小説『IS インフィニット・ストラトス 〜超常の力を持つ者たち〜』
作者:黒翼()

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Episode13『最高の相棒』



「シエーンッ!」

「シャーレイ!? なぜここに!?」

終焉たちミサイルを撃墜した四人が英雄と呼ばれるようになり、特に終焉は格段に崇められるようになった次の日、長点上機学園に戻ってきた火織とともに、一人の少女も一緒にやって来ていた。
少女の名は『シャーレイ=クロムウェル』。
芸術家であり魔術師でもある『シェリー=クロムウェル』に拾われ、シェリーの妹となった少女だ。
年齢的に母と子の関係のほうが好ましいのだが、『私は母親ってガラじゃねえ。 せめて妹だ』とのことで、妹というポジションで落ち着いている。
ちなみに、魔術の素質が高く、天才と呼ばれている。
終焉が驚いているのは、本来ならイギリスでシェリーとステイル=マグヌスの師事を受け、まだ学園には来れない筈のシャーレイがいたからだ。

「ニュース見て、シエンが気になったから、火織さんに頼んで一緒に来たの」

「いや、魔術の修行は!?」

シャーレイが魔術を初めて、まだ間もない。
才能はあるが、まだまだ知識や経験が足りないのだ。
だから、今は勉強をしているのだ。

「少しの間だけ、休みをもらったの! それに、知識ならシエンに教えてもらえるし!」

「確かに知識だけならあるが、俺はまだ魔術師としては未熟だ。 俺に教えてもらうのはお門違いだと思うのだが……」

「私はシエンだからいいの! むしろシエンがいい!」

シャーレイの様子からわかるように、彼女は終焉に恋心を抱いている。
ちなみに、終焉は気づいているが、答えが出せないので気づいていないフリをしている。

「はぁ……わかった。 知識だけなら教えよう」

「ありがとう!」

シャーレイは終焉に抱きつく。
終焉はそれを嫌ではないので受け入れている。
ちなみに、シャーレイの恋についてはシェリーもステイルも、臨也も火織も、それ以外の人も知っている。
シェリーたちがシャーレイに休みをあげたのは、終焉と一緒にいる時間を増やすためでもある。

「シャーレイ、悪いですが少し終焉と話があるので、離れてくれませんか?」

「あ、すみません」

シャーレイは終焉から離れ、終焉の横に立つ。

「……ついに、完成しましたか」

「ええ」

火織が渡したのは、火織の『七天七刀(しちてんしちとう)』の柄も鞘も黒くなった二メートルを超える長刀。

「シャーレイ、少し下がって」

終焉はそれを受け取ると、シャーレイを下がらせた。
そして、鞘から抜き放ち、その刀身が顕になる。

「やはり綺麗だ……」

その刀身は、一切の汚れのない『黒』。
純粋な漆黒だ。
その漆黒の刀身は光を反射し、その美しき『黒』を、より引き立たせていた。

「ふぅ……」

終焉は心を落ち着かせ、今練れる魔力を、全力で刀へと注ぎ込む。
すると、その刀身は魔力に呼応するように美しさを増し、その存在感を周囲へと撒き散らす。
終焉は未だ未完成の魔術『唯閃(ゆいせん)』を使用する。
同時に『空間を司る程度の能力』―――『空間掌握(フィールドエンド)』を使い、空間を捻じ曲げる。
力を全力で使える空間を自らの手で作り出し、終焉は全力で漆黒の刀を振るう。

「はぁっ!」

終焉の一刀によって発生した衝撃は空間を断ち切り、捻じ曲げて増幅させた空間を突き破った。
突き破った衝撃は、その先二キロに渡って空中を走り、そして消滅した。

「……三キロにまで増幅した空間を突き破るか……しかも、さらに二キロほど飛んだとなると、五キロを切断できることになるな……」

空間掌握(フィールドエンド)』で増幅させた空間の幅はおよそ三キロ。
それを突き抜け、さらに二キロ先まで衝撃が及んだことから、現在の終焉の最高の一撃は、五キロ先にまで及ぶという、とんでもない威力であることが判明した。

「……途轍もない威力ですね。 それでまだ未完成……しかも、発展途上ですか。 我が息子ながら、末恐ろしいものですね」

「す……すっごーいっ!! やっぱりシエンって凄い!」

火織は自身の息子の将来を想像して、その底の見えない終焉の伸び幅に、身震いをしていた。
シャーレイは、目に見えるほどの斬撃に、終焉の凄さに歓喜していた。

「……母さん、最高の刀をありがとう。 俺が本気で振るっても、びくともしない。 この『聖天絶刀(せいてんぜっとう)』は、間違いなく世界最高の刀です」

終焉は、漆黒の刀『聖天絶刀』の凄まじい頑丈さに、感動を覚え、最高の相棒に出会えたことに歓喜していた。
数多の犠牲の末に生まれた、この最高の刀に、終焉の心は震えていた。

「共に行こう、『聖天絶刀』。 お前と一緒なら、俺はさらなる高みへと昇れる」

終焉は、相棒となった刀へと語りかける。
『聖天絶刀』は、まるでその言葉に反応するかのように、黒い刀身を輝かせたかのように見えた。

「気に入りましたか、終焉」

「はい。 最高ですよ、母さん。 この絶刀と一緒なら、俺は負ける気がしない」

「元より、終焉に勝てるような人間はこの世にいませんよ」

「それでもですよ。 この絶刀を持つと、負ける気が微塵も起きない。 この『聖天絶刀』は間違いなく、この折原終焉の最高の相棒になるでしょう」

終焉は、あまりもの歓喜に、笑みが隠せなかった。
ここまで感情を顕にするのは、珍しいことである。

「さて、そろそろ戻りましょう。 終焉も、絶刀を眺めるのもほどほどにするように」

「ああ、すみません、母さん。 つい、嬉しくて」

「眺めるのは構いませんが、部屋で見るようにしてください。 いつまでもここにいては、シャーレイもくつろげないでしょう」

「そうですね」

終焉は、自身の行動に苦笑をし、絶刀を鞘に収めて歩き出した。
シャーレイは終焉の隣でニコニコしながら歩き、火織はその光景を微笑ましげに眺めていた。



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