小説『マスター、お腹減ったんでちょっと出掛け……すいません、ガンド撃たないで!』
作者:モアイ()

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     第十五幕   マスター、主人の注文に応えるのが従者です。




凛が士郎を担ぎながらセイバーの元へ駆け、アーチャーがバーサーカーと相対するまで、イリヤは唖然とした表情を浮かべていた。




士郎のその身を呈してセイバーを庇った行為は、聖杯戦争におけるマスターとしてはあんまりにも馬鹿らしいと言えるだろう。



本来、サーヴァントはマスターたる魔術師の剣であり、盾である。


敵から身を守るための存在を助けるために命を懸ける。
いや、命を捨てるような行動をとるなど一般的な自身の魔術の完成の為には他者の犠牲は止む無しとする、それどころか積極的に犠牲にしようとも秘匿さえされていれば問題ないと判断する魔術師からすれば、当然ともいえる反応。




むしろ冷笑すら浮かべるであろうが、しかし。


イリヤの浮かべる表情には純粋な疑問と、魔術師らしからぬ当惑が見て取れた。



しかしその表情は、補強がなされ一般的なものよりも頑強な軍用ブーツの厚めの靴底が、細かく砕けたアスファルトを踏む乾いた音で霧散する。



代わりに浮かぶは幼い少女が浮かべるものとは思えない、しかしその無邪気さゆえによく似合う表情。

絶対的強者が浮かべるであろう、不敵な笑み。



いや、事実イリヤは絶対的強者だろう。



手負いとはいえ、最優のサーヴァントたるセイバーを打ちのめしたバーサーカーを従えるマスターなのだから。




そんなイリヤが不敵な顔を向ける先には、黒衣に身を包みジャリと音を立ててアスファルトを踏みしめるアーチャー。




身に纏った艶のない黒一色の服装に、少々ぼさっとした短い黒髪。


それにいつのまにか開かれていたのか。糸目があった部位には刀のような鋭さを宿した切れ長の目。



その瞳は日本人によく見られる茶色気がなく、純粋に黒い。



そんな黒づくめのアーチャーは、射るような視線をバーサーカーに向けていた。




「あら、あなたひとり残ってどうするつもりかしら」




イリヤは、そんなアーチャーに不敵な笑みを浮かべたまま言葉をかける。




そこには先ほどの疑問と当惑は見受けられない。



「どうって、時間稼ぎのつもりだったんだけどね。ちょっと心変わりして、一発ガツンと痛い目あわせてやろうかなぁって」



飄々と、さも世間話をするかのようにアーチャーは、バーサーカーの押し潰さんばかりの殺気をものともせずに、イリヤに言葉を投げ返す。



それを聞き、一瞬きょとんと年相応の可愛らしい顔を浮かべ。




「あっはははは!!!あなた本気で言ってるの!?セイバーを圧倒した最強の怪物たる私のバーサーカーに?アーチャーのあなたが勝てるって?」



ヒーヒーと、お腹に手を当て息が苦しくなりそうなほどに笑い声をあげる。




「えぇー。だってほら、番狂わせって素敵やん?それに、怪物って英雄が打ち倒す代表的な存在でしょ?」



そんなイリヤに、アーチャーは不満そうな口調で言葉を返す。




それに今度はイリヤが不満げにプーと頬を膨らませる。



「むー、そんなの屁理屈じゃない!!」



「英雄譚ってのは、屁理屈みたいな理屈を押し通して不死身の怪物を打ち倒すとか不可能を可能にしてみせるのがセオリーでしょ?」




それに、と子供の喧嘩のような……少なくともイリヤは子供だが……言葉を切り、アーチャーの雰囲気がスゥと引き締まる。



主人(マスター)注文(オーダー)に応えるのが従者(サーヴァント)、そして俺はもうきちんとした注文(オーダー)を承ったわけで。納得して了承した以上、無茶でも無理でも全力でやり通すべきでしょう?」




今までの態度からは想像もつかない信条を、しかし今までと変わらぬ軽い調子でアーチャーは話す。




その様子に再びキョトンとしたイリヤは、すぐにその顔に不敵な笑みを浮かべる。




「いいわ、付き合ってあげる。あなたのその自信、身体と一緒にバラバラにしてあげる!!」




「おお怖い。でもあいにくひき肉あいびき肉、むざむざ殺されるなって注文(オーダー)もあるんでね。死に物狂いでやらせてもらうよ」




軽口の応酬、それに反して辺りの雰囲気は殺気と緊張によって、水を吸う真綿のようにみるみる重くなっていく。




そして。


「やっちゃえ!!バーサーカー!!!!」

「■■■■■■ーーーッ!!!!!!」



イリヤの声によって弾かれるように駆けるバーサーカーの咆哮で、二度目の死闘の幕が上がる。



アーチャーは砲弾のように迫るバーサーカーの目に向けデザートイーグルを2発放つ。




しかしバーサーカーは、あろうことか目を庇うことなく斧剣を振るった。


バーサーカーの目に12.7mmの鉛玉が直撃し瞬間的に視界が封じられる。




そして視界が回復した時、その中にアーチャーの姿はなかった。







アーチャーは、自身の銃撃がバーサーカーの目を潰せるとは考えていなかった。


すでに一度、その巨体に見合わぬ反射速度で目を庇われたのである。

今回もまた庇うための行動で視界を無くすことを目的とした銃撃だった。



それ故、バーサーカーが庇うことなく銃弾をその目に受けた際には少々驚いたが、構わず駆ける。



どちらにせよ12,7mmの鉛玉が目に直撃すれば使い物にならなくなるか、まずないだろうが怪我につながらなくとも視界はほぼ無くなる。


そうなれば、僅かながらでも勝率が上がるということなのだからと判断して。



そんな視覚のない状態で放たれた、狙いの甘い一撃を飛び込むような前転で避け、勢いはそのままにバーサーカーの巨体同様大きな空間の空いた股下を転がり抜ける。



そして、姿勢を整えるとほぼ同時に腰のコンバットナイフを左手で逆手に持ち抜き取る。



そのまま身体を一回転させるような勢いを持って、斧剣を振るうために力が籠り腱が浮き出たバーサーカーの左の膝裏を斬りつけた。



いくら銃弾をものともしない身体とはいえ、伸びきったゴムと同様の状態の腱はそうはいかないだろう。



腱は関節部分にある骨と筋肉を繋ぐ部位だ。いくら強靭な筋肉を持とうとも、腱が切れていれば自分の意志ではその部分はピクリとも動かせない。




アーチャーは自身をあらゆる面で圧倒するであろうバーサーカーを相手取るにいたって、まずはセイバーにも追い縋ることのできるほどの身のこなしを潰すことを選んだ。



魔力で身体が構成されたサーヴァントなのだから、マスターから魔力を与えられてしまえばすぐに回復してしまうため一時しのぎもいいところであるが、少なくとも最低目標である時間稼ぎおよびガツンと手痛い打撃を与えるという注文(オーダー)



これを叶えるためには、十分な価値があるだろう。




そう判断し、左足の腱を切断すべく振るった大型ナイフの斬撃は、しかし。






腱はおろか、薄皮一枚も傷つけてはいなかった。



アーチャーは思わず目を見開いたが、次の瞬間バーサーカーの足元のアスファルトが音を立てながら放射状にひび割れる。



そのビシリ、という音を知覚した瞬間に両の足に力を籠め、跳躍。バック宙の要領でアーチャーの身体が宙を舞う。



瞬間、つい数秒前まで自身の胴体が存在した空間を、丸太と見紛うばかりの隆々とした筋肉に覆われた剛腕が轟、と風を孕みながら通過するのを反転した視界の隅に認識する。



そして着地し、すぐさま再度跳躍し距離をとる。



生半可な攻撃が通用しない以上、距離はあったほうがいいと判断したためだ。



そしてバーサーカーとイリヤの中間、先ほどの立ち位置から見て右手側のブロック塀の上に、屈みこむ形で乗る。



―――あれはスキル、ないしは宝具の効果ってところかなぁ〜。



アーチャーは思考を回転させる。あらゆる面でこちらを上回るバーサーカーを、そのクラス特性上唯一上回ることが出来るであろう武器が、論理的な思考なのだから。




宝具は生前に築き上げた伝説が形になったものであり、武器のほかに特殊能力が宝具になる場合も存在する。



そのことを聖杯からの知識で理解しているアーチャーは、ヘラクレスの逸話を思い浮かべる。



だが、そう悠長にもしていられない。こちらを見失っていたバーサーカーの視界に捉えられたのだ。




しかもその両目は、50AE弾の直撃を受けてなお健在であった。




バーサーカーはそのまま爆発的な速度で、アーチャーへと向かう。



それを見たアーチャーは、一瞬視線を流しナイフを自身の左前方……イリヤへ向け投擲する。



ヒュン、と風を切りながら進むナイフは。



「■■■■■■ーーーーッ!!!!」




その爆発的な速度のまま、主人(イリヤ)を守ることを優先したバーサーカーが咆哮とともに繰り出した、暴風を孕んだ一撃によって音を立て地面へと叩きつけられる。



そして、始まりの時のようにアーチャーとバーサーカーは再び対峙する。




片や物理的な圧力を錯覚するような殺気が籠った、狂気に満ちた視線を相手を押し潰すように向け。


片や刀を連想させるような鋭い目付きで、矢のような視線を射抜くように向ける。



動いたのは、アーチャー。



放たれた矢のように駆け出し、デザートイーグルを構える。



そしてバーサーカーも、迎え撃つべくアーチャー目掛けて驀進する。






さすが英雄というべきか。



アーチャーはその圧倒的な重量の大型車両を連想させる、普通ならば恐怖で目を背けてしまいそうなバーサーカーから、一瞬も目を逸らすことなく狙いを定める。



そして、轟音。


デザートイーグルから3つ、空薬莢が吐き出されバーサーカーの右の鎖骨。そのごく狭い一点に同じ数の弾丸が殺到する。



わずかに、血が(・・・・)滲む(・・・・)



しかし、バーサーカーはそんなことなどお構いなし驀進を続け、斧剣を振るった。



それをアーチャーは紙一重で回避する。だがしかし、回避しきれず髪が二房ほど宙を舞い、振り切った後の暴風をその身に受けて姿勢が崩れる。




間髪入れずに次の斬撃を加えようとするバーサーカーの、狂気に満ちた眼光を放つ目にアーチャーは轟音と共に二発の銃弾を叩き込む。




視界がなくなり、アーチャーの動きを読めぬバーサーカーの大振りの一撃を、寸前で避け距離をとる。



その最中に、撃ちきったデザートイーグルから空マガジンを落とし、新たなマガジンを滑り込ませ装填する。




ガシャン、という音が響くと同時にバーサーカーが再び肉薄する。


そして、3発の50AE弾を今度は右肩に叩き込む。


だが今度は一滴の血も(・・・・・・・・・)滲まずに(・・・・・・・・)はじき返されるだけだった。






バーサーカーが斧剣を振り上げ、始まるのは斬撃の暴風雨。



大上段からの振り下ろしから始まり、振り上げ、薙ぎ払いを組み合わせてデザートイーグルの狙いをつけるどころか、構えることすらさせないと云わんばかりの猛攻。




並の人間なら、あっという間に粗挽き肉になってしまうような暴力の嵐をアーチャーはかろうじて避けていた。




そして、わずかな時間でデザートイーグルをその身体に、時にイリヤの方向へと叩き込む。







傍目から見れば拮抗しているとも思える様子だが、実際は圧倒的にアーチャーが不利だ。



バーサーカーの斬撃は、直撃せずともかするだけで鉄の数倍の強度の強化繊維が耐え切れずに、防弾ベストは解れ始める。



かろうじて回避しきった斬撃は、アスファルトやブロック塀はては電柱すらも打ち砕き、細かな破片を散弾銃のごとくまき散らしてアーチャーの身体を容赦なく打ち据える。


破片が当たったのか、頭からダクダクと血が滴るが気にもしない。いや、気にしてなどいられない。




気にすれば破片とは比べ物にならない威力を伴う斬撃の嵐が襲い掛かってくることは明白だからだ。



デザートイーグルも装填する暇がないために、撃ち切ったら投げ捨てて新たなものを赤い魔力の光とともに呼び出す(・・・・・・・・)しかないくらいだ。




対するバーサーカーは、デザートイーグルの弾丸に身を晒してこそいるものの、よくて少々血が滲む程度の傷だ。



そして、今となってはデザートイーグルの装填弾数である7発を撃ち込んでも一滴の血も滲まない。なおかつ、イリヤに向かう弾丸も1つたりとも逃さず叩き落としていた。




「あははっ、さっきの自信はどうしたの?アーチャーのおじさん?」




イリヤの無邪気故に残酷な言葉も、アーチャーの耳に入る前に斬撃による風切り音とアスファルトやコンクリートの破砕音で掻き消される。




「んー、もうつまんないや。やっちゃって、バーサーカー」



そして、主人(イリヤ)の声に反応し大上段に振りかぶった斧剣は、わずかな時間に満身創痍といっていい状態に追い込まれたアーチャーに向かって振り下ろされ。




「はあぁぁッ!!!!」




わずかに大振りになったそれを、待っていたといわんばかりに裂帛の気合いとともに繰り出されたアーチャーの回し蹴りが捉えその軌跡を逸らし、その反動で身体を跳ね上げ跳躍する。




そして、地面に叩きつけられた斧剣の爆発のような衝撃をも背に受けて、さらに高く跳ね上がる。



そして電柱の半ばへと足から衝突したかと思えば、再び跳躍。




その際、イリヤに向かってデザートイーグルの残弾すべてを叩き込み、バーサーカーの追撃を封じる。



そのまま別の電柱の先端に着地し、ついと首を巡らせた後にセイバーが行ったように電線を駆ける。










「ふふっ、なかなかやるじゃない。追って、バーサーカーッ!!」




自身に迫る銃弾をバーサーカーが防いだ後、イリヤは満足げに呟く。




状況を打開したきっかけとなった、今までと比べ少々大振りの振り下ろしは、普通は隙にはなりえないだろう。



それをアーチャーは満身創痍の状態で、ほんのわずかに時間がかかった振り下ろしに合わせて回し蹴りを繰り出し流れを捻じ曲げたのだ。



なるほど、大きな口を叩くだけあるとイリヤは面白く思ったのだ。



だからこそ、追うように命じた。あの弓兵がどこまでやれるのかを見るために。













―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――











「ああ、めんどくさいなぁ」



一方のアーチャーは、電線の上を先ほど見つけた障害物の多い墓地に向かって駆けながら、そして撃ち尽くしたデザートイーグルのマガジンを交換しながら、妙なことを呟いていた。



ガシャリ、とデザートイーグルのスライドがリリースされ初弾が装填。落ちた空マガジンは、赤い光を伴って消えた。



先ほどまでの斬撃の暴風雨の中で、自身の知るバーサーカーの逸話と関係がありそうな特徴を見出したのだが、それが正しいのならばと。





いや、その特徴から思い当たる最悪の予想が的中した場合を考えた際の正直な気持ちだ。




―――まぁ、今はおいときやしょう。






すぐに頭の片隅に追いやってしまったが。



ともかく、アーチャーは今少しでも自身に有利な状況にすべく墓地へと向かっていた。




「あぁ〜〜〜、先謝るとしましょか。南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏」






とりあえず、これから更地になりかねない墓地に眠る亡者にお経をあげながら。






―――――――――――――――――――――――――――――――――












バーサーカーがアーチャーを追い、辿りついたのは墓地だった。



そして着いたとたんに、挨拶代わりといわんばかりの銃弾。





「■■■■■■■ーーーーーッ!!!!」





バーサーカーは、咆哮を上げながら銃弾の叩き込まれた先へと驀進しようとする。




しかし、並び立つ墓石が邪魔をして先ほどのような爆発的なスピードは出すことができない。





「■■■■■■■■■■ーーーーーーッ!!!!!!」




まるで苛立ったかのような咆哮を上げたバーサーカーは、斧剣を振り回し墓石を破壊しながらチラリチラリと姿を見せ、銃弾を浴びせるアーチャーの影を追う。



そして、墓石の5割が無残な瓦礫と化した時にバーサーカーの狂気に染まったその目にアーチャーの姿が写る。



なにやら緑色の歪曲した箱状のものを持っているが、そんなことはバーサーカーには関係ない。




ただ主人(イリヤ)を守り、敵を打ち倒すだけなのだから。




バーサーカーには幸運なことに、アーチャーにとっては不幸なことにその進路上のほとんどの墓石が瓦礫になっていた。





「■■■■■■■■■■ーーーーーーッ!!!!!!」





バーサーカーは咆哮を上げ、そのままアーチャーを打ち倒すべく驀進する。




しかし斧剣のリーチに収まる寸前、デザートイーグルが火を噴き2発の弾丸が視界を奪う。




結果、振るった斧剣はアーチャーの身体をかすめることすら叶わなかった。



そしてアーチャーは飛びのき、再び撃ち尽くしたデザートイーグルのマガジンを落とすと、ポケットにはもうマガジンはないのか赤い光とともに左手にマガジンが現れる。



そしてそのまま装填し、ポケットから左手でなにかを取り出した。




バーサーカーはかまわず再度驀進しようとし、瞬間。





炸裂音とともに、両の膝裏に衝撃。驀進する瞬間だったが故に姿勢が崩れた。




同時にアーチャーが駆ける。



―――――M18クレイモア指向性対人地雷。




アーチャーが先ほど手に持っていたのは設置する直前のもので、ポケットから取り出したのは起爆スイッチだったのだ。


M18クレイモア指向性対人地雷は、通常の地雷と違い爆薬によって700個もの鉄球をまき散らす云わば設置式の散弾銃のようなものである。



その直撃をを受けたバーサーカーは、狂化しているとはいえさすがは英雄。すぐさま体勢を立て直そうとする。



だが、こちらに駆けるアーチャーはデザートイーグルを5発、斧剣がギリギリ届く箇所に、今しがたこの場についたイリヤに向かって叩き込む。




結果、バーサーカーは体勢を立て直すことよりも、斧剣を精一杯伸ばし自身のマスターを守ることを優先する。そしてその衝撃で右手は弾かれてしまいアーチャーの迎撃には間に合わない形になった。


ただでは転ばないとばかりに左手を伸ばすが、肘の関節部分に2発の弾丸が叩き込まれ意図しないタイミングで曲がり迎撃は不可能となった。



そしてアーチャーは跳躍。両膝を地面につけたバーサーカーの開かれた口にアルミ缶のような形状のなにかを叩き込む。




同時に左足をバーサーカーの右肩に乗せた後、踏み切るように力を籠め同じタイミングで右膝を跳ね上げて顎に叩き込む。



いわゆるシャイニングウィザードのような形となり、強固なプロテクターに覆われた膝の激突により生じた衝撃がバーサーカーを襲う。





そのまま顎を跳ね上げられ、上体を思い切り反らすような形になったバーサーカーの口腔内に、突如灼熱が這いずりまわった。


突然の灼熱の理由は、先ほど口に叩き込まれたもの。



--------TH−3焼夷手榴弾。


それは鉄骨すら溶かし焼き切れるほどの高温を発生させバリケードなどの構築物を破壊するためのものだ。



その温度、実に2000〜3000度。




「――――――――――!!!」


さらに口腔内という閉所において作動したため酸素との反応効率が上昇。



結果50AE弾でも傷つかないバーサーカーの、喉が焼かれ声すら上げることができなくなる。



そうして、ばね仕掛けのように反らされた顔を正面に向けたバーサーカーの目に映るは。


召喚(サモン)ッ!!」


言霊(キーワード)を紡ぎ、宝具によるものと思われる幻想的な赤い光を生じさせながら駆けるアーチャー。




その光が消え去り現れたのは先ほど幻想的な光とは正反対の、鉄パイプを組み合わせたような無骨で巨大な銃器。



そして、それは灼熱の炎に蹂躙され煙を上げる、開け放たれたバーサーカーの口の中へと押し込まれた。



バレットM82A1CQ。おそらくもっとも有名な対物狙撃銃(アンチ・マテリアル・ライフル)の全長を短くしたものである。



オリジナルのバレットM82A1は、重機関銃に使われる12.7X99mmNATO弾を使用し、2000m先の軽装甲車両を撃破した、1500m先の兵士の身体を真っ二つにしてしまったという逸話が存在するとんでもない代物である。

そしてこれも、使用弾薬や機構はそのままに屋内戦で壁を撃ち抜いて使用するためにバレル長を切り詰め取り回しやすくしたというとんでもない代物である。




それをバーサーカーの口に押し込んだアーチャーは、そのまま髪の毛を掴んで体勢を固定しボソリと呟く。




主人(マスター)からの注文(オーダー)でね、ガツンと派手にやらせてもらうよ」



そのまま、引き金を引き絞る。



瞬間、バーサーカーの口内を反動の約50%を打ち消すほどの高圧ガスが蹂躙し、喉奥を桁違いの衝撃が襲う。



普通ならここでスイカのように頭が吹き飛ぶが、バーサーカーはただ血を口からこぼすだけ。


アーチャーはその異常な耐久性を目の当たりにしても、むしろそれゆえに構わず引き金を引き続ける。




一度二度三度と引き、掌くらいはある空薬莢が吐き出される。



そして四度目。




バーサーカーの後頭部半分が鮮血と脳漿とともに吹き飛び、今までの音が比べ物にならないほどの大音量が辺りに響く。




そのままアーチャーは後ろへと飛びのいた。



そしてダラリと力なく両腕を垂らすバーサーカー、驚いた表情のイリヤを視界に収めながらバレットM82A1CQを消しデザートイーグルを呼び出す。




その身の力と警戒を途切らせることなく、自身の最悪の予想に備えて。



タッタッタ、とこれまでの爆音轟音が嘘のように静かな墓場に足音が響く。




おそらくは、凛のものだろう。


アーチャーはその眉尻を下げ、目の鋭さを和らげながら後ろを向く。



「あっ、マスター。終わったんなら直接来るんじゃなくて念話にしてくださいよ〜〜」



やはり凛だった。アーチャーはいつもの通りに軽い口調で言葉を発する。



「凛ッ!一体どう……ッ!!!!」



どうやら同盟を結ぶことにしたらしいと、後から来たセイバーの姿から推測しながら。







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