小説『ドラゴンクエスト? 〜天空の花嫁〜 《第一部》』
作者:wanari()

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 教会は形を変えていた。
 十年前よりも小さくなり、表面の壁はどこか真新しかった。一度壊され、また建て直したようだ。それを見たアランは言いしれぬ切なさを感じた。
 ルラキ少年はノックもそこそこに、教会の中へと飛び込む。彼に手招きされ、アランたちはゆっくりと建物内に足を踏み入れた。
 教会独特の匂いが鼻をかすめる。
「これ、ルラキ。駄目じゃないの、教会の中では静かにしなさいといつも言っているでしょう?」
 奥からか細い声が聞こえてきた。叱責のはずだが、ひどく頼りない。見ると祭壇の脇に椅子がひとつ据えられ、そこに初老のシスターが一人、深く腰をかけていた。ひどくやつれているようにも見える。
 ルラキは素直に謝った。
「ごめんなさい、シスター。今日はお客さんが来たから、ここまで案内したんだよ」
「お客さん?」
 そこでシスターは初めてアランたちに気づいたようだった。ゆったりと微笑む。
「まあまあ。旅人なんて何年ぶりかしら。ようこそおいでくださいました。見ての通り何もない村ですが、どうぞゆっくりしてくださいね」
「いえ……。あの、ここに来る途中にあった家は……」
 遠慮がちにたずねると、シスターは視線を逸らした。ルラキ少年を呼ぶ。
「案内ご苦労様。ここはもういいから、外で遊んでおいで」
「はーい」
 来たときと同じように、元気一杯の後ろ姿を見せながらルラキは教会を出て行った。
 シスターがアランに向き直る。その顔には深い哀愁の色が滲んでいた。
「この村、サンタローズはとても長閑で、それは美しい村でしたのよ。村人ももっとたくさん住んでいて、いつも笑顔が絶えなかった。……あなたがたがご覧になられた廃墟は、その名残なのです」
「廃墟……どうして」
「……」
 シスターは口をつぐんだ。それから大きく息を吐き、つらい思い出を掘り返すようにつぶやいた。
「数年前のことです。突然、ラインハットから兵士たちが大挙して押し寄せ、村を焼き払い、破壊していったのです。反抗する者は容赦なく殺されました。抵抗しなかった者も捕えられ、いまだに行方が知れません。ここにいるのは、当時の惨劇を命からがら逃れた者たちばかりなのです」
「ラ、ラインハットが!?」
「そ……んな。馬鹿な」
 ヘンリーが腹の底からの叫びを上げる。
「嘘だ、あるはずがないっ。どうしてラインハットが、このような酷(むご)いことを!」
「すべて、事実です」
 再びシスターは深いため息をついた。
「理由は、いまだに私にもわかりません。ですが村人の話では、王子を拐(かどわ)かした犯人がこの村の住人だった、だから軍を起こした、と兵士たちは言っていたそうです。……ひどい話です。本当にひどい話です。どうしてパパス殿が、ラインハットの王子を攫うなどというさもしい真似をするでしょうか。あのような高潔な人物に対して、言うに事欠いて『人さらい』の汚名を着せるなど……!」
 まさに時が止まってしまったかのように言葉を失うアランたちの姿に、シスターは我に返った。
「ごめんなさい。見ず知らずの方々にこのような話をして。パパス殿と言われても、あなたたちには誰の事かわからないですよね……。忘れて下さい、年寄りの昔話だと思って――」
「…………父です」
「え?」
「パパスは、僕の、父です」
 アランは顔を上げた。すでに堪えきれなくなった涙が一筋、精悍な頬を流れ落ちていく。
 シスターが何かに気づいた。目を見開き、それまでずっと腰を沈めていた椅子から立ち上がる。取り憑かれたように歩みを進め、皮膚が割れやせ細った指でアランの涙を拭う。
「…………あなた、まさか。アラン……? アランなのね!?」
「はい……ッ」
「ああっ。何と言う、何と言うことでしょう……! 神様!」
 シスターはその場に泣き崩れた。肩に手を当て介抱するアランと二人、しばらくの時をむせび泣いた。


「……ありがとう。私はもう大丈夫です」
「あまり無理はしないでください」
「ええ。ふふっ、こうして見ると、パパス殿の面影があることがわかるわ。それだけじゃなく、不思議な優しさにも包まれている。本当に立派になりましたね、アラン」
 気を落ち着けたシスターは、再び椅子に腰掛けアランたちと向かい合った。ラインハット兵による襲撃後、生き残った村人たちで細々と生活していること、襲撃の少し前に、サンチョは主人の姿を求めて旅立ったこと――そうした諸々の出来事を、彼女はゆっくりと話してくれた。
 そしてアランもまた、これまでの大まかな経緯を彼女に話す。敬虔な老シスターは深くうなずいた。
「……そう。パパス殿はもう……。その後も十年間も奴隷生活をしていたなんて。本当に、辛かったのですね。アラン」
「でも、今はこうして自由になれました。いろいろな人たちの助けがあって、僕は生きています」
「その気持ち、忘れてはなりませんよ」
 まるで母が子を見るような慈愛に満ちた瞳でシスターは言う。
「これからは、パパス殿の意志を継いで……?」
「ええ。世界を旅して、母を捜そうと思っています。そして父のことを伝えたい」
「そうですか。では、川ほとりグレイス殿を訪ねられるとよいでしょう。覚えていますか? 洞窟の入り口近くに居を構える、あのご老人のことです」
 アランはうなずいた。パパスがサンタローズの洞窟に入っていたとき、必ず訪ねていた家がそこだったからだ。
「パパス殿は、何か大切なものを洞窟の中に保管していたようです。グレイス殿なら事情を知っているかもしれません。あなたがパパス殿の意志を継ぐつもりならば、一度足を運ぶ必要があるでしょう」

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