小説『マスター、お腹減ったんでちょっと出掛け……すいません、ガンド撃たないで!』
作者:モアイ()

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         第18幕   マスター、かくかくしかじかです。








虫の音が響く縁側。着物を着た男と少年が居た。



「まかせろって。じいさんの夢は、おれがちゃんと形にしてやっから……」



「ああ、安心した…………」



それは、衛宮士郎の、決意の夜。









〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜








がばりと、士郎は布団をはねあげ目を覚ます。



寝ぼけた頭に手を添えながら、ついと首を巡らし周りを見る。



普段なら魔術の修行のために、大概は庭の蔵で起きることが多いのだが、今日は部屋できちんと眠ったようだ。



だが、自身の口元へ手をやり士郎は疑問を顔に浮かべていた。



どこか釈然としないまま、普段着へ着替え洗面台で口をゆすぐ。




「…………なんだ、これ……」



…………吐き出した水に、血がにじんでいた。



士郎が頭の片隅へと追いやっていた疑問…………就寝するまでの記憶が不確かなことが、その赤色で強くなる。




うんうんと唸りながら、昨夜のことを思いだそうと頭をひねる士郎。





「あら、気が付いたのね。」




突然かけられた声に、一瞬思考が停止しその後勢いよく顔を向ける。




「なっ……」



「おはよう。勝手に上がらせてもらってるわ、衛宮君」




そこにいたのは、遠坂凛。自身とは学校が同じくらいの繋がりくらいしかなく、友人である柳洞一成と反りが合わないらしいということと、美人として有名なことを知っている程度の人物だった。




「なんで、ここにお前が……?」




そんな関係とも言えないような関係の人物と、自宅の廊下で遭遇し思わず疑問が口をついて出る。




「なんでって……あなた、昨日のこと忘れちゃったの?」



「昨日のこと……?…………昨日……?………………ッ!!」



凛の言葉で、ぽっかりと抜け落ちていた昨夜の記憶が蘇る。




校庭での出来事を目撃したこと。殺されかけたこと。




そして、セイバーが頭に浮かんだ瞬間一気に記憶が戻ってくる。



「そうだ!!俺はセイバーをかばって、あの化け物にッ!!…………あれ?なんで俺、生きてるんだ……?」


「…………待った!!」


一気に昨夜の出来事を思い出し食って掛かりそうな勢いの士郎を、凛が手を突出し声をあげて制止する。




「その辺も踏まえて話そうと思うんだけど、まずは場所を変えましょう。少なくとも廊下の真ん中でするような話じゃないわ。とりあえず、セイバーも呼んで一緒に落ち着ける場所へ行きましょう?」



「あ、あぁ。そうだな」



制止を受け、幾分か士郎が落ち着いたのを皮切りに二人は歩き出す。



そして、目についた襖を凛が開ける。



『…………これで連続ガス漏れ事故は10件を超えたわけですが、どう思いますか?』




「う〜ん、なかなか物騒でごぜぇますなぁ〜。…………ふぅ、やっぱ緑茶にゃ煎餅。これは鉄板……あっ、士郎さんにマス」




ぴしゃり、と。



凛は勢いよく襖を閉めた。



「と、遠坂……?今アーチャーがい……」
「いいえ、なにもいなかったわ。私にはお茶と煎餅を口にしながら、ニュースを見てたバカーチャーなんて見えなかったわ。……とりあえず、ここじゃダメそうだから違うところを探しましょう」



―――それはムリがあるだろう……と、士郎が口にしなかったのはこっちを向いた凛の顔がいつか見た氷が背筋を伝うような、凄惨な笑顔だったからである。


「いやいやマスター、ほぼ自白してんじゃないすかそれ。あといきなり襖ピシャッってやめてくださいよ、心臓に悪い」


「…………ッ!!」



「……ならもう少し真面目にしてなさいよ、まったく。ほんとにあんた昨日と同一人物なの?入れ替わってたとかじゃなくて?」



「誰と入れ替わるんですかいったい…………あっ、おはようございます士郎さんにマスター。」



先程まで居間にいたはずのバカーチャーの声にびくりと反応した士郎は、突然のバカーチャーと凛の漫才じみたやり取りに置いて行かれてしまったために、あいさつをされるまで言葉を口にできなかった。












〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜










とりあえずバカ―チャーと合流し、庭にある離れの道場にいたセイバーを呼び今は凛陣営と士郎陣営は居間にいた。




「で、昨日のことは」
「手短に言うとかくかくしかじかでごぜぇます」


「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」



「あらやだ沈黙が痛々し…………すんませんごめんなさい構えないでッ!!!!」



「んっんん、とりあえず結果だけ言えば昨日はバカーチャーがバーサーカーを退けたわ。でも単独じゃ勝ち目なんてほぼないから、セイバーと同盟を結んだってくらいかしら?衛宮君に伝えなきゃならないのは」



バカーチャーのおふざけを無言の重圧で文字通り黙殺し、凛が口火を切る。




「ま、待った!!!!俺はあの時、セイバーを庇ってあの化け物にッ…………なのになんで…………」



凛の言葉に、もっとも不可解な疑問が含まれておらず、士郎は思わず大きな声で尋ねる。



その際、庇う……という言葉にわずかに顔を歪ませたセイバーにも気付かずに。




「バカーチャーよ。あいつがバーサーカーの攻撃を逸らして衛宮君を助けたの」




「……………………………………えっ!?」

「や、士郎さんや。そんなたっぷり間を空けて聞き返さないで割と傷つく」



凛の言葉を聞き、まるで空飛ぶクジラ並にありえないものを見たような反応を返す士郎に、バカーチャーが不服そうな声を上げる。




しかし、士郎はバカーチャーの残念な部分しか知らないのだから当然であろう。




そして、士郎は凛の回答を待っているせいでバカーチャーの言葉はほとんど耳に入ってない様子だが。




「信じられないかもしれないけどね、事実よ。あとバカーチャー、あんたのは完全に自業自得ってとこよ。だからのの字を書くのはやめなさい」



―――まあ、五体満足傷一つ無くってわけにはいかなかったみたいだけど、という言葉に士郎は慌てて服を捲り上げ様子を見てみる、が。




「遠坂、傷なんてどこにもないぞ…………?」




傷一つ見当たらなく、困惑を隠そうともせずに再び尋ねる。



「治ったのよ、勝手に」



「……は?」



だが、返ってきた言葉に思わず言葉を失ってしまう。



「だから、勝手に治ったのよ。私が衛宮君の身体に魔力を流したら」


「それって治癒魔術じゃ…………」


「その前によ。ただ魔力を流しただけで、内臓破裂がみるみる元通り。見たところセイバーに自然治癒力があるみたいだし、それが流れ込んだって考えるのが一番自然ね。心当たりはないんでしょ?」



「ええ、ないと思いますよ。凛。シロウは私に、治癒魔術は使えないと言っていましたから」



「なら決まりね。本来ならサーヴァントからマスターに魔力が流れるなんてありえないんだけど、衛宮君はありえないマスターだものね」



「ありえない、マスター……?…………いったい、なにがだ?」



凛の言葉に疑問を覚えた士郎は素直に尋ねる。




……………………わずかな呆れと怒気が言葉に含まれていたことに気付かずに。



「へぇ、自覚なし……ね。まぁいいわ。伝えなきゃいけないことはもうないから、同盟を結んだ以上言わなきゃならないことだし。ねぇ、セイバー?」


「えぇ、まったくです。私もサーヴァントとしてシロウに言わなくばならないでしょう」




返す言葉に尋常ならざる怒気が含まれており、凛とセイバーが浮かべている笑顔の意味にようやく気付いたらしい士郎。




「えぇと………………」




あまりに居た堪れない空気に思わず首を巡らし、バカーチャーの方へと向けば。





「………………ガンバッ!!」






イイ笑顔と、サムズアップとともに死刑宣告とも取れる言葉が贈られた。








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