小説『ドラゴンクエスト? 〜天空の花嫁〜 《第一部》』
作者:wanari()

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 陽気な態度を崩さないマーリンに、二匹は顔を見合わせる。
「なんか心配」
「オォオ」
「それも同感」
 短いながらもうなずきあう。意外に気が合うようだ。ピエールがアランの前に進み出る。
「それではここを脱出しましょう。長居はあまり好ましくありません」
 そしてこう付け加える。剣を正眼に構えながら。
「時間をおいていると、『彼ら』に囲まれてしまうでしょうから」
 ピエールの視線の先にいたのは、アランたちがここにくるまでに撃退したモンスターたちだった。皆、敵意をむき出しにした視線をアランたちを睨んでいる。メタリンがげんなりとした声でつぶやいた。
「あんな数と戦うの? やだなあ」
「戦う。抜け出すために」
「オオオ」
 ブラウンとガンドフが唱和する。
 チロルが一歩前に出た。そしてちらりとアランを見る。彼女の意思を悟ったアランは、同時にひどく懐かしい気分になった。十年前の光景が脳裏に甦って来ることを感じながら、アランはまなじりを決した。
「行くぞ、チロル!」
「があああぁぁぁううう!」
 キラーパンサーの凄まじい咆哮が洞窟内に響きわたった。他の仲間に先んじて飛び出すアランとチロル。それはまるで、失われた時間を埋めるような動きであった。
 敵の側も負けてはいない。巣を蹂躙されたまま見過ごすことは罷り成らんとばかり、意地を見せてくる。だが個々の力の差は歴然としていた。その上、アランとチロルが揃ったときの戦闘力がいかほどのものになるか、洞窟内の荒くれ者たちは完全に見誤っていた。
 呪文を織り交ぜ真正面から敵の猛攻を受け止めるアラン。
 しなやかな体を縦横無尽に躍動させ、敵を翻弄するチロル。
 すでに勝敗は決した。仲間モンスターたちが呆気に取られる中、彼らはたった二人で幾多の敵を撃退してしまったのである。


 マーリンたちの先導で洞窟を出る。そこで待っていた馬車組と合流した。増えた仲間、特にチロルの姿に仲間たちは驚いていた。
 互いの紹介もそこそこにアランたちはカボチ村へ出発する。村の食物を奪っていたのがチロルであると言うことはすでにマーリンから聞いた。もう彼女がそのようなことをする必要がなくなったことも、彼は語った。どのような形であれ、依頼が達成されたことを村人に報告しなければならない。
 村に辿り着いたときのことを想像し、アランを始めとして、道中、仲間たちの表情は一様に複雑なものになっていた。そんな中、ガンドフとブラウンはマーリンの指示通り、パパスの剣を鍛え直す作業に入っていた。
 洞窟を出て数日後。
 休憩がてら、馬車の側で急ごしらえの鍛冶場を作る。マーリンは鍛冶屋の頭よろしく二人の前でふんぞり返った。
「これだけの名剣じゃ。ちょちょっと手を入れるだけですぐに前の切れ味を取り戻すじゃろう。ほれ、まずはじゃな……」
「ガンドフ、そっち」
「オォ」
「ガンドフ、あっち」
「オォ」
「……聞いとるか、お主等」
 マーリンの言葉をよそに二匹は自らの作業に没頭する。聞いたところではガンドフはかなり手先の器用な職人気質だと言う。ブラウンとは相通じるところがあるのか、彼らは出会った当初から息の合った姿を見せていた。
 その様子をつまらなそうに見つめているのがメタリンであった。彼女はいつものように一緒にいるスラリンを相手にぶちぶちと愚痴をこぼしていた。
「まったく、姐さんったらあのデカブツにかまってばかり」
「仲良いよねー、あのふたり」
「何ノンキなこと言ってんのよスラリン。このままじゃブラウン姐さんがただの腑抜けになっちゃうわ!」
 何をそんなに怒っているのかとスラリンは目を瞬かせた。彼はメタリンの背後を見ながらしみじみと言った。
「そんなことないと思うけどなー。ねえブラウン」
「そうね」
 ぴょん、とメタリンが飛び跳ねた。
「げげっ、姐さん!?」
「誰が腑抜け?」
 ぐわしっ、と顔を引っ掴まれ、いつものように折檻されるメタリン。ぎゃーぎゃー騒いでいたが、それでも彼女はどことなく嬉しそうだった。
 そんな仲間の様子をアランは微笑みを浮かべて眺めている。彼の傍らには洞窟を後にしてからずっとチロルが寄り添っていた。
「がる」
「『乗って』とチロルが言っていますよ、アラン」
「はは。そうか、今はもうチロルの方が体が大きいんだっけ。うん、ありがとう。でも今はまだいいよ」
 そう言ってアランは正面を見据える。その表情から微笑みが薄れていく。視界の先には小さく、数軒の粗末な民家が並ぶ村の様子が見えていた。
「もうカボチ村につくからね」
「がるる、ぐるるぅ」
「それは駄目だ。君が行けば村は混乱するはず。ここは僕だけで行くよ」
 いかにアランであっても人の言葉を喋れないモンスターとの意思疎通は難しいはずであったが、ことチロル相手に関しては時折驚くほどすんなりと互いの意志を通じ合わせてしまう。通訳不要の姿にピエールは肩をすくめた。
 なおもチロルを説得していたアランは、ふと顔を上げた。瞠目する。
「あ、ああ……!」
 そこにいたのはカボチ村の住人だった。見覚えがある。アランが村に入って初めて出会ったあの男だ。背負っている籠を見るに、おそらく野草でも取りに来たのだろう。
 男の目はしっかりとチロルを捉えていた。
「ひぃぃーっ」
「待って!」
 アランが呼び止めるが遅かった。男は脱兎のごとく村へと逃げていった。チロルたちにこの場に居るよう固く言い含め、アランは村の中へと走っていった。

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