小説『IS インフィニット・ストラトス 〜超常の力を持つ者たち〜』
作者:黒翼()

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Episode20『無意味な会議』



「どうも、本日はよろしくお願いします」

「え、ええ、こちらこそ」

にこやかに挨拶する臨也に対し、緊張した趣で相対する日本の重鎮たち、及びに大国の重鎮たち。
一切動じておらず、普段通りなのが、アメリカ大統領『ミスタースキャンダル』ことロベルト=カッツェ、イギリス第二王女『軍事』のキャーリサ、そしてその護衛に来ている騎士団長(ナイトリーダー)、イタリア最強のマフィア『ボンゴレファミリー』十代目ボスにして、吉宗の父親である沢田綱吉、そしてその右腕である『嵐の守護者』獄寺隼人(ごくでらはやと)、ついでにイタリア大統領たち、『長点上機学園』を支援する人間たちだった。

「束さん、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。 父さんの指示通りのことをさえしていれば、後は貴女の好きなようにすればいいんですから。 それに、何かあるようならば、俺が止めますから」

「う、うん……」

臨也の背後に並んで立っているのは、今回の集まりで重要な立ち位置にいる束と、臨也、及びに束の護衛である終焉だ。
束は、ビッグネームの集団にいることに、その中で話をしなければならないということで、酷く緊張していた。
そんな束に、小さな声で話しかける終焉。
少しでも緊張を解そうとしているのだ。

「臨也、さっさと始めるし」

赤いドレスを纏ったキャーリサは、臨也に早く始めるように催促する。
キャーリサからしてみれば、はっきり言ってISなんてどうでもいいのだ。

「そうですね。 では、早速始めましょうか。 この子が作ったISについての会議をね」

臨也も無駄話をするつもりがないのか、すぐに始めようと、後ろにいる束を見た。

「いけるね?」

「……はい」

臨也が声を掛けると、深呼吸してから返事をした。
そして、プロジェクターの傍まで歩き出す。

「頑張って」

「っ、……うん」

終焉の隣を過ぎる際、束にのみに聞こえるくらいの小さな声で、終焉はただ一言、激励をした。

「初めまして。 私が、ISを開発した篠ノ之束です。 早速、ISについての説明を始めます」

束は、自身が開発し、夢の結晶であるISについて、話し出した。




 ☆




「―――以上で、ISについての説明を終わります」

束は、ISの説明し終えると、一礼して、再び臨也の後ろ、終焉の隣へと戻った。

「ISについての説明を終えたところで、本題に入りましょうか」

臨也がそう切り出すと、緊張していた重鎮たちは、表情を引き締めなおした。
この場にいる者は、誰もが知っているのだ。
折原臨也という男の危険性と、空間掌握能力を。
臨也は、その異常なまでの情報で、あらゆる交渉を完全に支配する。
この場にいる誰も、臨也に交渉や話し合いで言い負かせたことがないのだ。
そもそも、臨也が言い負かされた場所を見たことがないのだ。
故に、気を引き締めなおすのだ。
それがたとえ、無駄だとわかっていようとも……。

「僕が話し合いたいのは、ISのその後と、彼女、篠ノ之束についてです」

「臨也さん。 御託はいいです。 もう、結論は決めているんでしょう?」

臨也がわざとらしい話を始める前に、綱吉が話の腰を折って、すでに決めているであろう結論を言うように促した。

「そうだね。 とっとと言っちゃおうか」

綱吉の言葉を聞くと、キャーリサを見た臨也。
キャーリサは変わらないような表情をしているが、人間を見続けてきた臨也には、キャーリサが厭きてきたのを感じれた。
この場で最も危険な存在の一角でもあるので、暴れる前に結論を言おうと思ったのだ。

「とりあえず、ISのコアは世界中にばら撒きます。数はまあ、500もいらないでしょう。 多すぎれば、無駄な争いを生みますからね」

「それをばら撒く時点で、争いの種を蒔いてるよーなもんだし。 まあ、臨也の考えはわかるから、文句はないし」

「これだけの性能を持つISを、世界に見せ付けてしまった以上、束ちゃんが黙秘する、そして世に放たないことが、一番の争いの種です。 だから、ISのコアを一定数ばら撒くことで、その種を小さくする。 ISの使用については、後々詳しい話し合いをするのでそのつもりで」

「で、彼女はどうすんだ? まあ、予想はついているが」

そう聞いてきたのは、ずっと黙っていたロベルト=カッツェだった。
この話で最も重要なのは、ISの開発者であり生みの親である篠ノ之束をどうするかだ。
束の安全が確立されていなければ、臨也の話は意味を成さなくなる。

「彼女は、僕が匿いさせてもらいますよ」

『『『なっ!』』』

「やっぱりな」

「そうだと思ったし」

「当然ですね」

臨也の言葉に、三者三様の反応を示した。
最も多かったのは、驚き―――というよりもそれが意味する脅威に反対する声だった。
長点上機学園を支援する三国の代表者は、予想通りだったので、まったく動じていなかった。

「ま、待ってくれ! 君がそんなことをすれば、余計に問題が大きくなる!」

「ただでさえ原石や人工能力者が危険だというのに、ISの開発者までも与えるわけにはいかん!」

「そもそも、人工能力者についての説明を聞いていない!」

臨也にこれ以上の力を持たせたくない各国の重鎮は、焦るように言葉を並べた。
だが、そんな言葉は臨也には届かない。

「僕はただ、常人離れし、一般的な生活が困難な、その才能を活かせない環境下にいる子供たちを集めているだけで、原石たちはその一端で集まったに過ぎない。 そもそも、人工能力者については、教えるわけにはいかないな。 それこそ、戦争の火種になるだけだ」

臨也が人工能力者について教えないのは、それを元に人体実験が行われるのを予期しているからだ。
それに、人工能力者は、無意識でも能力をある程度制御できる天然の原石とは違い、能力を理解し、それを自分の意思で制御しなければならない。
暴走の危険性がある以上、絶対的な抑止力がなければ、そんなことはできない。

「君は『力』を独占したいだけだろう! あれだけのミサイルを意図も簡単に破壊しつくした能力者、しかも圧倒的な力を見せ付けたその子供を利用して、世界を支配しようとし―――ヒッ!」

臨也に向けて叫んでいた重鎮は、圧倒的な恐怖によって、黙らざるを得なかった。
なぜなら、その者の首には、漆黒の刀身が突きつけられ、その者の周りには、炎・水・雷で出来た球体が多数浮かび上がり、それをしている終焉の背中からは純白の左右三対の翼が生え、その瞳は、相手に動くことを赦さないと言わんばかりの鋭さと冷たさを持っていたからだ。

「父さんのことを悪く言うのは、その口か? それとも、その頭か? くだらないことを言うようならば、消すぞ」

「そこまでだよ、終焉。 僕たちは争いに来たんじゃないんだから、抑えて抑えて」

「……父さんがそう言うのなら」

臨也に止められ、絶刀を、能力によって出来た球体を、純白の翼を、殺気を、向けていた全てを消し去った。

「僕に争う気はないよ。 僕のところに『力』が集まってしまうのは、別に支配のためじゃない。 ただ、人間が平和に暮らせるようにするためだ。 長点上機学園で人工能力者を造っているのは、能力がないことにコンプレックスを抱く在学者に、その不満が爆発して問題を起こさせないようにするためだ。 そもそも、超能力なんていう逸脱した『力』にリスクがないとでも思っているのかい? 彼らは、能力を有している(・・・・・・・・)んじゃない(・・・・・)能力を背負って(・・・・・・・)いるんだよ(・・・・・)。 能力を持つことは、はっきり言うといいことじゃはないんだよ。 なぜなら、能力が人間を(・・・・・・)潰すことがありえる(・・・・・・・・・)のだから」

原石は、基本的にその能力しか使えない。
なぜなら、『原石』は本来ならば人間にない『力』なのだから。
なぜ『原石』がごく僅かしか存在しないのは、それは能力は、本来ならば人の身には余る代物だからだ。
感情が暴走する、精神が不安定になるなどの、ある特定の条件に陥ると、普段はその人の器に治まっている能力が、その器量から溢れることがある。
それが、能力の暴走だ。
器量から溢れた能力が、能力者の意思から外れて外界へと影響を出す。
その現象こそが、能力の暴走の正体なのだ。

「過去にあった不可解な怪奇現象の中には、原石の能力が引き起こしたものがある。 一番新しいのだと、四年前のロシアで起こった事件だよ。 あれは原石の能力が、感情の暴走に起因して引き起こされた事件だ」

四年前、ロシアで起こった事件は、世界中を震撼させた。
それは、ロシアのとある田舎で起こった大虐殺事件だ。
住民は皆、バラバラとなった死体と化し、村にある建物もバラバラとなっていたのだ。
臨也たちの調べでは、その村には、村の住民全員から迫害を受けていた少女がいたのだ。
その少女には、人の域から外れた『力』があった。
彼女は超能力者―――原石だったのだ。
村人たちはその能力を恐れ、彼女を迫害し続けた。
その結果、悲劇が起こった。
溜めに溜めてきた感情が、ついに暴走したのだ。
彼女の感情に呼応するように、能力は暴走した。
その能力の暴走は、彼女の普段扱えていた能力―――対象を斬るという能力―――の出力を、遥かに超えた出力を生み出した。
それは、一瞬の出来事だった。
彼女の暴走は、一瞬にして村人を切り刻み、建物を切り刻み、村にある全てを切り刻んだ。
この大惨事を引き起こした少女は、暴走した能力を扱いきれず、自らの能力に殺された。
彼女は、溜めすぎてしまったのだ。
本来なら、ほとんど溜めることなく、一時の感情に身を任せ、小さな暴走が起こる程度のものが多い。
だが、彼女は強かった。
強すぎたのだ。
彼女は、そんな生活に十四年も(・・・・)耐え続けたのだ。
その長い年月溜め込んだ感情が、この事件を生んだのだ。
これこそが、最後に起こった能力の暴走による殺人事件であると同時に、ここ近年で最も悲惨な事件だ。

「僕はあんな悲劇を起こしたくはない。 だから、僕は原石を集めるんだ。 彼らがそんな大暴走を起こさないために、生き続けてもらうために」

強力な能力ほど、その容量は大きい。
だから、強力な能力―――シュレイドたちトップランカーや、明久のような能力がいい例―――は、基本その人しか使えない。
なぜなら、その人の能力を受け入れる器が大きく、その能力が相応しいからだ。
だから、能力保有者は危険なのだ。
そして、それが意味するのは、数多の強力な能力を持ち、能力創造という規格外な能力を持つ終焉は、誰よりも能力を受け入れる器が大きく、誰よりも能力を背負っており、そして、誰よりも危険なのだ。
ちなみに、能力を受け入れる器は、能力保有者の頑張り次第で大きくなる。

「わかってもらえたかな? 僕が原石を集める理由を。 僕が原石を集めるのは、能力の暴走を起こし、自らの手で命を絶たせないようにする為と、原石の周りを壊さないためだ。 戦争なんて、そんなくだらないもののために、僕は原石を集めているんじゃない。 そこを履き違えないでくれないかな?」

臨也が長点上機学園を建てたのは、自らの能力によって身を滅ぼす人間を減らすためだ。
そのために、臨也は終焉を利用しているとも言える。
それに終焉自身気づいている。
利用されていると知っていながら、なぜ力を貸すのか。
それはただ単に臨也が父親だからではない。
臨也の夢を、目的を、理想を知って、それを応援したいと思っているからだ。
だから、臨也を馬鹿にする言葉にあそこまで過激に反応し、殺意を向けたのだ。

「さて、話を戻そうか。 篠ノ之束は僕が擁護します。 いいですね?」

「全然構わんし。 臨也のしたいようにすればいいし」

「構わねえよ。 元より、俺はお前に任せるつもりだったしな」

「俺も構いません。 貴方に任せたほうが、俺も安心できます」

キャーリサ、ロベルト、綱吉は臨也に賛成する。

「……いいだろう」

「……仕方あるまい」

「……大目に見てあげましょう」

他の代表者たちは、まるで威厳を保つように見栄を張るが、それはかえってその者の尊厳を著しく下げていた。

「さて、話が纏まったところで、終わりにしようか」

こうして、IS開発者・篠ノ之束の処置が決定した。
誰の反論も赦さない、臨也の独擅場で……。



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