小説『IS インフィニット・ストラトス 〜超常の力を持つ者たち〜』
作者:黒翼()

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Episode9『篠ノ之束来訪』



「来たみたいだね」

長点上機学園には、魔術的結界、及びに科学的監視が付いている。
故に、侵入者はすぐに見つかるし、どこに誰がいるかもわかる。
科学と魔術が入り混じっているここのセキュリティーは、世界で最も硬い。
ちなみに、ここのセキュリティーにも、終焉が深く関与している。
主に滞空回線(アンダーライン)を造るのに、終焉は頑張った。

「さて、ここは俺から向かえるべきだよね」

「その方がいいんじゃないですか? 父さんの護衛なら俺がやるので、問題ないでしょう」

「そうだね。 本来なら火織がいてくれるとありがたいんだけど、今終焉の刀の最終チェックをしに行っているからね。 厳重なチェックと、最終確認をしているから、明日には手に入るよ」

「そうですか」

終焉の刀は、既に三十本は折られている。
今まで折られた刀は、どれも名刀と言える代物だったのだが、終焉の底の見えない膂力に、魔力に圧し折られてきたのだ。
正確には、膂力に関しては、二重聖人である後方のアックアことウィリアム・オルウェルによって折られた物だ。
今の終焉の膂力は発展途上で、膂力ならばアックアの方が上なのだ。
終焉の『唯閃』も未完成であるため、アックアには及ばないのだ。
そんなアックアが全力で振っても折れなかった物が終焉の元に送られ、終焉が全力で魔力を送り、全力で振り、折れてきたのだ。
だが、ようやく、アックアの膂力にも、終焉の魔力にも、終焉の能力にも耐えた刀が出来上がったのだ。
今は製作者によって、最終チェックをしているため、終焉の手元には無い。

「やっぱり篠ノ之束も連れてきたんだ」

臨也はそうつぶやいた。
白騎士のすぐ側に、中学生とは思えないスタイルの紫色の髪をした少女がいたのだ。
臨也の情報網に、篠ノ之束も掛かっている。
だから、篠ノ之束の容姿を知っているのだ。

「わざわざ来てもらってすまないね」

「へぇ、アンタがこの私を呼んだんだ」

篠ノ之束は、そう声を掛けた臨也に冷めたような瞳で言った。

「怖いなぁ。 そんな目で見ないでよ」

臨也も、軽く、巫山戯たような声で言い放った。

「……なんかむかつく。 っていうよりうざい」

「あはは! よく言われるよ!」

臨也の態度に、篠ノ之束は怒りの感情が湧いてくる。
臨也のこういった態度で怒る人は、それなりにいたものだ。
まあ、大抵は臨也によって倒されていたのだが。

「さて、立ち話するのも悪いから、終焉、お願いね」

「了解」

臨也に言われた直後、終焉はこの場にいる四人纏めて来賓室へとテレポートした。

「っ、これが超能力……」

「そうだよ。 まあ、終焉の能力の本質はテレポートじゃないけどね」

終焉の能力の本質は、『能力を創る』と言うものだ。
終焉のこれらの能力は、本質から生まれた副産物でしかない。

「まあ、そんなことはどうでもいいんだ。 とりあえず、座ってくれて。 それと、白い騎士さんもそのIS解除してくれて構わないよ」

「相手の本拠地でわざわざ解除すると思うの? どんな罠があるかもわからないのに」

「そう言うのも当然だね。 でも、ISなんて終焉からしてみれば恐れるにも足らない存在だよ。 確かに、ISの絶対防御は素晴らしい物だ。 中学生が生み出したなんて、到底思えない代物だよ。 だけど、終焉の能力に死角はない。 絶対防御の内側に、肉体そのものに直接攻撃をぶち込むなんて、朝飯前なんだよ。 例えば、さっきのテレポートの応用でね」

「「っ」」

篠ノ之束と白騎士が息を飲む。
まだ中学生でしかない二人には、重すぎる内容だったのだ。

「素性がばれないようにって考えているのなら、もう無駄だよ。 白い騎士を纏っているのは織斑千冬。 篠ノ之束、君の親友だ。 俺の情報網を嘗めないでほしいな」

「……ちーちゃん、解除していいよ」

篠ノ之束は、臨也の言葉の数々に諦め、ISの解除を促した。
白騎士を解除して現れたのは、長い黒髪の切れ長の瞳の美少女だった。

「脅して悪かったね。 そんなものを纏われていると、終焉が気を張っちゃうからね。 いくら恐れるにも足らないといっても、俺はそうはいかない。 織斑千冬の一挙一動に気を張り巡らせなきゃならないからね。 親としても、気を張り詰め続けさせたくないんだよ。 さっきもミサイル破壊して来たぶんだしね」

臨也は大抵終焉と麗奈のためなら何でもする。
それがたとえ、少女に対する脅しであっても。
いくら転生者であるとはいえ、終焉は息子なのだ。
息子、娘のためなら、臨也は、脅すことに一切の躊躇いも持たない。

「さて、本題に入ろうか」

篠ノ之束と織斑千冬がソファーに座ると、臨也はそう切り出した。

「今回俺が呼んだのは、ISについてだよ」

「でしょうね。 でなければ、わざわざ呼ぶなんて真似はしない」

話の応答については、織斑千冬に任せたようだ。

「君たちが何を思ってISを造り、今回の事件を起こしたかは流石の俺もわからない。 俺は人の心が読めるわけじゃないからね。 ただ、こんなことを起こした以上、君たちは今まで通りの生活は送れない。 まあ、それくらいのこと、ISなんてものを造った君なら、わからないはずないよね?」

「………………」

篠ノ之束に向けて言った言葉は、沈黙と言う答えだった。

「……それは肯定として受け取らせてもらうよ」

並外れた洞察力を持つ臨也は、その沈黙を肯定と取った。
事実、それは正解であった。

「あれほどISの有力性を知った人間共は、あれを独占しようと群がってくるよ。 俺は欲に塗れ、欲に溺れた人間の汚さを知っている。 どうしてもISを手に入れたい、独占したいって思う人間は、少なくとも存在するんだよ。 現に、超能力について説明しろ、俺の大切な生徒たちを寄越せ、なんて言ってきた糞共がいるんだからね。 そんな人間がやろうとすること、それは、対象の大切な人間やら物を人質にとったり、君自身を拉致監禁したりする。 君たちみたいに可愛い子の場合なら、糞共の姓の捌け口にされてもおかしくない」

あらゆる人間を観察し、人間を知り尽くしているからこそ、言えることであった。
そんな臨也から発せられた言葉は、臨也がどんな人間か知らない二人にとっても、その説得力は絶大だった。

「ここの生徒たちなら、大抵は自衛が出来るし、ここにいる間は少なくとも安全だ。 もしも強引な手段に出ようものなら、俺は全力でそいつを潰す。 それがたとえ、国であろうともね」

国は国民の支持があってこと成り立っている。
それを崩すことなど、臨也にとって簡単なことなのだ。
未だ国そのものは潰していないが、潰された個人の復讐はあった。
だが、それは確実に破綻する。
なぜなら、臨也はそれすらも見抜き、そしてそれごと潰す。
そして最後は、自らの手で命を絶つ。
未だに生きているものはいるが、精神的には死んでいるようなものだ。
臨也は殺人はしたことはないが、間接的に殺したことなら何度でもある。
情報を流して、仲間撃ちをさせたりして、精神的に殺して、死に追いやって行くのだ。
だからこそ、『折原臨也』は世界中の政府に圧倒的な恐怖を与えているのだ。

「でも、君たちはどうだ? 自衛が出来るだけの力を持っているのかい? 大切なものを守れるだけの力を持っているのかい? 織斑千冬、君が白騎士であると言うことはまだバレていないだろう。 でも、篠ノ之束、君は一度、ISについて政府の連中に見せてしまっている。 つまりは、君の顔がバレているということだ。 それが意味すること、ここまで話せば頭のいい君なら、わかるよね?」

「……私が狙われる。 関係のない箒ちゃんが狙われる……!」

今ようやく気づいたのか、篠ノ之束は目を見開いて、震えた声でそう言った。
いや、自分が狙われるのは感じていたのだろう。
自分が狙われることよりも、大切な妹が狙われることが、何よりも怖いのだろう。

「君はもう少し、考えてから行動するべきだったんだ。 自分が起こすことの重大さを、それが引き起こし、残す傷跡についてをね。 君ほどの頭脳を持つ子が、どうしてこんなことに思い至らなかったのかが不思議でならない。 君、何をそんなに焦っていたんだい?」

臨也はようやく、核心を突いた。



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