Episode11『長点上機学園の部屋』
「―――というわけで明後日、ISについて話に行かせてもらいます。 くれぐれも、馬鹿な真似をしないようにしてください。 では、失礼します」
臨也は、三十分ほどで世界中に話をつけてしまっていた。
「す、凄い……」
篠ノ之束は、その手際のよさに、驚きと同時に、一種の感動を覚えていた。
ちなみに、織斑千冬はすでに終焉によって、家に帰されている。
同時に、織斑千冬と篠ノ之束の家の付近に滞空回線をばら撒いておいた。
これで、常に不審な者がいないか見つけれる。
「父さんは、こういうことは誰よりも得意ですから。 それに、大抵の国の上役とかは、誰にも知られたくないまずい情報を握られているので、父さんに逆らえないんですよ。 よっぽどの馬鹿でない限りはね」
感嘆する篠ノ之束に、終焉は軽く説明をしておいた。
ここ、『長点上機学園』で過ごすのなら、理事長である折原臨也という男について、多少は知っていないとやっていけない。
知らなければ、周りの反応についていけないからだ。
「ああ、終焉、お疲れ様。 滞空回線は正常に機能しているかい?」
「問題ありません。 異常が見つかり次第、飛べますし、飛ばせれます」
「ありがとう、終焉」
ここ『長点上機学園』は科学が異常に発達している。
すでに、十年以上の差がある。
もうすでに、ここは国として機能していけるだけの力を持っている。
「ああ終焉。 明後日の護衛をお願い出来るかい?」
「大丈夫です」
「じゃあ、今日はもう休んでいいよ。 あ、ついでに束ちゃんの部屋に案内しておいてくれるかな?」
臨也は、篠ノ之束と織斑千冬のことをちゃん付けで呼ぶことにしていた。
「わかりました。 では、行きましょう」
「あ、うん」
終焉に促されて動き出す束。
終焉の後ろについて学園内を歩いている束は、これまた驚かされた。
学校というのに、異常なほどに豪華なのだ。
廊下の天井にはシャンデリアがあったり、とても学校とは思えない。
もはやここは、豪邸ともいえる場所なのだ。
「ここの内装が豪華なことに驚きましたか?」
「う、うん。 ここ、本当に学校なの?」
「ええ。 まあ、ここは常軌を逸していますから、一般人からしてみれば異常ですね」
長点上機学園は普通ではなさ過ぎる。
「父さんは仕事上の関係で、母さんは……まあ、ちょっと特殊な人で、イギリス王室と友好関係にあるんですよ。 おかげで、ここの経営に必要な経費の一部を賄えているんです。 その所為か、『どうせなら豪華に』ということで、このような豪華な内装になっているんです」
「い、イギリス王室!?」
「他にも、アメリカ大統領、ロベルト=カッツェとも友好関係にあります。 この学園は、大国と折原臨也という世界最高の情報屋の力で動かされているんです」
「ろ、ロベルト=カッツェって、あの『ミスタースキャンダル』って呼ばれているあの?」
「はい」
「す、凄いね……」
束は、あまりに凄すぎる名前に、唖然としていた。
イギリスとアメリカのトップがここの後ろ盾をしているのだ、しないほうがおかしい。
「他にもいろいろと話すべきことはありますが、それは後にしましょう」
この学園の者なら誰でも知っている超能力や魔術、マフィアについても話しておかなければならないのだが、束が正式に編入してからにすることにした支援であった。
「ここが貴女の部屋です」
「あ、ありがとう」
束は未だ唖然とする気持ちから抜け切れておらず、返事が引き気味になっていた。
そして、部屋を空けてまた唖然となった。
「こ、これが私の部屋?」
「はい。 一応これでも個人部屋ですので」
「これ……学生の個人部屋っていうレベルじゃないよ……」
部屋も一般の学校の寮とは比べ物にならないほどに広く、豪華で、まるで高級ホテルの一室のようであった。
これは個人部屋であるが、二人でも広いくらいほどの大きさだった。
「大体父さんやエリザードさんやキャーリサさんの悪乗りでこうなっているので、諦めてください。 あなたには悪いですが、これでも最低ランクなんですよ」
「これが最低ランクって、最高ランクってどれくらい凄いのさ……」
最低ランクが一流ホテルの一室並なら、最高ランクがどれほどなものか気になるのは当たり前であった。
「入ってみますか?」
「え、いいの?」
最高ランクの部屋が気になっていた束は、終焉の言葉に聞き返していた。
「ええ。 だって、最高ランクの一つは、俺の部屋ですから」
「君の部屋!? 君、何歳なの!?」
「七歳ですよ。 まあ、あと少しで八歳になりますが」
「七歳の子供に最高ランク!? 何なのさ、ここは!?」
「この学園の部屋のランクは、その人のランキングによってそれぞれなんですよ。 俺は創立以来、あらゆる分野で最強、最高を誇っているんです。 故に、俺が最高ランクの部屋に宛がわれているんです」
この学園は能力、戦闘力、頭脳など、いくつかの分野に分けられたランキングがある。
それによって、部屋のランクも決められているのだ。
終焉は、創立以来、すべての分野で一位の座に君臨する不動の頂点なのだ。
「ついてきてください。 俺の部屋に案内します」
終焉につれられて歩いていると、二つの声をかけられた。
「シエン!」
「お兄様!」
「明久に麗奈か。 どうした?」
その声の主は、終焉の親友である吉井明久と、終焉の妹である折原麗奈であった。
「どうした? じゃないよ! ニュース見たよ! 何してるのさ!」
「何って、ミサイル撃墜だ」
「お兄様、ミサイルの直撃を受けていたみたいなのですが、お怪我はありませんか?!」
「大丈夫だよ、麗奈。 お前のお兄様は、あんなもの程度に傷を負わされるほど、弱くはないから」
折原終焉はシスコンであった。
自他共に認めるほどのシスコンであった。
そんな兄の性質が似たのか、麗奈もブラコンであった。
ただし、互いに恋愛対象とは見ていないので、誰も咎めることはない。
まあ、折原臨也ならば、たとえ互いに恋愛対象に見ていたとしても、認めていたであろうが。
「そうですか……それならよかったです……」
心底安心したという様子の麗奈の頭を優しく撫でる終焉。
気持ちよさそうに受け入れる麗奈。
傍から見れば、恋人にしか見えないだろうが、まだ幼いのでそうは見られてはいない……はず。
「それはそうとシエン。 その人は?」
「ああ、この人は篠ノ之束さん。 俺と共闘した人が纏っていた機械を造った人だよ」
「そうだったんだ。 僕は吉井明久って言います。 よろしくお願いします」
「私はお兄様の妹の、折原麗奈と申します。 ここは驚くことばかりでしょうが、すぐに慣れますのでご安心ください」
「篠ノ之束だよ。 よ、よろしくね」
ついさっきまではまったく社交的ではなかった束とは思えないほどの変わりっぷりだった。
だが、今まで人を拒絶していたが故か、どこかたどたどしかった。
「さて、束さん、行きましょう」
「あ、うん。 そうだね」
「どこか行くの?」
「俺の部屋だよ。 最高ランクの部屋が気になるみたいだから、見せるんだよ」
「なるほどね。 僕も行っていいかな?」
「構わないさ。 麗奈も来るか?」
「はい」
人数が二人増えて、再び終焉の部屋に向かうのだった。