Episode17『激戦後』
「大丈夫ですか、グランさん」
「まだ頭がクラクラするが、大丈夫だ……」
音速で吹き飛ばされたグランは、その尋常ではない防御力のおかげで、大惨事にはなっていない。
そもそも、闘技場内ならば、大惨事になるようなことにはない。
なぜなら、闘技場内には特殊な結界が張られ、死に至るまでのダメージは受けないようになっているからだ。
それでも大きなダメージを受けていたグランは、終焉の能力によって治癒を受けた。
そのグランは、その並外れた回復力もあり、すでに八割方回復していた。
「次は俺となんだけど、大丈夫か?」
下りてきた吉宗が、治癒を続けている終焉に尋ねた。
「大丈夫だ。 能力で疲れは消せるからな」
『自身の損傷を消し去る程度の能力』―――『損害消去』は、一日に一度、その身に受けたダメージや疲労を消し去ることができる能力だ。
なぜ一日一度なのかは、それは、無制限ではこの能力を創ることができなかったからだ。
だが、この制限は、別の能力で無いも同然となっている。
「だがまあ、十分ほど休ませてくれ」
「わかった」
いくら体の疲れやダメージを消せるとはいえ、精神的にはそうもいかない。
極限の集中状態を維持し続けるのは、今の終焉では気疲れするものなのだ。
「終焉、もういい。 後は自然に治る」
「そうですか? グランさんがいいのなら、止めますが」
終焉は治癒を終わらせ、ボロボロとなった闘技場内を見渡す。
「にしても、酷い有様だな……」
「あれは人間の枠から逸脱した戦闘だったからな……」
音速を超えた速度で戦闘を行える生身の人間など、世の中にそうはいない。
「とりあえず、直すか」
終焉は能力『物質再生』を発動し、闘技場を修復していく。
まるで巻き戻しされていくように、見る見るうちに闘技場は直っていき、わずか三十秒ほどで元の形へと戻っていた。
「相変わらずの能力の多さだな」
「使えそうな能力をいろいろと創ったからな」
数多の失敗もあったが、それでも終焉が創った能力は、二桁に到達している。
しかも、その能力はどれも常軌を逸した原石や能力者たちの中でも、トップクラスの効果を持っている。
「さて、十分後にやるから、また後でな」
「ああ」
終焉は一度、闘技場の戦闘エリアから立ち去った。
☆
「お疲れ様でした、お兄様」
「相変わらず途轍もないね。 それについていけるグランさんもだけど」
「シエンってやっぱり凄い。 ほとんど見えなかったよ」
終焉は、明久たちと会っていた。
「魔力と能力の両方を使っていたからな。 純粋な能力だけで音速を超えるグランさんは、やっぱり凄いな。 最後の攻撃なんて、マッハ2を超えていた」
「もう、人間やめているよね」
「馬鹿言うな。 俺はともかく、グランさんは人間だ。 まあ、俺はまだ人間の枠に当てはまってるけど」
「その言い方止めてくれるかな? その言い方だと、いつか人間を本当に止めちゃうみたいじゃないか」
「みたい、じゃなくて、止めるんだよ。 きっと、そうなる」
どこか確信したように、そう言い切る終焉。
「でも、たとえ人間の枠組みから外れても、シエンはシエンでしょ?」
シャーレイは、迷い無くそう言った。
「そうだね。 たとえ終焉が本当に人間を止めたとしても、終焉は終焉だよね」
「そうですね。 お兄様がお兄様でなくなることは、ありませんよね」
シャーレイの言葉に、賛同する明久と麗奈。
「っと、そろそろ時間か。 話はまたしよう」
「頑張ってね、シエン! 行ってらっしゃい!」
「ああ、行ってくる」
シャーレイの応援を受け、終焉は再び闘技場戦闘エリアへと足を向けた。
「ねえ麗奈」
「何でしょう、明久さん」
去っていく終焉の背後で、明久と麗奈が、こそこそと小さな声で会話を始めた。
「シャーレイさんは、完全に終焉に惚れてるよね」
「そうですね。 見ていて微笑ましいです」
「終焉もさ、シャーレイさんのこと、好きなんじゃないの?」
「どうでしょうか? でも、他の女性よりも近い位置にいるのは、間違いないと思いますが」
「終焉って、自分以外の好意には鋭いけど、自分が関わってくると、鈍感だよね」
「お兄様も、明久さんだけには言われたくないと思います」
「え?」
そんな会話が、終焉の知らないところで行われていた。