小説『IS インフィニット・ストラトス 〜超常の力を持つ者たち〜』
作者:黒翼()

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Episode10『ISの由来』



「……私、昔から頭が良すぎて、気味悪がられていたんだ。 他人からだけじゃなくて、親からも」

篠ノ之束は、自分のことを話し出した。

「最初はあいつらを喜ばせようって、そう思って毎日を生きてきたんだ。 でも、私の良すぎる頭脳はあいつらの感情まで見逃さなかった。 私が幼稚園の頃、解いた大学レベルの問題を見せたら、あいつら、私を化け物みたいに見たんだよ。 それから、私はすべてに興味をなくしたんだ。 もう、あんな目で見られたくない。 あんな目で見られるくらいなら、すべてを拒絶したほうがいいって思ったから」

「………………」

臨也は、それを黙って聞いていた。
ただ健気に話す彼女を見つめて。

「私はいろんな人を拒絶した。 でも、ちーちゃんだけは、いくら拒絶しても離れなかったんだ。 ちーちゃんと一緒にいる内に、ちーちゃんに興味が出てきて、ずっと仲良くしてたの。 ちーちゃんは違う。 ちーちゃんはあんな奴らとは違うんだって。 だから、私もちーちゃんを信じれたし、こんなことも任せれたんだ」

「ひとつ、いいかな?」

「……何ですか?」

最初とは違い、篠ノ之束は臨也に対して敬語を使っていた。

「篠ノ之束の妹である箒ちゃん、織斑千冬の弟である一夏君、その子たちはどう思っているんだい?」

「箒ちゃんもいっくんも、私にとって大切な人です。 こんな私でも、笑顔で接してくれますから」

「そう、それならいいんだ。 大切な人は、多い方がいいからね」

「人を陥れていた父さんがいうことではないと思うんですが」

そこに、ずっと黙っていた終焉が口を挟んだ。
篠ノ之束も織斑千冬も、どちらも少し驚いていた。
異常な説得力を持つ臨也が、人を陥れていたとは思えなかったのだろう。

「それは昔のことじゃないか。 今はそんなにしてないよ」

「結局今もしてるじゃないですか」

「それは、俺はすべての人間を、人間の善も悪もすべてを愛しているんだ。 まあ、今じゃあ優先順位が大分はっきりしているけど」

「おかげで下位である人には一切の情けをかけずに笑顔で潰しますよね。 ついさっきもしたんですから」

「「っ!?」」

終焉の落とした爆弾に、二人は絶句した。
同時に、この人は一体何なんだという疑問が二人に浮上した。

「それは、俺の大切な生徒を寄越せ何て言う馬鹿を黙らすためなんだから、仕方ないよ」

「あ、あの、仕方なくないと思うのですが……」

おずおずといった感じで、つい織斑千冬が口を挟んだ。

「そうかい? 俺は終焉や生徒たちが安全に、安心して暮らすために必要な犠牲だと思っているんだけど」

折原臨也は人間としてどこまでも変人で、そしてどこまでも人間である。
故に、ある程度の犠牲も仕方がないと思えるのだ。

「……よく今まで生きてましたね」

「そう言いたくなるのはわかるよ。 まあ、過去に刺されたことあるしね」

数年前、臨也は澱切陣内という男に刺されたことがあり、本当によく今日まで生きてこれたものである。

「と、俺のことは、今はどうでもいいんだよ。 何を焦っていたかだよ」

「すみません、俺が脱線させてしまいましたね」

終焉はつい脱線させたことを謝罪した。

「って、どこまで話したっけ?」

篠ノ之束は、臨也と終焉の会話の所為で、どこまで話したのかをすっかり忘れていた。
まあ、あれは忘れさせるだけのインパクトがあったので仕方がない。

「千冬さんに今日のことを任せれた。 束さんの妹と、千冬さんの弟が大切。 と言ったところですよ」

「あ、そうだったね」

終焉の記憶力は、常人の比でなく、魔術サイドでも強大な存在である禁書目録ことインデックスの完全記憶能力以上で、音すらも記憶するのだ。
故に、今までの会話をすべて、一字一句、寸分違わずに言える。

「それで、私がISを造ろうと思ったのは、何者にも囚われない宇宙(ソラ)を目指したかったからなんです」

「へぇ、宇宙をねぇ。 ロケットがあれば行けるのに、どうしてISを?」

「宇宙を、自由に飛び回りたかったからなんです。 広大な宇宙を、果てしなく続く宇宙(ソラ)を、世界のすべてを見たいから。 だから、これを『インフィニット・ストラトス(IS)』って名づけたんです」

「なるほどね。 それでこの名前が付けられたんだね。 その理由なら、宇宙空間での活動を想定としたパワード・スーツ、というのも頷けるね」

篠ノ之束が嘘をついていないということは、長年の人間観察によって培ってきた臨也の洞察力によって判断していた。

「私は今まで、自分で考えた高性能の機械類の設計図を売って、ISの制作費にしていたんです。 でも、ここまで形にするのに大分案もお金も使っちゃって、今の完成度じゃあ宇宙に行けなくて、でも早くISを完成させたくて、ISを完成に協力してくれるように、国に公表しても子供の戯言だって返されて……」

「ISを完成させるにはお金が必要。 でも、自分ではもうそのお金を手に入れるのが困難になってきた。 でも、早く宇宙に行きたい、ISを完成させたいって一心で、今回の事件を起こしたわけか。 ISの凄さを知らしめて、IS完成に協力してもらおうと考えた、ってことかな?」

「はい……」

ISの完成を急ぎすぎたが故に犯してしまった過ち。
それを気にしてか、篠ノ之束は力なさげに俯いていた。

「とりあえず、まず確実にISは軍用転換されるのは間違いないね。 終焉たちは異常で、俺の擁護下にあるから今は省くとして、ISの製作者である君には何の防御もない。 間違いなく、君は狙われるよ」

「……はい……」

「そして、君の大切な妹も、君を誘き出すために狙われてもおかしくない」

「っ……はい……」

妹の名を出した瞬間、彼女は歯をかみ締めた。
自分の行動が原因で、妹が危険な目に遭うことが悔しいのだ。

「手がない訳じゃない」

「っ! それはどんな方法ですか?!」

臨也がそういうと、篠ノ之束は身を乗り出して尋ねてきた。

「ISのコアを、ある程度の数を世界にばらまくんだ。 そして、コアを渡す条件に、身内の安全を保障させる。 その条件を違える様な事があれば、すべてのISのコアを破壊するって脅せば、ある程度は黙る」

「でも、それでは足りない。 君自身を抑えてしまえば、その条件も問題なくなるからです」

臨也の後に、終焉が続けて言った。

「終焉の言う通り。 一番の問題は君なんだよ、篠ノ之束。 君が捕まってしまえば、すべてが破綻する」

「じゃ、じゃあ、私はどうすれば……」

「すぐにどこか、誰も到達できない場所に逃げ隠れるか、信用できる用心棒をつけるか、どちらにせよ、君を守る何かが必要だ」

「で、でも、私にはそんなもの……」

「流石に、常にISを纏って束を守るというのは無理がありますし……」

余程混乱しているのか、二人とも、もっとも近くにある要塞に気づいていなかった。

「ここで君を匿おうか?」

「……えっ?」

篠ノ之束は、臨也の提案に固まった。
一瞬、何を言われたのかわからなかったからだ。

「ここは不落の要塞。 たとえ侵入しようとも、すぐに撃退ができる。 たとえここまで来れたとしても、ここを守る最後の砦こそ、ここにいる終焉だ。 終焉は、こう見えても創立以来、常に最強の座にい続けているんだよ」

「で、でも、それじゃあ迷惑が……」

「そんなこと気にしなくていいよ。 それに、君一人でISを完成させるのは不可能に近い。 俺たちも協力するよ。 資金も、資材も、場所も提供しよう。 そもそもここは、突飛な才能を持つが故に迫害される者たちも受け入れている。 君みたいな人は、ここにはたくさんいる。 それに、俺個人としても、ISを完成させたいからね。 異能の力無しで、どこまで行けるのか、気になるから」

終焉ならば、宇宙の果てまで行ける。
だが、それは終焉のみの話だ。
人間という種族の限界を、臨也は知りたいのだ。

「え、えっと、それじゃあ、よろしくお願いします!」

「束を、お願いします」

束と千冬は、臨也と終焉に向けてお辞儀をした。

「うん、任せれたよ。 それじゃあ、処理を始めようか」

臨也は、にこやかにそう言った。




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