Episode12『終焉の部屋』
「ここが俺の部屋です」
「な……」
終焉たちが部屋にたどり着き、束が室内を見た瞬間、束は絶句した。
口をぽかんを開け、完全に停止していた。
「あー……、やっぱりこうなっちゃったか……」
「仕方がありませんよ。 だって、こんな部屋ですからね……」
「まあ、最高ランクのこの部屋は、ずば抜けて豪華だからな……」
明久は想像通りの展開に若干困り、麗奈は改めてこの部屋の豪華さに呆れ、終焉は苦笑していた。
それもそのはず。
終焉の部屋は、どこぞの王室だと言いたくなるほどに豪華で、部屋の大きさだけでなく、内装も豪華であった。
ソファーにテーブル、カーペットにカーテン、ベッドも例外なく超高級品で、例の如くシャンデリアもある。
とても一学生の部屋ではない。
もはやこの部屋は、王族が住んでいてもおかしくはないほどの内装だ。
「っと、いい加減正気に戻ってください、束さん」
「はっ!」
終焉が束の目の前で手を叩き、正気に戻す。
それでも、驚愕は抜けきれないようで、挙動不審になっている。
「そんなに緊張しなくてもいいですよ。 壊しても、すぐに元通りに出来ますから」
終焉が創った能力の一つに『物を直す程度の能力』―――『物質再生』がある。
その能力で、壊れたものを即座に直すことが出来る。
所詮『物』程度で、人の損壊は治せないが。
「そ、そんなこと言われても、こんな部屋初めてなんだから、仕方ないじゃない!」
「まあ、これに関しては慣れてくださいとしか言いようがありませんね。 それに、慣れないと疲れるだけですよ?」
ここに在学している者たちは、皆この部屋に、この制度に慣れている。
慣れていなければ、とてもじゃないがここでは暮らせないのだ。
「慣れるわけないでしょ!? 私、今まで普通の生活をしてたんだよ!?」
束の絶叫ももっともである。
一般の生活をしていた者が、この生活に慣れるとは思えないからだ。
「嫌でも慣れますよ。 僕だって、一週間くらいで慣れましたし」
「そうですね。 慣れないと疲れますし、そもそも、これに慣れないと、ここでは生活できませんからね」
「ここは一般常識がほとんど通用しませんのでね。 まあ、俺がいい例ですよ」
「シエンはぶっ飛びすぎだよ」
「そうです。 お兄様に常識なんて当てはまりません」
ここでもっとも常識的で、同時にもっとも常識からかけ離れた存在が、『折原終焉』という至高の存在なのだ。
「さて、束さん。 貴女はこれからどうしますか?」
「ど、どうって、何を?」
終焉の突然の問いに、束は呆けたままの状態から抜けきれずに聞き返していた。
「自分の部屋に戻るか、まだここにいるかですよ」
「あ……ああ、そっか。 今は休むことにするよ。 私もいろいろありすぎて、混乱してるから」
「そうでしょうね。 いきなりこの環境に慣れる方がおかしいですから。 まあ、おのずと慣れてきますが」
部屋についても、能力についても、元一般人が混乱しないほうがおかしい空間なのだ。
だから、まずは頭の整理をするべきであり、休むべきなのだ。
「送りますか?」
「大丈夫だよ。 もう道は覚えたから」
「そうですか。 ではまた」
「うん」
そういうと、束は終焉の部屋を去り、自分に宛がわれた部屋へと戻っていくのだった。
「あの人、無理してたね」
束が立ち去り、終焉の部屋に残った三人のうち、もっとも早く口を開いたのは明久であった。
内容は、当然の如く束についてだった。
もっとも、彼女への批判などではなく、彼女への心配であったが。
束自身、あまり表には出していなかったが、明久たちにはわかっていた。
篠ノ之束は、人と接することに無理をしていると。
「そうですね。 人と接するのが苦手なのでしょうか?」
「まあ、そんなところだ。 あの人は今までほとんどの人と交流を断っていたらしいからな。 人と接することに苦手意識があるのだろう」
「僕たちみたいな子供に対しても、あの様子だからね。 まあ、僕たちを普通の子供だと思われても困るけどね」
明久たちは一般の子供とは違って早熟しており、すでに大人びていたのも、束が無理をしていた原因の一つであったりもした。
ちなみに、明久たちが大人であるのは、終焉の傍にいたこと。
そして、強大な能力を抱えていたからだ。
強大な能力を抱える者ほど、子供であることが難しいのだ。
能力を抑え、操るのには、理性がかなり大切になってくる。
己の能力で己を殺さないためにも、無意識のうちに早熟していくのだ。
まあ、天才的な制御を無意識のうちに体得している者はごく少数だが存在し、子供っぽい者もいる。
そんなこともあり、長点上機学園に在学している生徒の多くの能力者は、大人びているのだ。
「まあ、ここにはあの人以上の異常者はいる。 おのずとそれも解消されていくだろう」
「だといいね」
「私たちでお手伝いしましょうよ。 あの方が無理せず人と接せれるように」
「だな。 普通に話せたほうが、俺たちからしてみても楽になるしな」
「でも、あくまであの人のペースでね」
「当たり前だ。 無理させる必要など、どこにもないからな」
そんな風に、三人は束の対人恐怖症?の解消を考えていた。