小説『ドラゴンクエスト? 〜天空の花嫁〜 《第一部》』
作者:wanari()

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 神の塔を遠目に見ながら、道なき道を進んでいく。森林の間を縫うように歩いていると、地面のくぼみに頻繁に出くわすようになってきた。パトリシアはその健脚さから乗り越えていくが、馬車に乗っている人間はそうはいかない。
「マリア、大丈夫か」
「ええ……大丈夫、です」
 ひどく揺れるためか、マリアの顔はやや青白い。アランたちはマリアを馬車から降ろし、連れ添ってゆっくり進むようにした。
「それにしても、この道の荒れようはいったい……」
「おそらく、何者かの通り道になっているのでしょう」
 地面を検分しながらピエールが言う。コドランも地面に降り立ち、しきりに匂いをかいでは高く鳴いた。
「なんだか、怖い気配がするよ。アラン」
 スラリンがそばに寄ってきて言う。ピエールとブラウンも彼の言葉にうなずいた。彼らはそろって、近くにモンスターの住処があることを警告しているのだ。そしてアランも、彼らと同じ危惧を抱いていた。
 さらに警戒心を高めて歩を進めていると、やがて森が切れ、視界が開けた。小高い丘がいくつも連なる先に神の塔を見る。
 そうして馬車が森を抜けた、そのとき――
「アラン! 警戒するのです!」
 ピエールが叫んだ。
 いっせいに構えを取ったアランたちに向かって、西の方向から土煙が迫ってくる。地響きも聞こえてきた。口元を押さえ青い顔をするマリアを、ヘンリーが背にかばう。
 遠目にその土煙の正体を探っていたピエールがつぶやく。
「あれは、クックルーの群ですね」
「知ってる。走る鳥。暴走ばかりで迷惑」
 ブラウンが同調した。大木槌を大きく振りかぶる。彼女はすでに、クックルーの群が自分たちを補足してまっすぐ向かってきていることに気づいていた。
 アランは仲間たちに指示を飛ばした。
「ヘンリー、マリアを隠して。他の皆はここで迎撃。彼らの注意を逸らすんだ」
「そんな回りくどいやり方しなくても、全員ブッ倒せばいいのよ!」
 メタリンが息巻いた。
 アランは鋼の剣をまっすぐモンスターの群へと突きつけ、腹の底から声を絞り出した。
「突撃!」
 号令とともに仲間モンスターたちが動く。まず手始めにピエールが爆発呪文イオを唱え、地面を炸裂させた。突撃の勢いが殺されたクックルーたちの元に、メタリン、コドラン、ドラきち、ブラウンが襲いかかる。
「――、スクルト!」
 すかさずスラリンが補助呪文を唱た。呪文の膜によって全員の守備力が強化されたことを確認すると、彼もまた勇気を出して突撃していった。
「ピエール。僕たちも行くよ。ついてきて」
「御意に」
 仲間たちの中で最も戦闘能力が高い二人の剣士が攻撃に参加することで、大勢は一気に決した。


「すごい……。これが、アランさんたちの力」
 近くの茂みに身を隠し、戦闘を見守っていたマリアがつぶやいた。
「これぐらいの相手なら、そう苦労はしないだろうな。そろそろ勝負がつくぞ。それより心配なのはマリア、君だよ」
「え?」
「こんな戦い、間近で見るのは初めてだろう? 俺たちは生き残るため、次に進むために戦ってる。だから平気だ。でも君はそうじゃない。あんまりこういう場面は見たくないんじゃないかって思ってさ」
「いえ、ヘンリーさん。それは違います」
 マリアはしっかりと彼を見つめながら言った。
「確かに戦いはとても怖いと思いました。でも、そこから目を背けてはいけないんです。だって、他ならぬアランさんたちが命をかけているのですから」
「マリア」
「私、やはりまだ未熟です。神に、そして大切な人たちに祈りを捧げるだけじゃなくて、その人たちが、今この瞬間にも戦い、生き抜こうとしていることに心を向けていなかった……」
 そこでマリアはきゅっと自らの両手を握りしめて、うつむいた。
「ただ……できるならば、互いが傷つく戦いは起きて欲しくない。そう思ってしまう私もいます。ごめんなさい。ヘンリーさん、私、甘いですよね……?」
「そんなことはない」
 ヘンリーは力強く言った。こちらを見つめるマリアに、少し逡巡したように目を伏せ、それから意を決して彼女の両手を握りしめた。
「必ず作るさ。争いのない世界を。故郷を。俺は作ってみせる。俺の力になってくれないか、マリア」
「ヘンリーさん」
「だから、この件が全部終わったら、俺と……」
「おーい、こらー? そんな茂みで何を話していますかぁー?」
 ばっ、とヘンリーとマリアが振り返る。そこには呆れた様子のメタリンをはじめとした仲間たちがそろっていた。顔を赤くしたヘンリーは、その中に見慣れぬモンスターが一匹増えていることに気づく。先ほどのクックルーだ。
「新しい仲間が増えたから紹介しようかと思っていたんだけど……ごめん。思いっきりお邪魔だったね」
「あ、いや。その、お、お、お前等いつからそこに?」
「えっ!? えーと、それは今さっき――」
「あなたが乙女を口説いたまさにその瞬間まで、余すところなく拝見していましたよ。ヘンリー」
 慌ててごまかそうとするアランをさえぎり、ぴしゃりとピエールが告げる。
「情熱的なのは大いに結構です。ですが場面と場所についてはよくお考えを。良いですね?」
 魔物の騎士の言葉に、ヘンリーとマリアは真っ赤になってうなだれた。

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