小説『IS インフィニット・ストラトス 〜超常の力を持つ者たち〜』
作者:黒翼()

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Episode23『懐かしき顔、そして起こる大喧嘩』



「ごめん、待たせちゃったね」

「いえ、大丈夫ですよ、臨也。 帝人(みかど)が二人の相手をしてくれていましたから」

待ち合わせ場所に着き、火織に声をかける臨也。
火織が向くほうには、楽しそうに笑う麗奈と明久、そして懐かしい顔だった。

「あ、お久しぶりです、臨也さん」

この童顔の青年は、竜ヶ峰(りゅうがみね)帝人(みかど)
臨也が昔、陥れた人間でもあるが、今では仲良くしている。

「本当に久しぶりだね、帝人君。 今日は杏里(あんり)ちゃんとは一緒じゃないのかい?」

杏里とは、帝人の妻であり、旧姓園原(そのはら)杏里(あんり)という。
ちなみにこの女性、四木との会話の際に出た、『罪歌』の宿主である。
さらにちなみに、池袋にある巨大グループの一つが、この『罪歌』に斬られ、子となった人たちだ。
さらに言うと帝人も、池袋にある巨大グループの創始者である。
そのグループ名は『ダラーズ』。
カラーギャングと呼ばれるグループなのだが、象徴としている色は『無色透明』。
ルールもなく、加入者にあまり制限はないので、そこにいるOLやサラリーマン、ましてや小学生までもがダラーズかもしれない。
ただし、悪事を行う者は入れないという、裏ルールが存在しているのだが。

「僕だっていつも杏里と一緒にいるわけじゃないですよ。 今日はぶらっと池袋を散歩しているだけです。 そしたら、火織さんたちを見かけたんで、声をかけたんですよ」

「そうかい。 で、帝人君、娘さんは元気かな?」

「臨也さんなら聞かなくても知ってるでしょうに……。 まあ、元気ですよ。 元気すぎるくらいです」

帝人と杏里の間には、一人の娘がおり、現在小学校一年生だ。

「それならよかった。 子供は元気が一番だからね」

「にしても、本当に変わりましたね、臨也さん。 貴方があんなに表に出るなんて、今までじゃあ考えられなかったのに」

「それについては俺も同感だよ。 まさか、自分がここまで変わるなんて、誰も思わなかっただろうね。 俺でさえも思わなかったんだから。 まあ、一番変わったことは、シズちゃんと戦争しなくなったことだよね」

「ああ、確かに。 静雄さんと臨也さん、普通に話してましたよね。 何があったんですか?」

二人の言う『静雄』、『シズちゃん』というのは、池袋にいる一般人最強の男のことだ。
その男の名は、『平和島静雄(へいわじましずお)』。
『池袋で最も名前負けしている男』とも呼ばれている。
今ではそれほど暴れてはいないが、昔は『池袋の自動喧嘩人形』と呼ばれるほど、喧嘩をしていたのだ。
もっとも、それは自分から吹っかけていたわけではなく、吹っかけられたせいで、彼自身は暴力を嫌っている。
臨也と静雄は犬猿の仲で、姿を見れば、即座に大喧嘩が始まるほど、仲が悪かったのだ。
それが、今では喧嘩はせず、普通に会話できるほどになったのだ。

「ちょっとね。 まあ、妻子持ちになったってことで、シズちゃんも俺を殺せなくなった、って感じかな」

「俺がどうしたってんだ?」

「シズちゃん! 久しぶりだね!」
「静雄さん!? どうしてここに?!」

噂をすれば影。
件の平和島静雄が現れた。

「おう、久しぶりだな。 俺がここにいちゃ悪いのか?」

「い、いえ! そんなわけじゃ……」

「まあ、クセェと思って街を回ってたら、案の定臨也がいたってだけだ。 ここに来たのは、偶然だな」

「シズちゃん、まだそんな感覚で俺を感じ取れるんだね。 つくづく人間止めてるよねぇ」

「テメェんとこの連中よりかはマシだ。 というより、シズちゃんって呼ぶんじゃねぇ!」

「まあまあ、落ち着いてよ。 今更俺が『静雄』なんて呼んでも、違和感満載でしょ? というより、俺自身が『静雄』って呼ぶことに抵抗を感じるんだよね」

「はぁ……テメェになんか言うだけ疲れるだけだな……まあいい」

喧嘩はしないにしても、静雄は臨也に悩まされるようだ。

「にしても、こいつがあの終焉か。 でかくなったなぁ」

静雄は小さい頃の終焉を見たことがあり、抱いたこともある。
臨也と静雄の関係が良くなっていったのは、この頃でもある。

「元気に育って、今じゃあ学園最強の世界最強だよ。 多分、純粋な膂力でもシズちゃんを軽く凌駕するよ」

「あー、だろうな。 ニュースで見た程度しか知らねえけど、スゲェな、こいつ。 ああいうの、俺にもできねえのか?」

静雄のように、超能力に憧れるものは多い。
普通の人には出来ないものが出来るというのは、途轍もなく魅力的だし、同時に他人よりも凄いということで、優越感にも浸れるからだ。
だが、超能力について知っている者からしてみれば、それはあまりおススメしたくはないものである。

「出来なくもないけど、止めといたほうがいいよ? 超能力って、ぶっちゃけ使わせようと思ったら誰にでも使わせれるんだけど、生半可な覚悟じゃあ危険なんだよ。 最悪、死ぬこともありえるんだ。 まあ、うちはまだ死人は出てないけど、怪我人ならそこそこいるんだよ。 もっとも、それは戦闘訓練での怪我が多いんだけどね」

「静雄さん、俺としても、止めたほうがいいですよ。 超能力は、見る分には羨ましいだろうけど、実際そんなに甘いものじゃないですから」

「静雄さん、でしたっけ? 超能力が使いたいっていうのは凄くわかりますけど、僕自身実際に命を落としかけた経験があるので、止めたほうがいいです。 その思いは、願望までに押しとどめておかなきゃダメです」

「初対面の子供にまで注意されるって、大人としてどうなんだ? まあいい。 忠告、ありがとな。 お前らがそういうなら、止めたほうがいいんだよな」

臨也、終焉だけでなく、側で話を聞いていただけの明久までもが注意したことにより、すぐに諦めた静雄。

「というより、命落としかけたってどういうことだ? まさか、臨也が関わってるんじゃねえだろうな?」

「臨也さんはまったく関係ありませんよ。 僕が死に掛けたのは、単に能力の扱いを失敗しただけですから」

「そうか。 それならいい。 いや、よくねえんだけど、……ああなんつーんだろうな……まあ、死ななくてよかったな。 死んだらそこで、何もかもも終わりだからな」

言葉が見つからなかったのか、ありきたりなことを言ってしまう静雄。

「ありがとうございます、静雄さん。 僕にも、生きる目的があるので、死ぬわけにはいきませんからね」

「お、おう、そうか」

「あはは! 相変わらず不器用だねぇ、シズちゃん! 子供に対してそれはないんじゃないかな!」

「うるせぇ臨也! テメェは黙ってろ!」

からかう臨也に、キレる静雄。
懐かしの喧嘩を始める二人の姿を見て、終焉が思ったことを口にした。

「父さん。 よく思うことですが、本当に今まで生きてましたね。 無駄にしぶとすぎです。 ゴキブリですか?」

「ゴキブリって酷いんじゃないかな!? 俺父親だよ!?」

「あながち間違いじゃねえだろうが! おいコラ、逃げんな!!」

「逃げなきゃ死ぬじゃない! シズちゃんのは本当に洒落にならないんだから! 俺は終焉やシズちゃんたちとは違って、至ってノーマルなんだからさ!」

「テメェがノーマルなら、世の人々はどうなんだよ! テメェほどアブノーマルな奴はいねぇぞゴラァ!」

「ああ……久しぶりに始まった」

大喧嘩へと発展していく二人の喧嘩。
臨也が逃げ、静雄がそこら辺にある物を武器に、追いかける。
自動販売機が飛び、道路標識が比し折られ、へし折られたそれが飛ぶ。
池袋の人々は、その光景を見て、ある者は驚き、あるの者は懐かしみ、そしてある者は混乱していた。

「え、えーっと……止めなくていいんですか?」

「お父様、本当に死んでしまいますよ?」

「大丈夫ですよ。 ああ見えても、臨也は逃げ足は一級品ですから。 それに、二人とも楽しそうです。 止めるのは、もう少し経ってからでもいいでしょう」

困惑しながらも確認する明久と麗奈に、火織は大喧嘩を懐かしげに眺めている。
火織も、この光景を見るのは久しぶりで、楽しんでいるのだ。
始めてみたときは、静雄の常人離れしたその力技に、度肝を抜かれたものだ。
その膂力だけならば、通常時の聖人のそれと同格なのと、魔力もなしに、あれほどまでの膂力を扱う一般人に、静雄の攻撃を全て避ける臨也のすばしっこさに、眼を疑ったのはいい思い出となっている。

「とりあえず、追いかけよう。 父さんたち、結構羽目外しているみたいだから、もう大分移動してるよ」

「そうですね。 行きましょうか」

ど派手な大喧嘩を面白そうに眺めながら、のんびりと臨也たちを追いかける終焉たちであった。



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IS <インフィニット・ストラトス> 第1巻 [Blu-ray]
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