「おお……」
風が止み、炎が消え去ったホールで、静かなどよめきが走った。
「何ということだ」
「あんな小さな子どもたちが……」
「信じられん。これは夢だろうか」
口々に囁きあうのは、親分ゴーストの呪いによってこのホールに縛り付けられている使用人たちだった。彼らの身体はまだ自由になっていないが、それでも幾分束縛が緩んだのかアランたちを遠巻きに眺めている。
驚き半分、不安半分の彼らに、アランは静かに語りかけた。
「もうだいじょうぶ。後は僕たちがなんとかするから。ぜったい、『親分ゴースト』をたおしてみせるから」
「そうよ。そしたらみんな自由になれる! 私たちにまかせて!」
ビアンカも言葉を重ねる。使用人たちはお互いに顔を見合わせていた。
歓声は上がらない。静かなどよめきが広がるばかりである。アランとビアンカは少しだけ不安そうに互いの顔を見た。
「どうしたんだろう。みんなあんまりうれしくなさそう」
「きっと、親分ゴーストが何かをするんじゃないかって、不安なんだと思うわ。でも」
ビアンカは頭上を見上げる。
「このままじゃいけないよね。エリックさんたちのためにも、ここの人たちのためにも……そして、あの猫ちゃんのためにも」
「うん」
アランはうなずく。武器を構えたまま、二人は再び上の階に向かって歩き出した。
すると――
「……え」「……あ」
呆然とつぶやくアランたちの前で、使用人たちがくるくると回り始めた。部屋の端で腰掛けていた者たちも近づいてきて、アランたちの頭上をさまよう。彼らは階上へ向かうホールの出入り口に列を作った。まるでアランたちを見送るように。
彼らの無言の励ましを背中に受け、アランとビアンカは力強く一歩を踏み出す。ぜったいに負けるものかと決意を新たにして――
レヌール城の闇はもう、怖くはない。
『親分ゴースト』が居座る最上階まで一気に駆け上がった二人は、巨大な廊下を横切るモンスターの陰をとらえた。
「まて、『親分ゴースト』!」
アランが叫ぶ。『親分ゴースト』はちらりとアランたちを見ると、そのまま扉の向こう側に消えた。アランたちも走る。その扉は、アランたちが階下へと落とされた謁見の間から廊下を挟んでちょうど反対側にあった。
汗ばむ手をふたりでしっかりと握り合ってから、アランとビアンカは勢いよく扉を開けた。
途端に吹き付ける冷たい風。巨大なベランダに出た。
どこまでも広がる夜空の闇と星光を背に、『親分ゴースト』が仁王立ちしていた。ぼろぼろのマントが風にあおられはためく。
「ぎぎぎ……まさかこんなガキどもがここまでやるとは」
「さあ、あとはあなただけよ。覚悟しなさい!」
ビアンカが鞭を振りかざし啖呵を切る。『親分ゴースト』は背中をそらせて笑った。
「かかかっ! 威勢のいいこったなあ。だが、手下どもを何匹倒したところでこの俺には敵うまい!」
「そんなのやってみなくちゃわからない!」
アランが剣を構えた。
「みんなのために、ここでおまえをたおす!」
「かぁっかかかっ! やってみやがれクソガキがぁっ!」
ついに『親分ゴースト』がアランたちに牙を向き、襲い掛かってきた。