小説『ドラゴンクエスト? 〜天空の花嫁〜 《第一部》』
作者:wanari()

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 歩くことしばらく――
 三人の目の前に、洞窟の入り口が現れた。巨大な岩をくりぬいたような、きれいな半円形の入り口である。森の直中にあり、辺りは水を打ったように静かだ。
 チロルがしきりに地面の匂いをかいでいる。その様子をぼんやりと見ていたアランに、ベラが声をかける。
「下の地面、草が踏み固められているのがわかる?」
「そういえば」
「この洞窟に人が出入りしている証拠よ。アランもこれからいろんなところを冒険するなら、覚えておいたほうがいいわ」
 素直にうなずくと、ベラは笑った。
「さあ、入るわよ。人が入れる場所だと言っても、中はモンスターも棲みついているわ。気をつけましょう」
 階段状にきれいに磨かれた石の上を歩く。洞窟特有の、ひんやりとした空気がアランの肌を撫でた。
 足を踏み入れてすぐ、アランは驚く。
「これは……」
 辺りを見回した。比較的広い道。半円状になった天井は大の大人が通っても十分な高さがある。サンタローズの洞窟には道の脇のあちこちに抱えるほどの岩が転がっていたが、それも見当たらない。
 アランが驚いたのはその小綺麗さ――ではない。
 見えるのだ。そういった洞窟内部の様子が、はっきりと。
 ――松明もないのに、明るい。まるで岩肌自体が柔らかな光を放っているかのように。
「そうか。アランは初めてなのね」
「明るい。どうして? 僕が入った洞窟は、たいまつがあったから明るかったのに」
「私も名前や原理は知らないのだけど、大昔に高名な冒険者が訪れた洞窟にこのような『光る仕掛け』を施したらしいわ。私たち妖精族は人間と比べて比較的長命だけど、そんな私たちでも記憶の彼方になってしまうほど遠い昔のこと。時折、こうしてその仕掛けが残っている洞窟が見付かるの。この西の洞窟もそのひとつ。もっとも、後で手は加えられたらしいけれど」
 人間界にも残っているかも知れないわね、とベラは言った。アランはただただ驚くばかりだった。チロルはどこか落ち着かないのか、しきりになごなごと唸っていた。
 視界が良好なせいか、歩を進める足も心なしか軽い。
 道中にあった立て看板の文字が読めず、ベラに代わりに読んでもらう。内容は大したものではなかったが、まだ十分に文字の読めないアランに、ベラは優しく教えてくれた。
 明るい道に、新しい発見。思わず心が弾んで鼻歌を歌いかけ、ベラに注意されてしまった。首をすくめるも、何だか気恥ずかしい気持ちになる。
 アランには、きょうだいがいないのだ。ビアンカは年齢的には上だが、アランの気持ちとしては年の近い幼なじみだ。こんなふうに『お姉さん』な誰かと一緒に旅をするなんて、今までは考えもしなかった。
 僕にお姉さんがいたら、こんな感じなのかな……とアランは思った。
 アランの気持ちを察したのかどうか、足元でチロルが服の裾を引っ張った。「あたしがいるじゃない」と言っているように見えた。
「そういえば、アランはお父様と冒険しているってことよね」
 ふと、ベラがたずねた。
「こんなに小さな時から二人で世界を回るなんてすごいことだわ。危険なことも多いはずだけど……どうしてあなたのお父様は旅に出ようと思ったのかしら」
 細い指先を顎にあて、小首を傾げるベラ。
 アランはかつてビアンカにも話した内容を告げた。父は母を探しているようだ、と。
 話を聞いたベラはやはり気まずそうに目を伏せた。だが、すぐに顔を上げる。
「事情はよくわかるわ。でも、私から言わせたらアランはまだまだ遊びたい盛りじゃない。友達も回りにいない中で世界中を歩き回るなんて、ちょっと可哀想だわ」
「でも、僕は大丈夫だよ。さびしくなんかないよ」
「アランはいい子ね、本当に。でも、たまにはちゃんとお父さんに甘えないとダメだよ」
 そういうものだろうかとアランは思う。確かに同世代の子どもたちと一緒に遊んだりという記憶はアランには乏しいが、父はずっと一緒にいたのだ。守ってきてくれたのだ。父の背中を見て、それを追いかけることは、アランにとってひとつの喜びでもある。
「……まあ、あなたのお父様はきっととんでもない人なんでしょうけど」
「え?」
「ううん、何でもない。ひとりごとよ」
 ベラは首を振った。それから、少しいたずらっぽく微笑む。
「じゃあ、この旅が終わるまでの間はお姉さんに甘えていいからね。こう見えて、生きてる年数で言えばあなたよりずっと上なんだから」
「うーん」
「あ、なぁにその反応。失礼しちゃうわ」
 ベラがむくれる。その愛嬌のある仕草に、やっぱりベラもお姉さんって感じじゃないのかなとアランは思った。それはそれで、心地良い気持ちだった。
 足元でチロルが「あたしを忘れるなー」と再度抗議の声を上げていた。

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