小説『ドラゴンクエスト? 〜天空の花嫁〜 《第一部》』
作者:wanari()

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 翌朝。
 アランはパパスに呼ばれ宿屋の前に来ていた。「出かける用意をするように」の言葉通り、いつもの外套と帽子を被っている。いつもと違うのは、その背に大きな『かしの杖』を背負っていることだ。
 けど、何で宿屋なんだろう――アランは首を傾げながら父が出てくるのを待っていた。
 しばらくして、パパスが宿屋から出てきた。後ろに誰かを連れている。
「あ、アラン! じゃあアランもいっしょに行ってくれるの?」
「ビアンカ? いっしょに?」
 アランは目をしばたたかせた。彼女の後ろには母親であるおかみさんもいる。
 パパスは言った。
「親父さんが帰ってきたことでおかみさんも無事、薬を手にすることができた。これからアルカパへ帰るそうなのだが、やはり女二人では心許ない。そこで私が送っていくことにしたのだ」
「すまないねえ、パパスさん。いつもいつも」
「なに、気にしないでくだされ。……そういうわけでアラン。お前も一緒に連れて行こうと思うのだ。いいな?」
「うん。わかった」
「やった。アランといっしょだ」
 無邪気に喜ぶビアンカ。アランも嬉しくなってつい笑った。
 では早速行くとしよう、というパパスの声かけとともに、アランたちはサンタローズを出発した。
「ねえねえ」
 村を出てすぐ、ビアンカが声をかけてきた。その顔には何やら嬉しそうな、それでいてどことなく意地の悪そうな笑みが浮かんでいる。
「どうくつの奥で、おじさんを助けたってほんと?」
「うん。ほんとだよ」
 特に嘘をつく理由も見あたらなかったので、アランは素直に認めた。昨晩のパパスの話もあってか、そこに威張るような仕草はなかった。ビアンカがきょとんとする。
「ほんとにほんと? わたしてっきり、おじさんがアランを助けたのかと思ってた。それでアランがえっへんって胸をはってるんじゃないかって」
「ひどいよビアンカ」
「えへ。ごめん。でも本当みたいだね、さっきの話。うん、すごいよアラン!」
 今度は手放しで誉めてくれた。満面の笑みを見ると、今更ながらに恥ずかしくなる。
 それからしばらく、アランとビアンカは洞窟での話や、そこでアランが手に入れた『かしの杖』の話で盛り上がった。子どもたち二人が仲良くおしゃべりしている様子を見て、二人の親は頬を緩めた。
 ふと、アランやビアンカには聞こえない声でおかみさんがつぶやく。
「これは将来が楽しみだねえ、ふたりとも」
「ん? それはどういう?」
「大きくなったら立派で格好いい子に育つよ、アランは。親の私が言うのも何だが、うちのビアンカもあれで結構な器量よしだ。大きくなって、ふたりがずっと一緒になってくれたら私も安心なんだがねえ」
「はは。まだまだ先の話ですぞ」
「おや。子どもの成長なんか、親が考えるよりずっと早いものだよ。今から将来のことを考えたって、バチなんか当たりゃしないさね」
「むぅ……」
 想像したのだろう。パパスの表情が複雑なものになった。
「確かに伴侶を持つことはとても大切なことだ。だが私はひとところに腰を落ち着けぬ身。おそらくアランも同様だろう。いかに仲がよいとは言え、それは相手にとってつらい思いをさせることにはならないだろうか」
「何を言ってるんだい。そういうのは余計なお世話っていうんだよ。パパスさん」
「むむぅ」
「そんなに難しく考えなくたって、なるようになるもんさ。もしかしたら相手だって喜んで付いていくかも知れないじゃないか。大切なのはお互いの気持ちさ。ま、ビアンカはあれで結構なお転婆娘だから、トラブルや冒険にはむしろ目の色輝かせるかもしれないがねぇ」
「おかみさん……」
「というわけでパパスさん。そのときはうちのビアンカをよろしく頼むよ」
 ばん、と派手に背中を叩かれ、パパスは呻いた。
 その様子を二人の子どもは不思議そうに眺めていた。

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