしていなかったのだ。



おそらく、今回も回避を中心に立ち回り、死ぬことはまずないだろう。



「大丈夫じゃないでしょうね。アーチャーは本来飛び道具を得意とするクラス、このままじゃ死ぬわ。」



「―――ッ!!魔術師(メイガス)、貴女はアーチャーを見殺しに」
「するわけないじゃない。見殺しにも、ただの撤退も」



だが、バーサーカーを倒すことはほぼ不可能だろう。



あまりフェアとはいえないが、少しばかり嘘をつかせてもらおう。


まさかとは思うが念には念を、だ。




「セイバー、私はあなた達と同盟を結ぶことを提案するわ」



「同盟…………?魔術師(メイガス)、分かっていますか?その意味を」





聖杯戦争において、同盟はあまり褒められた策ではない。



バトルロワイヤル形式である以上、同盟を結んだ相手ともいつかは闘わねばならない。



そして、同盟を結べば自身の手札を見せることにつながるからだ。




セイバーが訝しがるのも無理はない、が。



「ええ、わかっているわ。このままじゃ、私たちは死ぬ」



一方は傷つきマスターとの契約も不完全。一方はクラスから鑑みて、ステータス上勝ち目が薄い。




アーチャーのことをよく知らないセイバーからすれば、手を結ばなければ状況は最悪でしかない。





「……ええ、その通りですね。こういうことは、本来ならマスターであるシロウが決めるべきことなのですが…………」





セイバーの視線の先には、意識を失ったままの衛宮君。




人知を超えたサーヴァント同士の闘いに無理に首を出した、失礼な言い方をすればとびっきりの馬鹿だ。





「今は仮ってことでいいわ。とりあえず生き残ることを考えましょう。まあ、同盟の話は明日生きていたら話してちょうだい。…………ついでに説教も」



「…………わかりました、魔術師(メイガス)

「遠坂凛、凛って呼んで。せっかく同盟を結んだのにそんな呼ばれ方もなんだし」


「…………ええ、わかりました。凛」




さて、同盟もまとまったことだし。



とっとと衛宮君に治癒魔術を…………。




「ゲフッ……ゴホッ…………!!」




顔をむけると、まるで図ったかのように衛宮君が咳き込み血の塊を吐き出す。



…………まずい。


人が血を吐くのは、まず間違いなく内臓を傷めたときだ。



すぐさま衛宮君の上の服をガバリと捲り上げる。



赤黒い。今の衛宮君の腹部を一言で表すのなら、このなんとも人の肌の色からかけ離れた単語が最適だろう。


おそらく内臓が傷つき内出血を引き起こしているであろうことは、医療に関して素人の私でもわかる。




原因はすぐに思い当たる。


バーサーカーの一撃で吹き飛んだ路面の、比較的大きめのアスファルトの破片が勢いよく当たったのだろう。



素の状態の私の治癒魔術では到底治しきれるとは思えない。



―――擦り傷切り傷打ち身に火傷、軽い内臓損傷から未知のウィルス寄生虫にまで効くんすよこれ。





フッと、バカーチャーの言葉が頭を掠める。



いやいやいや、あんな胡散臭いもん使おうとしたら同盟が一瞬で粉微塵よ!!



ブンブンと頭を振り、あの緑の物体X(仮)を頭から追い出す。




ええい、少しもったいない気がしないでもないがそんな場合じゃない!!!




自身の懐から、掌に収まる宝石を取り出す。



私が専門としている魔術は『宝石魔術』。


本来保存できない魔力を、宝石の中にストックし宝石に宿った念に乗せて魔力を開放することで強力な魔弾として使用できる。




一度セイバーに出合い頭に投げつけて使用したが、高い対魔力によって無駄になった。実は使い捨てなのだ。

そして使ったのは何百万もするトパーズだったりする。……何百万。




やめよう。これ以上の思考は危険だ。精神衛生的な意味で。




いまはこの魔弾としての使い方ではない。



大きく口をあけ、宝石を放り込む。




そして形状変化の魔術で液状にし、そのまま飲み下す。



感覚としては無味無臭の飲むヨーグルトと言ったところか。




少なくとも好き好んで飲もうとは思えない感じだ。



ごくりと飲みきり、腹部に熱が灯るのを感じる。



宝石に溜め込んだ魔力を吸収し、一時的にブーストする使い方だ。




やはり使い捨てである。ああ、何十万が消え去った…………。




私は、衛宮君に損害賠償の裁判を起こしてもいいんじゃなかろうか。



いや、いまはバカーチャーも闘って魔力を消費しているのだ。



だからこれは完全に人の為じゃない。私の為でもあるんだ。



そう考えないと、いろいろつらい。




…………ともかく魔力は十分だ。



衛宮君に治癒魔術をかけるべく、その身体に魔力を流し。



「…………ッ!?」



変化は劇的だった。



「おぉ、凛貴女の魔術の腕はすさまじいのですね」


セイバーが何か言っているが耳に入らない。


衛宮君の腹部の赤黒い痣はみるみる小さくなっていく。


まだ私は、魔力を衛宮君の身体に流しただけなのに。



「違う……これは私じゃない……」



一体これは何?


衛宮君が仕込んでいた自動治癒?


いや、違う。間違いなく衛宮君はへっぽこ魔術師だ。



こんな高度な魔術は使えないはず。



そういえば、見たところセイバーには自動治癒が備わっているみたい。


なら、それが流れ込んだ?



でも、もしそうならセイバーの傷ももっと早く治ったはず。



なら一体………………。




「「…………ッ!!」」




突然の事態にまとまらない頭で、思考のループに陥っていた意識はいままでとは比べ物にならない轟音によって引き戻された。



セイバーの様子を見るに、混乱した私の幻聴などではなく間違いなく現実に聞こえたはずだ。



轟音の発生源にはすぐに思い当たった。




「アーチャーッ………………!!!」


「凛ッ!!どこへっ!?」





轟音の発生源へ思わず急ぐ。


道路はまるで巨大台風が過ぎ去ったようにズタボロだった。



…………綺礼が隠蔽になかなか苦労しそうだと、頭の片隅に思い浮かべながら足を進める。



バーサーカーによるものであろう破壊の痕は、墓地にまで続いていた。



墓地の入り口に立つと、まるで予測できなかった光景が広がっていた。



破壊されつくされ、もはや墓地と呼べない状態は予想できた。









…………だが。



「あっ、マスター。終わったんなら直接来るんじゃなくて念話にしてくださいよ〜〜」


「凛ッ!一体どう……ッ!!!!」



向こう側が見えるぶすぶすと煙を上げる穴を口に開けられ、力なく両腕が垂れ下がり両膝を地につける鉛色の巨人(バーサーカー)



そして、埃まみれ泥まみれで頭からも血を流しているが平然と、ヘラヘラと立っている黒衣の弓兵(アーチャー)の姿。





そんな光景など予想できずにいた私も、セイバーも言葉を無くしてその場に思わず立ち尽くしてしまった。










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