小説『ドラゴンクエスト? 〜天空の花嫁〜 《第一部》』
作者:wanari()

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 『親分ゴースト』の手が伸びる。骨だけとなった指先が異常に伸び、鋭く尖った先端がアランを襲う。受け止めた剣から重い衝撃が伝わり、アランは体勢を崩した。
「かーっ!」
 尻餅をついたところへ『親分ゴースト』が覆い被さってくる。剣を振り上げようとするアランだが、焦るあまり先端が石床を削るだけだった。
「アランッ!」
 脇から伸びるムチ。『親分ゴースト』の手首に巻き付いて動きを止める。
「さあ、今のうちだよ!」
「しゃらくさいわ、小娘が!」
 ビアンカに向き直った『親分ゴースト』は空いた手でムチを掴んだ。そのまま強引に振り回す。ビアンカの軽い身体は簡単に宙に浮き、そのままアランに激突した。ふたりして空咳を繰り返す。
 むきになって立ち上がるビアンカに、アランは手を向けた。防御力上昇魔法『スカラ』をかける。魔法の防御膜がビアンカの身体を柔らかく包み込んだ。
「むりにつっこんじゃだめだ。ビアンカはそんなに打たれ強くないんだから」
「〜っ、くやしいなっ」
「帰れなくなったらいみがないよ。ふたりで帰るんだから」
 そう言い、アランも自身にスカラをかける。そうして一歩踏み込んだとき。
「――、ルカニ!」
「えっ?」
 どっ、と重くなる身体。反対に着ている服がひどく頼りなく感じられる。
 防御力低下呪文『ルカニ』――
 アラン、という悲鳴と同時に『親分ゴースト』の拳が炸裂した。『おおきづち』から痛恨の一撃を受けたときとは比べものにならないほどの衝撃。
 気がつくと、アランの身体はテラスの端の方まで吹き飛ばされていた。ビアンカが駆け寄り、抱き起こす。目が回って上手く立ち上がることができない。
 か、回復を……しなきゃ。
 そう思うが脳震盪を起こした身体では呪文の詠唱もままならない。
 『親分ゴースト』はゆっくりと近づいてくる。
「かか、かかかかかっ」
 耳障りな笑い声が二人のところに届く。
 アランは動けない。ビアンカもまたアランを抱えたまま動かない。
 『親分ゴースト』の嘲笑が止んだ。とどめを刺す気だ。
 そのとき、ビアンカが決然と顔を上げた。まっすぐにその掌を敵に向ける。一瞬『親分ゴースト』がひるみ、身構える。
 ビアンカは短く詠唱を終わらせた。
「マヌーサ!」
 『おばけキャンドル』たちを惑わせた、幻惑の霧。絶対の勝利に油断していた『親分ゴースト』はその罠に完全にかかった。
「おおっ!? これは……くそう、小娘ぇ!」
 暴れる。その隙にビアンカはアランを抱きかかえて移動した。
 『親分ゴースト』に位置がばれないよう、小声で語りかける。
「アラン、薬草だよ。今のうちにほら、飲んで。きずぐちにも塗っておくね」
「あ、ありが……と」
 ようやく視界が戻ってくる。アランの目の前にあったビアンカの顔は汗ばみ、これまで見たことがないほど真剣な表情だった。
 強いね、と小さなつぶやきが聞こえる。
 アランはうなずいた。だが、諦めない。ビアンカの声にも恐れの色はない。
 ここで諦めたら何のためにエリックは、使用人の霊たちは、そしてあの哀しそうな女の人は、自分たちに願いを託してくれたのかわからなくなる。
 絶対に負けないと決意したのか、わからなくなる。
「――、スカラ」
 残り少ない精神力をかき集め、アランは再び自らの防御力を引き上げた。これで『親分ゴースト』のルカニの効果がかき消される。
 今だ目標を求めて暴れ回る『親分ゴースト』の背に、アランとビアンカは決然と立ち向かった。
 だが――
「そこかぁっ!」
 音を聞きつけ、『親分ゴースト』が振った腕。そこから炎が巻き起こった。
 まずい、とアランは思った。これは呪文――複数の目標をその火に巻き込む『ギラ』。
 目の前に壁のように広がっていく炎。
 そのとき、視界の端で金色のお下げが揺れた。
 ビアンカがギラの炎の前に敢然と立ち塞がった。

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