Episode2『麗奈の暴走』
Side〜終焉〜
とりあえず、俺は二歳になった。
妹が生まれ、早一年。
名前は『麗奈』と名付けられた。
……普通すぎる名前だ。
俺と比べると、平凡すぎる名前だ。
いや、そもそも俺の名前と比べることが間違っているな。
俺の名前は普通じゃなさ過ぎる。
『終焉』と書いて『シエン』と読むなんて、こんな名前を考え付くのはそうはいない。
「すぅ……」
今、麗奈は俺の指を掴みながらすやすやと寝ている。
我が妹、麗奈が可愛すぎる。
愛くるしい天使の微笑みを持っていて、見ているだけで和む。
麗奈は将来美少女になるな、うん。
これは、悪い奴に引っかからないように、守らないといけないな。
必要ならば、能力を使うことに躊躇もしないだろう。
「やっぱり、麗奈は一番終焉に懐いているね」
「常に一緒にいますからね」
いつの間にか俺たちを見ていた父さんと母さん。
まったく気づかなかった。
「いつも麗奈を見ていてくれてありがとう」
父さんは情報屋であるが故に、よく仕事が入る。
必要な情報を入手するために、いろいろ手を回していたりする。
情報の整理があったりと、中々忙しいようだ。
そして、母さんはイギリス清教に所属する聖人。
さらには天草式十字凄教の女教皇。
真面目な性格(だが、父さんに染まり、黒くはなった)のため、仕事はちゃんとしている。
故に、家を開けている日がそれなりにあるのだ。
だからまあ、麗奈は俺が相手することになっている。
両方家を開けていることはないため、安心して麗奈の相手は俺に任せてくれている節もある。
「大丈夫だよ。 僕も、麗奈が好きだから」
俺は、他の幼児と比べると成長速度が速い。
二歳でありながら、普通にしゃべれるし、動ける。
多分、完全聖人であることも理由の一つなのだろう。
だけど、しゃべることは考えている。
そうしないと怪しまれるからな。
まあ、もう怪しまれているかもしれないけど。
「ちょっとトイレ」
ちょっと尿意に襲われてきたので、トイレに行こうとしたんだけど……。
指を掴まれているので動けない。
いや、動こうと思えば動けるのだが、起こしてしまう。
そんな俺に気づいたのか、母さんが麗奈の手を放そうとする。
「うぅー!」
が、麗奈は放したくないのか寝ながら唸る。
「起こしたくはないんですが……」
母さんは困り気につぶやいた。
俺も起こしたくは無い。
「終焉。 トイレ、我慢できるかい?」
「少し」
尿意は我慢できるが、限度と言うものがある。
麗奈が起きるまで耐えれる保障はない。
「んー、麗奈には悪いけど、放してもらうしかないよね」
「そうですね。 終焉もトイレに行きたいようですし」
問答無用でテレポートを使えば一瞬でこの状況を切り抜けれるのだが、この場には父さんと母さんがいる。
とてもじゃないが使えない。
「麗奈、放してください」
「うぅうー!」
パチ……。
(……パチ?)
今、何かが弾けるような音、しなかったか?
俺は音がした方向―――つまりは麗奈を見る。
「ごめんなさい、麗奈」
「ううぅー!!」
パチッ……。
そして、俺の指が解放された直後―――
ゴウッッ!!!
―――炎が迸った。
「「「なっ!?」」」
突然の発火に、俺も父さんも母さんも驚いた。
母さんは発火に気づいた直後、俺を抱えて跳び下がったため、俺たちに被害はない。
ただし、発火原因である麗奈は、今もなお炎を発生させていた。
「まさか、これは魔術!?」
「違う! これは、魔術じゃない!」
この世界は『とある魔術の禁書目録』の設定が一部存在している。
『幻想殺し』上条当麻さんもいる。
御坂美琴さんもいるが、能力持ちではない。
でも、何の因果か母さんと当麻さんは知り合いで、何度か見たことがある。
ちなみに、当麻さんと美琴さんは恋人同士らしい。
っと、話が逸れたな。
この世界には学園都市は無いが、超能力者は少なからず存在する。
つまりは、『原石』という天然の能力者が存在すると言うことだ。
麗奈は、原石だ。
(どうする……)
これを止めなくてはいけない。
止める手立てが無いわけではない。
炎を消してしまえばすぐに終わる。
『未元物質』で燃えない素粒子を生み出して麗奈の回りに散布すれば鎮火はすぐに出来る。
だが、その場合は完全聖人であるだけではすまない。
俺のことを話さなければならないだろう。
だが、麗奈を見捨てるわけには行かない。
母さんなら助けれるだろうが、助けれるだけの力を持っているのに、使わないということは俺には出来ない。
(腹を括れ!)
俺は、能力を発動した。
『未元物質』を発動して一切燃えない、人体に無害な素粒子を生み出し散布する。
同時に『一方通行』で風のベクトルを操り、その素粒子を麗奈の周りに纏わせ続ける。
その行為が功を奏し、発火は途絶えた。
だが、まだ根本的問題は解決していない。
素粒子が消えれば、また発火するだろう。
一時的にでも、この暴走を抑えなければならない。
(満月の日まで後四日……そこで新しく能力を創るとして、今はこれを止めないといけないな)
そして、俺は麗奈へと突っ込む。
「「終焉!?」」
俺は全ての能力を解除し、新たに能力を発動する。
『異能の力を消し去る程度の能力』―――つまりは擬似『幻想殺し』だ。
この能力使用中は、他の能力は使えない。
純粋な身体能力が必須となってくるが、対象は動かない麗奈。
問題はあまりない。
俺は右手を伸ばし、麗奈に触れる。
その直後、バキンッと、何かが壊れるような音が鳴った。
麗奈の能力の暴走は、殺された。
「い、今のは……『幻想殺し』!?」
「そんな馬鹿な! あれはこの世に一つしか存在しない物の筈! なぜ終焉が!?」
ああ……やっぱり言わないといけないな、これは……。
俺は、意識を失った。
Side〜終焉〜out