Episode14『麗奈のお願い』
「お兄様、シャーレイさんと一緒のところ悪いのですが、稽古をつけてもらえませんか?」
「麗奈か。 別に構わないが、俺よりも母さんのほうがいいんじゃないか? 剣術に関しては、母さんのほうが上だし」
終焉と火織はたまに試合をする。
未だに火織には勝てていないが、それでも終焉は十分強い。
なぜなら、全能力を持って戦えば、火織ですら歯が立たないのだから。
終焉が未だに火織に勝てていないのは、純粋な膂力と剣術、そして戦闘技術しか使っていないからだ。
「お母様でもいいのですが、私は能力を試したいのです。 もしものときを考えると、お兄様のほうが適任なのです」
「なるほどな。 暴走したときの対処って言うわけか」
麗奈は常に終焉の『能力制限』で作られたリボンで暴走しないように封じている。
が、そのリボンを外しての能力使用となると、暴走が起こる確率がゼロでなくなるのだ。
だから麗奈は、全力で能力を使用する際には、終焉の傍でやることにしているのだ。
ちなみに、そういった人はそこそこおり、明久もその一人であったりもする。
「いいだろう。 何なら、他の奴も呼んでも構わない。 訳あって明日は出来ないからな」
「そうなのですか? わかりました。 皆さんにも声をかけてみます」
「第一闘技場で先に行って待っている」
「わかりました」
麗奈は一礼すると、立ち去っていった。
「シエンって人気だね」
「まあ、昨日の事もあったからな。 余計に神聖視するのだろう。 まあ、俺の能力的にも、魔術的属性にしても、信仰したくなるんじゃないのか?」
原石としても(正確には違うが)、『能力を創る能力』という創造能力。
魔術としても、完全聖人という神聖な存在。
故に、神聖視するのも肯ける(のだろうか)。
「シャーレイ、ついて来な。 案内するよ」
「そのつもりだよ。 だって、シエンと一緒にいたいし」
「っ、行くぞ」
シャーレイの笑顔と言葉に、ドキッとした終焉はそそくさと歩き出す。
そんな終焉の心中を気づいているのか、シャーレイは何も言わず、終焉の横顔を眺めながら、終焉の隣を歩いていた。
☆
「これはまた……よく集まったな」
「だね。 僕も麗奈の誘いを受けてきたけど、三十人くらいいるんじゃないかな?」
麗奈の声掛けで集まった一人である明久は、苦笑しながらそう言った。
「すみません、お兄様。 私もここまで集まるとは思ってませんでした」
「いや、構わないんだが、ここまで集まるとは、俺自身思っていなかった」
ここに集まった者の大半は、終焉を神聖視している者だ。
終焉を見たいがために、集まったようなものなのだ。
「さて、始めるか」
終焉は注目を集めるために、『未元物質』で翼を生やし、空中で停止する。
「集まった者たちに告げる! 今から好きなように能力を使ってくれて構わない! なお、能力が暴走しようものなら、即座に俺が止めに入る! 気兼ねなく戦ってくれ! 以上だ!」
終焉がそう告げると、闘技場が沸いた。
終焉はそれを確認すると地上に降り、能力を解除した。
「さて、麗奈。 やろうか」
「はい」
「どうせだ。 明久も一緒にどうだ?」
「え、いいの?」
「構わない。 今日の俺は機嫌がいい。 いくらでも相手をしてやる」
終焉は、聖天絶刀を手に入れたことにより、いつにも増して機嫌が良かった。
無性に戦いたいのだ。
だから、麗奈と明久の二人を同時に相手取ろうとしているのだ。
「お、何か面白そうなことしてんじゃねえか」
「そうみたいだね」
「また終焉君が何かしているのかしら?」
「ここまでの人数を集めれるのは、終焉くらいだろうし、そうだと思いますよ」
そんな時やってきたのは―――
第二位『超音王子』シュレイド=エラン。
第三位『肉体超化』グラン=ガイスト。
第四位『風斬女王』ミスラ=フィーリス。
第五位『幼き貝王』沢田吉宗。
―――長点上機学園の誇るトップランカーである四人であった。
「皆さん揃ってどうしたんですか?」
「昨日のことについて聞いてたら、バトりたくなってな。 んで、ここに来たらお前がいたって訳だ」
「なるほど」
グランはトップファイブの中で、最も好戦的な人間だ。
しかも、全校生徒の中でも上位クラスの戦闘狂だ。
普段は理性的であるのだが、強い相手を見たり、激しい戦闘の話を聞くと、血が騒いでくるのだ。
終焉も、グランの餌食にあったことがある。
無論、返り討ちにしたのだが。
「で、終焉君。 この集まりは何かな?」
「これは、麗奈が全力で能力を使いたいということで、俺が相手にしようとしたんですが、俺は訳あって明日は出来ないので、他の連中にも声をかけたらどうだ、と言った結果です。 ここまで増えるとは、予想外でしたが」
「ということは、終焉君はとりあえず、麗奈ちゃんとやるわけね?」
「同時に明久もですけどね。 今日、ようやく俺の刀が完成して、機嫌がいいんですよ。 俺も、無性に戦いたいんですよ」
その言葉に、グランは大きく反応した。
「なら、俺とやろうぜ! 久しぶりにお前とやりてぇんだ!」
「いいですね、やりましょう。 シュレイドさん、ミスラさん、吉宗はどうします?」
「僕は遠慮しておくよ」
「私も遠慮しておくわ」
「俺はやるぞ。 終焉と戦うのも、確かに久しぶりだしな」
こうして、いつの間にか学園最強クラスの能力者による模擬戦となった。