小説『ドラゴンクエスト? 〜天空の花嫁〜 《第一部》』
作者:wanari()

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 夜空の下、意気盛んに出発したアランとビアンカ。
 しかし、道中はそう簡単にはいかなかった。
 暗い夜道を子ども二人で旅をすること自体がまず難事だ。満天の星である程度の明かりは確保できるとは言え、一歩森の中に入るとそこは一寸先も見通せぬ闇が広がる。自然、見晴らしの良い、拓けた草原を歩くことになるが、何もないただっ広い空間を二人だけで進むのは、それはそれで勇気が必要だった。
 そして何より危険なのが、道すがら遭遇するモンスターたちだ。
 草原で一度に出会うモンスターの数は少ない。だが夜ということもあってか、彼らは普段より好戦的だった。
 勝ち気だが、モンスターとの戦闘自体にはまったく不慣れなビアンカをかばいつつ、アランは銅の剣を何度もふるった。初めは扱いに苦労した剣も、何度も戦闘を重ねる内次第に手に馴染んできた。初めて銅の剣を握ったときの高揚感とはまた違った感覚が、アランの中で芽生えつつあった。
 ――何度目かの戦闘のときである。
「アラン! どいてっ!」
 突然、ビアンカが声を上げた。ちょうどモンスターの一体を斬り伏せたアランは振り返る。
 ビアンカの指先に、松明の炎のような赤い光が集まっていた。
「――、いくよっ。メラ!」
 攻撃呪文。
 小さな火の玉がビアンカの指先から光の尾を曳(ひ)いて飛翔する。慌てて飛び退けたアランの脇を通り、今まさに飛びかかろうとしていた『おおねずみ』に直撃した。
 炸裂音が夜の空気を切り裂く。
 そのまま吹き飛んだ『おおねずみ』は、黒煙を上げて消えていった。
 瞠目しながらアランがビアンカを見ると、彼女は照れたように頬をかいていた。
「えへへ。はじめての呪文、上手くできたかな?」
「うん……うん! すごいよ、ビアンカ!」
 アランは素直に驚き、そして喜んだ。アランは使えるのは回復系の呪文だけで、いまだ攻撃呪文のひとつも使えない。だがビアンカは、アランより戦闘の経験が少ないのに、もう立派な攻撃呪文を使えるようになっている。羨ましいというよりも、「すごい!」という気持ちの方が勝った。
 アランの言葉を受けて、ビアンカははにかんだ。
「ありがとう。でもアランこそすごいよ。怪我しても、すぐにホイミで治してくれるもん」
 そう言って、満面の笑みを浮かべるビアンカ。
 そう。
 このとき二人は、完全に油断してしまっていた。
 風船から空気が抜けるような音が、耳に届く。ビアンカが何事かと振り返る。
 アランは慌てて叫んだ。
「ビアンカ、危ない!」
 直後、ビアンカに向かって緑色の『何か』が体当たりした。
 じゅあっ、という音が響く。
「きゃあああっ!」
「ビアンカ!」
 アランは剣を構えて走った。
 ビアンカに攻撃をしかけた『何か』――緑色の崩れた身体を持ったモンスター、『バブルスライム』だ。
 『バブルスライム』はビアンカからするすると離れると、今度はアランに向かって体当たりをしてくる。アランは走る勢いのまま、その不定形の身体に銅の剣を叩き付けた。
 体当たりをそのまま迎撃(カウンター)された『バブルスライム』は水風船のように弾け、霧となって消えていった。
 ビアンカが膝から崩れ落ちる。
 アランは無我夢中でビアンカを抱き留めた。
「ビアンカ、ビアンカ! しっかりして!」
「……」
 返事がない。気絶しているようだった。
 しかも顔色がひどく悪い。目元が真っ青になっている。首筋には汗が浮かび、身体を支えるアランの手を湿らせた。
「……まさか、毒!?」
 パパスから聞いたことがある。『バブルスライム』など一部のモンスターは、その攻撃で相手に毒を与えることができると。
 のんびりはしていられない。アランは息を整え、ビアンカの額に手を当てた。ゆっくりと呪文を唱える。
「――、キアリー」
 光の粒子が舞い、ビアンカに吸い込まれていく。
 すぅ……、とビアンカの息づかいが穏やかになった。顔色も元の瑞々しい肌色に戻っていく。だが、彼女が目を覚ます様子はない。
 重ねてホイミをかけようとして、アランは自らの精神力が切れかかっていることに気付いた。
 このまま先に進むのはダメだ――アランはビアンカを背に、いったんアルカパへと戻ることにした。

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