小説『ドラゴンクエスト? 〜天空の花嫁〜 《第一部》』
作者:wanari()

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 先制攻撃に成功したのはアランたちだった。
 メタリンが唱えたメラが偽太后の目元に炸裂した。小さな火の玉で目くらましを受けた偽太后がわずかに怯む。その隙にアラン、ピエール、サイモンの剣がそれぞれ別方向から襲いかかった。
 だが見た目以上に偽太后の体は弾力に富み、斬撃の威力を十分に伝えることができない。
「ええい、ちょこまかと!」
 偽太后が両手の爪を伸ばし、大きく腕を振りかぶった。そのまま唸りを上げて叩き付けてくる。アランとピエールは素早く飛び退き躱した。サイモンは盾を使って衝撃を逃がすが、それでも数歩よろけた。
 さらに追撃をかけようとした偽太后の体に、ヘンリーのくさりがまが絡みつく。「アラン!」と彼は親友に叫んだ。
「皆! このままガンガン攻めろ!」
 アランの号令で仲間たちの動きがさらに活発になった。素早さに優れるメタリンが硬さを生かして体当たりをしかけ、空からはコドランの火の息、さらにドラきちがマヌーサの呪文で攪乱をはかる。
 当初の予想通り、偽太后の力は決して油断できないものだった。だが、アランたちは数の優位と連携攻撃を駆使し、偽太后を追いつめていく。
 やがて偽太后の動きが目に見えて鈍ってきた。ここぞとばかり攻め立てるアランたち。
 ところが。
「キキィッ!?」
「グアッ!?」
 突然、ドラきちとコドランが悲鳴を上げて地面に落ちた。振り返ったアランが見たのは、いつの間にか姿を現していた『がいこつへい』だった。手にした長い槍を振るい、空中にいた二匹を叩き落としたのだ。まさか背後からいきなり襲われるとは思っていなかったドラきちたちは、その攻撃をまともに受けてしまう。
 偽太后が低い唸り声を上げた。すると地面から次々と新手のモンスターたちが現れる。さすがに数の不利はどうにもできない――そう判断したのか偽太后は仲間を呼び、アランたちを逆に包囲する作戦を採ってきたのだ。
「やってしまえ、お前たち! うるさい奴らを囲んで潰せ!」
 唾を撒き散らし偽太后が怒声にも似た命令を下す。すでに周囲には八体の魔物が現れている。数的優位は逆転した。
 ピエールとサイモンが素早くアランの両脇を固める。
「個々の能力はさほどではありません。ここはまず周囲の魔物を各個撃破し、機を見て偽太后に一斉攻撃を加えることを進言します」
「だが、偽太后を放置するわけにはいかないよ」
「でしたら私が牽制役を。サイモン、主の守りは任せましたよ」
 頼れる仲間にピエールが告げると、サイモンは力強く頷いた。するとアランの後ろからヘンリーが進み出た。
「いくらお前でも、ひとりじゃあのバケモンの相手はきついだろう。俺も手を貸す。……あいつはいくら殴っても殴り足りないんだ」
 よろしいですか、と確認の視線を送ってくるピエールにアランはうなずいた。ヘンリーに声をかける。
「気をつけて」
「おう。雑魚なんかさっさと片付けて、俺たちでこいつに引導を渡してやろうぜ! アラン!」
 ぱん、と互いの手を叩き、二人は仲間を引き連れ別々の敵に向かう。
「みんな! まずは周囲の魔物を片付ける! 敵を一箇所にまとめるんだ!」
 メタリンと、何とか敵の一撃から立ち直ったドラきち、コドランが魔物の群れに向かっていく。彼女らは深入りをせず、相手を挑発、翻弄する動きに専念した。
「サイモン、僕が呪文で一掃する。それまで守ってくれ」
 がしゃん、と彼女は剣を掲げて同意を示す。次の瞬間、そのサイモンの剣が一閃した。新手として湧いてきたがいこつへいを振り向きざまに斬りつけたのだ。沼が沸騰するような奇怪な悲鳴を上げて魔物は消滅する。その後も彼女はアランを守りつつ、魔物がこれ以上増えないように右へ左へ立ち回った。
 そして。
「準備ができた。みんな! 散開だ!」
 掌に集まった呪文の光を掲げ、アランは叫ぶ。仲間たちが一斉に飛び退くと同時に呪文を放つ。
「――、敵を切り裂け! バギマ!」
 アランの声に呼応して風の流れが急激に変化する。掌から放たれた光が、螺旋を巻き始めた風を一気に巨大化させた。周囲にいた敵モンスターを巻き込み、まるで大蛇が猛り狂いながら獲物を締め上げるように、寄り集まった空気の渦が次々と敵を引き裂いていく。アランの集中力、そしてこれまでの戦闘経験が、彼の呪文の威力をさらに引き上げていた。
 さあぁぁっ、と風が過ぎ去り、大空の青が再び見えるようになった頃には十体近くいた敵はすべて光と化して消えていた。
「よしっ。ヘンリー、ピエール!」
 偽太后の足止めのため、防御に徹していた二人に声をかける。彼らは各々の武器を掲げて応え、振り返った。
 ――それは一瞬の隙だった。
「ごああああああああぁぁぁぁっ」
「! いけない!」
 殺気の変化にピエールが敏感に反応する。見れば、偽太后の体がさらに膨らんでいた。叫び声を上げながら、偽太后の体内で何かが爆発的に大きくなっている。
 気がつくと肌が火照ったように熱くなっていた。周囲の温度が上昇しているのだ。
「サイモン!」
 ピエールが叫び、サイモンと並んで盾を構える。その直後、偽太后の口から炎の渦が唸りを上げて襲いかかってきた。
 火炎の息。
 地面を舐めるように炎の波がアランたちを包む。ピエールたちの防御を越え、火炎の息は後ろに控える他の仲間たちをもまとめて呑み込んだ。
「うわあああああああっ!」
 悲鳴が陽炎の中に谺した。

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