Episode15『第一位VS第三位の序』
「あれ、中止?」
「どうやら、シエン様がグラン様と吉宗様と戦うらしい」
「マジかよ!? これは見ないと損だぞ!」
「観客席に急げ! 巻き込まれるぞ!」
麗奈の呼びかけに応じた生徒たちは、これから何が行われるかを知ると、急いで観客席へと向かっていった。
広い闘技場内だが、学園最強の能力同士の戦闘ならば、この程度の広さでは確実に巻き込まれる。
巻き込まれたら、軽傷では済まない。
それをわかっているから、生徒たちは急ぐのだ。
「とりあえず、どうします? 一対一にしますか? 一対二にしますか?」
そんな喧騒の中、終焉は落ち着いた様子で二人に尋ねていた。
「んな野暮なこと聞くんじゃねえよ。 当然、サシに決まってるだろうが」
「俺もグランさんに賛成だ。 一対一であることに、意味があるんだから」
二人の答えを聞くと、終焉は口角を上げた。
「二人ならそういうと思っていましたよ。 では、どちらが先にやりますか?」
「グランさんに譲りますよ。 グランさん、早くやりたいんでしょう?」
「ああ。 すぐに戦いてぇ。 うずうずしてしょうがねぇんだ……!」
今のグランを形容するのなら、それは『獣』。
血に餓えた肉食獣を思わせるような、そんなギラギラした笑みを浮かべている。
「さて、そろそろ生徒の避難も終わる頃ですか。 では、やりましょうか」
「ああ……! とっととやろうぜ!」
終焉とグランは闘技場の中央に移動し、シュレイドやミスラ、シャーレイ、及びに麗奈に明久も、特等席に移動し、二人の戦闘の行方を見下ろす。
ちなみに、そこにはなぜか束もいた。
なぜ束がここにいるかというと、敷地内を把握するついでに散歩をしていたら、この騒ぎをかぎつけたからだ。
現に、今も観客は増えている。
「グランさん。 貴方とやるのに、武器は要らない。 要るのは―――」
「―――この身一つ、だろ?」
グランは、終焉の言葉をさえぎって、先に答えを言ってのけた。
終焉はそれを聞くと満足げに微笑んで、魔力で、魔術で肉体を強化した。
「合図は?」
「必要ない。 この場が俺たちだけになった時点で、俺たちの戦いは始まってんだ」
「だろうと思いました」
このやり取りを最後に、闘技場は静けさに包まれた。
誰もが固唾を呑んで、どちらが先に動くかを、この戦闘の行方を見守る。
バンッ!
大地を蹴る凄まじい音と共に、グランが動き出した。
その速度は、ただの人間が出せる速度を、優に超えている。
「ッ!」
終焉はそれに反応し、グランの速度にあわせて右足を降りぬく。
グランは、終焉の蹴りを紙一重で避け、足を振りぬいたことによって生じた隙に、拳を打ち込む。
終焉は、右足の蹴りの勢いのまま跳び、軸となっていた左足で、回し蹴りの要領でグランの拳を弾く。
そして、そのまま大気を蹴って後方へと大きく跳んだ。
グランは、そんな終焉を追わずに、その場で立っていた。
終焉は着地すると、グランに攻め入らなかった。
「やっぱやるな、終焉」
「伊達に学園最強を名乗ってはいませんよ」
人間離れした動きを見せた二人は、まだまだ余裕があるといった様子で、会話を始めた。
「ウォーミングアップはこの程度でいいだろう」
「ですね。 あまりにも遅すぎて、グランさんの目的が一瞬掴めませんでしたよ」
「ハッハッハ。 そりゃすまんな」
あれほどの速度を出して、遅すぎるという終焉に、グランは快活に笑いながら謝った。
「だが、それを言うなら俺もだぞ。 攻撃が軽すぎるし、動きも遅すぎる。 お前、強化を解除したな?」
「ええ。 グランさんの初速が遅かったので、一瞬意図が掴めませんでしたが、すぐに理解したんですよ。 軽くやるのなら、強化は必要ないですから」
互いに手加減をしていたからこそ、この会話があるのだ。
そもそも、この二人が全力でぶつかり合えば、視認することすら困難なのだ。
だが、この会話におかしな点があることに気づいている者は、この会場内に何人いるだろうか。
「さて、そろそろ本気でやりましょうか。 俺も、強化を掛けるので」
そう、終焉が―――完全聖人であり、幼く発展途上ながらもすでにただの大人の人間の域を超えている終焉が、自ら身体強化をしているのだ。
それが意味するのは、グランが、まだ発展途上の完全聖人の身体能力を、軽く超える能力を持つということだ。
それが、ただ肉体を強化するだけの能力でありながら、学園第三位の座に立つ所以なのだ。
それこそ、『肉体超化』グラン=ガイストという男なのだ。
「フルブースト……!」
グランは、小さく叫んだ。
見た目に変化はないが、内に秘める力は、現在の通常時の終焉の膂力を優に超えるだけの力がある。
能力を解放するグランを他所に、終焉は終焉で魔術で肉体を強化する。
「行くぜ、終焉! こっからが本番だ!」
「ええ!」
二人は同時に、大地を抉りながら動き出した。