小説『ドラゴンクエスト? 〜天空の花嫁〜 《第一部》』
作者:wanari()

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 シスターに礼を言い、アランたちは教会を出た。村を流れる川まで出て、さらに上流へ向かって歩く。目当ての家はすぐに見えてきた。その間、アランはもとよりヘンリーも一言も喋らなかった。
「すみません。グレイスさん、いらっしゃいますか?」
 戸を叩く。しばらくして不審そうな顔をした老人が出てきた。若干やつれてはいたが、パパスとよく話していたあの老人に間違いなかった。
 じろじろと全身を観察される。警戒心を露わにしたその様子に、アランは戸惑いと哀しみを感じた。ラインハットの襲撃事件は、やはり人の心にも爪痕を残しているのだろうかと思う。
 僕は、とアランが名乗ろうとしたとき、不意にグレイスが大きく目を見開いた。震える手でこちらを指さし、一歩、扉から出る。
「おお……もしやおまえさん、アランではないか? パパス殿のご子息の……?」
「はい。お久しぶりです。それから、ごめんなさい。長い間ここを留守にしてしまって」
「いやいや。元気ならそれでええよ。わしも心配しとったんじゃ。風の便りにもとんと乗らなかったからな。しかしまあ、立派になって」
「グレイスさん。父がお世話になっていたとシスターに聞いたのですが、そのときのことを教えてもらいたくて、今日はここに」
「うん? それは構わんぞ。しかし懐かしいのう。おまえさん、パパス殿に似てきた。誇っていいぞ」
「ありがとうございます」
 アランは顔をほころばせた。しかし、次のグレイスの一言で再び陰を落とす。
「して、パパス殿は? てっきりおまえさんと一緒だと思ったのだが。それとも、自らの汚名をすすぐためにラインハットへ向かわれたか? どちらにしろ、これで一安心で――」
「あの! 実は……」
 事情を話す。パパスが死んだと聞いた彼の驚愕は、シスター以上だった。
「なんと……! あの、パパス殿が……! 信じられん。あの方は英雄英傑の類、たやすく討ち取られるような武人ではないはず……!」
「父を殺した魔物は、強大な力を持っていました。今でも、あれ以上の邪気は見たことがありません。それに……父が死んだのは、半分は僕のせいです。僕が力足らずだったから」
「おい、アラン」
 見かねたヘンリーが横腹を小突いてくる。「わかってる」とアランは親友に小さく笑いかけた。
「ですから、僕は父の意志を継ぎたいのです。僕のせいで父の悲願が道半ばで途絶えてしまったのなら、僕にはそれを引き継ぐ義務がある」
 グレイスは再び目を瞠った。アランの瞳を真正面から見つめる。
「わかった」
 と、老人はうなずいた。
「そこまで固い決意を持っているのなら、天のパパス殿も否とは言うまい。ついてきなさい、アラン」
「え?」
「家の裏に筏がある。かつて、パパス殿が使っておられたものじゃ。わしはその管理を任されておったでの」
 グレイスは家の裏庭にアランたちを案内した。そこは川に面していて、すぐ北にあのサンタローズの洞窟がぽっかりと口を開いている。
 急ごしらえの桟橋に、木を並べて組んだだけの簡素な筏が係留してあった。
「一度はラインハットの奴らに壊されてしまったがな。いつかパパス殿が帰ってくる時に備え、こうして作り直していたのだ。まさかこのような形で使うことになるとは思いもせなんだが」
「グレイスさん。この筏、お借りしてもいいですか」
「もちろんじゃ。パパス殿はこの洞窟の奥、川の上流に、旅の目的にも繋がる非常に重要なものを隠しているとおっしゃっていた。パパス殿のご遺志を継ぐのなら、それを見つけ確かめるのが良いじゃろう」
「旅の目的にも繋がる……だいじなもの」
「うむ。ただ気をつけなされ。あれから何年も経っておるし、村の襲撃があったときに洞窟も荒らされたようじゃから、中がどうなっているかはわからんからの」
「ありがとうございます。それじゃあ、みんな。行こう」
 筏の様子を確かめ、係留してある縄をほどき櫂を取る。そのとき、ひとり立ち尽くしたままのヘンリーに気づいた。
「ヘンリー? どうしたの、出発するよ」
「ちょっと待ってくれ。爺さんに、ひとつだけ確かめておきたいことがあるんだ」
「ほ。何かの、若い者」
 『ヘンリー』という名を聞きグレイスの表情が少しだけ緊張を帯びる。
「ラインハットの王には……今、誰が即位してるんだ?」
「わしが兵士どもから聞いた話で間違いなければ、デールという名じゃったよ。興味もないし思い出したくもないから、今がどうなっているかわしは知らん」
 ヘンリーは口ごもった。息を呑み、顔をしかめる。しばらく呆然と立ち尽くしていた彼は、ようやくといった様子で言葉を絞り出した。
「そう、か……すまん。嫌なこと思い出させちまって」
「いや。おまえさんはアランの友じゃろ。変わらず彼を支えてくれればそれでええ」
 何かを見透かすようなグレイスの瞳に、ヘンリーは一瞬目を逸らした。だが次の瞬間には彼に向き直り、胸を張って断言した。
「任せとけ。あいつは俺の十年来の親友。どんなときでも俺はあいつの味方さ。約束する」
「それを聞いて安心したよ。さあ、行ってきなさい」
 ヘンリーは大きく礼を取ると、アランの待つ筏に飛び乗った。緩やかな流れに逆らい、彼らは洞窟の奥へとこぎ出した。

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