小説『ドラゴンクエスト? 〜天空の花嫁〜 《第一部》』
作者:wanari()

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 襟を引っ張られるままだったアランは、ふとビアンカが宿とは反対方向に歩き出したことに気付いて声を出した。
「ビアンカ、もしかして今からいくつもり?」
「決まっているじゃない! 猫さんを助けなきゃ!」
「それは、そうだけど……」
 アランは言葉を濁した。怖じ気づいたわけではない。ただサンタローズでの洞窟探検の経験が、そのまま何の備えもなくお化けがいるという場所へ向かうことにためらいを感じさせたのだ。
 ただ、アランも正直なところはビアンカと同じ気持ちだ。あの子を助けたいと思う。それも、とても強く。
「おや、おふたりさん。どこへ行こうというんだい?」
 街の出入り口まで来たところで、門番の兵が声をかけてきた。さりげなくアランたちの行く手を塞いでいる。ビアンカは両手を腰に当てて声を荒げた。
「猫ちゃんを助けるの! ここを通して、門番のおじさん!」
「何を言っているのかよくわからないが、外は危険だ。子どもふたりだけで外へ出すわけにはいかないな。さあ、お家に帰りなさい」
 やんわりとした口調ながら、断固として通そうとしない。サンタローズのおじさんとは全然違うなとアランは思った。
 うぅぅー、と隣でビアンカが唸る。すると突然、彼女は駆け出した。あろうことか、門番の股の下をくぐって抜け出そうとする。……が。
「こらこら。レディがそんなことをするのは感心しないな」
 ひょい、と首根っこを押さえられ、そのままアランのもとまで連れてこられる。やたらと慣れた手つきだった。
「まったく。相変わらずお転婆だなビアンカちゃんは。そんなことだと大きくなってお嫁にいけないぞ?」
「ほ、ほうっておいて!」
 頬を膨らませてビアンカが言う。顔を赤らめているところを見ると、本人は結構気にしているのかも知れない。
 押し問答も効果はなく、ふたりは渋々その場から引き下がった。
「どうしよう……これじゃあ外に出られないわ」
「うーん。大人の人にたのんだらどうだろう? お父さんと一緒なら、あのおじさんも通してくれるかも」
「ダメよ! 大人と一緒にお化け退治をしたら、あいつらゼッタイ猫ちゃんをはなしてくれないわ! どうせお前らがやっつけたんじゃないだろう、って!」
 ビアンカの言うことももっともだったので、アランは黙り込んだ。
 ふたりして頭を悩ませている内にビアンカの家に辿り着く。彼女はため息をついた。
「こうなったら仕方ないわね。アラン」
「なに?」
「今日は何が何でもパパスおじさまにうちに泊まってもらうよう、お父さんたちに言ってみる。当然、アランも泊まるでしょ?」
「そうなると思うけど……あ」
 あることに思い至ったアランは口元を押さえた。
「まさかビアンカ、夜にこっそりぬけ出すつもりじゃ」
「うん、正解。よくよく考えたら、お化けって夜出るものじゃない? だったら退治も夜しかできないかなって」
「……そう、だね」
 二人は真剣な表情でうなずき合った。
 ちょうどそのとき、奥の扉が開きパパスたちが出てきた。アランとビアンカの姿を認めると微笑む。
「おお、帰っていたか。すまぬなビアンカ、アランに街を案内してくれていたのだろう?」
「気にしないでください、おじさま。私こそ、とても楽しかったです」
「はは。このお礼はまたいずれしなければな。……ではアラン、そろそろサンタローズに帰るとしよう」
 パパスの言葉に、アランもビアンカも固まる。何と言おうか二人が悩んでいると、思わぬところから助け船が来た。ビアンカの母親だ。
「そんな! もう帰っちまうのかい、パパスさん! 一泊ぐらいしていってくださいな」
「うーむ……」
 パパスがちらりとアランを見る。ビアンカに肘でせっつかれたアランは、急いでこくこくとうなずいた。パパスが再び笑う。
「……では、ご厄介になろうか」
「はい! さあさ、こちらへどうぞ。ちょうど良い部屋が空いているんですよ!」
 嬉しそうにパパスとアランを案内するおばさん。パパスに手を引かれ歩き出そうとしたとき、アランの耳元でビアンカがそっとつぶやいた。
『それじゃ、夜にね』
『うん。わかった』

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