小説『ドラゴンクエスト? 〜天空の花嫁〜 《第一部》』
作者:wanari()

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 光り輝く空間に、突如として吹雪が現れる。
 雪の女王の手元に凝縮した冷気は、まるで青白い炎のように渦巻いていた。
 前屈みになった女王の無機質な口元が、あり得ないくらいぱっくりと横に広がる。耳をつんざく金切り声が屋上全体に響き渡った。
「そ、そんな」
 冷気に当てられ、ザイルがふらふらとアランたちの元まで後退してくる。顔全体を覆った紫の布のためにどんな表情を浮かべているかわからない。けれど、見開かれた目がザイルの心を如実に表していた。
「……なるほど。そういうことなら、合点がいったわ」
 頬に冷や汗を一筋流しながらベラがつぶやく。
「春風のフルートの強奪、ザイルの逃走、氷の宮殿、そしてこの邪悪な気……すべて雪の女王、いえ、モンスターが関わっていたのね」
「ザイル、だいじょうぶ?」
 アランが言う。言葉にできないのか、ザイルは曖昧にうなずくだけだった。
 剣を構え直す。
「そこで見てて。僕たちがあの人をやっつける。そうすれば、ザイルはゴースさんのところに帰れる」
「アラン、お前」
「だいじょうぶ」
 足場を確かめるように踏み込む。アランは声を張り上げた。
「妖精族のみんなやゴースさん、そしてザイルに酷い目にあわせた。だから……僕は許さない!」
「ひゅるる――やれるものなら」
 雪の女王の体が一回り大きくなる。彼女は両手を大きく振りかぶった。
「やってごらんなさい!」
 身に纏う冷気の炎をもって、雪の女王は突撃してきた。
 だがアランは慌てない。ベラと同時に横っ飛びにかわす。少し遅れて、雪の女王の拳が床を打つ。途端に凍てつき、小さな氷柱が現れる。両手の光には獲物を氷付けにする力があるようだった。
 その様子を見たベラがわずかにひるむ。だがアランは「だいじょうぶ!」と再度叫んだ。
 確かに攻撃は怖いけど、そんなに速くない。十分、躱せる――
「チロル、行くよ!」
「なぁおっ!」
 アランは床を蹴った。体を起こした雪の女王に向かって剣を叩き付ける。左肩から脇腹までを鋭く抉った。同時にチロルの爪が連撃となって足元を襲う。
「ぬ、お」
 だが雪の女王はわずかに呻いただけで、すぐさま薙ぎ払うように右手を振るった。後ろに飛びずさったアランは、雪の女王に思った程痛手を与えられなかったことを知る。女王のまとう白い衣服は、表面が薄く切れただけだった。
 チロルが唸り声を響かせ、雪の女王の二の腕に噛み付く。細く長くたおやかな見た目に関わらず、まるで岩を囓っているように白い燐光が弾ける。
 女王の手がチロルの顔に向かう。その直前――
「――、ルカナン!」
 ベラの呪文で、女王の体に淡い光がまとわり付く。動きがさらに鈍くなった女王の腕に、直後、チロルの鋭い牙が勢い良くめり込んだ。防御力が低下した体は、一際強く燐光を撒き散らす。
 痛みのためか、遮二無二振り払おうとする女王。その手が触れる前に、チロルは自分から勢い良く飛び退いた。空を切る女王の細長い手。
 しかし。
「おおぉぉお……――、ヒャド!」
「ぎゃんっ!?」
 空中にあったチロルの体に、複数の氷塊が殺到する。前脚や脇腹に痛打を受けたチロルは吹き飛ばされ、そのまま床にうずくまった。
「チロル!」
「――、ヒャド!」
 再度の呪文。アランは銅の剣で何とか捌くが、頬と二の腕に浅い切り傷を負った。かじかむような痛みが体の芯に響く。だがアランはそれを無視し、一目散にチロルのもとに駆けた。
 彼女を抱きかかえると、「ふにゅぅ……」という声が返ってくる。アランは急いでホイミを唱え、チロルの傷が癒えきるのを待たずにスカラをかけた。
「だいじょうぶかい?」
「にゃぁお……なぁ……ふぅぅー」
 悔しそうに鳴いている。どうやらまだ闘志は萎えていないようだ。ほっと息を吐き、眦を決して雪の女王に向き直る。
 手足が異常に細く長く伸びた、まさにモンスターそのものの姿に変貌した雪の女王は、傷跡のようなその口から白い息を吐き出す。
「やるではないですか、人の子。ますます憎らしい。その幼き獣も、何と言う恥知らずか。誇り高い種族でありながら、人間に仕えるなど」
「チロルを馬鹿にするな。僕の大切な友達なんだ」
「友達? はっは、はっははぁっ、友達!? これは驚きですね!」
 哄笑が響く。
「ならばその友情もろとも氷漬けにしてくれましょう。人の世がどんなに脆弱か、あなたの体に刻み込むのです!」

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